「細胞から考える」を掲げ、最先端の研究をベースにスキンケアアイテムやサプリメントなどを展開する「fracora(フラコラ)」。同ブランドが運営するYouTube番組「生命科学アカデミー」では、最先端の生命科学の知識を紹介しています。

私たちの体の中では、健康維持のために様々な物質が働いています。その一つが「遺伝子」や「ホルモン」であり、健康寿命を延ばすために、ものすごいスピードで研究が進んでいる分野でもあります。

そこで、「生命科学アカデミー」は今回、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科の伊藤裕(いとう・ひろし)医学部名誉教授をゲストに迎え、遺伝子やホルモンに関する最新研究について語っていただきました。第6回目のテーマは、長く幸せに生きるための「3つの脳」。伊藤先生は共感、ハツラツ、ワクワクが大切だと話します。聞き手は生命科学アカデミーのHIROCO学長です。

相手の気持ちを想像すると脳が鍛えられる

伊藤裕教授(以下、伊藤):長く幸せに生きていくためには、脳の健康が大切です。では、元気でやる気がみなぎる脳を維持するにはどうすればいいのか? 今回は「3つの脳」を基にお話ししていきたいと思います。3つの脳とは何かというと、1つ目は「共感脳・つながる脳」、2つ目は「ハツラツ脳」、3つ目は「ワクワク脳」です。

――それぞれどう違うのでしょうか?

伊藤:この連載の第1回でお話しした通り、「ウェルビーイング」という言葉はきちんと訳すと「well-being=良いあいだ」となります。私たちは、誰かとつながったり、関係したりしていると実感したときに、幸せを感じるんですね。趣味仲間を作るのも一つの方法かもしれませんし、相手が動物でもいい。誰かと心がつながっていると思えることが大事なんです。

――SNSなどでつながるのもありですか?

伊藤:SNSでもいいですね。つまり、相手がどう思っているか想像するときに、私たちの「共感脳・つながる脳」は活発になるんです。この脳を鍛えるためにはさまざまな方法があります。

お年寄りに1日の生活を聞いてみると「テレビを見るか、ラジオを聞いています」と答える方が一番多いんですね。似たようなものに思えますが、実は、テレビとラジオは全く異なる性質を持っているメディアです。

テレビは受け身のメディアであり、観ている間は考える暇がない。映っているものを理解することに必死なんです。一方で、ラジオは音しか聞こえないので、情景を頭の中で再現しないといけません。そうやって想像力を働かせることが、認知力の低下を防ぐことにつながるんです。

LINEのコミュニケーションは脳の活性化にうってつけ?

伊藤:この話に近いことを、ある歌舞伎役者の方が書いていらっしゃいました。コロナ禍にWeb会議ツールが流行り、オンライン会議が増えましたよね。ところが、オンライン会議では、伝えたい気持ちがなかなか伝わらなくてもどかしかったそうです。「気持ちを伝えるには、電話のほうがずっといい」と書かれていました。

電話は、相手の顔が見えず、伝わってくるのは音だけです。相手の息づかいや、ちょっとした間から気持ちを想像するので、相手を気遣う力が強くなる。そういう風に、つながる力を大切にすることが、脳の老化予防にもプラスに働くということです。

――最近の若者は、電話を嫌がると聞きますよね。大人でも、LINEやメールで用事を済ませる人が多くなっていると思います。

伊藤:メールは一方通行だけど、LINEって、実はめちゃくちゃ情報量が多いんですよ。絵文字だけが送られてきたり、既読マークがついているのになかなか返事が来なかったりすると、相手の気持ちを想像するじゃないですか。文章の中に絵文字が入っているか、とかね。想像力を働かせる隙が意外とあるので、僕は、LINEは悪くないと思っています。

――確かに、絵文字やスタンプだけが送られてくると「どういう意味だろう?」って考えますね。ところで、最もアナログな手法である「対面での会話」は、脳にどんな影響を及ぼすのでしょうか。

