「パッと見てかわいい」が大事。視覚を喜ばせる、スイーツデコレーター・AI OKADAの仕事術

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好きなことを仕事にする、だけでは評価されない時代。モチベーションを保ち続けるには? 私にしかできない仕事って何? より高く跳ぶためのヒントは、自分らしくキャリアを重ねていく女性たちの考え方や行動から、見い出すことができるかもしれない。

「ヒントはココにある。」第3回は、スイーツデコレーターのAI OKADA。日本人離れした色彩感覚を持つ彼女のアイシングクッキーやデコレーションケーキは、芸能人にもファンが多い。「私は周りの人に助けられてきただけ。ラッキーなんです」。そう話す彼女の、仕事に対する真っすぐ過ぎるほどの姿勢に迫った。

「ヒントはココにある。」一覧
AI OKADA(あい・おかだ)
スイーツデコレーター。2010年からオーダーをスタート。色彩豊かなアイシングクッキーやデコレーションケーキが、芸能人やファッションブランドから圧倒的な支持を受けている。お笑いタレント・渡辺直美や女優・仲里依紗のバースデーケーキ、モデルのジジ・ハディットをイメージしたデコレーションケーキなど、制作実績多数。現在、オーダーの受け付けは紹介制のみ。

■“美容師になる夢”と「何か」を求めて上京を天秤にかける

今回のために作製していただいたケーキ。

――アイシングクッキーやデコレーションケーキを作り始めたのはいつからですか?
出産する前、飲食店で店長を務めていたときからですね。当時は、デザインの凝ったデコレーションケーキをあまり見掛けることがなかったので、頼まれるようになって、何となくデザインを考えて作っていました。出産してそのお店を辞めて時間ができたので、個人でオーダーを受けて作り始めたのが8年前です。
――そうなんですね。パティシエなど、スイーツに関わる仕事をされていたのかと勝手に想像していました。
パティシエの経験どころか、調理師の専門学校にも通っていないんです。でも高校は、家庭科学科出身です。一般科目の他に、栄養学を学んだり調理実習をしたりしていました。出身校には、家庭科学科と服飾デザイン科があって、どちらに進もうかすごく悩んだんですよ。たぶん、人生で一番悩みましたね (笑)。もしそのとき服飾デザイン科に入っていたら、服の仕事をしていたかもしれません。
――そこが最初の岐路だったんですね。将来、手に職をつけたいと思って、その高校に入ったわけではないんですか?
母から「手に職をつけなさい」と、ずっと言われていましたね。でも、飲食に関わる仕事に就こうとは考えていませんでした。当時は美容師になりたくて、行きたい専門学校が東京にあったので、都会にも出られるし一石二鳥だと思っていたんです。ところが、兄が学費の高い大学に通っていたので「あなたにまで高い学費を出せない」と言われて…。地元・青森の美容学校なら行っていいと言われたんですけど、美容師の夢と上京を天秤にかけて、上京することを選びました。
――上京の目的は?
就職も進学も決めずに、ただ上京したんです。東京に行ったらモチベーションが変わるかもしれないと思い、親の反対を押し切って出てきました。東京で最初に勤めたのは、飲食店のホールスタッフ。その後も、ずっと飲食店で働いてきました。20代半ばのときに、たまたま店長を任された店で、デコレーションケーキを作るチャンスに恵まれたんです。
――個人で始めた当初は、知り合いからオーダーを受けていたんですか?
知人の店でお客さまからオーダーを受けていました。その中に、まだ芸能界に入る前のGENKINGがいたんですよ。
――じゃあ、アイシングやデコレーションの技術はすべて独学?
学びたいことがあったので、ケーキ屋さんに2年間だけ勤めました。働きながら個人でもオーダーを受けていて、四六時中甘いものに囲まれていましたね。

朝起きて、子どものご飯を作って、すぐ出勤して、帰ってきて子どもが寝たらオーダーの準備をして…。そのときが一番忙しかったかもしれません。
■全ては周りの人たちのおかげ。営業ゼロ、口コミだけで広がるスイーツ

――「軌道に乗ってきたな」と思ったのは、いつ頃ですか?
5〜6年前ですね。徐々に忙しくなり「軌道に乗ってきたな」と思った途端に、沖縄移住を決めました。
――えっ! 沖縄って、生クリームを扱うのに適した環境ではないですよね。
そうなんです。生クリームは溶けやすいし、クッキーも湿気でやられてしまうし…。しかも、沖縄にクオリティーの高いアイシングクッキーを作る作家さんがいることを、移住してから知ったんですよね。「今のままじゃオーダーを取れない」と思って、猛練習しました。

