僕はシンデレラボーイなんかじゃない。納谷健は泥臭く進む、もっと前へ

彼が登場したとき、多くのメディアが「新星」と書き立てた。

俳優・納谷健、23歳。

『七つの大罪 The STAGE』(メリオダス役)、『DIVE!! 』The STAGE!!(坂井知季役)と話題の舞台に立て続けに主演。『日経エンタテインメント!6月号』の「“令和”の新才能100人」特集でその名を挙げられるなど、彼に寄せられる期待は依然大きい。

そうした注目の中で、彼は居心地が悪そうにこう言った――「シンデレラボーイと言われるのは、ちょっと癪(しゃく)なので」と。

可愛い顔して天邪鬼(あまのじゃく)。小柄な身体に秘めた、頑固な男気。思い出の場所という桜の木の下を訪れた納谷は、自分のこれまでを静かに語りはじめた。

撮影/アライテツヤ 取材・文/横川良明
スタイリング/青木紀一郎 ヘアメイク/望月光

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2年前の春、心が折れかかったとき、この桜の木の下にいた

あなたの思い出の地はどこですか?
そう尋ねられて、納谷健が選んだのは、少し意外な場所だった。
当時の稽古場から歩いてほんの1〜2分程度。空に向かってまっすぐ伸びる大きな桜の木の下が、彼の秘密の「シェルター」。稽古に行きづまって、どうしようもなくなったとき、この桜の下でいろんなことを考えたという。
「あのときが、一番しんどい時期でした」
今から2年前の春。2017年、納谷はミュージカル『薄桜鬼』 原田左之助篇で斎藤一役を演じていた。
同作は、シリーズ累計100万本を超える大人気ゲーム『薄桜鬼』を原作としたミュージカル作品。激動の時代を駆け抜けた新選組隊士と鬼の頭領・風間千景の戦い、そしてヒロイン・雪村千鶴との恋を描いた同作は、近年人気の「2.5次元舞台」の草分けとして長年愛され続けている。
同作における斎藤一は、初代の松田凌、二代目の橋本祥平に続き、納谷が三代目。ミュージカルと銘打たれた舞台に出るのはこれが初めて。立ちはだかる「歌」という壁に、納谷の心は折れかかっていた。
「歌に対する苦手意識がすごく強くて。これは別の現場の話なんですけど、メロディが乗るだけで声が出なくなる時期もありました。苦手と思っている分野にチャレンジすることで、すごくストレスをためこんでいた部分があったんだと思います」