「結婚したら幸せになるのではなく、幸せな人が結婚する」ってどういうこと?【荒川和久×トイアンナ】
オンラインサロン「魔女のサバト」を主宰する、トイアンナさん、金澤悦子さん、川崎貴子さん「結婚しなくても幸せになれる時代」の恋愛や結婚について考える当連載。
第1回目はゲストとして独身研究家の荒川和久(あらかわ・かずひさ)さんが登場。結婚したくてもできない「不本意未婚」にスポットを当てて、トイアンナさんと対談していただきました。全3回。
荒川和久さん(左)とトイアンナさん
コロナ禍で失われた体験たち
トイアンナさん(以下、トイアンナ):前回は、結婚したくてもできない「不本意未婚」が増えている理由について伺いました。20代、30代、40代と世代間で結婚観の差はあるのでしょうか?
荒川和久さん(以下、荒川):結婚観の差は、そのまま環境の差が影響してるんじゃないでしょうか。例えば、現在40代の人は、ちょうど就職氷河期だったので、第一に就職環境や経済環境があったと思うんです。「恋愛以前に、毎日暮らすのが大変で……」という人もたくさんいたわけじゃないですか。でも、40代より上の世代は、恋愛至上主義を過ごしてきた人たちですよね。クリスマスにデートをする文化が生まれた時代に、ちょうど20代だったので、全然違う環境下で動いたと思います。
それで、今の20代がどういう環境にあるかというと、20代前半の3年間がコロナ禍だったということが大きな影響を与えていると思います。僕は、「失われた体験世代」と言ってますが、コロナで一切合切の体験を禁止された。大学に入学しても、会社に就職しても、同期と全然顔を合わせてないし、飲みにも行ってないし。当然、恋も生まれないですよね。この「失われた体験世代」は、3年後にすごい勢いでしっぺ返し……と言っても本人たちのせいでは決してないのですが、影響がくるだろうと予想しています。
トイアンナ:20代前半で言うと、学生時代のほとんどの体験を奪われているわけですもんね。大学って、男女がランダムに入り乱れることが可能で、恋愛感情を自然に発展させやすい場所ですよね。しかし、それがなかった。そして、社会に出たら、さらに出会いが減って、仕事もリモートになってしまって……。
荒川:恋愛以前に、人付き合いもできなくなっちゃうと思うんですよ。先天的な外向的な人、つまり、誰とでも友達になれる人っていますよね? そういう人は稀(まれ)で、だいたいの人は外向的な人の様を見て、「ああやって友達になるのか」ということを学ぶわけです。そういう学習機会もなくなってしまう。
トイアンナ:そうなると、不本意未婚率が上がりそうですね。今までは、ある程度の人数は、不本意未婚にならずに勝手に結婚できたので。
荒川:不本意未婚率は上がるでしょうね。ただ、コロナ禍で一番忸怩(じくじ)たる思いでいたのは、恋愛強者だと思います。クラブに行ってナンパするのが生きがいなのに、「飲みに行くな」と言われたら、もうお手上げですから。だから、恋愛強者がふさぎこみがちになってしまった3年間だった気もします。
トイアンナ:社会的去勢ですよね。ただ、そういう人は、社会人になってから反動で弾けると思うので、私はあまり心配していませんけど。
荒川:まあ、大丈夫だと思いますね。基本的に、いつの時代も恋愛強者は勝手にやってくれるので。
若い頃の体験喪失がもたらすモノ
トイアンナ:恋愛強者の心配はしていませんが、受け身の人たちは気になります。つまり、周りに影響される人たちですね。恋愛に対してもすごく受け身だし、かと言って、「お見合いで結婚します」と言い切れるほど脱恋愛してるわけでもない。この真ん中のゾーンの人たちは、すごく苦しいかなと思います。
荒川:「若いときの恋愛経験がない」という体験喪失は、問題ですよね。学校で隣の席になっただけでも、帰り道が一緒になっただけでも、ちょっとした恋心が芽生えることがあるじゃないですか。片思いだろうが、両思いだろうが、ちょっとしたことがきっかけで恋心が芽生えるという体験は、ものすごく大事なんです。
だから、「恋心を知らないまま25歳になったらどうなるんだろう?」と思うわけですよ。若いときに経験しておかないと、「別に今さらしなくてもいいか……」という感じになっちゃう。
トイアンナ:そうですね。私も、今さら「ハワイに行くか?」と言われたら、一生行かない確率のほうが高いと思います(笑)。
荒川:そうでしょう? ハワイは、若いうちに行っておいたほうがいいですよ。
トイアンナ:若いうちに勢いでできることを飛ばしてしまうと、「一生しなくていいかな」という気持ちになってきますよね。
荒川:樹木希林さんの名言で、「結婚なんてのは若いうちにしなきゃダメなの。物事の分別がついたらできないんだから」って。それは、結婚に限らず、あらゆる体験においてもそうですよね。物事の分別がつくようになると、やらなくていい理由をうまく理屈づけするようになっちゃうから。
トイアンナ:理屈づけしても、「もう結婚しなくていいや」と本人が決心して言い切れるなら、全然問題ないと思います。ただ、心の中で決着がつかないんですよね。「本当はハワイ行きたいんだよな……」って、ずっと思う羽目になるわけですよ。
荒川:ハワイに行ったことがある人は、「行けばいいじゃん」「旅行を申し込めばいいじゃん」って簡単に済ましちゃうんですよ。でも、「簡単じゃないんだよ、こっちは……」って。やったことがある人と、やったことがない人の埋められない差はありますよね。
男性のほうが孤独に弱い?