ひたすらクッキーを焼いて、アイシングクリームを泡立てて。アイシングクッキーは、クリームがちょっとでも軟らかければ、すぐにじんでしまうんです。クリームを何回も作っては捨てて…を繰り返す日々でした。
――ちなみに、なぜ沖縄だったんですか?
実家が青森で、海といえば岩場ばかりだったので、初めて沖縄のビーチを見たときに感動したんです。ずっと沖縄に住みたいと思っていたんですが、住んでみたら仕事をする上では予想以上に不便で…。

私の仕事は、「この日に届けてほしい」とピンポイントで指定されるので、台風が来たらスケジュールが狂ってしまうんです。なので、子どもが小学校に入学するタイミングで、移住生活を切り上げました。沖縄には、1年半〜2年ほどしかいませんでしたね。
――東京に戻ってきて、またゼロから始めることになったんですね。
ゼロからでした。でも、戻ってきたことを伝えたら、東京にいたときのお客さまがまたオーダーをしてくれて。本当にありがたかったです。
――芸能人の方からもたくさんオーダーを受けていると思いますが、どのような過程を経て、今のような状況になったんですか?
沖縄にいたときに、GENKINGが芸能界に入って、名刺代わりにアイシングクッキーを配りたいとオーダーしてくれたのがきっかけですね。東京に戻ってからは、GENKINGや周りの人が「この人をつなげていい?」と紹介してくれて、オーダーが増えていきました。今の状況があるのは、周りが盛り立ててくれたおかげなんです。
――自分から営業は特にしていない?
営業は一切せず、口コミだけですね。
――そのスタイルだと、どうやってオーダーが来るんでしょうか?
オーダーを受け始めた当初は、Instagram(以下、インスタ)のダイレクトメッセージ(以下、DM)や、Facebookのメッセンジャーを介してオーダーを受けていました。日付やデザイン、お金のやりとりなどもそこで行っていましたね。今は、LINEでのやりとりがほとんどです。「この人がオーダーしたいと言っているから、LINEをつなぐね」って。
――今は紹介制なんですよね?
今は紹介制のみです。沖縄にいたときは、一般のオーダーも受けていました。

ただ、私の仕事は、周りの方が広めてくださったようなものなので、その方のオーダーを断ってまでご新規さんを作りたいとは思わないんです。もちろん、オーダーをいただくのはありがたいですが、周りの方の幸せを優先したいんですよね。
■SNSにアップしている写真でその人の好みを探る

少し迷いながらも、テキパキとデコレーションしていくAIさん。

――――「こんな大御所からもオーダーが来るんだ!」と思った方はいますか?
実は、オーダーを受けてから活躍を知ることが多いんですよね。さすがに、渡辺直美さんは知っていましたが、普段テレビをあまり見ないし、芸能人に疎くて…。
――知らない方の場合、デザインはどうやって詰めていくんですか?
お任せの場合は、インスタに投稿している写真を手掛かりにすることが多いです。加工の仕方や色のトーンもそれぞれ違いますから。写真って、その人の好みが表れやすいですよね。
――オーダーした方も、届くまでどんなデザインか分からないんですか?
企業からオーダーを受ける場合は、打ち合わせをしたりサイズ感を出したりしますけど、個人からのオーダーはお任せがほとんどなので、届くまで分からない方が多いと思います。たまにこだわりの強い方がいて、イメージを絵に描いて、事前にお送りいただくこともありますね。
――今まで、難しかったオーダーはありますか?
基本的に、人の顔を描くのは難しいです。線がひとつズレるだけで「似てないな…」ということになってしまいます。昔作ったものを見ると、下手だなと思いますね(笑)。

高さのあるケーキも難しいですね。渡辺直美さんの30歳のバースデーケーキを作らせていただきましたが、3段だったので大変でした。ケーキに支柱を入れるという手法を知らなくて、グラグラ揺れて、会場に着くまでに不安過ぎて寿命が縮まりましたね。仲里衣紗さんのケーキも3段で、そのときは支柱を入れましたが、やっぱり大変だった覚えがあります。

