ツイッターで約8万人のフォロワーがいる燃え殻さん(43)。テレビの美術制作という“一般人”ながら、“140字”のつぶやきが多くの人の心をつかみ、共感を呼んでいます。今年になってウェブサイト『cakes』で連載された小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』も話題になり、ついに来年には新潮社から書籍化することも決定しました。

小説のほかにも、「ほぼ日手帳」のトークイベントに糸井重里さんと出演したり、新日本プロレス公式ムック本のコラムを書いたりと活動の場を広げつつあります。”140字の世界”からはみ出しつつある燃え殻さんとはどんな人なのか? 3回にわたり燃え殻さんにお話を伺います。

数に入っていない時間のほうが長かった

ーーツイッターを始めたのはいつからですか?

燃え殻さん(以下、燃え殻):2010年くらいからです。最初は会社の日報代わりにつぶやいていたんです。その頃はまだツイッターもどこかのどかで、炎上なんて言葉もない平和な世界でした。

ーーフォロワーが増えだしたのはいつからですか?

燃え殻:「3・11(東日本大震災)」の時にツイッターの意味みたいなものが認識されたと思うんですが、あの時、TLに震災に関するいろいろな情報が24時間ずっと流れてたじゃないですか。みんなハラハラしている空気が充満していて。

自分もハラハラして眠れなかったんです。そんな時にFishmansの『ナイト クルージング』の動画を貼って、「今夜眠れない人に」みたいなつぶやきをしたら、今夜眠れない人たちとつながったんです。その頃から、意識していろいろな人たちと交流するようになった気がします。

ーー今は8万人のフォロワーがいますが。

燃え殻:「0号室」*の何分の1だろう(笑)フォロワーが多い話って、どう語っても絶対ディスられるので。多い人は自ら「ただ見物客が多いだけで偉いわけでもすごいわけでもない!」と宣誓するという儀式が半ばあるんですが。本当にそう思うけれど、僕は正直、うれしいです。
*編集部注:恋愛ツイートで人気を誇るアカウント

それまで世の中の数に入ってない感覚で生きてきたので、わざわざ読んでくれる人がいることが単純にうれしいです。こう言うと「調子に乗るな!」と知らない人からディスられるんですけど。

夢は夜に見るものだと思ってた

ーー小説を書こうと思ったきっかけは?

燃え殻:作家の樋口毅宏さんが友だちで、ご飯を食べている時に「書けよ」って言われたんです。「書けないです」って答えて、でも樋口さんに「いや書ける」って粘られて。「書け」「書けない」としばらくやっているうちに『cakes』の方を紹介されて、何か書かないと終わらない感じになって。

ーー自分から小説を書こうと思ったことはなかったんですか?

燃え殻:なかったと思ってたんです。僕、社会人になってからの20年間分、20冊の手帳を全部とってあるんですよ。で、なんかあるとペラペラと読み返すんです。去年は会うのにあんなに苦労した人が、今は飲み友だちになってるなぁとか。一昨年の目標すっかり忘れてたとか。でも平気じゃん! とか。心の鎮静剤みたいに読み返すんです。

そうやって手帳をペラペラやってたら走り書きみたいにメモのところに「小説が書きたい」みたいなこと書いてあったんです。「あ、書きたかったんだ!」って思いました。連載が始まった時は「人は人生で1冊は本を書けるって言うし、なら1冊くらい書けるよ! 俺!」って根拠なく自分を鼓舞させてましたね。仕事柄、小説なんて一生縁がない人生だと思ってました。夢って、夜に見るもんだと思ってたけど、たまには正夢にもなるんだって最近思いますね。

“でっかい恥”をさらして思ったこと

ーー小説を書いたことは成功でしたか?

燃え殻:人って成功したとか失敗したとかではなく、行動することで次に進むんだなって実感しました。全部思い通りになんていかないし、目標が100%達成するなんてないんですが、成功か失敗かなんてその場その場の捉え方ですから。今ココの結果を気にするより、行動することで次に進めるんだなって、突然長編を書くという”でっかい恥”をさらして思いました。

手帳を読み返してるとつくづく思うんです。悩みが20年間なくなったことはないなぁって。でも悩んでる内容は常に変わってるなぁとも読み返してると気づくんです。解決したり保留にしたりして次のことでちゃんと悩む。失敗したり成功したりはその時の風向きもある。それ自体はどっちでもいいです。忘れた頃に解決したりもしますから。とにかく行動すること、しつこく続けることだなぁって。

「戻りたい場所がない」のは生きづらかった人の特権

ーー小説の中の主人公のように、もう一度帰りたい場所はありますか?

燃え殻:まったくないです。アホみたいなこと言いますけど、生きてて今が一番楽しいんです。「いつの時代に戻りたい?」って(世間では)よく言うけど、僕は絶対戻りたくない。河原で石をひとつずつ積み重ねてきたような毎日だったから。これだけ生きづらくて面倒で、試行錯誤を繰り返してきた先の今なので、戻りたい場所なんてないです。それは生きづらいと感じて生きてきた人間の特権かなって思ってます。

『cakes』に小説を連載してうれしかったのは、自分のなかに澱(おり)のように溜まって隠したいと思っていたものを出せたことです。自分が隠したかった部分、気持ちを書いたら「それ価値がある」て言われた気がしてうれしかった。昔の自分に言ってやりたいです。「その試行錯誤と七転八倒の先に褒めと共感が待ってるから! 今はタダのクズだけど立派なクズになれるからがんばれ!」って(笑)

次回は12月14日更新予定です。(カメラマン:竹内洋平)