30代から増え始める乳がん。30代〜60代の女性にとって、死因第1位のがんは乳がんです。というと、とても恐ろしい気がしますが、乳がんはほかの臓器への転移がなければ、命に関わるがんではありません。乳がんにかぎりませんが、がん細胞それ自体が毒素を出して体をむしばむわけではありません。内臓や脳などに転移したがん細胞が大きくなって、臓器の活動を妨げることが死につながるのです。

よく「乳がんは早期なら助かる」と聞きます。どういう意味でしょうか。初期がん、早期がんなどと呼ばれますが、どんながんでしょうか? 乳がんの場合、がんが乳管内にとどまっている状態や、大きさが直径2センチ以下でリンパ節に転移していない状態が「早期がん」です(初期がんに明確な定義はなく、早期がんの中でもより早く発見されたものをこう呼んでいるようです)。他臓器に転移していないことがほとんどなので、がんを取ってしまえば命に支障はないというのが「早期なら助かる」の意味です。

しかし一方で、早期がんだったのに助からなかった人がいます。助かる人と何が違うのでしょう? 発見が少し遅かった? 医者の腕が悪かった? 等々、考えてしまいますね。乳がんの診察歴40年以上の近藤誠先生にたずねてみました。

 「両者の違いは、がんの性格によります。がんには大きく分けると2種類あります。簡単にいうと“本物のがん”と、そうでないがん、私は“がんもどき”と名づけています。本物のがんとは転移する能力のあるがんです。がん細胞がごく小さい段階から転移を始める能力を持っています。

直径1センチのがんには約10億個のがん細胞が詰まっていますが、この大きさになるまで、個人差がありますが、5年から20年かかります。マンモグラフィで早期発見しても、本物のがんであれば、その大きさになるずっと前に転移を始めています。ですから、早期発見しても、すでに肺や肝臓など他の臓器に転移している可能性が高い。転移先のがんが少しずつ大きくなり、やがて生命活動に支障を来すようになる。たとえ早期がんで発見されても、亡くなる方が一定数いるのは、そういうわけです」

有名人の“がん会見”に注目……。 マンモグラフィで早期発見しても意味がない?

マンモグラフィ検診は直径5ミリ程度の微小ながんを発見できるのがウリです。しかし、がん細胞が転移を開始するのは、がんがもっと小さいとき。どれくらいの大きさで転移するのでしょうか?

「乳がんが他臓器に転移した患者たちを調べた研究では、ほとんどの転移は、乳がんが1ミリ以下の時点で始まっていました。転移開始のピークは直径0.1ミリ。マンモグラフィを受けても見つからないわけです」

早期発見した場合でも、必ず助かるわけではないということです。とはいえ初期がんの場合、多くの患者は助かっています。やはり早期発見が大事……というと、「そこが落とし穴です」と近藤先生。どういうことでしょうか。

「マンモグラフィで発見されるがんの多くは乳管内にとどまっている“乳管内がん”です。その99%以上が生死に関わりません。つまり本物のがんではありません。ですから、マンモグラフィでしか見つけられない乳がんの生存率が100%に近いのは、当然のことなのです。

2000年代半ばにマンモグラフィ検診が導入されてから、初期がんが見つかる人が増えつづけています。ところが肝心な死亡率は、ほとんど変わらず、下がりません。マンモグラフィによって発見される乳がんが生死に関係のないがんである証拠です」 

早期発見したから助かったのではなく、放っておいても死なないがんが早期発見されている-----ということですね。さらに近藤先生は、早期発見することの問題点を指摘しました。

「乳がん、早期発見のリスクって何のこと?」に続きます。

乳がんと検診について、近藤誠先生と漫画家・倉田真由美さんがわかりやすく解説している『先生、医者代減らすと寿命が延びるって本当ですか?』(小学館刊 1100円+税)好評発売中!