仲野太賀/『季節のない街』『虎に翼

4人目は、テレビ東京系で放送された宮藤官九郎氏脚本『季節のない街』(昨年ディズニープラスで先行配信)の仲野太賀

本作は12年前に被災して仮設住宅に身を寄せる人たちを描く群像劇。豪華キャスト陣のなかでも、仲野太賀の演技はひときわ涙を誘いました。仲野が演じたのは、母や幼い姉弟を支えながら暮らす与田タツヤ。タツヤには、お金の無心だけしにくる疫病神のような兄がいます。しかし母はそんな兄を溺愛。第2話で、タツヤが家族のためにコツコツ貯めてきたお金を兄に渡してしまうのです。

母と家族のことを想ってしたことが、母からは受け入れてもらえない。その哀しみと絶望を伝えた“泣き”の感情表現は、まさに仲野の真骨頂! 胸が張り裂けそうになったあのシーン。仲野とともに涙した視聴者は多いのではないでしょうか。

現在放送中の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)でも、ヒロインの夫となる青年・優三を愛らしいキャラクターに仕上げた仲野。いまだに“優三ロス”という方も多いことでしょう。でも大丈夫! 『季節のない街』と同じくクドカン脚本のドラマ『新宿野戦病院』(7月3日スタート/フジテレビ系)では、小池栄子とともに主演を務めるから! 金儲け主義の美容皮膚科医で“チャラくていけすかない典型的な気取り屋”という新タイプの仲野に、期待が高まります。

若葉竜也/『アンメット ある脳外科医の日記』

5人目は、この春もっとも話題を集めたといえる俳優・若葉竜也。これまで数多くの映画やドラマに出演してきた若葉ですが、意外と知られていなかったのか「ついに世間に若葉竜也が見つかった」という声も多く聞かれました。『アンメット ある脳外科医の日記』においては、主人公・川内ミヤビ(杉咲花)の同僚で、謎多き脳外科医の三瓶友治を演じました。

若葉は、役の“人間らしさ”を引き出しながらも、主張しすぎず、役を作品に溶け込ませることが秀逸な役者さんです。「医師として優秀だがマイペースの変わり者。謎だらけの男(ドラマ公式サイトのキャラクター解説より)」である三瓶は、一歩間違えると“変人”として目立ちすぎてしまいます。しかし若葉は絶妙なさじ加減で“三瓶先生”の個性を表現し、作品の調和を保っていました。

三瓶は何を考えているのか分からない無表情な場面が多い人物。でも若葉は、その無表情にもシーンによって感情をこめているのが分かります。だからこそ、私たち視聴者は彼に惹きつけられる。何を考えているのか、感じているのか。彼が抱えているであろう孤独や使命感を受け取りたくなるのです。

そして第9話で、自身の兄が重度の障がい者であることを話したとき。泣きながら声を震わせた三瓶の姿に、多くの人が涙したはず。素晴らしい演技で、「春クールのNo.1はやはり若葉」と確信した瞬間でした。「世間に見つかってしまった」若葉ですが、これからも若葉は若葉らしく作品のなかで輝いていくことでしょう。

◆番外編:鈴木亮平/『シティーハンター』

春クールという括りのドラマではありませんが、この春話題を集めたもうひとりの俳優にも触れずにはいられません。それは、同名漫画の実写映画として話題を集めた映画『シティーハンター』(4月25日からNetflixで配信中)で主役・冴羽獠を演じた鈴木亮平です。

原作ファンだけでなく、マンガやアニメを観たことがない人たちからも多くの支持を得た本作。満足度の高い仕上がりになったのは、主演の鈴木の力によるところが大きいと感じます。

もともと徹底した役作りで、カメレオン俳優として名高い鈴木。そして彼は、いつも期待をはるかに上回る完成度で登場するのです。今回の冴羽獠も、まさしく! 息を呑むほど美しいガンアクションに、マッチョ過ぎず原作再現度の高い筋肉。それでいてコミカルな演技は恐ろしいほどハマっている。彼が素晴らしい俳優であることはもちろん知っているのですが、それでも毎回驚かされてしまいます。今回の獠にハートを鷲づかみにされたのは、筆者だけではないはずです。続編やってくれないかな。

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地上波だけでなく配信系のドラマや映画も数多く制作されている昨今。そこで光り輝く名優たちを見逃さないように、これからも俳優ウォッチングを続けていきたいと思います。

<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>

【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201