東京とんかつ会議メンバーを唸らせた「ぽん多本家」のカツレツ

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美味しいとんかつをもとめて東京中のとんかつを食べ歩く3人の食いしん坊・山本益博、マッキー牧元、河田剛が同じ店をそれぞれ採点する「東京とんかつ会議」。その中でも3人が太鼓判を押すお店が「東京とんかつ会議・殿堂入り店」だ。審議の結果、第3回の殿堂入り店として選ばれたのは御徒町「ぽん多本家」です!

【写真を見る】東京とんかつ会議メンバー3人による「ぽん多本家」の採点表

■ 第3回東京とんかつ会議・殿堂入り店 

■ 御徒町「ぽん多本家」 カツレツ2700円

■ 【山本益博】「カツレツの最高峰」

明治の時代に生まれたカツレツが、ポークカツ、とんかつ、ロースかつなど名称を変えながらも進化を続けてきた。現在その最高峰の頂にあるのが「ぽん多本家」のカツレツではなかろうか。

カツレツ、キャベツ、ご飯など、どれをとっても文句のつけようのない職人仕事に裏打ちされた味わいである。良心を持った職人ならば、誰でも質の高い仕事が好きなはずである。優れた料理人は、質の高い食材を目の当たりにすると、どうしても妥協したくなくなるはずである。したがって、値段は安かろうはずはない。 

というわけで、値段を見ながらとんかつを食べる客には「ぽん多本家」は絶対にお薦めしない。明治から連綿と続く洋食という料理に心血を注いできた職人仕事に敬意を払うことができるとんかつファンにのみ「ぽん多本家」のカツレツを召し上がっていただきたいと思う。

明治の匂いに平成の空気が添えられたカツレツである。「東京とんかつ会議」の殿堂入りに推挙するとともに、東京の「最重要食文化財」と言いたい。

■ 【マッキー牧元】「日本の古き良き、誠実な食堂」

満点をつけた。一点の曇りもない。

この店のとんかつを食べて、なによりいつも思うのは、「香りの良さ」である。「ぽん多本家」のとんかつは、脂と肉の火の通りの差を出さないため、ロース肉の背側の脂を掃除して取り除く。そのためロース肉であるが、脂身がついていない、ヒレ同様の肉だけのとんかつとなる。

脂身を掃除して少なくする店はあるが、この仕事は僕が知る限り、当店と代官山の「ぽん太」だけである。

我々が、ヒレカツよりロースカツをテーマに選んだのは、脂身こそ豚肉の魅力であり、ロースは、脂身と肉を同時に楽しむ喜びがあるからである。

しかし「ぽん多本家」のそれには、脂身がない。いや正確に言うと、脂身だけの部位が無いというだけで、肉に刺しこんだ細かい脂はあるのである。だからパサつかない。

しっとりとして香りがある。それは脂がきめ細かく刺しこんだ、最上質の肉を選んでいる証左である。そして香りがいい。香りの魅力は二つある。衣に歯がサクッと当り、身質が密な肉にめり込んでいくと、豊かな肉汁と共に、ほの甘い香りが口の中に広がり、なんとも愉快な、笑し出したくなる幸せを運んでくる。

これが豚肉の香りだあと叫びたくなりながらも、ほのぼのとした気分を呼ぶ、優しい香りである。本来香りは、脂身の中に多くあり、肉には少ない。しかし多くあるということは脂が含んだ香りに邪魔されて、本来の肉の香りが味わえないこともある。上質のヒレカツを食べた時に漂う、ほの甘い香りと同じ、肉が放つかぐわしさである。

もう一つの香りは衣にある。サクッと歯触りが軽く、油切れのいい軽快な衣の香りがいい。ラードの甘い香りだけではない複雑さがあるのは、主体のラードに、ビーフシチューを作る際に出る、牛脂などを少量加えているからである。これによって、さらに食欲をワシヅカミする香ばしさをまとって、カツは揚げられるのである。とんかつは塩も何もかけずに食べ始めるのを、お奨めしたい。

肉や衣の香りと味わいを存分に堪能してから、塩や特製ウースーターソース、辛子などで楽しむのがいい。とんかつの味が最もよく味わえる切り方、キャベツ、お新香、ご飯、味噌汁も上等で、考えうる限りの理想的な和定食である。

隅々まで清潔が行き届いた店内。的確で心のこもったサービス、スムーズな仕事の流れを生む、料理長である四代目を支える、弟さんや番頭さんの正確な仕事ぶり。

余計な口を叩かないが、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」に込められた誠意。日本の古き良き、誠実な食堂の姿がここにある。

■ 【河田剛】「東京の由緒正しきカツレツ」

「ぽん多」はあくまで洋食屋であるゆえ、メニュー名もコートレットに起源を持つ、由緒正しきカツレツである。

豚肉のカツはこの一品のみで、ロースともヒレとも書いていない。脂身を相当部分カットし、整形された肉の断面は幾何学的な美しさを見せる。この断面だけを見れば、赤身が中心になっているため、ヒレのようにも思える。

しかし、ひとたび味わえば、まぎれもなくロースの特徴が感じられる。脂身はほとんどなくても、脂の甘みが肉全体に回っており、それが赤身の旨味と溶け合っている。

まさしく豚肉を食らう醍醐味である。そしてふんわりした衣は何時来てもぶれが少なく、油の切れもほぼ完璧である。東京とんかつ会議ではとんかつ本体だけではなく、キャベツ、ソース、ご飯、お新香、味噌汁という脇役も重要な要素として捉えているが、全ての点に目配りが行き届いているのもこの店の優れた点だと言えるだろう。

確かに値段は高めだが、それだけの価値はあると思われる。

なお、シチューや各種フライなど、カツレツと優劣つけがたい皿がこの店には多々あるが、今後の発展の余地を残す意味で、特記は「なし」とした。