夢中になったアプリが出会いをくれた。「GENIC」企画/編集・大島優の仕事と旅

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好きなことを仕事にする、だけでは評価されない時代。モチベーションを保ち続けるには? 私にしかできない仕事って何? より高く跳ぶためのヒントは、自分らしくキャリアを重ねていく女性たちの考え方や行動から、見いだすことができるかもしれない。

「ヒントはココにある。」第2回は、「GENIC」を発行するミツバチワークス株式会社で、企画/編集を担当する大島優。自分の“好き”に貪欲な女性たちに、ホットな情報を届けたいと願う彼女は、「暇さえあればInstagram(以下、インスタ)で写真を探索しています」と笑う。スマホを片手に、今のインスタのトレンドや、世界のフォトジェニックなスポットについて語ってくれる彼女のまなざしは、仕事に対する愛に溢れていた。

「ヒントはココにある。」一覧
大島優(おおしま・ゆう)
ミツバチワークス株式会社、GENIC 編集部所属。
GENICのPRINT(雑誌)およびDIGITALの、両EDITIONで企画/編集を担当する。
日本女子大学卒業後、女性向けWebサービスを提供する企業でディレクターとしてキャリアをスタート。2013年ミツバチワークスに参加。「GENIC WEB」、ブログサービス「Decolog」のディレクターを兼任して務めた後、現職に就いた。

■理想を共有し続けたから会社の中でチャンスをもらえた

――現在の仕事内容を教えてください。
「GENIC」の雑誌とWeb、両方の企画/編集をしています。クライアントの課題を「GENIC」のクリエイティブや企画で解決することが主な仕事ですね。オリジナルの特集やコンテンツ企画も平行して担当しています。

もっとも、企画/編集職に就いたのは最近なんです。入社してから6年間は、「Decolog」や「GENIC WEB」のディレクターを務めていました。弊社の代表と話す機会があるたびに、私がやりたいことを伝えていたところ、今後のキャリアを踏まえて「外に出る仕事をやってみるのはどう?」と提案してもらい、今に至ります。
――やりたいことというのは?
学生時代から、「女性がやりたいことを続けられる世の中になればいいな」と考えていたんです。そのため20代前半のころは、自分で同世代の女子向けコミュニティーを作ったり、イベントを立ち上げたりしていました。でも20代後半になると、ライフステージが変わる女性も多いですよね。試行錯誤しながら3年ほど運営していましたが、結果的に、イベントを続けることが難しくなりました。

それでも、女性のための場作りや、女性が輝くためのきっかけ作りをしていきたいという自分の思いは変わらなくて…。その理想を実現するためには、さまざまな人に協力してもらうスキルが必要。企画/編集の仕事を通して、足りないスキルを身に付けていきたいと考えています。
――生涯、女性の生き方に関わる仕事をしていきたい?
そうですね。女性の持つパワーは、もっと世の中に影響を与えられるんじゃないかとずっと思ってきました。個人でそのパワーを活かし切れないなら、みんなで少しずつパワーを発揮できるような場を作ればいい。すごくシンプルですが「やりたいことをやり切って生きよう」というメッセージを伝えていきたいですね。
――元々、ミツバチワークスは、IT会社ですよね。なぜ、雑誌の出版を行っているのですか?
ミツバチワークスは来年15期を迎えるのですが、WEBからのアプローチで雑誌を作ってみたいという代表の考えで、自社で取次コード、雑誌コードを取得し、10年ほど前から雑誌や書籍の出版を手掛けています。
「GENIC」の前身は「女子カメラ」は、子どもやネコ、花などを被写体に撮ることが好きな女性をターゲットにしたカメラ雑誌でした。でもこの数年で、カメラを使う女性のライフスタイルがファッションやトラベルも含み、圧倒的にスタイリッシュになってきたんです。そこで、カメラとトラベルを中心とした新しいライフスタイルを提案する「GENIC」という雑誌にリニューアルしました。
最近では海外インスタグラマーを表紙で紹介するなど新しい試みを始め、「日本が注目する世界ではなく、世界が注目する世界」を日本の女性に届けるメディアという色を打ち出しています。
――インスタのマーケットに、かなり早い段階から目を付けていたんですね。編集やWebサイトの仕事は、深夜まで作業を続けたり、休日出勤をしたりするイメージがあります。仕事のメリハリは、どうやってつけていますか?
校了(最紙確認)前やアプリのリリース前以外は、深夜まで残ることはありませんね。むしろ、夜8時くらいになると、社内にほとんど人がいなくなってしまうんですよ。それは、代表が「遅く残って、ダラダラ仕事をしても意味がない」という考え方の人だからかもしれません。集中して作業をした方が生産性も高いし、夜は好きなことに時間を使った方が良いという文化の会社なんです。
■想像していた場所と違う…旅先で出くわす全ての過程を楽しめばいい

「GENIC」6月号を手に旅をしたロサンゼルス(左)とニューヨーク(右)。

――今年はどこかに行きましたか?
毎年、年次有給休暇を全て旅で使い切っているんですけど、今年は、1月に結婚休暇でドバイ・モルディブへ、6月下旬に1週間ほど休みを取り、ロサンゼルスとニューヨークへ行きました。自分の旅が、そのままコンテンツになるわけではありませんが、インスタ上で行ってみたい場所を探すノウハウは、自分の旅を通じて見付けることが多いんです。