(左)お笑い芸人・渡辺直美の30歳の誕生日に作製したケーキ。
(右)女優・仲里依紗が夫で俳優の中尾明慶に贈ったケーキ。

■“作り込む”という意識を手放す

――オーダーがたくさん入ると、げんなりしてしまうこともあると思いますが、テンションを上げるために必ず行うことはありますか?
私は追い込まれないとテンションが上がらないので、予定をけっこう詰めちゃいます。作業し始めたら楽しいんですけど、それまでは「わー、すごいスケジュールだ…」って思いながら、ひとりで焦っていますね。
――どうやってスイッチを入れるのでしょう?
音楽をかけます。作業中はずっと音楽を聴いているかも。90年代頃のHIP HOPをよく聴いています。
――どうしてもテンションが上がらず、煮詰まってしまったことはありますか?
煮詰まった経験はありませんが、プレッシャーに押しつぶされそうになったことはあります。悩みすぎて吐きそうだし、時間もないし、どうしようって。でも、知り合いから「愛ちゃんは、あまり考えない方がいいもの作れるよ」って言われたんですよ。「作り込まれたもの=良いものじゃないからね」って言われて、楽になりました。私にオーダーをくださる方は、精巧に作られたものよりも、パッと見てかわいいものを求めているんですよね。だから今は、どんなオーダーが来ても考え込まないように気を付けています。

■「味覚より視覚」と割り切ってデザインを考える

――ほかのスイーツショップのケーキやクッキーなどを参考にすることはありますか?
あまりスイーツの食べ歩きなどはしないですし、特に参考にしているものはありません。ケーキのオーダーをいただく場合、最近は中身が発泡スチロールのときも多いので、スイーツショップなどで売られているケーキとはまた別物だと思っています。大きいケーキを作ると、下のほうが潰れてしまうので、下段は発泡スチロールに生クリームを塗って、上段だけ食べられるようにしています。

私の仕事は、味覚より視覚を求められていると思っているので、その辺は割り切っています。その代わり、SNSに載せたくなるようなデザインを心掛けていますね。
――自分から「SNSに載せてください」とは言わないんですか?
絶対に言わないです。「私のインスタに載せていいですか?」っていうのは確認しますけど、お客さまには強要しません。自然と載せたくなるものを作ろうと思っています。
――クッキーの型は、オリジナルで作ることもありますか?
オリジナルで作っています。既製品だと、思うようなサイズが見つからないんですよね。8年間、クッキーとケーキしか作っていないので、作りたい型がなくなったというのもありますが (笑)。
――型のストックはどのくらいあるんですか?
1回使ったら基本的には全部捨てています。オーダーを受け始めたころは、全部取っておいたんですけど、使う機会がないことに気付いたんですよ。汎用性のあるものだけ残しておきますね。
■身なりがボロボロになるまで集中する

――クッキーのオーダーを受けるときは、どのくらいの数を作るのでしょうか?
100〜200枚くらいが多いですね。
――そんなに!
1000枚作ったこともあったので、200枚くらいじゃ、もう驚かなくなっちゃいました(笑)。とはいえ、クッキーのオーダーが入ったときは時間がかかるので、ほかのスケジュールを入れないようにしています。デザインにもよりますが、100〜200枚のときは、集中すれば2日くらいで完成しますね。一気に描くのは、100枚が限度かな。200枚以上になるときは、100枚描いたら休憩を入れるようにしています。
――全部同じように描けるって、職人技ですよね。
すごく神経を使いますし、身なりに構わなくなるほど集中しますね。髪がぼさぼさになっていることがよくあります(笑)。
――オーダーが多いと徹夜することもありますか?
徹夜もしていました。でも今年に入ってから、少しスケジュールを緩めるようにしています。子どもが小学校3年生になり、だんだん親の手から離れるのが見えてきたんですよ。一緒に過ごす時間を増やしたいし、やっぱりお母さんに余裕がなくなると、子どもも余裕がなくなるので。ちょっとやり方を変えないといけないなって、今も思っています。
――紹介制とはいえ、お断りするときもあるのでしょうか?
スケジュール的に難しいときは、お断りすることもありますね。あとは、海外のデコレーションケーキみたいに、ツヤのあるカラーを想定されている場合もお断りします。海外のデコレーションケーキはバタークリームを使うことがほとんどですが、おいしくないし、コストも上がってしまうので、できるだけ生クリームを使うようにしています。
■今は情報があふれ過ぎ。だから街を歩いて「あ、いいな」を見つける

