6月と言えば、ジューン・ブライド。結婚のシーズンですが、一方で年間21万組以上、時間にすれば2分に1組のペースで離婚が成立していると言われています。

その多くが妻からの申し出によるもので、その最大の理由は「夫が妻の気持ちを理解しない」こと。自分で選んだはずの相手なのに、理解し合えないのはなぜ?

そんな「家族」や「夫婦」の疑問や問題に最新科学で切り込んだ、NHKスペシャル『ニッポンの家族が非常事態!?』が6月10・11日の二夜にわたって放送されます。

「第2集 妻が夫に“キレる”本当のワケ」にゲスト出演した麻布大学獣医学部動物応用科学科の菊水健史教授に話を聞きました。

NHKスペシャル『ニッポンの家族が非常事態!?』の「第2集 妻が夫に“キレる”本当のワケ」より=NHK提供

妻が夫にキレている?

番組では、妻が夫にキレるのは「男女の脳の違い」による“人類進化の必然”であるという最新の研究を引用しながら、共感力・コミュニケーション力・記憶力といった夫婦関係を左右する能力について、脳科学の観点から男女の違いを明らかにします。

さらに、女性の社会参加が進んだことや、育児に積極的に参加する“イクメン”の増加がそれぞれの性ホルモンに影響を与えていることにも触れ「お互いの違いを理解した上でどうすれば夫婦の絆を強められるのか」に迫ります。

夫婦のマンネリを解消する鍵は「オキシトシン」

--番組では、うまくいかなくなってしまった夫婦関係を修復する糸口として、ホルモンの観点からも検証しています。私たちの体には、複数のパートナーを獲得しようとする「テストステロン」と特定のパートナーとの絆を強める「オキシトシン」という正反対のホルモンが共存しているということですが、“愛情ホルモン”とも呼ばれるオキシトシンが分泌されれば夫婦関係やパートナー関係がうまくいくというのが実験でもわかり面白かったです。

菊水健史教授(以下、菊水):そうですね、番組でも紹介されていましたが、ただ見つめ合うだけでもオキシトシンが分泌されます。夫婦やカップルで、お互い違う部屋で別のことをやりながら話すというシチュエーションもあると思うんですが、それよりも視線を合わせて向き合って話しあったほうが二人の絆はより深まるとおもいます。一緒に散歩したり、ご飯を食べたりするというようにちょっと気を使うだけでも出ますね。

--妻が夫にキレてしまう理由の一つとして、競争心や戦闘力が高まるホルモン「テストステロン」の値が高まるから、というのは衝撃でした。

菊水:テストステロンは必ずしも悪いものではなくて、やる気を出す時やモチベーションを保つためには必要なホルモンなんです。

昔は、夫婦になって子供が生まれたら男性が狩りに行って、女性は子育てをするという役割だったと思うんですが、子育てに集中する時はテストステロンが下がるんです。だからある意味、戦闘力が下がって精神的に安定していたとも言えるんですが、今は仕事も子育てもしなければいけない状況で、そういう意味で心にかかる負担は大きくなっていると思います。

ホルモンの観点から言ったら、男性も女性も育児休暇をとって、一歩引いたほうが安定するとは思います。

--「仕事と育児の両立」とよく言われますが、ホルモンの観点からも負担ということですよね。ホルモンをうまく切り替えるコツというのはないんでしょうか?

菊水:1日の中で切り替えるのは難しいんですが、ホルモンの変化というのは「きっかけ」とも言われているんです。

--「きっかけ」というのは?

菊水:例えば、妻のほうが家事や子育ての負担が大きい家庭があったとした時に、夫が家事をした時に夫を褒めるとしますよね。そうするとオキシトシンやテストステロンよりも強いドーパミンという物質が出て「またやろう」という気になるんです。

褒められたり認められたりすると次の行動に移りやすくなる。なので例え夫の家事が下手だったとしても、とりあえず褒める。そうすると「もう1回やりたい」と思って、次の行動に行きやすくなるんです。お互いを褒め合って認め合えば行動は続くんです。

「恋愛の”賞味期限”は3年」の理由

NHKスペシャル『ニッポンの家族が非常事態!?』の「第2集 妻が夫に“キレる”本当のワケ」より=NHK提供

--「特定のパートナーと夫婦になること(一夫一妻)を選んだのは人類の長い歴史の中でつい最近」という話もありました。パートナーとの絆を強めるためにオキシトシンが作用しているという説明がありましたが、人間の社会には「浮気」もありますよね? それはオキシトシンが作用していないということなんですか?

菊水:何をもって「浮気」とするかにもよるんですが、例えば一人の男性が同時に2〜3人の妻を持つというのはオキシトシンが作用していないというわけではないんです。それぞれの関係を維持しているので。逆にテストステロンがそれほど高くないと言えます。

テストステロンが高い男性で歴史上で有名なのがチンギス・ハンなんですが、彼は街を征服していく先々で女性と関係を持って子どもをもうけたと言われています。行為だけが目的だったというわけです。

生物学や動物行動学で言う「一夫一妻」というのは、普通、世間で思われているような一夫一妻とは若干違うんです。実は、まだきちんとわかってはいないんですが、人間は夫婦になって子供を育てたらもしかしたら別れていたのではないか? と言われているんです。一人の子供を育てるときは協力して育てるんですが、育て終わったら次のパートナーに変わっていたんじゃないかと。

--「育てる」というのは? 今の社会だったら二十歳で成人と言われていますが、どのくらいの期間ですか?

菊水:動物行動学で言えば、3〜5年ですね。昔は子どもがおっぱいを飲んでいる期間が今よりも長かったと言われているんです。授乳をしている間、女性は生理が止まって、テストステロンも下がるんです。男性のテストステロン値も下がって、夫婦で子育てモードに突入するんです。でもおっぱいが吸われなくなると生理が戻って、それは次の男性に向けた出会いのサインと考えられているんです。

--3〜5年でパートナーを変えるということですか?

菊水:そうです。日本の社会では、一生添い遂げるのが一夫一妻と考えられているんですが、動物行動学で言えば、離乳するまで協力するのが一夫一妻ということなんです。

--よく「恋愛の“賞味期限”は3年」と言われますが……。

菊水:はい、それがまさに根拠になっています。人類学者のヘレン・フィッシャーが唱えていますが、男女ともに子育てに集中する期間が3〜5年ということですね。

■番組紹介
2016年1月、3月に放送されたNHKスペシャル『ママたちが非常事態!?』の新シリーズ『ニッポンの家族が非常事態!?』が6月10・11日の2夜連続で放送されます。第1集は「わが子が“暴走”する本当のワケ 〜人類進化が思春期を生んだ!?〜」として、思春期の異変をテーマに迫ります。
放送日時:
第1集 6月10日(土)午後9:00〜9:49
第2週 6月11日(日)午後9:00〜9:49(総合テレビ)

ウートピ編集部