自粛期間が明けても「リアルではデートできない」と嘆く26歳女。彼に言い出せなかった、その理由は?
ハイスペ男に”選ばれる女”は、一体何が違うのか?
「俺は結婚に向いていないし、結婚しなくても十分幸せだ…」
と、思っていたバツイチ男が“ある女”と再婚した。
彼の結婚の決め手は何だったのか――。
6人の女性の中から、彼に選ばれたのは誰?
◆これまでのあらすじ
2016年にバツイチとなった桜井和真はその後、4年の間に4人の女性と出会い、デートを重ねていた。
2016年の玉城玲奈とは海外旅行を共にして、2017年の行野澪とは交際に発展し、2018年の椎名由起子には逆プロポーズされた…。
▶前回:Case4(回答編):2019年の桜井和真(32歳)
Case5:2020年の石川沙耶(26歳)
2020年になって突然訪れた、ステイホームのニューノーマルな生活。
高級物件専門の不動産仲介会社に勤める石川沙耶は、コロナ禍で対面営業を控えるしかなく、在宅勤務に飽き飽きしていた。
代わりに増えたのはZoom飲み会。
もともと夜に出歩くことは好きではなかったが、これなら自宅から出る必要がない。だから沙耶にとって好都合だった。
誘われるがまま数多くのリモート飲み会に顔を出し、そこでバツイチのグラフィックデザイナー・桜井和真と出会った。
彼のルックスや喋り方。そして背後に見える自宅の雰囲気にも魅了され、Zoomを繋げながら和真のInstagramを無言フォローする。
すると彼も、沙耶のInstagramを無言でリフォローしてくれたのだ。
飲み会に参加していた他の男女4人は、知る由もない。イタズラ心が湧いてきた沙耶はDMを送った。
『このリモート飲み会が終わったあと、2人きりで続きをしませんか?』
『面白いですね。やりましょう』
画面の中で会話を続ける他の4人は、何も知らない。沙耶と和真だけの秘密。
リアル飲み会の最中、みんなに隠れてテーブルの下で手を繋いでいるような感覚があり、沙耶は胸が躍ってしまった。
和真に一目惚れしてしまった沙耶は…。
飲み会が終わって退室したあと、沙耶はあらためてZoomを立ち上げ、和真を招待しようとした。…しかし、うまくいかない。
慌てて彼のInstagramアカウントを開き、DMを送る。
『すみません。私いつも誘われるだけなので、自分から招待したことがなくて…』
『こちらは仕事でいつも使っているので、俺から招待メール出しますよ』
すぐに和真から招待が届き、やっと2人きりのZoom飲み会が始まった。
複数人で会話していたときは遠慮していたが、2人きりになったら話は別だ。こちらから積極的に質問を投げかける。
彼が手掛けたグラフィックデザイン作品を教えてもらうと、すぐにネット検索し「えー、すごい!」と大袈裟に褒めてみせた。
Zoom越しの会話は、大袈裟にすることが重要だ。それに、男性を褒めるときも大袈裟なぐらいがちょうどいいと、沙耶は重々承知していた。
そして和真も和真で、先ほどとは違い、積極的に会話を盛り上げようとしてくれる。
2人の間にいくつかの共通項があったが、沙耶にとって一番ポジティブなものは「お互い恋人がいない」というところだった。
「でもデートしてる女性ぐらいはいますよね?」
あえて意地悪な問いかけをした。
「去年までは何人かいたんですけど、いなくなっちゃいました」
沙耶は、その答えが真実かどうか確かめようと彼の表情をジッと見つめたが、Zoom越しでは判断できない。
とはいえ、相手の顔をジッと見つめることができるのはリモートデートの利点だ。リアルデートでは、こうはいかないから。
続いていくリモートデート
その後もしばらく、和真とリモートデートを続けた。気づけばZoomの招待メールを送ることにもすっかり慣れている。
これまで沙耶が好きになった男性は、すべて一目惚れだ。なので彼に対しても同じだった。
― もう完全に好き。付き合いたい。
ただ和真のことは好きではあるが「きっと他にも連絡を取り合っている女性がいるはずだ」と思い、彼のことを信じきれてはいなかった。
過去の沙耶は一目惚れするたびに相手のことを信じすぎて裏切られ、傷ついてきたのだ。男を見る目がない、という自覚もある。
また最近では、年下の男に貢いでしまう癖や、世話を焼きすぎてしまう性格も自覚し始めていた。
― でも和真さんは、6歳上だし。
