【連載:映画で分かる女の本音】〜数字に左右されない女になるために〜『リップヴァンウィンクルの花嫁』
“もしかしたら、そんなこともあるかもしれない……”岩井俊二監督が紡ぎ出す女の子の日常を描いた作品、たとえば『四月物語』や『花とアリス』などは、現実(リアル)とも嘘(フィクション)とも捉えられるギリギリの境界線で物語が描かれ、気づくと映画の世界“岩井ワールド”の住人としてその現実と嘘を体験する──最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』もそんな映画です。タイトルに花嫁とあるように主人公・七海(黒木華)の結婚の話から始まります。
七海はごく普通の女性でした。派遣教師として働き、とあるきっかけで知り合った男性と結婚して、彼女の本心を知らない他人から見たら、しあわせな人生を歩いているように見えます。
ですが、彼女は結婚式を挙げるにあたって“あるコト”をある人に依頼し、思いもよらない人生を歩むことになります。
あるコトというのは、結婚式に出席してくれる友人が少ないために、結婚式の代理出席を何でも屋の安室(綾野剛)に依頼したこと。
多かれ少なかれ親戚や友人の結婚式に出席したことのある人がほとんどだと思いますが、こういう発想はなかった! ありえないけど面白い! 小さな衝撃を受けると思います。
その安室という人物に出会ったことによって、七海は“もしかしたら、そんなこともあるかもしれない……”という出来事に次々と巻き込まれていきます。
観客に映る安室は、見るからに怪しい。いい人そうだけど何か裏がありそうで、つかみどころのない人物として登場しますが、そんな彼のことを七海はいとも簡単に信じてしまいます。
こちらがハラハラドキドキするほど七海という女性は流されやすくて。
なので、仕事をバリバリこなすキャリアウーマンは、もしかしたら七海の言動にイラッとさせられるかもしれません。
ですが、流れて流されてたどり着いた場所で、七海は図らずも自分らしさを手にしていく、輝いていくように見えます。
自分で人生を切り開いていく人もいれば、周りの影響によって知らず知らずのうちにたどり着く人もいる。
七海を見ていて思うのは、時には流されてみるのもいいんじゃないかと。
騙されるとか騙されないとかそういうことではなく、自分自身に降りかかったことを受け止めて、こういうのもありなのかなと身を任せてみるというか──。
流れに身を任せた結果、七海は真白(Cocco)という女優と出会います。
七海とは対照的で、自由奔放で破天荒な真白。彼女たちの出会いを通じて気づかされたこと。
それは友だちや心を許せる相手はそんなに多くなくていい、たった一人いれば人は生きて行けるということです。
結婚式に出席してくれる友人が少ないことをきっかけに奇妙な物語が動き出すわけですが、実はそこにリアルな女の本音が見え隠れしているのかもしれません。
年齢を含め人は何でも数字でものごとを判断しがちです。でも、数字は数字でしかない。そんな当たり前のことを、大切なことを気づかせてくれる映画です。
『リップヴァンウィンクルの花嫁』
監督・脚本/岩井俊二
出演/黒木華 綾野剛 Cocco 原日出子 地曵豪 和田聰宏 金田明夫
毬谷友子 佐生有語 夏目ナナ りりィ
原作/岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋刊)2015年12月4日発売
制作プロダクション/ロックウェルアイズ
(c)RVW フィルムパートナーズ
2016年3月26日 全国公開
http://rvw-bride.com/