自分の代わりはいくらでもいる。関 智一×野島健児の“おごらない”仕事論

華やかなようで厳しい声優業界。その第一線で活躍し続ける、関 智一と野島健児は、数々の作品で、唯一無二の存在感を見せつけている。

しかし、キャリア20年以上のふたりでも「仕事がなくなったら……」という恐怖を抱くという。予想外だった。ふたりの代わりなど、いるはずがないのに。

こちらの心のうちを読むように、関は言った。「この業界、代わりがいないなんてことはないんです」

だからこそ、関も野島も一本一本の仕事を大事にしている。ふたりがメインキャラクターを演じるアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』もそうだ。

撮影/ヨシダヤスシ 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.

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▲左から野島健児、関 智一

若手の声優に“世代交代”があるんじゃないかと思っていた

『PSYCHO-PASS サイコパス』は2012年に放送された第1期から話題を呼んだ、オリジナルSFアニメ。人間の心理状態を数値化し管理する近未来社会を舞台に、正義を問われる警察機構を描いた物語だ。

2014年には第2期が放送。翌年には劇場版が公開され、シリーズ4年ぶりとなる劇場三部作『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』の1作目「Case.1 罪と罰」が1月25日から公開となる。

関と野島は、テレビアニメ第1期からメインキャラクターの狡噛慎也(こうがみ・しんや)と宜野座伸元(ぎのざ・のぶちか)を演じている。
続編が決まったと聞いたときのお気持ちを教えてください。
 「決まった」と聞いたのは3、4年くらい前だったかな。
野島 そうですね。2015年の劇場版を録っているときに、「この先とかあるんですかね?」と話していたら、関さんが「うん、あるみたいだよ、そんな話をしてたもん」って。僕は関さんから聞きました。「じゃあ、来年ですかね、再来年ですかね」と言っていたら4年も空くという(笑)。
 たしかに。
野島 「あれは嘘だったのかな?」とも感じていたんですけど、どうやら本当らしいと。でも、果たして僕らは出演するのかという気持ちもありました。
狡噛や宜野座が出ないストーリーになっているかもしれない、と?
野島 そうです。彼らのいない未来の物語を描くかもしれないし。
 新キャラが登場して、“世代交代”があるかもしれないし(笑)。
野島 そうそう、その可能性もありましたしね(笑)。
今回の三部作は、1月25日に公開される「Case.1 罪と罰」では宜野座に、3月8日に公開される「Case.3 恩讐の彼方に__」では狡噛にフォーカスされたストーリーとなっています。
野島 どこかに少し出てくれてるだけでもうれしいなと思っていたら、意外や意外、ガッツリ出ていて。死亡フラグが立っているんじゃないかとヒヤヒヤしながら。
 フィーチャーされると怖いよね。
野島 怖いなぁ〜と思っていたんですけど、どうやらそんなことはなくて。
 今回はね。
野島 今回は(笑)。とても安心しました。
4年空いた点はどう感じましたか?
 『PSYCHO-PASS サイコパス』は高いクオリティで作られている作品ですから、そのクオリティを維持するために画を描かれる方、脚本を書かれる方など、いろんな方のスケジュールを妥協せずに整うまで待ったんじゃないかと思います。
野島 熟成されたぶん、より面白いんだろうなって期待をしてしまいますよね。ただ僕自身、そんなに空いた感じはしないんです。4年のあいだもプロジェクトは動いているし、作品に触れる機会もあったので。

「東京国際映画祭」は、ミーハーな気分になりました(笑)

第31回東京国際映画祭では、本作が特別招待作品として出品。おふたりはレッドカーペットを歩かれていましたよね。
 楽しかったよね。
野島 終始ふざけていて。リムジンのなかから遊んでましたね。佐倉(綾音)さんに「もう! ふたりとも緊張とかしないんですか!?」ってまるで霜月(美佳)のように怒られました(笑)。
 本当にみんな浮足立っていました。リムジンに乗る前の控室でも「有名な人いないかな〜」って探したりして。ミーハーな感じでしたよね。
野島 「あ、あそこに『カメラを止めるな!』チームがいる!」とか言ったり(笑)。

