◆前編のあらすじ
雪乃(26歳)は、高校時代のクラス会に参加。卒業式前日にケンカ別れをした親友、友香と彩花と再会する。翌日、3人のグループLINEに彩花から写真が届く。そこには、雪乃が元カレの諒太と親密にする様子が写っていた。「ヤバいのが写ってる」という冷やかしを受けて腹を立て、すぐに退会してしまうが…。

▶前回:男前になった元カレと同窓会で再会。酔った勢いでしなだれかかったら、まさかの展開に…




8年ぶりの再会【後編】


「雪乃さん!大丈夫ですか!?」

後輩の琴音が駆け寄って来て、雪乃の体を支えた。

大手化粧品メーカーに勤める雪乃は、企画会議を終えて会議室から出たところで、足もとがふらついてよろめいたのだ。

「あ、琴音ちゃん。ごめん。ちょっと、めまいがしただけだから…」

上体を起こそうとするが、まだ足もとがおぼつかない。

「雪乃さん、この前も同じことありましたよね?」

「最近、忙しくて寝不足気味だから。そのせいだと思う」

新商品の開発に向けてのデータ分析や資料作成に時間を取られ、作業が深夜に及ぶことが増えていた。

「でも、症状が続くなんて心配です。一度、病院に行って診てもらったほうが…」

「うん、ありがとう。この案件がひと段落したら、行ってみる」

雪乃はひとつ息をついて、足もとを確認しながら歩き出す。

そこで、スマートフォンに着信が入った。

開くと、LINEが届いていた。

― あ…。友香からだ。

1ヶ月前のクラス会で再会し、仲の良かった彩花とともに3人でグループLINEを作ったもののすぐに退会してしまったため、以来連絡を取っていなかった。

『久しぶり雪乃。体調とかって大丈夫?』

友香から届いたメッセージは、雪乃の体を気遣うような内容だった。

― ええ…このタイミングで?ちょっと怖いんだけど…。

今さっきめまいをおぼえ、体がふらついていたばかりなだけに、行動を監視されているような気分になる。

『寝不足続きで良好とは言えないけど…なんで?』

返信をしてやり取りを続けた結果、雪乃は1ヶ月ぶりに友香と会うことにした。


週末。

六本木にある『La Oliva(ラ オリーバ)』で、雪乃は友香と再会した。




食事をしながら、雪乃は気にかけていたグループLINE退会の件について触れる。

「あのとき、ちょっと虫の居所が悪くて勢いで退室しちゃって。大人げなかったなって反省してる」

雪乃が謝罪をすると、友香が首を横に振った。

「ううん、わかるよ。私も、あの写真を見てちょっとカチンときたし」

「え…、なんで友香が?」

彩花から送られてきた写真には、雪乃が諒太にしなだれかかる様子が写っていた。彩花だけでなく友香も冷やかされるような発言をしてきたから、友香が「カチンときた」というのは意外だった。

