「ふたりで飲みに行ったことは一度もない」福山 潤×櫻井孝宏の心地よい距離感

福山 潤と櫻井孝宏。20年以上のキャリアを持ち、声優業界を牽引するふたりだ。

初共演は18年前。以来、多くの作品でタッグを組んできたが、「ふたりきりで飲みに行ったことは1回もない」という。

この20年弱、馴れ合うことなく“プロ”としてお互いを尊重し、それぞれに“自分らしく”生きてきたふたりだからこそ、彼らが交差する瞬間には驚きや感動が生まれるのだろう。

そんなふたりが再び交差するTVアニメ『ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。』の収録裏話から、2019年の声優業界の振り返り、2020年の抱負まで、さまざまなトピックを語ってもらった。

撮影/増田 慶 取材・文/とみたまい 制作/アンファン
ヘアメイク/木村ゆかこ【福山】、MAIMI【櫻井】

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▲左から福山 潤、櫻井孝宏

僕だけじゃなく、困ったらみんな櫻井さんに頼る傾向にある

いまや多くの作品でご一緒されているおふたりですが、初対面のことを覚えていらっしゃいますか?
福山 初めて櫻井さんと現場をご一緒したのは、おそらく『オフサイド』(2001年)だったと思うんですが。
櫻井 あ〜、そうか。サッカーの作品ですね。
福山 あの時期ですよね。ということは18年か19年前になりますが、櫻井さんに対する最初の印象は、「この人が櫻井孝宏か」でしたね(笑)。
櫻井 ははは! ちょっと意味わかんない。何? 悪い噂でも流れてたの?(笑)
福山 いえ、違うんですよ(笑)。当時の僕は、森久保祥太郎、鈴村健一、櫻井孝宏、関 智一、この4人の先輩にオーディションでボコボコにされていたんですね(笑)。だから櫻井さんと現場で会う機会がなかなかなくて…僕は落ちてるから(笑)。

そんな状況が続いていたので、『オフサイド』で初めてお会いしたときに「この人が櫻井孝宏さんか。やっと会えた」みたいな感じだったんです。
櫻井 僕がすごく覚えているのは『学園ヘヴン BOY'S LOVE HYPER!』(2006年)ですね。福山くんが主役の作品ですが、まぁ〜大変で。セリフ量も多かったので、「(主人公として)苦労してるんだろうなあ」って思っていた印象が強いです。

でも、人としてのベースの部分は、いまとあまり変わらないですね。ひねくれたりしないで、ポジティブな感じが当時からあったので、「大変な思いをしているのに、スゴいなあ」と思っていました。あと、「勢いがあるな」とも思いましたね。
福山 勢いだけでここまで来てますからね(笑)。
櫻井 テンポとかリズムに勢いがあって。関西出身というのも、もしかしたらあるかもしれませんが、勝気なところとかもね。でも、それでいて冷静で、核心を突くようなモノの見方をしていたりと、とてもクレバーなんですね。

クレバーなんだけれども…望まれていることの逆を、あえてやったりもするんですよねえ(顔をしかめながら)。
福山 ははは(苦笑)。
櫻井 「そのままアウトプットすれば、摩擦も生まれないだろうに」とか「そこをひっくり返したらもったいないのに」と思うようなことを、福山くんはやったりするので。そこも含めておもしろいなあって、20年近く思っています。
福山さんは20年近く櫻井さんを見てきて、どのように感じていますか?
福山 僕ら声優って、それぞれにトレンドがあって。つまり、「こういうキャラクターには、この声優だよね」って起用されることが多いと思うんです。で、いまの櫻井さんのトレンドって、僕が出会った頃とは全然違うタイプのキャラクターだったりするんです。それは僕にも同じことが言えます。

