2.5次元演劇への風当たりは、まだ厳しい。伊勢直弘「でも、死ぬほど楽しいんです」

小説・西尾維新×イラストレーション・中村 光の初タッグ作品となる「十二大戦」(集英社刊)が舞台化。十二支の名を宿す12人の戦士たちが、“1つだけ叶えられる願い”を賭けて戦う。2017年10月から12月までテレビアニメが放送され、Webマンガ誌「少年ジャンプ+」では、暁月あきらによるマンガ版が連載中とあって、舞台ならではのバトルロイヤルに注目が集まる。

2018年5月4日の開幕を直前に控え、ライブドアニュースでは、キャストとスタッフにインタビューを行い、さらに稽古場にも潜入。舞台「十二大戦」の魅力を全3回にわたってお届けする。

第3回は、脚本・演出の伊勢直弘にインタビュー。2.5次元演劇に携わる上で大事にしているのは、「どれだけ再現できるか」ではなくて「どれだけ演劇に変換できるか」。本作への思い、そして伊勢が見つめる2.5次元演劇の未来とは。

撮影/すずき大すけ 取材・文/江尻亜由子
ヘアメイク/山崎照代(viviana)
デザイン/前原香織

「舞台「十二大戦」」特集一覧

血の通ったドラマとして、「十二大戦」の物語を表現したい

まずは今回の舞台「十二大戦」について伺います。伊勢さんにお話がきたのはいつ頃ですか?
この作品の脚本と演出をやってほしいと、最初にお話をいただいたのは、アニメが始まる前でした。去年(2017年)の秋くらいにアニメが始まったから、夏の終わり頃だったと思います。小説の概要しか知らなかったので、徹底的に読み込んで。
先読みできない部分が多いし、過程がすごくエキセントリックで面白かったので、ものすごく引き込まれたんですけど、読み終わってから、これは大変だぞ、と(笑)。楽しく読めちゃったぶん、読み終わってから頭を抱えた部分はありましたね。
脚本を書き上げるのには、どれくらいの時間をかけるものなんですか?
打ち合わせをしてから、ひと月くらい猶予をいただくことが多いです。それで初稿を上げて、プロデューサーさん的にはどういう要素をより濃くしたいか、というオーダーをもらって、第2稿という形で書いて。今回でいえば、11月末か12月には初稿ができてたのかな。でも短いところだと「3週間でなんとかならない?」って言われることもありますね。
えーっ!
あんまり短い期間をこういう場で話すと、「それでいけるんだ」と思われても困るんですけどね(笑)。
今回は執筆されてみて、いかがでしたか? 難産だったとか、比較的スムーズに書けたとか。
苦労は相当したんですけど、小説の軸の太さと、アニメに変換したときに「なるほど、このやり方があるのか」って参考にできた部分に助けられたところがあって。そのぶんだけ、一気に書けちゃう部分と、俯瞰で見ながら、冷静に判断しながら書いた部分とがありますね。
この作品だからこそ、ということで詰め込んだアイデアはありますか?
演出的に、象徴的なシーンをリフレインさせることがあるんですね。「ここからすべて始まったんだよ」っていう。
2度3度足を運んでくださるお客さまがいらっしゃるので、「あ、ここですでにこういう関係ができてたんだ」とか気づくことができるように、リフレインで何度も見せる形を取り入れています。それをどれだけ見つけられるかなっていう楽しみは、演劇ならではなので。
何度も足を運んで、発見してもらいたいっていう。
それもあるし、初めて見るお客さまでも、見落としがちだろうが何だろうが、こちらとしては最初から血の通ったドラマにしたいという気持ちもあります。何が題材であろうと、「演劇」を作りたいっていう気持ちがあるんですよね。
伊勢さんにお話があった時点で、キャストは決まっていたのでしょうか?
お話をいただいた時点では決まってなかったですね。演出家が推薦することもありますけど、今回は「このキャラはこの人だよね」っていうところで、プロデューサーさんと意見が合ったところは多かったです。「やっぱそうでしょ!」と。
寝住(ねずみ)役を北村 諒さんが演じると聞いて、どう思われましたか?
あ、もう安心だな、と。キャラクターも、役者としての実力も充分知っていて、尊敬できる役者さんです。信念とか演技に対する誠実さっていうのはきちんと持っているけれど、オーダーに対しては柔らかい。「柔らかい」という印象が強いけど、だからといってポリシーがないわけではなく、芯が強い。非常に面白い俳優ですね。