アフレコ現場でも自然体。普段から力まない姿が互いの魅力

久しぶりにアニメーションでキャラクターを演じてみていかがでしたか?
 スッと入れて、しっくりきましたね。
野島 その通りですね。もう、自然と。
 普段からとくに作っているわけじゃないですからね。
野島 演じる前に“スイッチ”を入れる方も多いじゃないですか。たとえば、内田雄馬くんはアフレコ現場に来たらまずストレッチをして「ああああ〜!!」って頭を掻きむしってから演じるとか、福山 潤くんは「よしょしゃしゃしゃーす!!(よろしくお願いします)」って尋常じゃないくらいデカい声を出してから演じるとか。
 三木(眞一郎)さんでいえば、「よろしくお願いいたします」って言うみたいな。
野島 三木さんはめちゃくちゃ丁寧ですよね(笑)。僕はモニターで画が動きはじめるまでは普通な感じで、自分の番になったら「じゃあ…」って演じるタイプ。

関さんはどうなんですか? 関さんを見ていると、もうそこに“いる”感覚がするんですが。
 僕はとくにスイッチみたいなものはないですね。だって僕がいきなり大きい声とか出すと、怖いじゃないですか。
野島 関さんの、収録がはじまった瞬間にあの世界にいるっていう感覚。素敵だなぁって思います。
 ありがとうございます。はいそうです、風を感じてます(笑)。
関さんは自然体なところが魅力的なんですね。
 (差し入れのサンドイッチを食べながら)普段からこんな感じですからね。
野島 でも以前、寝る時間もろくになく喉もボロボロですごく疲れていらしたときがあって、「野島くん、きょうはご迷惑をかけちゃうかもしれない。ごめんね」って本番前に言葉をかけていただいたことがあったんです。

たしかに喉はガサガサで、どれだけ体調が悪いんだろうと思っていたんです。でも、マイク前に立ったらバチッと狡噛さんがそこにいて。「あ、これがプロなんだ」と。プロとはなんぞやというものを見せていただいた覚えがあります。
 やっぱ、見えちゃったんですね。
野島 (穏やかに笑う)
 野島くんはあまり飾ってない感じがいいですよね。
野島 (関さんが主宰する劇団の)舞台も出させていただいたりしましたもんね。
 バイタリティを持って自分の好きなことをされているので、根っこの部分は(自分と)似ているところもあるんじゃないかと。何だかわからないですけど親近感を抱いています。

あとは普段の力の入っていない感じも好きです。ほわ〜ってしてるじゃないですか。力んでない感じが居心地がいいです。
野島 ありがたいです。力まないです、私(笑)。やっぱり疲れちゃうじゃないですか。昔は力みそうになることもあったんですけど、「力まなくてもいいんじゃないの」って考えられるようになってから、今はもう自然とですね。