ただ、その変わっていくトレンドの流れに、櫻井さんは大変スムーズに乗っている印象があるんです。僕の場合はトレンドが突然90度変わったりするんですが…少年キャラから変態キャラへとか(笑)。櫻井さんは、これまでのトレンドを積み上げていって、いまのトレンドに至っている印象がある。そういった方って、あまりいないと思うんですね。

起用する側もそこを期待して、想定して、櫻井さんにお願いしているんでしょうね。あと、なんだかんだ言って、包容力がある。
櫻井 「なんだかんだ」って(笑)。
福山 僕だけじゃなく、困ったら櫻井さんに頼る人が多いんです。意見の拠り所を求めたり、吸収してもらったり。あるいは、櫻井さんが先頭に立つケースだったら、みんながそれに従うんです。そういった“周りから頼りにされている人”という印象は、初めてお会いしたときから変わらないですね。僕が真似できることでもないし、似たような方もあまりいないと思います。
でも、櫻井さんとしては「俺に続け! 俺を頼れ!」みたいな感じではないんですよね?
櫻井 ええ、嫌ですね(笑)。
福山 本当にそういうタイプではないんですが、たまに櫻井さんが先頭に立ってツッコんでいくと、みんながスリップストリーム(高速走行中の車両の背後に、気流の働きで生じる気圧の低い領域のこと)に入るんですよ(笑)。
櫻井 僕個人の印象ですが、最近は時代も含めて「for me」な人が多い気がするんです。でも声優って「for the team」の仕事でもありますよね。作品ファーストで考えると、まずは監督やプロデューサー、画を描く方たちがいて、我々声優なんて全然下のほうなので。

だから、できるだけ現場を柔らかくしたいという気持ちではいますね。それって福山くんも似ているところがあると思うんです。たとえば「え?」と思うような指示があったとしても「わかりました、まずやってみましょう」と。
福山 「やればわかる!」ってね。
櫻井 そうそう。試してダメだったら、「どうしますか?」と考えていけばいいので。「できません」ではなく、「とにかくトライしていこう!」という気持ちではいますね。それが、福山くんがさっき言った、僕がツッコんでみんながスリップストリームに入るっていうことなのかもしれません(笑)。

台本のセリフが3段に。計算し尽くされたシナリオと画作り

亜樹 新先生の漫画『ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。』を原作としたアニメが1月12日より始まりました。2016年に制作されたドラマCDで福山さんが小雪 芹を、櫻井さんが花鳥 兜を演じられましたが、当時の作品に対する印象はいかがでしたか?
福山 率直な感想として、「いま、このキャラクターをやるんだ」ってビックリしました。小雪は僕が若手の頃にやっていたタイプのキャラでしたから。もちろん、原作を拝見して、自分のやるべきことや、キャラとして目指す方向やセリフの聞こえ方などはある程度わかりましたが、久しくやっていないキャラクターだったので戸惑いもありましたし、考えを巡らせた記憶があります。
櫻井 僕も最初は戸惑った覚えがあります。セリフやト書きだけでは全部を判断できないというか、指示があって始めて「あ、そういうふうにやればいいんだ」とわかる部分もあって、演技だけですべてを形作るのが難しい作品だなと、ドラマCDのときは感じました。

それに、福山くんも言ったように、僕も「花鳥をやるには、(自分は)年を食ってるなあ」と思いましたね(笑)。
福山 できる・できないの話じゃなくてね。今回のアニメ化にあたって、ドラマCDで起用されたキャストを持ち越したことも意外でした。僕は十中八九、キャストが変わると思っていましたから。
櫻井 僕も思いました。
ドラマCDからアニメへと、それぞれが演じるキャラクターをどのように作っていったのでしょうか?
福山 ツッコミ役である小雪を演じるに際して、ドラマCDのときは「難しいな」と思ったんですね。というのも、過去にボケもツッコミも演じてきたなかで、「このメンツだったら、このテンポでいけばうまくかみ合うだろう」と肌感覚で予測できるはずだったんですが…小雪は基本的にはモノローグでツッコんでいるので、実際には誰かを目の前にしてツッコんでいるわけではないんです。