6月の旅行には、編集長アシスタントというポジションを任された「GENIC」の2018年6月号「LA vs NY」を持って行きました。
――ガイドブック代わりに雑誌を持って行ったんですか?
そうです。「雑誌が完成したら、これを持ってロサンゼルスとニューヨークに行ってきます!」って、作っているときから宣言していたんです。マップの校正と戦いながら(笑)。

6月号では「ロサンゼルスに行ったら、今はこのカフェに行くのが『GENIC』のおすすめだよ」とか、「イエローキャブと一緒に撮るのはニューヨークならではだよね」みたいに、最新カフェや、押さえておきたいフォトスポットなどをLAとNYを対抗させて紹介しました。そこで「紹介したスポットにどれだけ行けるか?」というのを旅のテーマに据えて、実際に自分の足で回ってきたんです。
――写真で見たイメージと異なる場所もありましたか?
ありましたね。ロサンゼルスのベニスビーチにある「VENICE」サインの前は、有名なフォトスポットなんです。ロサンゼルスを訪れる世界中のインスタグラマーが、そこの前で必ず写真を撮るんですよね。どんなステキな場所なんだろうと期待して向かいました。

確かに、宙に浮かぶサインだけを切り取ればステキなんです。でも、「VENICE」サインの反対側には、雑多なビルがたくさん建ち並んでいて、辺りの雰囲気は殺ばつとしていて (笑)。「みんな、うまく切り取るな」とか「あのステキな写真って、どう撮っていたんだろう」とか、いろいろなことを思いながら撮影していました。

海外のインスタグラマーが撮った写真の構図や加工を参考に実践している。

――ただの観光とは異なる、新しい旅の楽しみ方ですね。
私をはじめ、「GENIC」を読んでいる女性は、自分の目でその場所を見て、自分で写真を撮って残したいという思いがあるんです。実際に行ってみたからこそ生まれるエピソードがあるんですよ。
先ほどお話しした「VENICE」サインは車が多く通る交差点なので、三脚を立ててひとりで撮るのは危ない。行ってみたはいいものの、私はそのときひとりだったので「旅のパートナーがいるときじゃないと自分が入った写真は撮れない」と分かりました。「VENICE」サインの写真を見るたびに、そういったエピソードを思い出しますね。
――雑誌で紹介したスポットを回ったということですが、かなりの数のスポットが載っていますよね。どのくらい回られましたか?
ロサンゼルスは広くて、距離が離れた場所もあり、掲載したスポット全部は、さすがに回り切れませんでしたね。それでも、ロサンゼルスに4日間、ニューヨークに5日間で3〜4割は回れたと想います。每日、朝から晩までスケジュールを詰め込みましたが(笑)。お店が集中しているエリアでは、効率よく回りたいがゆえにカフェに行って、アイスクリームを食べて、再びカフェに行って…ということもありましたね。でもそれは、行って歩いて体験したから分かったこと。面白い旅の思い出として残っています。
■進化する自撮り。プロデュースされた「自撮り2.0」の写真たち
――インスタのトレンドって、日々変化していきますよね。最近は後ろ姿の写真をよく見ますが…。
世界の人気インスタグラマーの写真は、“風景に溶け込むように写る”というのが、大前提としてあるんです。だから、最近は日本の女の子たちも引きで撮った写真が多いですね。弊社で契約しているプロトラベラーは、「この場所に行ったら、こんなにステキだったよ」と旅の素晴らしさを伝えて、より多くの女性を旅に誘い、彼女たちの人生を豊かにすることがミッションなので、見る人に想像できる余白を残してあげることを意識していると思います。
――そう聞くと、インスタの写真の見方が変わりますね。
「自撮り」と聞くと、自分の顔をアップで写した写真をイメージする人が多いと思うんですけど、「GENIC」編集部では、手や体の一部が写っている写真も、引きで撮っている写真も全て自撮りと呼んでいます。その理由は、自分で構図やポーズを考えて、その瞬間を切り取る演出をしているから。私たちは、「Web2.0」ならぬ「自撮り2.0」と言っています(笑)。
――全身が写っている写真は、三脚を立てて、セルフタイマーで撮っているのでしょうか?
三脚を立てて、自分で遠隔シャッターを押すときもあるし、現地の人にお願いをして「ここでこのまま押して」「ずっと連写して」とお願いするときもあります。撮ってもらっている間に自分が動いて、スカートが広がっていたり、髪の毛がなびいていたりするような、自分が撮りたいと思う画を実現していきます。本当に、何十枚のうちの奇跡の1枚を見つけるような作業なんですよね。きれいな写真の裏側には、そういう努力があるんです。

インスタで、日々おしゃれな写真を探している。

――毎日写真を見ていると、見る目がどんどん厳しくなっていきそうですね。
写真をセレクトする目は、どんどん厳しくなっていると思います(笑)。「GENIC」は「世界が注目する世界」を発信する側として、読者に新しい気付きを与えてあげないといけないので。

