小林麻央さん、北斗晶さん、南果歩さん……有名人の乳がんニュースが入るたびに、ドキッとしますね。「昔と違って今は抗がん剤が進歩しているから」……、乳がんはそれほどこわくないという話をよく聞きますが、抗がん剤ってどんなクスリなのでしょうか? 

乳がんの場合、ステージ(症状の段階)によりますが、手術の前か後に抗がん剤治療を行なうことが多くなっています。抗がん剤とは、細胞が分裂・増殖するためのタンパク質を叩き、がん細胞が増えないようにするクスリです。

ここで注意したいのは、がん細胞だけを叩くクスリではないということです。抗がん剤は、がん細胞も正常な細胞も区別なく叩きます。なぜなら、がん細胞とはいえ、あくまで自分自身から生まれた細胞だからです。正常な細胞がわずかに変化してがん化したものなので、両者の性質はとてもよく似ています。そのため抗がん剤は正常細胞とがん細胞を区別できず、両方を叩くことになります。つまり、自分の体を叩くに等しいので、吐き気や全身倦怠、脱毛などなどの副作用が起こるのは、いわば当然で、抗がん剤には付きものと言っていいものです。

副作用はガマンするしかない、命のほうが大事------と、抗がん剤治療を続ける乳がん患者さんが数多くいます。では次に、抗がん剤はどれぐらい効くのでしょうか? どれぐらい進歩しているのでしょうか? 乳がん診療に関わって40年超、元慶応大学医師の近藤誠先生にうかがいました。すると、

「抗がん剤は副作用は確実にあるのに、効果がないのが問題です。抗がん剤は急性白血病や悪性リンパ腫など血液系のがんと子宮絨毛がんなどいくつかのがんを除いて効きません。乳がんなど塊ができるがんには効かないんですよ」

えええ? 効果がないってどういうことでしょうか?

ところで抗がん剤ってどんなクスリ?

新しいクスリ=良いクスリではない

「抗がん剤は分裂中の細胞に対してはよく効きます。しかし、がん細胞はあまり細胞分裂が盛んではないんです。正常細胞の方がずっと盛んです。そのため抗がん剤は、がん細胞より正常細胞に対して働いてしまいます。だから副作用は必ず出ます。がん細胞を叩くためには、もっとたくさんの抗がん剤を投与する必要がありますが、副作用がさらにひどくなるので、それ以上量を増やせないのです。量を増やせば、重大な副作用を引き起こすリスクが高まり、それが内臓機能の低下につながれば命に関わります」

効果を出すには、それ以上の副作用を覚悟しなければならないということになり、それが命に関わるリスクもあるとなると本末転倒の気もします。それでも治療のために、苦しくてもがんばっている患者さんは多いはず。ところが近藤先生は、効果そのものに問題があると言います。特に、10年以上前に認可された抗がん剤についてこう指摘します。

「抗がん剤が認可される前に、大学病院などで実際の患者さんに投与して、効果があるかどうか試験をします。その際、効果アリと判定される条件は次の3つとされてきました」 

(1)がんの大きさが3分の2以下になる。

(2)その状態が1か月、継続する。

(3)試験した患者の1〜2割に、上記(1)と(2)が見られた。

たった3分の2? たった1か月? たった2割の患者さん? に効果があれば抗がん剤の有効判定がなされるということです。つまり100人のうち10人か20人のがんが30日間、3分の2になれば認可されてきたのです。かなり驚きの低レベルではないでしょうか。

「しかも、効果があったとされる1〜2割の人も治ったわけではありません。31日目以降に、また大きくなるかもしれませんから。長生きできたかどうかもわからない。抗がん剤治療をしたほうが長生きしたといエビデンスはないのです。つまり実際のところ、治療効果も延命効果も証明されていないクスリなんですよ」

現在使われている抗がん剤は10年以上前に認可されたものも多く、おそろしい話です。 

しかし、抗がん剤は進歩していると聞きます。近年、注目されているのが、がん細胞の増殖に関わる物質だけを叩く「分子標的薬」というクスリです。こちらの効果についても近藤先生にうかがいました。

 「分子標的薬といっても、有効性の判定は抗がん剤と同じですから気をつけてください。新しいクスリだからよく効くということにはなりません。医者はいろいろ新しいクスリを試したがるものです。医者から“新しいおクスリ試しましょうか”と言われたら、断ったほうがいいですよ」

乳がんに限らず、抗がん剤は救世主でも万能薬でもなさそうです。

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