――お会いするまで、どんな方なんだろうと思っていました。SNSに、ご自身のことはあまり載せていないですよね。
そうですね。私はあまり情報を出していないからこそ、人から見えないところでもきちんと身なりや仕事をしておかなきゃいけないと思っています。
――アイシングクッキーと聞くと、普通のパティシエとは違うイメージを抱く方も多いかもしれませんね。
私はパティシエだとは思っていなくて…肩書きを聞かれるといつも悩んじゃいます。
――そうなんですね。では、お仕事をされる上で、マイルールみたいなものはありますか?
今は情報があふれ過ぎているので、情報を見過ぎないことですね。テレビもあまり見ないし、そもそもあまり人に興味がないのかもしれません(笑)。ストリートカルチャーが好きなので、街を歩いて「あ、いいな」と思うものを探しています。
――街を歩いて、デザインのヒントを見つけたりすることもありますか?
ありますね。電柱に書いてある文字とか、壁に貼られているステッカーに目を引かれることが多いです。あと、昔ながらの古びたタバコ屋さんがめっちゃかわいいなと思っています (笑)。最近だと、フォントの使い方がダサくてかわいいなって思うのがラブホテルの看板…ハマっています(笑)。

そうやって見たものって、たぶん、肌が吸収しているんですよね。クッキーやケーキのデザインにも自然と表れていると思います。
――オフの日は何をしていますか?
東京はもう遊び尽くして行きたいところもないので、オフの日は自然の中で遊ぶことが多いです。あとは、お酒を飲んだり、花を買いに行ったりするくらいかな。
――普段、ネットでは何を見ていますか?
ZARAのウェブサイトです(笑)。ZARAのコーディネートがすごく好きなんですよ。柄と柄を合わせたり、黒人モデルに真っ白な衣装を着せたりしているのがかわいいなって。トレンドが分かりやすいし、遊び心にあふれていると思って見ています。ネットでは、そういうのを見たり、音楽を聴いたりしているくらいですね。
――雑誌も読まない?
女性誌は、美容院へ行ったときによく読みます。たまにメンズ雑誌も読みますね。
――なぜメンズ雑誌なんですか?
フォントの使い方や種類を見ています。ここにこのフォントを使うんだ、とか。クッキーやケーキに文字を書くことも多いので、街を歩いているときも斬新なフォントを見掛けたら、つい凝視してしまいますね。
■人生を変えたいなら“ちょっとの勇気”を持つこと

――ウェブサイトは作らないんですか?
作ろうと思っていたんですけど、作ったところで生産性が上がるわけじゃないな、と。情報があふれ過ぎているから、逆に出さなくていいやと思っています。「どんな人が作っているんだろう」と想像してもらうくらいがちょうどいいかな。

自分から発信するのは、インスタに写真を載せるくらいですね。沖縄に行くときに、友だちから「インスタやってよ。沖縄の生活も見たいから」と言われて始めてみることにして、今ではインスタがウェブサイトの役割を果たしています。
――クッキーやケーキだけで勝負しているところがすごいな、と思います。こういう生き方ができてうらやましい、と思っている人がいっぱいいると思いますよ。
本当ですか? でも、ちょっとの勇気だと思います。私は海外に住みたいと思っているんですけど、ちょっとの勇気が足りないんです。子どもを連れて世界一周しているママ友とかを見ると、いいなと思いますね。ちょっとの勇気を持てば、人生が変わりますよね。
――今はおひとりで全て完結されていますが、今後スタッフを雇うなど、拡大していく予定はないんですか?
周りからは「ビジネスしなきゃダメだよ」「なんで稼げるのに稼がないの?」って、しょっちゅう言われています。でも、あまりお金に興味がないんですよね。「ある程度、自由なほうが幸せなんだよね」って言ったら、みんなに怒られる(苦笑)。
私にとっては、自由が一番大事なんです。自由になるために働いているのに、たまにオーダーを抱えて不自由になるんですよ。「何してるんだろう?」って思ってしまう瞬間があります。
――周りからすれば、スキルも人脈もあるのにもったいないと思っちゃうんでしょうね。
たぶん、私は自分で全てやりたいという気持ちが強いんです。ただ、時代に合わせて、また違うマインドで製作できればと思っています。

青森りんごファンミーティングに参加した際、クリスマスツリーに飾るオーナメントとして作成したりんごのクッキー。

――この人のために仕事をしてみたいという方はいますか?
誰か特定の人というのはありませんが、地域貢献をしたいと思っています。高校時代を振り返ると、地元に娯楽がなさ過ぎてつまらなかったので(笑)。今になって、その環境の良さが分かったんですけどね。母校で講師ができればいいな、と思っていて話を進めているところです。

さっきも言いましたが、いずれ海外に住むというのが今の夢。ちょっとの勇気さえ出せば、どこでも、誰とでも仕事ができると思っています。


インタビュー・文=東谷好依
写真=渡邊眞朗
デザイン=桜庭侑紀、msk
企画・編集=msk
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