荒川:僕は、孤独耐性について調査してるんですけど、「一人でいることが苦しい」と感じるのは、男性のほうが多いんです。「男性のほうが孤独を好む」とか言われてますけど、むしろ、一人を楽しめる人は女性のほうが圧倒的に多い。もちろん、「一人で楽しめる=友達がいない」ということじゃなくて、友達はいるけど、一人の時間も楽しめるっていう。
トイアンナ:男性は、家庭に引きこもりがちですよね。妻とコミュニケーションは取るけど、結婚すると独身友達と遊ばなくなったり。
荒川:要するに、所属するコミュニティにとらわれているんですよね。例えば、異業種交流会なんかで、「○○商事の○○部長です」みたいに、名刺交換からしか話ができない人っているじゃないですか。あれは、「会社の中の俺」ということでしか、自分のアイデンティティがない人なんですよ。だから、会社を辞めてしまうと、一気に自分を失ってしまうんですね。これは、一流企業で出世したおじさんほど、なりがちなんです。
トイアンナ:逆に言うと、就職氷河期の人たちは、アイデンティティが最初から失われている?
荒川:「アイデンティティって何?」という話になるんですけど……。例えば、海を渡るときに、大きな船に乗ることは、安心材料の一つですよね。でも、「大きな船もいつか沈没するかもしれない」という覚悟がないと、いざ沈没したときに死んでしまう。そして、就職氷河期の人たちは、大きな船さえなかったんですよ。「ここを泳いで行くの?」という状況だったので、結局、「渡らないでおこう」という人もたくさんいたわけです。そういう人たちは取り残されてしまった。
トイアンナ:確かに、男性は仕事を辞めると、メンタルが壊れやすいと感じます。
荒川:給料が高い一流企業に勤めて、かつ部長クラスまで出世した人が、定年退職後数年で亡くなるというパターンは少なくありません。何もすることがないって相当のストレスになります。
トイアンナ:引退すると、どこかの顧問になって、そのまま所属を続ける人も多いと思いますけど。
荒川:そういう人は、ちゃんとリスク管理をしてるんだと思います。自分にとって所属や仕事を継続する大事さというか。現役の人たちも「毎朝同じ時間に起きて、電車に揺られて、会社に行く」という一連の行動がいかに大事なことかを、コロナ禍で思い知ったと思うんですよ。「毎日行く」という行動だけでも、生きる力になってるんですよね。
与えられた役割に依存? 逃げ道がなくなる「唯一依存症」
トイアンナ:ちなみに、男性は離婚にも弱いですか?
荒川:弱いです。離婚率と自殺率には強い相関があります。
トイアンナ:家庭が一つの所属になっていて、それを失うと死んでしまうみたいな。
荒川:所属員として役割を果たすということも、大きな意味で言うと受け身なんですよね。「所属コミュニティの中で、与えられた役割を果たすことが自分だ」ということだから、会社の中だと部長の役割を果たすことだけで生きていける。家庭の中で父親という役割を果たすことだけで生きていけるんです。だから、夫や父親という役割を剥奪されると、自分を見失ってしまうんですよ。
トイアンナ:与えられた役割に依存しちゃうわけですね。
荒川:これも、受け身体質ゆえの問題ですよね。唯一依存症って言ってるんですけど、何か一つのことだけに依存してしまうと、逃げ道がなくなってしまう。「もしそれがなくなったら……?」ということに、気づいてない人は多い。
トイアンナ:会社という所属、家庭という所属、地域という所属。これを一つずつもぎ取っていくと、最後は何もなくなってしまう。
荒川:そうなんですよ。逆に、「女性はなぜ平気なのか?」と言うと、所属だけに依存しない人との関わりの多さがあると思います。
「結婚したら幸せ」ではなく「幸せだから結婚する」
荒川:一方で、結婚しなくても、オタクの人の幸福度はめちゃくちゃ高いんです。年に2回のコミケだけで、「人生、こんな楽しいことないよね」みたいな。本当に楽しそうですよね。
トイアンナ:オタクコミュニティという所属があるのに近いのかもしれない。
荒川:僕は「接続するコミュニティ」と言ってますが、会社や組織、場所といったものには所属してはないんだけど、オタクという属性があるから、名前も知らないような人たちと年2回会ってその瞬間だけ友達になるみたいな。つまり、コミュニティは所属ではなくて接続することが大事なんじゃないかと思っていて。
トイアンナ:それが理想形ですよね。推し活を楽しんで、自分の人生が華やかになって。結果的に、幸福度も上がって「結婚してもしなくても幸せになる」っていう。
荒川:うーん。「結婚してもしなくても幸せになる」というか、問題は逆なんですよね。「結婚したら幸せになるのではなく、幸せな人が結婚する」んですよ。
