算数は得意と自信を持っていました/(C)きたがわなつみ/レタスクラブ

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教育家の小川大介先生が、悩める親たちにアドバイス。「うちの子のこんなところが心配」「私の接し方、コレでいいの?」など、子育てに関するありとあらゆる悩みにお答えしてきた『小川大介先生の子育てよろず相談室』。その中から、特に反響の大きかったお悩みを漫画でご紹介します!

【このお悩みをマンガで読む】かけ算くらいまで進んでいたけど、簡単な足し算引き算の文章問題を間違える小1娘(画像8枚)

■Yさんのお悩み

小学1年生の娘についての相談です。年長の時から公文の算数に通ったり、自宅でドリルをやったりなど、学習準備をしてきて、本人も算数は得意と自信を持っていました。ところが、小学校に入ってより具体的な問題を解くようになって、問題をしっかり読めていないという弱点が発覚。先日受けたテストでも、解ける問題なのに、きちんと読んでいないために間違えているというのが多く見受けられました。例えば、「8から2をとったらなんですか?」と聞かれているのに「10」と答えていたり、正方形や長方形のブロックが重なっていて、その数を答える問題で、正方形の数を聞かれているのに、正方形と長方形を全部足した数を答えていたりなどです。

実は公文でも、かけ算くらいまで進んではいたのですが、簡単な足し算引き算の文章問題が解けていませんでした。単に数字をこなしているだけであまり身についていないように感じたので、入学前に辞め、今はもうちょっと簡単なドリルをさせたり、本を読ませてみたりしています。読みたい本に関しては最初から最後までちゃんと読めるのですが、問題を解くとなると4行くらいの算数の問題でも「すっごく長い、やだー」と言って読まずに問題を解き出します。国語などは問題文を見るだけで拒否反応を示し、早くも「国語は嫌い」と投げ出してしまっている状態です。

問題をちゃんと読むようにいつも言うのですが、「はい、はい、はい」「あー、もうわかってるよ」みたいな感じの反抗的な態度。また、本人にわからない問題を聞かれて教えている時も、途中で「はぁ…」みたいな生意気な態度をとることが多く、うまく会話ができません。もともと娘は「あれがしたい」「これは嫌」など、自己主張がはっきりしているタイプため、抑え込むと悪い方向に進むように思い、優しくしてみたり、厳しくしてみたり、私の態度も揺れ動いています。自分でもどのように対応すればよいかわからなくなっているので、アドバイスをいただきたいです。(Yさん・40歳)

■小川先生の回答

■数を処理することと「わかる」こととは違う

今まで娘さんは、勉強の仕方というのをきちんと習えていなかったのではないかと思われます。計算は得意なようですが、それは目の前の数をただ処理していただけのこと。勉強が「わかる」こととは全く次元が違うものです。「わかる」というのは、そこの意味をつかむことであり、問題文の条件の内容をわかったうえで、それを処理するために数字を使うのが正しい思考の順番です。ところが娘さんはそういった勉強の仕方をちゃんと教えてもらう前に、なんちゃって公文をやってしまったため、「数字を片付けること=勉強」と勘違いしてしまっているのです。大切なのはその数字の持つ意味であり、数字同士を足したり引いたりするのはどういうことかがわからなきゃいけないのに、今まで娘さんがやってきたのは、ただパターンの数を暗記しただけ。いくら組み合わせを暗記したところで、算数的な理解をしたことにはならないため、文章題になるとどう処理していいかがわからずに思考停止してしまうのです。

■学び方のベースを学び損ねている子が増えている

また、難しいとすぐに投げ出してしまうのは、うまくいったものだけを「できる」と勘違いしているから。「思考を進める結果、できるようになる」のが正しい学びの姿なのに、その学び方のベースそのものを習い損ねているようです。これは本来、ペーパーではなく遊びを通して学ぶこと。例えばゲームでも遊びでも、後から始めた子は前からやってる子より下手だから、できてる子の真似をしたり、どうすればいいのか聞いたりして、上達していきますよね。これが「学ぶ」ということであり、実は子どもは遊びを通して学び方を学ぶものなのです。その学びのベースを身につける前に、数字の処理で入ってしまったため、正解だけを欲しがるモードを作ってしまったといえます。

実はこの学び方を学べていない子が最近増えています。ここ数年のコロナ禍で遊ぶ機会が減り、子どもの世界で勝手に身についていた学ぶ初歩の初歩の感覚が不足してしまっているのです。本来子どもの世界で培われるはずだったものを、大人の世界で補わなければならないわけだから、それはとても難しいと思います。でも、すぐに投げ出すのは、努力が足りないとか我慢が効かないとか、そういった性格の問題ではなく、学び方を知らないだけなんだということを理解するだけでも、親としての関わり方は変わってくるはずです。

■「わからない=悪い」という勘違いを解いてあげる

具体的な関わり方として、まず一番大事なことは、「わからないのは悪いことではない」ということを伝え続けてあげること。今の娘さんは、「わかっていない」という指摘を、「ダメだ」と責められているような受け取り方をしてしまっています。そのため、「はいはい」「わかってるよ」と話を切り上げて防御しているのです。それはお母さんの言い方にも問題があったと思うので、そこは改める必要があるでしょう。「わかっていないということは、ママや先生があなたを助けなきゃいけないという大人の義務の話で、わからないことは悪いことでもなんでもない」ということを、何回も繰り返し伝えてあげてください。そうすることで、「わかる、わからない」と「良い、悪い」の話がセットになっている、子どもの中の感情を切り分けてあげる必要があります。