しかもそれを、画がないドラマCDでやるっていうのは…自分の得意とする武器を完全に封じられている状況ですよね。ですから、ドラマCDのときは本当に難しかったんです。

それに対して、今回のアニメでは画があるので、すごくやりやすかったですね。しかも、アフレコ時には画がほぼ100%入っていたんです。最終回ですらほとんど入っていましたから、明確な情報を受け取ることができて、組み立てやすかったですね。
櫻井 僕はもうノリというか(笑)、フィーリングで演技していましたね。花鳥はみんなが思う“中二病”ど真ん中な子なので、ステレオタイプでいいのかなと思いました。そもそもが奇抜なキャラクターなので、奇をてらう必要もなく、セリフや周りとの関係性を読み解いていきました。

アニメの収録では、まずドラマCDの花鳥を聞き返して「あ、そうだった、そうだった」と。あとはもう福山くんが言った通り、我々キャストもがんばりましたが、作画が素晴らしいのでね。よく動くし、かなりテクニカルなので、画に任せたところが僕は大きかったです。
画がほぼ100%入っているところに声を当てたとのことですが、「これはアドリブかな?」と思うような、絶妙なやり取りが展開されていました。
福山 それがですね、セリフを変えたり、言葉を付け足したりはそんなになくて、ほぼ台本通りなんです。そのぐらい計算されている台本と画作りでしたね。
櫻井 各キャラクターたちが一画面でわーっとしゃべったりするので、台本のセリフが3段に分かれていたりするんです。最近ではそういう台本ってめずらしいんですよね。なので本当に、脚本の段階からすごく煮詰められていたんだと思います。その結果、ああいった濃密なドタバタ劇が生まれたんじゃないかと。
福山 3段もセリフが重なると、ほかの人のセリフに被せるタイミングを計算しないといけないんですが、画ができているので、どこに合わせるかのジャッジが現場ですぐにできるのもありがたかったですね。
▲小雪 芹(声:福山 潤)
▲花鳥 兜(声:櫻井孝宏)

テクニカルな倒置法や独特なセリフ回しに四苦八苦

わちゃわちゃとした掛け合いも見どころですが、櫻井さんが演じる花鳥が本当にかわいくて印象的でした。
櫻井 ありがとうございます(笑)。
第1話のクシャミから、もう鷲掴まれたというか。
櫻井 あ〜(笑)。あのシーンは最初、普通にクシャミをしていたんですが、「もっとかわいく」と言われてああなりました(笑)。
ほかのキャストさんたちのお芝居に、つい笑ってしまうようなこともありましたか?
櫻井 ありましたね。僕、近藤(孝行)くんの“担任の先生”がツボで(笑)。
福山 わかります(笑)。
櫻井 ちょっと温度感が違う…数少ない大人キャラクターなんですけれども、静かにズレてる人じゃないですか(笑)。それを近藤くんが絶妙な表現で作っていて、すごくおもしろいなと思いました。
福山 僕(小雪)は月宮と絡むことが多かったので、(月宮ウツギ役の木村)良平が失敗するとうれしかったですね(笑)。
櫻井 ははは。わかるわ〜。
福山 良平が失敗すると、「いいぞ!」ってガッツポーズをとるぐらい。2回連続で失敗したら「いいよ!」って応援する(笑)。
櫻井 彼はどんな現場でも、あまり乱れないんですよ。そんなにしくじらないタイプの子なので、彼が失敗しているのを見て、「ちょっと心が乱れてるんだろうな」って思うとね、ニヤニヤしちゃいますね(笑)。あとはやっぱり、福山くんが大変だったなあって。
福山 僕、ただしゃべってるだけですけどね(笑)。
櫻井 ただしゃべってるなかでも、いろんなことに励んでいる福山 潤を「がんばれ、がんばれ」って、ニヤニヤ見ていました(笑)。
福山 セリフが濃密なので、目が追いつかなくなるんですよ。
櫻井 そうなんだよね〜(笑)。
福山 3段もあると、だいたい5文字くらいで改行が来ちゃうんで(笑)。
櫻井 目が滑るんですよねえ。わかるわ〜(笑)。
福山 それに、原作の亜樹 新先生のセリフ回しがまた独特で。Aという言葉の次にBが来るべきところを、わざとAのあとにCを入れたりする。で、そのCのあとにBが来たりするんです。それをわかったうえで組み立てないといけないことがけっこうあって、テクニカルな言い回しがすごく多い。とくに小雪と花鳥のセリフはそうやって構成されているので、四苦八苦することはありました。
櫻井 すごくテクニカルな倒置法とか。
福山 そうなんです。3、4行…いや、もっと行った先に倒置されているセリフが存在することもあって、難しかったですよね。
櫻井 僕らとしても、そこをしっかり表現しないと、観ている方たちに気づいてもらえなかったりするのでね。
福山 だから僕、勝手に思ってるんですけど、ドラマCDからキャスティングを持ち越した理由って、そういったテクニカルな部分がわかってるキャストだからなんじゃないかと(笑)。
櫻井 その説はあるかもね(笑)。