キャラクターとは近所の友達のような、親戚のような距離感

2012年のテレビアニメ第1期から、6年近く続いてきた本シリーズ。アフレコ現場でも『PSYCHO-PASS サイコパス』ならではの空気感があるのでしょうか?
野島 各番組に何となくその作品の空気感があって、顔が揃うと自然になるので、『PSYCHO-PASS サイコパス』の現場もきっとあると思うんですけど…。
 何ともね。言うなれば「花澤香菜ちゃん(常守 朱役)と愉快なおじさんたち」って感じですね。
野島 そうですね(笑)。
シリアスな作品だから、現場も緊張感に包まれているということは…。
 それはまったくないですね。
野島 作品が緊張感に包まれているのに、現場もピリッとしていたら“逃げ場”がなくなっちゃいますからね。
 ぽわ〜んとしてますよね。
6年近く演じてきて、狡噛と宜野座への思い入れも深まっていると思うのですが、いかがですか?
 彼と一緒に年月を歩んでいるような感覚はあります。自分のような自分じゃないような存在なので。でも、過剰な思い入れはないんですよ。「俺のものだ!」みたいな感じではなくて。
野島 友達みたいな感覚ではありますね。近所の友達。
 親戚の子みたいな。
野島 そうそう。「最近はほぼ毎日会うよね」っていうことがあれば、はたまた「あれ? もう何年もアイツに会ってないな」ということもあって。かと思えば街ですれ違って「おお! 久しぶりに会ったね。今度また仕事が一緒だから、よろしくね」みたいな。
 (うなずく)
野島 そういう、同僚のような友達のような感じで。「これは俺のものだ!」みたいな感覚はない。いたらいたで楽しいし、本当にいなくなってしまったり、作品に出られなくなったら寂しいと感じると思います。

人の理解力が追いつかない作品がヒットにつながる

本作では難しいセリフもたくさん飛び出しますが、そういったセリフもキャラクターたちが言うことで説得力が生まれます。何か意識されていることはあるのでしょうか?
 どうなんでしょうね。でも、言いにくい言葉は本人たちも言いにくいと思うんですよ。
野島 「シビュラシステム」(※人間の心理状態や性格的傾向を数値化し管理するシステム)も、きっと言いにくいでしょうし。

説得力かぁ。わざわざ意識していないですけど、関さんクラスになると、セリフを読んだだけで説得力が出てくるんですよね。
 まぁ、そういうところもありますよね(笑)。

でも本当に、言い慣れている感じがするけれど、リアルにスラスラと言えるわけじゃないと思うので、彼らも言いやすいように略したりしてるんじゃないですか? 人の名前がどんどんアダ名になっていくのと同じで。
野島 「シビちゃん」みたいなね(笑)。裁判になったときや、かしこまらないといけない現場のときは、難しい言葉をしゃべっていても本人たちも緊張していると思うし、彼ら次第ですよね。
では、今作で彼らを演じてうれしく感じたことがありましたら教えてください。
 狡噛は、物語の本筋に関われるようなセリフがあったのはうれしかったですね。
野島 未来への希望がつながった感じがありましたもんね。
 そうなんだよ。
野島 宜野座は、一歩ずつ大人になっていく姿を見られたのはうれしかったです。
 どんどんお父さん(征陸智己:声/有本欽隆)に近づいていってね。トレンチコートも着ちゃって。
野島 そう、お父さんのマネっこをしているんです。そういうところはやっぱり可愛いですよね。「ちょっと今のはジジくさかったかな」っていうセリフがあるんですけど、そう言っちゃうくらいだから全然お父さんには近づいていない。背伸びして頑張っているところがまた可愛い。

彼は早く大人になりたいんですよね。実際、成長しているところは霜月との関わりで見えていますし。これまでは目の前のことをどうこなすかしか見えていなかったように思えますが、今はひとつひとつの仕事も楽しんでいるなって。
改めて、本シリーズの注目度の高さをどう感じていますか?
野島 僕らが想像する以上にファンの方の期待度が高いことを感じています。どの作品でも僕らは“自分が演じること”に集中するので、どこか作品を客観視するのが難しいんです。もちろん、自分たちなりに面白い部分をわかっていたりするんですけれど。だからこそファンのみなさんにどういうところが刺さっているのか聞いてみたいです。
 逆にね。斬新な設定とストーリー性、画の綺麗さ、すべてが相まっているのかなと思います。現代を代表する日本のアニメクリエイターが集結して作っている作品ですし、そこは注目しちゃいますよね。
テレビアニメが放送されていたとき、ここまでの盛り上がりは予想されていましたか?
野島 予想はしてないですね。
 ヒットする作品ってだいたい最初はよくないことが言われていることが多いんです。『新世紀エヴァンゲリオン』も、「何が面白いの?」「絶対人気出ないよ」みたいな雰囲気でしたけど、人気が出た。つまり、“既存のものじゃない”ってことなんでしょうね。自分の理解力が追いつかないものがあると、人は「面白い」と感じるんじゃないかなと。
野島 一回見ただけでは理解できないから何回も見ないといけない作品は、複数回見たら自動的にヒットですよね。
 たしかに。中毒性があるという意味だもんね。

