wonder

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最後のページを閉じた時、心の底から爽やかな気持ちが湧き上がっきた。読み終えてすぐに、誰かにおすすめしたくなる。そういう本ってある。誰かにも、この幸福な読後感を味わってみてほしくて。

「きっとふるえる― オーガストは普通の男の子。ただし顔以外は」。そんなコピーが添えられたある一冊の児童書(洋書)が、今年7月に待望の日本語訳となって刊行された。全世界で300万部を突破。NYタイムズベストセラーの第1位を獲得した、10歳の小さな男の子、オーガストが主人公の感動の物語『WONDER』(ほるぷ出版)だ。生まれつき顔に障害があるオーガストは、幼い頃から人にこわがられたり、ぎょっとされたりすることが多かった。10歳ではじめて学校に通うことになったが、生徒たちはオーガストの顔を見て悲鳴をあげ、じろじろながめ、やがて「病気がうつる」と避けるようになる。一方で、オーガストの話を面白いと感じる同級生は少しずつ増えていった。そんなとき、夏のキャンプで事件が起こる……。本書は3年前にアメリカで刊行されたが、ネットに多くの書評が投稿され、評判が評判を呼んで遂にはベストセラーになったのだ。まるで作品に秘められたパワーが人々に伝播していくかのように。

作者のR・J・パラシオは、本作品がデビュー作。長年、アートディレクター、本のデザイナーとして多くの本を担当してきた。夫と二人の息子、二匹の犬とニューヨーク市に住んでいる。作者が『WONDER(ワンダー)』を執筆するきっかけになった出来事は、数年前のある日、子供たちとアイスクリーム屋で頭部の骨格に障害のある女の子に出会った時のこと。下の子がその異形の女の子を見て、おびえて、大声で泣き出してしまった。もちろん悪気はない。作者はとっさにベビーカーごと遠ざけようとして、上の子が持っていたミルクシェイクをひっくり返してしまい、現場は一瞬にして惨事に。それを見た女の子の母親は、「それじゃあみんな、そろそろ行かなくちゃね」と優しく穏やかな声で言い、その場から立ち去った。その言葉が、心にグサッと刺さった作者は、この出来事についてさまざまに思いを巡らすことになった。偶然、その日の夜、ナタリー・マーチャントの「WONDER」という曲がラジオで流れていて、それを耳にしてすぐに『WONDER』の執筆が始められた。

本書は、主人公オーガスト以外にも、友達や家族など身近な複数の人々の視点から物語が語られていく。ひとつの出来事の背景には、いろんな立場の人々の心の動きや環境、個性が交錯している。そんな真っ只中に<現実(リアル)>がぽつんと形作られているのだ。たとえば、誰かが誰かを傷つけてしまった時ですら、傷つけられた側からは見ることができない、傷つけた側の心の動きや状況、単純なタイミングなどが存在していたりするのだ。言葉の表面をなぞっただけでは理解できないけれども、その裏側にある一人一人のリアルを描き切った本作は、だからこそたくさんの人の共感を得たに違いない。

ページをめくっていくうちに、読者が次第に気づかされていくのは、誰もがパーフェクトではないということなのかもしれない。そして物語の後半で、オーガストが起こした感動の奇跡が一体どんなものなのかは、読んでみてからのお楽しみだ。ひょっとすると、読んだ後に、誰かに優しくしたり、親切にしたくなるかもしれないけれど。

『WONDER』
R・J・パラシオ著、中井はるの 翻訳
ほるぷ出版 2015/7/18)/1,620円(本体1,500円)