花鳥というキャラをどう成立させているかは企業秘密(笑)

先ほどお話されていた“トレンド”という観点でも、今回のキャラクターは“ど真ん中”というわけではないですよね?
櫻井 そうですね。とくに小雪は、若かりし頃の福山 潤がちょっと重なるようなところがあって、「福山くん、まだまだこういうのもいけるのね」って(笑)、僕は見ていて思いました。
福山 それは櫻井さんにも言えると思います。あの花鳥というキャラクターを、どうやって成立させるのか。僕が考えたところで「いや、俺には(花鳥役は)無理だな」という結論になるんですが、櫻井さんはそこのところを、よくわからない手法で(笑)成り立たせているんですよね。
櫻井 ははは! 企業秘密です。
福山 あのキャラクターをよくできるなって。そういう意味でも、ドラマCDのとき以上に作品を楽しませていただいた感じがしますね。
演者としてではなく、一個人としての福山さんは“ボケる側”の印象が強いのですが、今回のようなツッコミ役を演じるにあたって難しく感じることはありましたか?
福山 とくにないですね。僕はセリフが多ければ多いほどうれしいので、楽しくやらせていただきました。ツッコミって、会話にテンポを作る役割でもあるので、そこを担わせていただけるのはやりがいにもつながります。

とくに今回はモノローグでのツッコミだったので、僕の芝居が果たしてどこまで功を奏しているか。これまで演じたツッコミ役とはまた違った感覚ではありました。そういった“新たなチャレンジ”としても、やりがいのある役だったと思います。
櫻井さんは花鳥を演じるにあたって「企業秘密」とのことでしたが、ちらっと教えていただけないでしょうか?
櫻井 そうですね、ときどき、“演技じゃないことをやっている”みたいな感じです。言葉で説明するのが難しいんですが…セリフの一部分だけを、自分のほうへグッと引っ張ってくるというか。生っぽくするっていう感じですかね。トリッキーなキャラクターなので、わりと遊べるところは多いんですが、コテコテにしすぎるのも違う気がしていて。そういう意味で、どこかに生っぽさがあるといいのかなと思うんです。

そのためにも、普段はあまりやらないようなことをしているというか…ちょっとズルをしている感じですかね(笑)。って、文章にするとなんだか悪いことをしているみたいになりますから、説明が難しいんですね。
福山 たしかに。いい意味で「ふざける」としか言い換えられないですよね。そういった難しい表現を、櫻井さんだけじゃなく、みなさんがトライしている印象です。というのも、小雪は主人公ですが、バランスを取る役ではないんです。彼が一方的にツッコんで物語の中心にいるような感じになっていますが、じつは周りのキャラクターが小雪を構ってあげる構図になっているんですね。