伊藤:対面での会話も良し悪しです。例えば、複数人で集まって話しているのを横で聞いていると、皆で会話しているようで、実はそれぞれ自分の話しかしていないことがありますよね。次の人が話し終わるのを待って「うん、そうだよね。それで私はね……」と続けるので、ほとんど相手の話を聞いていないんです。これでは「つながる脳」とは言えないですね。

対面で会話をするときも、相手の話を聞いて、それに対して自分がどう思うか考えるようにすると、脳が鍛えられます。

「ハツラツ脳」を鍛えるため朝のラジオ体操を習慣に

――2つ目は「ハツラツ脳」ですね。

伊藤:「ハツラツ脳」とは、簡単に言えば、気分が良くなることによって脳が活性化されることです。例えば、朝起きて太陽の光を浴びると、気持ちが一新しますよね。

脳の活動が一番盛んになるのは、朝起きたときです。夜型の生活の方が調子がいいと言う人もいますが、ハツラツ感を覚えるには、やはり太陽の光を浴びることが大切。もう1つ、「ハツラツ脳」を鍛える方法は、体を動かすことですね。

――朝一番に?

伊藤:朝でなくても構いませんが、朝のラジオ体操を習慣化することはおすすめしますね。体を動かすと、その状態が脳にフィードバックされますから。身体性の面から言うと、マインドフルネスのようにある一定のリズム感を持って体と対話し、呼吸を整えることも、脳をハツラツとさせる非常にいい方法です。

恋愛や推し活が「ワクワク脳」にいい効果を及ぼす

――3つ目の「ワクワク脳」についても教えてください。

伊藤:規則正しい生活をすることは、確かに脳にいいんです。毎日決まった時間に起きて、決まったものを食べるなど、同じ刺激が同じタイミングで繰り返されると、時計遺伝子の働きが良くなります。

ただ、毎日同じことを繰り返していると、飽きてきますよね。そういうときに、いつもと違ったことに挑戦しようとワクワクすると、「ワクワク脳」が鍛えられます。では、私たちはどういうときにワクワクするのか? その一つが恋愛です

――恋をすることで「ワクワク脳」が働く?

伊藤:そうですね。ただし、年齢を重ねると、恋愛に対して昔ほどの欲望はなくなってきます。そういう人は、孫や子どもと触れ合うと「ワクワク脳」の活性につながります。それから、“推し”を作ることもワクワク脳には有効ですね。

人を応援すると、幸福度が非常に高まるんです。人を応援しても、自分は得しないのに不思議ですよね。例えば、僕がタイガースを応援して、もしタイガースが勝っても、何ももらえません。でも、なんとなく幸せになるんです。応援っていうのは、何か対価をもらうためではなく、ワクワクするために行う嗜みなんですね。

――推し活、大事ですね!

伊藤:推し活が脳にどのように働くか調べるために、現在、ある会社の方と一緒に「高齢者施設の方々にJ1の試合を見せる」というプロジェクトを進めています。

実際に、軽い認知症で夜間せん妄の症状が出ていた方々に試合を観せたところ、“推し”の選手ができた方は、シャキッとしてきたんです。そのうち、それを聞きつけたJ1の選手がその高齢者施設に行かれて、実際に交流するようになりました。

――推しの選手と実際に会えるなんて、大騒ぎでしょうね。

伊藤:皆さん、大変な興奮ぶりだったそうです(笑)。誰かを応援したくなると、身だしなみも変わってきますよね。その施設のおじいちゃん、おばあちゃんたちは、選手の背番号が入ったユニフォームを着て試合を観戦するようになりました。

普段と違う装いをすることは、変身願望を満たす行為なので「ハツラツ」脳に有効ですね。仲間と同じユニフォームを着て応援すると、「共感脳・つながり脳」も働きます。施設の皆さんは、本当に若々しくなって、行動も変わってきました。そういう実例もありますし、推しを持つことは、脳に非常にいいと思います。

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