沙耶にとって彼は、落ち着いた大人の男。バツイチなんて、むしろ勲章に思えた。
和真の結婚観に共感して
リモートデートを続ける中で、和真はこう言った。
「もし再婚することがあっても、家事は自分でやりたいんです」
「なんでですか? 奥さんに任せるんじゃなくて?」
「今、住んでるこの家が好きなので、再婚相手にはここに住んでほしいんです。となると、この家のことを良く知っている俺が家事を担当するのは自然だと思っていて」
「じゃ、奥さんは何もすることがなくなりません?」
「料理はしてほしいです。俺が得意じゃないので…。その代わり皿洗いは好きなので、自分でやります」
その言葉を聞いて、沙耶はこう思った。
― 和真さんと結婚する女性は大事にされるんだ…。自分がその座に収まれたらいいのに。
そのときはすでに「他に女性がいるかも」という思いは消え失せ、すっかり和真のことを信じ切っていた。
しかし沙耶自身が、ある秘密を抱えていて…
ついにリアルデートに誘われて…
7月に入り3日連続でリモートデートしたときには、お互いの結婚観について、とことん話した。
「やっぱり男って稼がないといけないと思うんですよ」
和真はZoom越しでもわかるほどアルコールで顔を赤くしながら、熱く語っていた。
「時代の風潮で男女平等とか言われてますけど、男が女性を養って当たり前です。だって一家の大黒柱にならなきゃいけないんですよ?」
「わかります。わかります」
沙耶は大袈裟に頷いてみせた。Zoom越しはやっぱり大袈裟なぐらいがちょうどいいから。
「女も結局のところ『一生お前のことを食わしていくぞ。守ってやるぞ』って男性に惹かれるんです」
何度リモートデートを重ねても丁寧語が抜けない。しかし沙耶は、和真とはただの“意気投合”というレベルではなく、価値観が深いところで結びついた感覚があった。
それは彼も同じだったのかもしれない。その日のリモートデートの終わり際、ついに和真からリアルデートへ誘われたのだ。
「いい加減、そろそろリアルで会いませんか?」
「いいですね、ぜひ!…日程が見えたら、連絡しますね」
ついに彼から誘われたことは、その場で飛び上がりたいほど嬉しかった。
…でも沙耶には、素直に喜べない事情があったのだ。
沙耶が隠していた事実
ご時世柄、リアルデートは自宅になる可能性が高い。いつかのリモートデートのときも、和真は「手料理を作り合うデートとかいいですよね」と言っていた。
あのときは「いいですね!」と大袈裟に同意してみせたが、本当は彼の家へ行くことなんてできないのだ。
それには、明確な理由がある。
― かといって、私の自宅に来てもらうのも無理なんだよなあ。
それにもまた、明確な理由があった。
沙耶は当初、明らかにモテるであろう和真を信じることができず、根掘り葉掘り質問をして、それが“真実”かどうか確かめていた。
だが沙耶自身が、ずっと“真実”を隠していたのだ。
「ママ見て!これ、ママの絵を描いたの」
「すごい、ありがとうね。ママにそっくり!」
実は沙耶、4歳になる息子を持つシングルマザーなのである。
出産してからの4年間は当然、飲み会など行けなかった。だからリモート飲み会はありがたい。
同年代の女友達は、ファッションや美容に給料の大半をつぎ込んでいる。一方の沙耶は、子どもにばかりお金をかけているし、時間だって取られてしまう。
だから和真と続けたリモートデートは、子育てから離れて楽しむことができる、唯一の時間だったのだ。
しかし息子のことを告げるタイミングを逃したまま、ついにリアルデートへと誘われてしまった。子どもを置いて彼の部屋に行くことはできないし、沙耶の自宅に来てもらうこともできない。
― まあでも、しょうがない。いつか伝えなきゃいけないことだったし。
沙耶は息子が描いてくれた似顔絵を、大袈裟ではなく心の底から褒めながら、あらためて決意した。
― ちゃんと和真さんに、私の事情と気持ちを告白しよう。
ステイホームのニューノーマルな生活になったからこそ、彼と出会い、恋心を育むことができたのだ。
息子の寝かしつけを終えた沙耶は、薄暗いリビングで1人ワイングラスを傾けながら、前向きな気持ちに包まれていた。
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素直に告白する沙耶。和真が出した答えとは?