だから僕は今回、バランスを取る必要が一切なくて。花鳥のターンでは花鳥がバランスを取ってくれて、月宮のターンでは月宮が、みたいな感じで、周りのキャラクターが小雪を構成しているような構図になっているんです。周りのキャストのみなさんが、僕の小雪を形作ってくれたとも言えるんじゃないかな。

「自分は自分でしかない」と受け入れたら自分らしくいられる

2019年の声優業界についても振り返っていただきたいのですが、印象的な出来事などはありましたか?
櫻井 僕らの仕事って、極端な話「あす、どうなるかわからない」みたいな世界ですから、5年ぐらいの単位でどんどん変わってきていると思うんですね。そんななかで、梶(裕貴)くんが『IPPONグランプリ』に観覧ゲストとして出ていたり…あれにはビックリしました(笑)。
福山 いやホント、「ボケの回答をイケボで再現してください」っていう、地獄のような振りをされていて(笑)。
櫻井 あの状況でね(笑)。
福山 「自分がこの立場だったら」と思うと、カタカタ震えますよね(笑)。
櫻井 その梶くんのワンアクションも、これまでの声優業界からしたら革命的だと思うんです。そういう意味で僕が今年スゴいなって思ったのは、木村 昴くんなんですけど。彼は新しい声優の在り方を提示したパイオニアだと思うんです。ああいう人が現れると、次にまた、何かしらの夢や可能性を持った人が出てくるんじゃないかって予感がしますよね。しかも、そのサイクルってけっこう早くなってきている気がして。

そんななかで、じゃあ自分はどうかというと、もちろん、彼らのようなことはやろうとしてもできないんです。僕は声優になりたくて声優になったクチなので、そこを磨いて、かつ時代にアジャストしすぎず、それでも無理しない程度には変えていかないといけないなと、日々、試行錯誤を繰り返している感じですね。

そのあたりの肌感覚を、福山くんや僕と同世代の人たちはわかってくれているので、すごく楽なんです。似たようなものを見ながら、ずっと一緒に歩んできているので、持っている感覚も重なる部分が多いのかなと思います。
福山 まず棲み分けを考えるところとかですよね(笑)。
その“棲み分け”にもつながると思うのですが、櫻井さんは“自分らしく”ということを常に大事にされているイメージです。福山さんもきっと“自分らしく”いられる方なのかなと思うのですが。
櫻井 福山 潤は金太郎飴みたいに、どこを切っても福山 潤ですから(笑)。
福山 ははは!
「自分らしくいるための秘訣」がありましたら、ぜひ教えていただきたいです。
福山 僕は…夢も希望もない言葉が最初に来ますけど。
櫻井 最初に来ちゃうの?(笑)
福山 ええ。僕が自分らしくいるために、最初に選択すべきは「諦めること」ですね。
櫻井 あ〜〜〜!(納得といった感じで)
福山 大前提として、ひとつの言葉に対して、みんなが共通のイメージを持ちすぎなんじゃないかって思うんです。この「自分らしく」という言葉も、「周りに影響されない」とか「何があっても我が道を突き進む」みたいなハードルが高いイメージがあって、多くの人がそれを「自分らしい」と思い込んでいるフシがあるんじゃないかと思うんです。

それって大いなる間違いだと僕は思っていて。もちろん、もともとの性質として、周りに影響されない人・周りに迎合する人とかっていうのはあると思いますが、「どうあっても、自分は自分でしかない」ということを受け入れた瞬間に、自分らしくなれるはずなんです。