■生意気に感じられる態度の裏にある感情を読み取る

子どもに対して大人が生意気という場合、ほとんどは攻撃ではなくて防御です。その根底には、恐怖心や不安感、自信のなさや痛みがあります。娘さんの場合も、できていない状態の受け止め方がわからないから遠ざけたいという気持ち、自分を守ってくれるはずの母親が自分の想いを汲み取ってくれないことに対する怒りなどの感情が入り混じり、自分がこれ以上傷つかないよう自己防衛しているのです。ですから、本人の困っている状態に気づき、寄り添ってあげない限り悪化します。一番まずいのは抑え込むことです。抑え込むとますます防御のために態度を硬化させるだけです。

かといって、「優しくしてあげる」というのもちょっと違います。寄り添うのと優しくするのは全く違っていて、優しくするというのは相手を下に見て施している行為。だから、「優しくしてあげる」という段階で、子どもにしてみたら余計にバカにされた気がして傷つきます。自分のことなど諦められていると感じ、ダメと言われているのと同じように受け取ってしまうため、そこは注意が必要です。

■わかることしかしたくないのは、学び方を知らないから

実際の問題を見ていく前には、「わかるようになるため手助けしたいから、その確認作業をしよう」という断りを必ず入れましょう。おそらくそれでも、初めはわかっていないこと、読み取れていないことに対して不貞腐れると思います。なぜなら本人が、わかっていないという状態をどう乗り越えたらいいかを知らないからです。先ほども言ったように、どうすればできるかの学び方を学んでいないため、「知らない」「わからない」から逃げるという選択肢しか持っていないのです。

子どもに限らず大人でも、説明された瞬間不貞腐れるタイプの人ってよくいますよね。彼らは結局、どのようにすれば理解が進んでいくかなど、成長していく方法を身につけそびれたまま大人になってしまった人たち。わからなければそこから学べばいいというスタンスを持っておらず、わかっているものしかしたくないのです。だから、わからないことを言われると「自分は悪くない!」と急に怒り出して、人の話を聞けません。娘さんはそういう大人にはしたくないですよね。だから今のうちに、「わかっていない状態=良くない」と思い込んでいるその心理ブロックを外してあげることが急務です。

■ゲームをクリアしていく感覚で作戦を練る

そのためには、雰囲気作りがとても大事になってきます。わかっていないところが見つかったら、「これは親が活躍できるチャンス!」みたいな感じの雰囲気で、一緒に楽しみながら取り組むようにしましょう。3行の問題なら読めて、4行になると読めないなら、「3行と4行の間に壁があるから、それを乗り越えられる方法を一緒に考えよう!」と、ゲームの中ボスを倒すみたいなノリで、戦略を練るのです。例えばママが声に出して読んでみたり、一文ずつ区切って読んだりなど、親の出せる範囲のアイデアでいいので、読みこなし方を何パターンか試してみるといいでしょう。ここで重要なのは、「こうしなさい」と本人を追い詰めるのではなく、どの方法がやりやすいか、本人に選べるように選択肢を作ってあげることです。そういう関わり方を続けていくことで、子どもは「わからなければママが助けてくれる」という体験ができ、わからないときは自然と持って来られるようになります。

■できなかった場合の後対応まで考えておく

また、だんだんできるようになると、今度は「1人でできるから邪魔しないで」とか言い出すと思います。その際に気をつけないといけないのが、やらせてみてできなかった時、「ほら、できないでしょう」を絶対に言わないこと。できないだろうと思って助けようとしたのを、子どもが「できる」と言って結局できないと、責めたくなってしまいがちです。親として成長途上の人にとって、それは仕方のない心理でもあります。だからといってできなかったことを責めてしまっては、子どもを傷つけてせっかく出たやる気を削ぐだけ。なので、うまくいかなかった時にどう助けるかを準備しておくのがおすすめです。できなかった時に使う言葉は、「あれ、おかしいね。どうなったか一緒に見てみよう」。できると思った本人の気持ちを傷つけることなく、何が起きたかを一緒に検証して、どうすればいいか道を作っていきましょう。そういうことを知っておくだけでも、対応は大分変わるので、いい方向に進んでいくと思いますよ。

小川先生からの「大丈夫!」フレーズ

『できそうと思わせて調子に乗せれば、伸びるのも早いです』

娘さんは、自分がわかっていること、安全なところに強いタイプ。うまくいかないことには慣れていないため、防衛的になりやすいですが、「できそう」と思った瞬間、俄然やる気が出てがんばれる子です。調子に乗せさえすれば、すごく伸びやすいので、一緒に楽しみながら取り組んで調子に乗せちゃえば大丈夫。

■回答者Profile

小川大介先生

教育家。中学受験情報局『かしこい塾の使い方』主任相談員。

京都大学法学部卒業後、コーチング主体の中学受験専門プロ個別塾を創設。子どもそれぞれの持ち味を瞬時に見抜き、本人の強みを生かして短期間の成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。個別面談の実施数は6000回を数え、受験学習はもとより、幼児低学年からの能力育成や親子関係の築き方指導に定評がある。各メディアでも活躍。著書多数。

漫画=きたがわなつみ/文=酒詰明子