「そもそも、問題はそこなんだよ…」

友香はスマートフォンを取り出し、送られてきた写真を開いて見せる。

「私、勘違いをしていたの。てっきり、彩花は私のことを指摘したんだと思ってたんだ。ほら、顔がパンパンじゃない?」

写真の中の友香は、角度のせいか顔がむくんで太っているようにも見えた。

― 確かに…。友香のことなんて全然気にしてなかったけど…。

「ほら。もともと私、ちょっと太ってたじゃない?これでも昔より少しは痩せたんだけど、やっぱりコンプレックスは残ってて。そういう指摘に敏感なの」

「そうだったんだ…。私は、諒太のことを冷やかされたんだと思って…」

「私もね、あとで写真をよく見て、雪乃は勘違いしたんじゃないかって気づいた。それでね、彩花と会って話をしたんだ」

「彩花は…なんて?結局、私と友香のどっちのことを指摘してたの?」

雪乃の質問に対して、友香がまた首を横に振った。

「どちらでもないの。彩花は、まったく別の部分をさして言ってたんだ」

スマートフォンに指を当て、ピンチアウトして写真を拡大した。



「ほら、よく見て。雪乃の頭の上あたり、白いモヤみたいなものがかかってない?」

写真を注視すると、友香の指摘する場所に、白い影のようなものが浮かんでいた。




「言われてみると…」

「でしょ?彩花はそれが言いたかったみたい。あの子ほら、怖がりで、直感が鋭いタイプじゃない? 雪乃の体に、何か異変があるんじゃないかって、心配してたの」

「あっ…。それで、友香が代わりに私に連絡をくれたの?」

「そう。彩花から、『自分から連絡しにくいから聞いてみて』って言われて」

「そういうことだったんだ…」

1枚の写真を見るにあたり、3人それぞれが別の部分に着目していたのだ。

配慮に欠けると思われた彩花の言動は、実は友人を気にかけ、体調を気遣うものだった。

雪乃はそれを早合点し、冷やかされたと勝手に解釈して、グループLINEを退室した。自分こそ、自分勝手でひとりよがりの行動を取ったのだと猛省する。

「それで、雪乃。寝不足って言ってたけど、体調はどうなの?」

「うん。実は、最近めまいがすることが多くなってて…」

雪乃は、体に起きている症状を正直に伝えた。

「彩花、大学病院に勤めてるじゃない?だから、『雪乃がもし何か異変を感じてるようなら連絡するよう伝えて』って言ってたよ。『すぐに検査とかの手続きをするから』って」

彩花からの伝言を聞き、雪乃は胸を締め付けられる思いがした。


雪乃はすぐに彩花と連絡を取り、わだかまりを解いた。

そして感じていた症状を伝えると、すぐに病院での検査の手続きが取られ、若年性の脳梗塞だと医師による診断を受けた。

「雪乃。術後の経過はどう?」

お見舞いに来てくれた友香が、明るい色合いのフラワーアレンジメントをベッドの傍らに置く。

「うん。良好だよ。1週間もすれば退院できるだろうって」

早期発見だったため、局所麻酔での3時間程度の手術で済んだのだ。

そのとき、病室のドアが開いた。入ってきたのは、ナース姿の彩花だった。

「あっ。友香、来てたんだ!」




彩花は通常業務で忙しいはずなのに、時間が空いたときに雪乃の病室を訪れ様子を覗きにきていた。

「久しぶりに3人そろったね」

3人で会うのはクラス会以来であり、約1ヶ月半ぶりになる。

「まさか病室で再会することになるとは…」

「ホント。まあ、でも早く発見できて良かったよね。感謝してよ〜」

彩花が得意げな表情を見せる。

「うん、ありがとう。結局、私が1番自分勝手だったんだって、反省してる」

雪乃が謝罪の意を示すと、友香が首を横に振って応えた。

「ううん、私も同じだよ。自分のことしか考えてなかった」

すると彩花も、「私だって…」と続ける。

「クラス会の日は、はしゃぎすぎちゃったから。みんなの誤解を招いちゃったんだよね」

今回仲たがいを起こしてしまった要因は、1枚の写真に対して三者三様の捉え方をしたことだった。

それぞれが、自己中心的な考えに基づく行動を取ったがため、すれ違いが生じ、関係に溝ができてしまったのだ。

要するに、高校の卒業式前日にケンカ別れしてしまった状況と変わりなかった。

3人は自分たちの成長のなさや進歩のなさを嘆きつつも、ようやく長年こびりついていた垢が落ちたような気分にもなる。

「私たち、もう大丈夫だよね…」

「うん」

「よし!誤解も解けたし。雪乃が退院したら、快気祝いで飲みに行こう〜!」

楽しげな声が病室に響いた。



3年後、再びクラス会が催された。

雪乃と友香と彩花の3人も参加。

居酒屋での1次会を終え、2次会のカラオケに残ったのは10人足らずと、前回に比べ、少し寂しい状況となっていた。

「30歳になって、みんなもやっと少し落ち着いたね」

雪乃は周囲を見回しながら言う。

隣同士で談笑する者が多く、大騒ぎをする気配はない。

「前回は、彩花がはしゃぎまくってたからねぇ」

友香が彩花の顔を覗くと、とぼけた表情を見せる。

「そんな彩花も、ママになったしね」

雪乃が手術を受け、退院した後、すぐに仕事が忙しくなってしまい快気祝いをする時間を割けずにいた。

ようやく一段落したところで、今度は彩花が結婚。そして妊娠が発覚し、出産を迎え、ゆっくりと3人で会う機会を設けることはできなかったが、LINEでのやり取りは続けていた。

「3年って、あっという間だね…」

雪乃はそう呟くと、彩花がスマートフォンを訝しげに眺めているのに気づく。

「彩花、何見てるの?さっき撮った写真?」

10分ほど前に、彩花のスマートフォンで集合写真を撮っていた。

「なになに…?また何か変なのが写ってるって言うんじゃないでしょうね?」

「いや。何かが写ってる…ってわけじゃないんだけど…」

雪乃と友香も、彩花の手もとを覗き込む。




「ここに、8人写ってるでしょう?」

「1…2…3…。うん、8人全員写ってる」

「カラオケに来たのって、全部で8人じゃん?だとしたら、この写真誰が撮ったのかなって」

「ええ…。店員さんに頼んだんじゃなかったっけ?」

「ううん。ここ30分ぐらい、誰も出入りしてないよ。私、ずっとドアの横にいたし」

3人は顔を見合わせる。

「ちょっと…。やめてよ…」

雪乃は、効きすぎるエアコンの風をいっそう冷たく感じた。

▶前回:男前になった元カレと同窓会で再会。酔った勢いでしなだれかかったら、まさかの展開に…

▶1話目はこちら:彼女のパソコンで見つけた大量の写真に、男が震え上がった理由

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