でも、どんな人にも少なからず「自分はこうありたい」という理想像があって、そこに追いつけない自分にも気づいているから、「自分らしく生きられていないんじゃないか」と人は葛藤するんだと思うんです。そこで「理想の自分と現実の自分はかけ離れているんだよ」っていうことを受け入れて、諦めをつけたら楽になると思うんです。
そういう意味での「諦める」なんですね。
福山 ええ。そうすると、現実の自分の範囲内で、自分の“らしさ”が出せるようになってくるんじゃないかなと僕は思っています。
櫻井さんはいかがでしょう?
櫻井 昔は「どれだけNOと言えるか」かなと思っていたんですよ。僕はけっこうNOと言ってきたところがあるので。たとえば必要以上に期待されたときに、「いや、僕はたぶんあなたが思っている感じではないですよ」とハッキリ言うようにしていたんです。

それが積み重なった結果、“自分らしさ”になっているんだと思いますが…そうやって仕事でできあがった僕というのは、本来の僕よりもかなり図体が大きいんです。本来の僕はモブみたいな人間ですから(笑)。そんな僕が背伸びをして、自分を大きく見せながらがんばってきた結果が、声優としての僕なんですね。

でもそれって、作品とキャラクターがあったから、っていうだけなんです。

そうやって、「本来の自分」と「仕事の自分」のギャップを重ねながらこれまでやってきたので、結局「何が自分らしいか」「自分らしくいるためにはどうしたらいいか」って…正直なところ、答えが難しい部分がありますね。
おふたりが2020年に挑戦してみたいことはありますか?
櫻井 僕はオリンピックの仕事がしたいです。一生に一度であろう東京で開かれるオリンピックに、どんな形でもいいから、仕事で関わりたい。「トイレはこちらです」みたいなアナウンスでもいいので、声という武器を生かしたいですね。
福山 どうします? いまさら聖火ランナーの話が来たら(笑)。
櫻井 あ〜(真顔で考え込んで)、でも俺やるかも。
福山 やりますか? 500メートルのために走りますか?
櫻井 走る走る。そのために日々走り込むよ(笑)。
福山さんはいかがでしょう?
福山 本当に…夢も希望もないことを言いますけど。
櫻井 またか!(笑)
福山 この約2年、いっぱいいっぱいになるぐらいいろんなことをやらせていただいて。毎年同じことを言っているんですが、今年はより実感を込めて、自分の足元をしっかり見たいと思っています。具体的には、自分の在り方をより強化するためにも、「めんどくさい先輩でいたいな」と思うんです。いまって、めんどくさい先輩が少ないんですよ。それって問題なんじゃないかと感じていて。
櫻井 あれだよね? 近所のおじさんに怒られる、みたいな。
福山 そうです、そうです。そういう存在が必要なのかな?って、もう10年くらい感じているんです。いい先輩が増えて、いい後輩が増えて、いい同輩が増えているのは間違いないけれど、めんどくさい人が減ったことにすごく危機感を覚えているんです。「じゃあ、俺がめんどくさいヤツになろう」って(笑)。すぐにはなれないと思いますが、2020年はオリンピックも来ることですし…。
櫻井 ははは! オリンピック関係ないし(笑)。

ふたりきりで飲みに行ったことは一度もない

おふたりの共演といえば、福山さんのシングル『KEEP GOING ON!』とアルバム『OWL』のコントパートに櫻井さんが出演されたことも印象的でした。
櫻井 あ〜、ありましたね。出演させていただきました。
福山 それまでの関係性を、存分に利用させていただきました(笑)。櫻井さんが司会で、僕も登壇した現場がありまして。「司会ってことは、たぶん誰よりも早く現場に入っているだろう」と予測して、僕も早めに入ったんです。それで、櫻井さんが台本に集中している隙に「ちょっとこれに目を通してください」って、プロットを渡して。
櫻井 「あ、うん」って、とくに疑問に持たずに受け取りました。「こういうのやるんで、よかったら出てもらえませんか?」、「あ、うん、わかった。出る出る」って(笑)。
福山 判断がつかないうちに、既成事実を取りつけまして(笑)。
福山さんとのモノ作りはいかがでしたか?
櫻井 僕は人付き合いに対して、そんなに積極的ではないんです。身を守る術ではないですが、四方八方に「なんでもやるよ!」みたいに言うようなタイプではなくて。それでも福山くんの仕事を引き受けたのは、無理を承知で変なことを押し付けるような人ではないから。僕もおもしろいと思えるようなことしか持ってこないんです。しかも、事前にきちんと段取ってから持ってきてくれるので、ありがたいですね。

