合わせて120歳「ダンス界の金さん銀さん」はなぜ踊り続けるか

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「厳しい家だから反動でダンスにハマった」 娘からそう指摘されることもあるそうだ。

BAMBOO SHOOT(バンブーシュート)は、61歳のたちフラワーさん、58歳のムッシュさんのふたりからなるダンスチーム。「ストリートダンス界の金さん銀さん」が繰り出すムーブは老練で鋭利だ。ただ楽しむ、を超えた力強さがそこにある。

「年齢を重ねることをネガティブに捉えるか、ポジティブに考えるかは人それぞれ」。ムッシュさんは笑って答えた。

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2013年にダンス歴それぞれ20年以上の「たちフラワー」(写真左)と「ムッシュ」(写真右)が結成したハウス・ダンスチーム。2013年ヒップホップインターナショナルでオーバー40部門日本代表としてラスベガスでゲストパフォーマンスし、現在も多くのショーケースに参加している。その他、CM出演や振り付けなど他分野で活動中。
―それぞれのダンサーネームはどのように決めたのですか?
(ムッシュ)私は夫の仕事の都合でフランスにいたことがありまして。当時、男の人によく間違えられたんですよ。向こうでは男性を呼ぶとき「ムッシュ〇〇」と言うんです。私、何度も「ムッシュ」と声を掛けられて。その笑い話を元に今の名前にしました。

(たちフラワー)私は簡単。名字が立花だから、花の部分を英語にして「たちフラワー」です。
―ムッシュさんがダンスを始めたきっかけを教えてください。
(ムッシュ)子育てを終えた40歳過ぎです。フランスから帰国して友達からヒップホップのダンス教室に誘われまして。「じゃあ、ダイエットがてらやってみるか」と。

最初は筋肉痛がひどかったですけど「これは自分に向いている!」と感じました。
―ヒップホップは昔から好きだったのですか?
(ムッシュ)とんでもない。厳格な家庭だったのでクラシックばかり聞いていました。そのうち隠れてビートルズなんかを聞き始めて「リズムの音楽もステキだな」と考えるようになって。

ダンスを始めたとき、家族は「大丈夫? どうしたの?」と驚いていましたね。近所のママたちも「何やってるの!?」という反応でした。まあ、そうですよね。一緒に始めた人たちはひとりやめ、ふたりやめ…なぜか私だけ続いている(笑)
―たちフラワーさんがダンスを始めたきっかけは何ですか?
(たちフラワー)20年前くらいですかね。子どもがダンスを習いたいと頼み込んできて。昔はなかなかそういう教室もなかったんですけどね。なんとか探して子どもを通わせているうちに「なんだか面白そうだな」って、混ざりました。

当時はそこまで根を詰めて練習していたわけではなく、子育てや家事の合間に週1回、踊っていました。気が付いたら子どもは引いちゃって。で、そのまま。私だけが取り残されました(笑)
―おふたりはクラブ、ディスコなどに遊びに行かれましたか?
(たちフラワー)昔は、新宿の「カンタベリーハウス」や吉祥寺の「インデペンデントハウス」、赤坂の「ビブロス」とか。

(ムッシュ)うちはとにかく厳しかったもので、家のラジオでいろんな音楽を楽しんでいました。門限も夜9時だったので、夜遊びできませんでしたね。
―ムッシュさんがダンスにハマったのはその反動ですか?
(ムッシュ)娘からはそう言われますね。「厳しい家に育ったからこんなふうになったんだ!」って。
―どのような頻度で舞台に上がっていますか?
(たちフラワー)ショーケースには月に1、2回ぐらい。バトルもあれば出ます。一般的な若者と同じくらいの頻度じゃないかしら。

(ムッシュ)私たちと同年代になると、バトルに参加する人はなかなかいないですね。私たちみたいな年齢が珍しいから、特に海外では沸くんですよね。前に台湾では特別賞をいただいて。当時、怒涛のような歓声に驚きました。
―今までショーケースをしてきて印象深かったことを教えてください。
(ムッシュ)老人ホームでショーを行うこともあります。音楽が流れてダンスが始まると、うなだれていた人たちが起き上がって、なんだか楽しそうで。音楽とダンスの力はすごい、と思いました。

(たちフラワー)「来週コンテストに出るんです」って言ったら「がんばって!」と励ましていただいて。反対に元気をもらいましたね。

(ムッシュ)元気や気力がなさそうに見える人たちが、実は心の中では輝いているのかもしれません。なにせ、私たちの大先輩。人生の経験値は頂点です。

(たちフラワー)いつものよう3分間のショーケースだと予想していたら、40分間もあると聞かされて(笑) 昔のディスコの曲や日本の曲も織り交ぜて、トークも入れつつ、皆さんにポンポンを手にしてもらって一緒に盛り上がりました。とても楽しんでおられましたよ。
―ダンスはおふたりの人生をどのように変えましたか?
(ムッシュ)ダンスがなかったら平坦な人生だったかもしれません。ダンスは私の人生をとても豊かにしてくれました。今では生活の一部になっています。

(たちフラワー)私も同じ。ダンスをすることで多くの方と知り合えて、人生が広がった感じです。最近ではのめり込みすぎて、ヒップホップやアメリカの歴史を調べています。
―歴史の背景を学ぶことはダンスに影響を与えますか?
(たちフラワー)かなり。今まで知らなかった影の部分がたくさんあって、ハッとさせられることが多いです。