誌面には、読者の写真もときどき載せているんですけど、クオリティーがものすごく高い。海外のインスタグラマーやプロトラベラーの写真を参考にして、日々、撮り方や加工を研究している人ばかりなんです。写真の加工に関しても、日々トレンドを追って、腕を磨いていると思いますよ。ちなみに今、私は“加工迷子”ですが(笑)。
――加工迷子?
加工のトレンドも、どんどん変わっていくんです。しかも最近は、そのスパンがどんどん短くなっています。「この加工いいな」と思ってマネし始めると、次のトレンドがやって来る。そうしているうちに自分にとってのベストな加工が分からなくなってくる。それを「GENIC」編集部では、加工迷子と呼んでいるんです。私たちは世界のインスタグラマーの写真を常に見ているので「世界のトレンドは、もうこっちにシフトしてるんだ!」と驚かされることもありますね。
■オフモードになることはない。仕事もプライベートも常に「オン」

――もしかすると、プライベートでもずっと写真を見ていますか?
家でも電車の中でも、ずっとスマホを見ています(笑)。例えば、特集企画が「LA vs NY」に決まったときは、ロサンゼルスやニューヨークを旅しているインスタグラマーをひたすら探していましたね。最新ホテルとか、最新のフォトスポットをリストアップして、そのフォトスポットでステキな写真を撮っている人を探していくこともあります。

探せば探すほどフィード(一覧)に出てきやすくなりますし、終わりがないんですよね。「同じ場所でも、もうちょっといい構図の写真があるんじゃないか」とか、締め切りギリギリまで良い写真を探します。これは、編集長の姿を見てきて、最後まで納得いくものを探すことがコンテンツのクオリティーを高めることにつながると思ったからなんです。
――オフモードになることはないのでしょうか?
ないですね。昔から、オンオフみたいな概念が自分の中になくて、「ずっとオン」って言っています(笑)。自分が企画したテーマが採用されたらもちろんうれしいし、サービスが世の中に出るまでの過程も楽しい。過程をひとつひとつ踏んでいくことが好きなんだと思います。

我が家ではホームパーティーをよく開きますが、イメージスケッチを描いて、装飾を組み立てて、「この料理、作るの大変!」とか言いながら準備をする…その全過程が好きなんです。一度完成したら、あとはもうぐちゃぐちゃになっても満足なんですよね。

「GENIC」編集部で開催したというホームパーティー。大島さんは、料理のメニューを考え、装飾も作ったそう。

■旅の熱は止まらない! プレゼンしてかなえた理想の新婚旅行
――次に行きたい国はありますか?
ポルトガルに行きたいです。街がカラフルですごくかわいいんですよ。私の父が、ポルトガル語学科を卒業しているので、父にポルトガル語をちょっと習ってから行こうかと思っています。
――どんなときに「この国に行ってみたい」と思うんですか?
やっぱり、きっかけはインスタですね。海外のインスタグラマーがよく行っている場所に行ってみたいと思うことが多いです。新婚旅行でドバイとモルディブに行ったんです。両方行きたかったので、ドバイ経由でモルディブに行けるルートを探して、旦那さんに「ドバイではこんな非日常でステキな体験ができます」「モルディブではこんなコテージに泊まれます」と、予算内で行ける方法も全て自分でリサーチしてプレゼンしました(笑)。
――旅に出ることが、モチベーションにつながっているのかもしれないですね。
そうですね。次の旅先を探したり、その地域でステキなお店がないか探したりするなど、ネタ集めが仕事にも活きています。プライベートと仕事の間をずっと行き来している感じですね。

――新卒で女子向けのWebサービスの会社に就職したとおっしゃっていましたが、当時イメージしていた「なりたい姿」は、もう超えていますか?
実は、当時は全く違う未来を思い描いていたんです。母が専業主婦だったので、「ベンチャー企業で思い切り働いて、30歳までに結婚して専業主婦になろう!」って…。でも、実際に社会に出てみたら、「結婚しても、母になっても自分の好きな仕事をずっと続けていきたいタイプだった」って早々に気付きました。

新卒のときに思い描いていた姿とは異なりますが、「こうなったらいいな」と思う方向には進んでいます。
――この地点まで到達したいという、ロールモデルのような存在はいますか?
ロールモデルは「GENIC」編集長の藤井ですね。彼女も元々はWebサービスのディレクターだったんです。ディレクションのスキルが、Webだけにとどまらず、リアルイベントにも紙にも、営業にも活かせる。そういう可能性を見せてくれる存在なんです。私もこの先、どんなプラットフォームでも企画を考えられる人になりたいと思いますね。
――身近にそういうモデルがいると良いですね。
彼女は、私が入社する前まで「自分以外、ディレクターはいらない」ってずっと言っていたらしいです。なので、藤井から「Decolog」のディレクターを引き継げたときは、自分の中ですごく達成感がありました。任せても大丈夫と思ってもらえたことが、すごくうれしかったですね。


インタビュー・文=東谷好依
写真=渡邊眞朗
デザイン=桜庭侑紀、msk
企画・編集=msk
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