僕は福山くんのチャレンジングなところや、開拓者精神みたいなところが好きなんです。あまりみんながやらないような、リスクのあることにチャレンジする傾向があるというか。
福山 自殺願望ですね(笑)。
櫻井 そこまでは言ってないから(笑)。僕はそんなに刺激を求めるタイプではないので、彼のそういったチャレンジングな部分って僕にはないんです。だから、声をかけてもらって一緒に何かを作るのは…それこそ、スリップストリームに僕が入る感じですよね。福山 潤を風よけに立たせて(笑)、その後ろで僕が「お〜、おもしろいな」って。そういう気分でいます。
勝手なイメージですが、親しいながらも絶妙な距離感があるのかなあと思います。
櫻井 そうなんでしょうね。
福山 たぶん、プライベートの付き合いがほぼないからだと思います。
そうなんですか!?
櫻井 ほとんどないです(強い口調で)。
福山 プライベートで飲んだのって、たぶん一度だけですよね? ふたりきりじゃなかったですし…ふたりで飲みに行ったことは一度もないんですよ。
櫻井 福山くんとふたりで飲みに行ったら、たぶん、ちょっと緊張しちゃいますもん(笑)。
福山 僕は根本的に、プライベートで同業者に会わないんですね。連絡先をあんまり教えないので。“なあなあ”にならないのがいいかなと。相手を勝手に信頼・信用してしまうと、人間関係って崩れちゃうので。僕はそれが嫌なんです。
櫻井 僕もそれが苦手なんだよね。
福山 その感じをわかって、適度な距離感をとってくださる方って…櫻井さんだけじゃなく、櫻井さんの世代に多いんですよね。“なあなあ”な関係性じゃなくて、明確な距離感で接してくれる。だからこそ、そういった方々に対する信頼が僕は強くて、リスペクトしていますし、ガチで勝負させてもらえる存在でもあるんです。
櫻井 そうだねえ。僕もそういう距離感って、わかりやすくて好きですね。プロっぽいなと思います。
福山 潤(ふくやま・じゅん)
11月26日生まれ。大阪府出身。A型。1997年に声優デビュー。主な出演作に、『コードギアス』シリーズ(ルルーシュ・ランペルージ)、『青の祓魔師』(奥村雪男)、『暗殺教室』(殺せんせー)、『おそ松さん』(松野一松)、『PERSONA5 the Animation』(雨宮 蓮)など。アーティスト活動も行っており、1月8日に2ndアルバム『P.o.P -PERS of Persons-』をリリース。
櫻井孝宏(さくらい・たかひろ)
6月13日生まれ。愛知県出身。A型。1996年に声優デビュー。主な出演作品に、『コードギアス』シリーズ(枢木スザク)、『ダイヤのA』(御幸一也)、『モブサイコ100』(霊幻新隆)、『<物語>シリーズ』(忍野メメ)、『おそ松さん』(松野おそ松)、『鬼滅の刃』(冨岡義勇)、『宝石商リチャード氏の謎鑑定』(リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン)など。

    「2020冬のアニメ」特集一覧

    出演作品

    TVアニメ『ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。』
    1月12日よりTOKYO MXほかにて、毎週日曜夜に放送
    https://bokuhaka-anime.com/

    ©亜樹新・KADOKAWA/ぼくはか製作委員会

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