「とりあえず、やってみる」

その精神で30代を突っ走りアラフォーになった私は、「家を持つ」ということに関しても、やっぱり同じメンタリティで突き進んでしまった。

そして40歳にして都内(豊島区)に7坪ハウスを築き、4000万円のローンを背負い込んだ(しかも、その直後に会社を辞めた)。

「結婚相手や子どもより家が欲しい。ヤコブセンのスワンチェアと同じくらい家が欲しい」そんな純粋な物欲を満たした結果、私の身に何が起きたか?

意外なことに、地に足がついた(笑)。

おひとり様で自分の欲望の赴くままにフワフワと生きてきたこれまでの人生で、初めて「自分の足で歩いている」という感覚を持てた。なぜ、そういう感覚を持てるようになったのか? 考えてみるに、それはマンションではなく、7坪という極狭住宅とはいえ、あえて「一戸建て」を選択したことに深く関係しているような気がする。

というわけで、今回は「都内の一戸建て」という無謀すぎる選択をした経緯から書いてみたい。

塚本さんの7坪ハウスのエントランス。1階のドアを開けると、ショップの店内という設計。

「都心に家を持つ=マンション」だけど…

「なぜ、一戸建てだったんですか?」

家を建てて以来、ずいぶん取材を受けてきたが、前回書いた「なぜ、家を買おうと思ったのですか?」に続き、よく聞かれる質問の1つだ。ごもっともな疑問である。私自身、都会のど真ん中(かどうかは不明だが……)に、まさか一戸建てを持つことになるとは夢にも思わなかった。

都心に家を持つ=マンション

家族だろうがひとりだろうが、都会に家を持ちたいと思う人の大半は、この方程式をごく当たり前のように受け入れ、一戸建てなど選択肢の1つにも入らないのが普通だと思う。

私も当然、マンションを購入する気満々で、パンフレットを集めはじめた。気に入った物件が見つかるかどうかはさておき、あるわ、あるわ、あちこちで新築マンションを売り出していた。パンフレットの請求をすると、次から次へとメールでも物件の案内が送られてくる。

当時はまだ会社員だったので、会社に自転車で通える距離である、豊島区、新宿区、中野区あたりから探しはじめた。しかしピンとくる物件が見つからず、友人の家に遊びに行った時に、なかなか住みやすそうと感じた新興住宅地・豊洲付近や姉が住んでいた中央区付近まで範囲を広げた。

最初に驚いたのは、価格の高さだった。3LDLや4LDKなんて広さは望まないけど、どうせならこれまで住んだ賃貸以上の広さはほしい。「一部屋をショップの在庫置き場にしようか、それとも予約制で自宅ショップでもはじめてみようか」と、ウキウキしていた気持ちが、パンフレットの価格を見た途端に一気にトーンダウンした。

3階の寝室兼書斎のスペース。ベランダ脇の陽だまりには愛用のチェアが。

探しはじめて1ヵ月でマンションは断念

漠然とだけど、2000万円台の真ん中くらいの価格をイメージしていたのに、新築マンションでは1LDKでも2000万円台の物件はほぼない。私が無知だったのか、もしくは選んだ場所や取り寄せたパンフレットが悪かったのか。「4000万円近くするなら、一戸建てだって買えるでしょう」、なんてパンフレットに毒づいていた。

2000万円台、駅近、南向き、広いLDK、テーブルと椅子が置けるバルコニー……、少なくとも私が見たパンフレットには、そんな物件は1つもなかった。

しかもマンションの場合、家の本体価格以外にも管理費や修繕費を毎月別途支払うことを、パンフレットを見て知った。その金額は3万〜5万円と決して安い金額ではない。しかも、こと修繕費に至っては、建てものが古くなればなるほど上がっていくシステムらしい。これでは毎月家賃を払う賃貸と変わりないではないか。それどころか家のローンと管理費・修繕費の二重払いだ。

価格の高さにもびっくりしたけど、南向きの物件が少ないことにも驚きだった。パンフレットをよく見ると、日当りのよい南向きはたいていファミリー世帯向けの広めの物件だ。「なるほど。家を持つのに優遇されるのはやはり家族単位なわけね」と、変なところで実感させられたものだ。

「家が欲しい!」と思ってから1ヵ月後、マンションを買う気はなくなった。

中古マンションとコーポラティブハウスも却下

それでも、家は欲しい。新築マンション以外に都心に家を持つ方法はないものか。

価格的な部分だけをみれば中古マンションを買ってリフォームという手もあるかもしれない。水回り以外なら結構大きく間取りを変えられるし、すでに建っている物件なので、日当りなどの環境も確認しやすい。でも、中古マンションの修繕費は新築以上に高いはず。さらに、中古物件は銀行から借りられる融資額が新築物件よりも低いらしい。

中古マンション+リフォーム、却下。

コーポラティブハウスという、新しい集合住宅の形態があると知り、それも調べてみた。建物を建てる前に入居者を募り、規定人数が集まったら着工するしくみになっている。分譲マンションとは違い、建築家と話し合ってゼロから内装を設計することができる。広さも未来の住人同士、予算に合わせて決められるという。

しかし、経験談を読めば読むほど、私には合っていないと感じた。その理由は、まず応募者が夫婦かファミリー世帯で、参考になる単身者の経験談が見つからなかったこと。そして、管理会社が入らないのでマンション内のトラブルや修繕はすべて住人たちで話し合って決めなければならないこと。そんな密な関係性を築く煩わしさは、考えただけでもぞっとした。

コーポラティブハウス、却下。

当時、住んでいた街にも年中「オープンハウス」ののぼりが出ていたが、建売住宅という手もあった。でもこれこそ家族向けに設計された物件だ。間取りを見ても、決して住みたいと思うような家ではなかった。

建売住宅、却下。

土地を買って建てるしかないの…?

私の頭で考えられる家を持つ方法は、とうとう「土地を買って家を建てる」しかなくなった。もはや「都心に」という範疇を超えている。あまりにも敷居が高すぎるでしょう……。

土地を買う? そこに家を建てる? この都会に? そんなことできる? どうやって? 誰に聞けばいいの? それ以前にいったいいくらかかるんだ? 

頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。とはいえ、もう選択肢はこれしかないのだから、なんとかするしかない。相変わらず無謀だなと、自分の性格を恨めしく思いながらも、私は一軒家を手に入れるために動き出した。

(塚本佳子)