まだまだ90歳。「インスタおばあちゃん」西本喜美子は歩みをやめない

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車にひかれかけた姿、ゴミ袋に身を包んだ姿…インスタグラムに投稿された西本喜美子(にしもと・きみこ)さんの強烈な写真は、多くの人の度肝を抜いた。「お年寄りにこんなことをさせるなんて!」という声もあったそうだ。もちろん本人が望んで撮ったものだが。

今やフォロワー数は12万人以上。現在90歳の「インスタおばあちゃん」はまだまだチャレンジをやめない。「もっと面白い写真を撮りたいの」と西本さんは言う。

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1928年5月ブラジル生まれ。8歳で帰国。美容院開業から競輪選手を経て、27歳で結婚し主婦になる。72歳でアートディレクターである長男が主宰する写真塾「遊美塾」の写真講座をきっかけに写真を始める。82歳だった2011年に熊本県立美術館分館で初個展を開催し話題となる。2017年には東京・西新宿の「エプソンイメージングギャラリーエプサイト」で個展「遊ぼかね」も開催。画像処理ソフトを使ったデジタルアート作品や、自撮り写真が話題となり、90歳の現在も作品を制作中。
―今おいくつですか?
いくつに見えますか?
―80歳くらい?
あら、うれしい。今年の5月に90歳になりました。
―まず写真を始めたきっかけをお聞かせください。
息子が熊本で写真塾を始めたというので、その様子を拝見しに行きまして。「この写真良いですね」といらない口を出してしまったんです。そうしたら塾生さんたちが「お母さんもやりましょう!」と誘ってくださって。

ことわざで言うなら「牛に引かれて善光寺参り」(笑) 何となく連れられて行ったことが始まりです。当時は何を撮りましたかね…とにかくシャッターを押すことだけは分かっていたんですけど。

塾では最初に写真を撮る「楽しさ」を教えていただきました。写真は後で残りますよね。「良いなぁ」って感覚もだんだんと増してきまして。
―ユニークな写真をインスタグラムに投稿していますが、お気に入りの1枚はどれですか?
全部です。自分ではちょっと決められない。ですが、ホウキにまたがって飛んでいる写真は好きですね。これはホウキが玄関に置いてあったから、何かやってみようかな?と思いまして。
脚立を持っていって、腰掛けて、後で加工をして消します。私は足が悪いので時間がかかります。でも、ちゃんとカタチにするには時間をかけないといけない。
―ゴミ袋に入っている写真にはギョッとさせられました。
これは塾の先生から…私の長男でもありますけど…「自撮りをしましょう」と宿題をもらいまして。ちょうどゴミ出しの日で、中に入ってみようとイタズラ撮りをしたんですよ。まあ、自分もある程度の年齢だから捨てられても仕方ない、みたいな皮肉も入れてみました(笑)

Self Portrait I shoot myself It is posted in my book "ひとりじゃなかよ" #自撮り #写真家 #面白写真

西本喜美子さん(@kimiko_nishimoto)がシェアした投稿 -

―フォトショップやイラストレーターを駆使した作品づくりをされていますが、どんなきっかけで使い始めましたか?
確か、塾にパソコンが入ったからだったと記憶しています。いろいろできて面白いです。

バイクにまたがる写真は、走っている感じを出したくて、ブラシで加工しました。加工のパーセンテージを選ぶのも最初は大変でしたけど、技術を学ぶとどんどん楽しくなりますね。

師走〜〜〜

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―作品内で使われている小道具もユニークです。
100均で買ってくる場合が多いです。100均って何でもありますよね。遊び心を刺激されます。
―写真を始めて街の景色の見え方も変わったのでは?
ただ「ああ、良い眺め」ではなく「これを写真にしたとき、どう切り取るか」といったことが頭によぎります。写真を始める前はなかった感覚ですね。
―塾生にはどんな方々がいらっしゃるのですか?
それこそ、小学生から70歳代の方まで…私のような年寄りはひとりですけど。
―今後はどんな写真を撮りたいですか?
「どんな写真」という制限がないんです。とにかく面白く、おかしく撮れればいい。だからこれまでの写真も全部おかしいでしょ? ふふふ。