トイアンナ:そんな元も子もない(笑)。
荒川:大きなお世話なんですけど、幸福人口と不幸人口が、どれだけ未婚から既婚になったかということを調べたことがあるんです。すると、不幸人口って全然変わらないんですよ。20代から50代まで、不幸な人はずっと不幸なまま。一方、幸福人口は、未婚が減っていくんです。つまり、幸福な人が既婚になってるだけなんです。だから、幸福な人が結婚してるんですよ。
トイアンナ:そうすると、たとえ離婚したとしても、そんなに影響を受けなさそうですね。
荒川:影響を受けるのは、「結婚すれば幸福になれるはず信者」なんじゃないでしょうか。状態に幸福があると思い込むから、その状態がなくなると耐えきれなくなるのでは……。だから、逆だということを意識したほうがいいんですよね。「不幸なのは、結婚してないから」ではなく、「自分自身で不幸だと思ってるから不幸なんだ」という話で。
トイアンナ:不幸を数えてるから、どんどん結婚からも遠ざかってしまう。
荒川:だって、不幸そうな顔をしてる人と付き合いたいなんて思わないじゃないですか。
トイアンナ:それは、男女ともにそうでしょうね。
他者と付き合うことで新しい自分が生まれる
荒川:学校で隣の席になった人を好きになるとか、会社で一緒に仕事をしていて好きになるとかありますけど、これは別に好きになったわけじゃなくて、慣れただけなんですよ。「単純接触効果」って言うんですけど、人は見慣れると好きだと錯覚するんです。
だから、基本的には、自己肯定をする必要もないし、自分を好きになる必要もないし、自分を愛する必要もない。慣れればいいんですよ。自分を嫌いな人って、自分を見ようとしないし、自分の声を聞こうとしないし、自分の写真や動画を撮ろうとしないじゃないですか。YouTuberなんて、みんな自分大好きな人ばっかりですよ(笑)。だから、慣れなんです。“慣れ=好き”になるんです。
トイアンナ:なるほど。
荒川:あと、主観目線でしか生きていけない人は、恋愛も結婚もしにくいと思います。僕は、「他者と付き合うことによって自分が生まれる」という認識で考えていて。つまり、他者と付き合えば付き合うほど、新しい自分が生まれるということなんですよ。他者と付き合わなければ生まれなかった思考回路だったり、価値観があります。そういうことに思いをはせられると、自然と他者を思いやれたり、感謝もできる。それはつまり、人との付き合い全般に言えることで、恋愛や結婚だけではなく、親子や友達、仕事上の付き合いにも通じます。
トイアンナ:他者目線になるというか。
荒川:そうですね。主観目線だと、人とつながってないですよね。世界も広がらないですし。
トイアンナ:主観目線だと、主観的に不幸を感じやすいし、結婚できたとしても「なんで私はまだ不幸なんだろう?」ってなりますよね。
荒川:エビデンスがあるわけじゃないけど、主観目線を解決するには、小学校から演技の授業をやったほうがいいと思っています。要するに、みんなが役者になる授業をやるべきだと考えていて。与えられた役割や、劇中の立ち位置を演じてみる。「それはあなたじゃない。演じるんだよ」ということをやってみることは、すごく大事。つまり、メタ認知なんですよ。役者が自己肯定感が高いのは、演じることで、自分自身がどう見られているかというメタ認知ができるし、そのおかげで他者も認知できるので。
トイアンナ:確かに、メタ認知のトレーニングは非常に重要ですね。自分が苦しいときに、「相手を利用して付き合いながら、自分の自尊心を補填(ほてん)する」という関係性から脱せられると思うんですよ。
荒川:主観目線の人は、昔からある一定数存在していて、近年になって増えたわけじゃないですよね。だから、そういう人たちもひっくるめて、社会の圧で結婚させられた人も中にはいるでしょうね。
トイアンナ:そうですね。それで、不幸体質を再生産する。
荒川:ただ、お見合い結婚をしてる人の離婚率って、すごく低いんですよ。
トイアンナ:恋愛結婚の人のほうが、離婚率が高い?
荒川:恋愛結婚って、「恋愛感情がなくなった時点で終わり」という判断をしがちな人が多いので。でも、恋愛感情なんて、そんなに長く続くものじゃないじゃないですか。せいぜい5年ぐらいで冷めちゃう。一方、お見合い結婚の人たちは、最初から恋愛感情があるわけではないので、嫌いになって当たり前というか。「嫌いなところは最初から見てます」というか。そこがやっぱり違うのかなって。
トイアンナ:そうですね。ただ、50代〜60代の世代だと、離婚に対する世間体があったと思うので。夫に搾取されていたとしても離婚しづらいとか、とんでもない妻だと思いながらも尻に敷かれて生きていくとか。そういう生き方が是とされてきた背景はあると思います。