「母親に2年前に婚活を勧められました。でもうまくいかなかったんです。今は婚活を休んでいます」

そう語るのは健康食品の開発会社に勤務する穂乃果さん(仮名・31歳)。

2年前に母親に懇願されて、母親が勧めてきた結婚相談所に登録。お見合いをしたものの「条件付きでパートナーを探すのは相手にも失礼だし、私も好きじゃない」と感じて、すぐに退会したそうです。

「でも本当の理由は、別にありました。母はそのことを知って、私を気遣ってくれたんだと思います」

その理由とは一体何だったのでしょう。

東京近郊に住む穂乃果さんの家族は商社マンの父と専業主婦の母、そして2歳年下の弟の4人。父親は国内外に出張が多く、ほとんど家にはおらず、「まるで母子家庭のようだった」と穂乃果さん。家族旅行をしたのも片手で数えるほどだったそうです。

「父が40代後半になると出張の機会がぐんと減って、顔を合わせる機会も増えました。ところがその頃、父が5年前から30代の社内の女性と浮気をしていたことが母親にバレたんです」

父親の前ではっきりものを言えない母親は、実の姉など親族に相談していました。当時高校生だった穂乃果さんが帰宅すると、自宅にやってきた親族たちと母親のひそひそ話がピタッと止まり、家の中はどんよりと暗かったといいます。

「とうとう母親は父親の上司に手紙を書いて、不倫をやめさせてとお願いしたようです。その後、相手の女性が退職したので、父の浮気は終わったと思っていたんですけど…」

ところが1年も経たないうちに、再びその女性と浮気していたことがわかり、穂乃果さんの母は半狂乱になったそうです。

「弟が全寮制の高校に入学したため、家には両親と私の3人だけ。平然と浮気する父に感情を押し殺す母。信頼関係がずたずたに壊れてしまった家族と暮らす日々は、大学受験を控えた私には地獄のようでした」

ある夜、穂乃果さんは入浴中の父親のガラケーを覗きました。相手の女性との発信記録が一日に5件以上も。またショートメッセージにハートなどの絵文字が混じり、穂乃果さんはおもわずガラケーを床に叩きつけたくなるような怒りを感じたと言います。

「脱衣所で体にバスタオルを巻いた父親に、震えながらガラケーを差し出しました。『この女性は誰?』と聞くと、父親は『仕事先の人』と平然と答えたので、父親の狡さにさらに怒りを覚えた私は、『私が援交してもパパは何も言えないよね。清廉潔白な父親じゃないしね』と言ったんです」

父親の裏切りと家族がずたずたになったことに対する怒りを父親にぶつけた穂乃果さん。驚いた父親は「バカなことを言うんじゃない!援交なんかするな!」と怒鳴ったそうです。

そこで穂乃果さんはさらに「パパも浮気をやめてよ」と父親に迫ったそうです。

「かなり効果がありました。父は娘が自分の浮気を知っていること、そしてやめないと援交するという娘に、怖くなったと思います」

父親は「もう会いません」と相手の女性へのメールを穂乃果さんに見せてから、その場で連絡先を削除したそうです。

「ママに報告しました。ママは驚き、そして涙を流しながら『あなたにそんなことを言わせた私が悪かった』と謝るので、『泣かないで。もう終わったから』と慰めたんです」

家族はぎくしゃくしながら、少しずつ平穏な空気が食卓に戻ってきたそうです。弟が暮れに帰省すると「なんか、あったの?」と穂乃果さんに聞きましたが、穂乃果さんは無言を貫き通しました。

「でも弟は知っていたんです。大学を卒業した頃に、私に『パパの浮気をママも穂乃果も黙っていた。僕なんかいなくてもいいんでしょ』とむくれたんですよ。でも弟も25歳ごろの時に浮気したんです。弟の当時の彼女が私に相談してきたときは驚きました」

別の女性と浮気をしていた弟。穂乃果さんは弟の彼女に「私は何もできないから」と詫びたという。

「弟は彼女とも浮気した女性とも別れて、新しい女性と結婚したんです。三人がかぶっていたのかもしれません」

父の浮気を知りながら、浮気をした弟。男は浮気する生き物だと思うと、男性と恋愛する気がしなくなってしまったという穂乃果さん。結婚に対しても消極的だったと言います。

「今、可愛いなあと思っている男性がいます。二つ年下。男性も私のことが気になっているようですが、お互いアプローチはなし。友達以上恋人未満のままかもしれませんね…」

コロナ禍になってから、仕事が忙しくなった穂乃果さん。当分は仕事に専念するつもりです。気になる年下男性と恋人以上になりたいという気持ちが高まれば、その時は流れに任せるつもりだそうです。その日は来るのでしょうか……。

親の不倫はその後の恋愛の価値観を大きく左右します。

文/夏目かをる