「ワガママばかり言っていると若い子に仕事を取られちゃう」

以前、関さんがインターネット番組で「仕事をしたくないと言わない」とおっしゃっていたのがすごく印象的でした。
 言霊って言うとスピリチュアルな感じもしますけど、やっぱりそういうのはあると思うんです。逆にいいことも口に出すと叶いやすかったりすると感じますし。だから自分が困ることは、心にあってもなるべく言わないようにしています。

だって、「仕事をしたくない」と言って、本当に仕事がなくなったら困るでしょ?
関さんほどのキャリアのある方でも「仕事がなくなったら…」と思われることが…?
 ありますよ! 実際、仕事がなくなる周期って4年に1回くらい来るんです。「めっちゃ仕事ねぇな」ってこともありますし、今なんて若手がいっぱい出てきていますから。
野島 そうなんですよね〜。本当に今は若い子がどんどん出てきていて。
先ほども「世代交代があるかも…」とお話されていましたね。
 あんまりワガママばかり言っていると、若い子に仕事を取られちゃう。この業界、代わりがいないなんてことはないんです。たとえ病気で倒れたとしても、似ている声の人が出てきてモノマネされてしまいますからね。
野島 本当に。どんな仕事でもおごらないことは大切ですよね。金銭的なことじゃないですよ(笑)。一本一本の仕事を分け隔てなく大事にしていくこと。

「これはやって当たり前でしょ」とか、「何でこんなことさせるんだよ」という思いは生まれないようにして。たまにすごく疲れているときに「何でこんな段取りなんだ!」って思ってしまうことが一瞬あるのですが、それは自分のなかにおごりがあるからで。
 (静かにうなずいて)うん。
野島 そういうときは、自分のなかのおごりを見つけ出すようにしています。「ああ、こんなふうに思っているなんて、俺はまだまだ小さいな」って思う。
 人間ですから、みんな絶対におごったり、調子に乗っちゃったりするんです。
野島 そう。放っておけば調子に乗ります。
 だから、常に気をつけているくらいがちょうどいいんですよ。
関 智一(せき・ともかず)
9月8日生まれ。東京都出身。AB型。主な出演作品は、『機動武闘伝Gガンダム』(ドモン・カッシュ)、『ドラえもん』(スネ夫)、『のだめカンタービレ』(千秋真一)、『妖怪ウォッチ』シリーズ(ウィスパー)、『昭和元禄落語心中』(与太郎)など。劇団「ヘロヘロQカムパニー」の主宰を務め、舞台の活動も精力的に行っている。
野島健児(のじま・けんじ)
3月16日生まれ。東京都出身。A型。主な出演作品は、『弱虫ペダル』シリーズ(黒田雪成)、『干物妹!うまるちゃん』(土間タイヘイ)、『美少女戦士セーラームーンCrystal』(地場 衛/タキシード仮面)、『ユーリ!!! on ICE』(イ・スンギル)、『BANANA FISH』(奥村英二)など。

「2019冬のアニメ」特集一覧

映画情報

『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰』
1月25日(金)ロードショー
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian』
2月15日(金)ロードショー
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__』
3月8日(金)ロードショー

https://psycho-pass.com/
©サイコパス製作委員会

サイン入りポラプレゼント

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応募方法
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受付期間
2019年1月23日(水)12:00〜1月29日(火)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/1月30日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから1月30日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき2月2日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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