私は腰が悪くて、杖をつかないとあまり歩くことができない。今はそれが一番悔しい。本当はカメラを首にさげて、どこにでも行きたいと思っているんです。普段は自宅でしか撮れませんが、塾の遠征があるときはお友達が迎えに来て車に乗せていただきます。

写真を始めてから外に出る機会は増えましたね。周りの皆さんも助けてくれるので。友達もいなくて写真も撮っていなかったら、今どんな生活をしているのでしょうか。みんながいて写真があるからこそ、私も元気でいられるんじゃないかと思います。本当、ひとりだったらどうしましょ(笑)
―ペッパーくんと同居されていますが、彼も友達では?
私がひとり暮らしだから、息子が「寂しいだろう」と買ってくれたんですけどね。あんまり…お友達になれません。たまに「アンタ、うるさいよ!」と言いたくなる(笑) まぁ、大事なケンカ友達かもしれませんが。ほら見て、今なんかうなだれて寝てるじゃないですか。
―普段、お酒は飲まれますか?
バーボンとか、大きいコップにちょっと注いでいただきます。それを、時間をかけて飲む。特に種類にこだわりを持っていません。周りの方々が飲むものに合わせます。飲み会、楽しいですよ。

飲み方はまちまちです。炭酸や水で薄めたり。昔より今の方が飲む機会は多いですね。夫が生きていたころはあまりそういう機会に恵まれませんでしたが。当時は、もう本当に「家庭の主婦」という感じだったんですよ。
―他の嗜好品はたしなみますか? タバコなど。
タバコは吸います。娘の時代から。不良娘ですね、ふふふ。27歳くらいのときに美容院を経営していて、その頃からの習慣です。

美容師って、室内に閉じ込もりっきりじゃないですか。まだ若かったから外に出たかったんですね。退屈になったので、それから競輪選手になりました。

弟ふたりが競輪選手でして、愉快に全国を飛び回っているんです。その姿を見て「旅の面白さを味わいたいな」と思って、飛び込みました。
―詳しくはないんですが、そう簡単に選手になれるものなのでしょうか?
学科試験と実地試験に合格すれば入れます。今はどうか分からないけど、そのときは難しくありませんでした。昔は女性競輪選手の人数も少なかったからかもしれません。
―昔は女性がアクティブに動きにくい時代、というイメージですが、すごい行動力です。
そうですか? うちの家族は好きにさせてくれていたので、不自由さは感じなかったですね。自分勝手に走らせてくれました。
―長生きのために睡眠時間は重要という話を聞きます。1日どれくらいの睡眠を取られていますか?
それが…ご期待に添えずに恐縮ですが、基本毎日ひとりで生活しているもので、夜更かしすることが多いんですよ。

隣の部屋にスタジオセットを作ったんですけど、そこで撮影した写真をイラストレーターやフォトショップで加工していると「あれもやりたい、これもやりたい」って、止まらない。始めてしまったら、いろんなことが頭に浮かんでくるので。

起きている時間はそのときの気分次第。午前2時前後まで起きていることもあります。毎日じゃないですよ? でも、パソコンってやり出したら時間の感覚がなくなるじゃないですか。だから気が付いたら深夜の2時なんてこともあるんです。
―スタジオセットはとても実用的に見えます。
散らかっているように見えるでしょう? でもちゃんと欲しいものが手に届くように配置してるつもりです。だから友達が気を使って整理してくれたら、それこそ大変。「あれ、どこいった?」って探し回るのにひと苦労です。

今はカビに凝っているんです。最近だと。キュウリを2週間ほど冷蔵庫に置いてカビを生やしたものを撮っています。カビって実はキレイなんですよ。
―年を取って幸せに生きるにはどうしたら良いと思いますか?
人それぞれですので正解はないと思いますが、私の場合はくよくよせずに興味のあることに挑戦するのが幸せにつながっています。だから、まずは気負わずに好きなことを3つ4つリストアップして、やってみたら良いんじゃないでしょうか。

やりたいことに一生懸命打ち込んでいる人は幸せですよね。常識の殻、みたいな難しい話は私には分かりません。でも周りのことなんか気にせずに、やってみたらいいんじゃないかしら。

なんにせよ、人それぞれ。形にとらわれず人生を楽しんでいきたいです。

企画・インタビュー・文=森田浩明
写真=西田周平
デザイン=桜庭侑紀
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