(ムッシュ)ダンスはカルチャーですから。異国の文化を消化して表現するため、歴史を学ぶことは大きな意味があります。
―ご自身の「歴史」、つまり人生はダンスに関係しますか?
(ムッシュ)私は子育てを終えてから始めたのが逆に良かったのかもしれない。ダンス以外にも、生きていくうえで多くを吸収したから今のスタイルがあるのかも。

(たちフラワー)これが正しい!と思い込まずに、多様な価値観を持つのは大事ですよね。
―おふたりはどんな子どもだったのでしょうか?
(たちフラワー)小さいころはとにかくおとなしくて引っ込み思案でした。通知表に「もっと手を挙げましょう」って必ず書いてあるの。

(ムッシュ)へえ、意外ですね。私は学級委員長とかに立候補するタイプでした。田舎だったし、絶対悪いことできなかった。ピアノやバイオリン、習字とかおけいこごとはたくさん行っていました。
―健康寿命において睡眠時間は重要で、7時間が理想などといわれています。睡眠はどの程度取られていますか?
(たちフラワー)私たち、かなり宵っ張りだよね。夜中までずっとメールのやり取りをしたり。夜の2時くらいまでは起きているから少ないかもしれません。

(ムッシュ)私も寝るのは夜2、3時かなあ。最近だと昼が暑いから少しお昼寝して、夜にごそごそと起き出す。

(たちフラワー)睡眠時間が長すぎると、それこそボケちゃうなんて話もありますよね。年取ったからか分からないけど、夜はなかなか眠れないんですよね。どちらかというと、規則正しい生活はしていないかも。

(ムッシュ)目が覚めちゃいますね。それで昼間にうたた寝しちゃって…以前にCNNの取材を受けたとき、昼間あちこちで写真を撮られて、最後にインタビューって段階で、一瞬寝ちゃったんですよ(笑) 目をつぶっているインタビューカットが掲載されていて面白かった。

(たちフラワー)年齢とともに寝るのが遅くなっていったのかも。子育てをしているときは早く寝ないといけなかった。次の朝も早いですから。

(ムッシュ)ショーケースで海外へ行ったときもあまり寝ませんね。時差ボケもあるけど。夢中になるものがあれば、別に健康寿命の「型」を意識しなくてもいいんじゃないでしょうか。それに、長生きするかどうかということと、人生が充実したものであるかどうかは、またちょっと違う問題かもしれません。

(たちフラワー)そうね。まず人生には楽しみがないとね。
―食生活で気を使っていることはありますか。
(ムッシュ)夜中にハンバーガーとか食べちゃってヤバいなあとは思うんですけどね。「これから走らないとこのカロリーは消費できないぞ」っていうときがたまに…。

(たちフラワー)食べちゃうんだよねぇ。「これはいけない」と思いながらも。
―若い世代についてどう感じますか?
(たちフラワー)ただの印象ですけど、最近は若い人があまり外国に行かなくなっちゃっているイメージがあります。

(ムッシュ)日本のほうが楽しかったりするのかな? 才能がある人たちがたくさんいるので未来は明るいとは思いますが。

(たちフラワー)昔より多くの外国の方が来日しているので、その人たちとうまくやっていくためには向こうの文化も学んでいくのは大事ですよね。日本人はのんびりしていて危機感が少ないと言われます。もちろん良いところでもあるんですが「日本人は他文化への勉強が足りていない」と欧米の人から指摘されたことがありました。

(ムッシュ)ダンスに関しても「せっかく良いカルチャーがあるのに、なぜ日本の伝統を取り入れないんだ?」とか、しきりに言われますね。
―おふたりがダンサーのTORIさんと一緒に着物を着てダンスした動画も、あのブルーノ・マーズから称賛されました。
(ムッシュ)まさにあの反応です。「自分たちの文化はこうだ!」と誇るのはすごく大事。日本古来のカルチャーは全然カッコ悪くない。海外から見れば最高にクールなんです。
―最後に「年を取る」というのは、どのようなことだと思いますか?
(ムッシュ)種から芽が出て、熟して大樹になるのが正解で、途中で枯れてしまうのが失敗と思われがちですが、そうじゃない。その時々でしか見られない美しさや味わいがあると思います。

私たちもまだ過程にいますからね。年齢を重ねることをネガティブに捉えるか、ポジティブに考えるかは人それぞれ。でも、できるだけ「この歳になったら今までできなかったことをやってみたい」とか、目標を持つといいんじゃないでしょうか。90歳を迎えても「今から新しい〇〇始めます」なんてかっこいいじゃないですか。

(たちフラワー)20歳の人は同じ世代の気持ちしか分からない。でも60歳の人は、経験があるからどちらの気持ちも理解することができる。年を重ねていくのはすばらしいことです。

「ああ、おばあちゃんが昔言っていたことはこういうことか!」と気付くときが必ずやって来る。どんどん進化していくことができる。今はね、私が若い人に何かを話しても、あまり理解されないかもしれない。私も若い頃はよく分からなかったですし。そういうことが順繰りに続いていくのが「年を取る」ということなのだと思います。

企画・インタビュー・文=森田浩明
写真=西田周平
デザイン=桜庭侑紀
協力=シニアモンスターズ
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