想定内じゃつまらない。稽古場で生まれる化学反応を大事に

伊勢さんが、演出をする上で心がけていらっしゃることはありますか?
まず、基本方針は「厳しくないけど、甘やかさない」。「オラオラ」とは言わないんだけど、「うん、それ、できてないからもう1回いこうか(ニッコリ)」って。
にこやかに厳しい(笑)。演出だけ、脚本だけ、というお仕事もあると思うのですが、今回は両方ですよね。それは2倍大変なのか、自分で両方できるほうがやりやすいのか、どちらですか?
作品にもよりますけど、メリット、デメリット両方あって。両方やるときは、やっぱり自分が書いたものの理解からスタートできるというメリットはあります。別々に手がける場合は、「書き手の意図はこうだったけど、読み取ってみたらこういう形になっていた」みたいに、意外な発見というのが、化学反応的にあって。
なるほど。
脚本・演出の両方やる場合は、現場で起こったことを新鮮に取り入れるっていうことが起こらないと、脚本を書いた時点の想定内でしかなくなっちゃう。だから役者からもらうものって、すごく多いです。
稽古中に、内容が変わっていくこともあるんですね。
ありますね。「あ、そういう解釈してきたんだ。でもそれ間違ってないから、そっちにしちゃえ!」とか。
「最近の若者は……」という言葉をよく耳にしますが、若手の役者さんと接する中で思うことなどありますか?
年代による違いは、気にしたことがないですねぇ……。僕、学生も教えていて。そういう年代の子とずっと一緒にいるから、自分が若い気でいるのかもしれない。自分自身のことがわかってないのかもしれないです(笑)。
では、学生さんや若手の役者さんを指導するときに大切にしていることは?
発見をしてもらう、ですかね。やっぱり本人がそれを理解しないと、あまり価値を生まないと思うんですね。
外枠で「こうやって」という段取りを決めると、理由もわからずそれを守ろうとしがちだけど、「こういう理由があるから、こう演じてほしいんだな」と発見してもらうことが大事で。意味がわかってやれば、そこからブレることはあっても、間違うことはないんですよ。なので、時間をかけてでも発見してもらいながらやっていきたいな、とは思いますね。
ご自身の役者としての経験が、演出で役立っているのでしょうか?
それはすごくありますね。「たぶん、こういう言い方しても、きっと伝わらないんだろうな」とか、「今は考えるヒマを与えたほうがいいんだろうな」とか。自分がそうだったから、っていうのは必ずしも正解ではないにしても、試してみるパターンのひとつではあります。

飛び抜けた天才でない限り、締め切りくらいは守ろう

2018年は伊勢さんにとって、演出家としての10周年、メモリアルイヤーですよね。この10年を振り返って、いかがですか?
演出家になる勉強をしてきたわけでも、興味を持って始めたわけでもなくて、たまたま機会があって始めたことなので、夢中でしたね。本当に、人に恵まれていたとしか思ってなくて。ありがたいタイミングで拾っていただいたりとか。
脚本については、どういうきっかけで書くことになったのでしょう?
僕、絶対書けないと思ってたんです。向いてないと思ってて。でも切羽詰まって、書かざるを得ない状況になってしまって。初めて書いたのは30分くらいのショートストーリーなんですけどね。
もともと書くのが好きだったとか、本を読むのが好きだった、とか?
それが、全然そうじゃないんです。
不思議ですね……。なぜ書けるんでしょう?(笑)
なんでですかね(笑)。もちろん、当時は30分ものを書くのに相当かかりました。ただ、もともと役者をやっていて、山のように台本をインプットする時間はあったし、面白いと思っている脚本家さんの戯曲を仕事とは関係なく、買ったりしたこともあったし。そういう部分での、興味はあったのかもしれないですね。
無意識のインプットがあったんですね。
かもしれないですね。「無意識のインプット」って、ちょっと言い方がカッコよすぎですけど(笑)。
謙遜されていますが、今こうして第一線で活躍されているのは、縁だけではないと思うので。ご自身について誇れること、というと。
唯一、締め切りだけは守ります。1週間遅れてみんなを待たせて、90点のものを出して納得させるよりも、僕は1週間早く書いて、それが60点だったとしても、残り1週間で80点まで上げていくほうが向いていると思ってて。飛び抜けた天才でない限り、時間くらいは負けないほうを選ぼう、と。これは自分に課しているルールですね。

原作ファンに納得してもらうというハードルは「逆に燃える」

お仕事が入り口になって、アニメやマンガを見るようになったそうですね。
子どもの頃からアニメを見たりマンガを読んだりする習慣がなくて。逆に、すごくそのぶん、手がける作品に対してはリサーチをしたりだとか、資料を集めたりだとか、作品のインプットはしているつもりです。
最近は、業界的にいろいろアンテナを立ててなきゃと思って調べたりとか。「今こういうアニメが流行っている」っていうのは、リサーチしたりします。そこも趣味というよりは、アニメを見ながら「俺、これだったらどう舞台化するかな」みたいな。
仕事目線になっちゃうから、楽しめない?
いや、それがね、すっごい楽しいんですよ。
そこ込みで楽しいんですね。やはり10年間、演出家として2.5次元作品を中心に夢中になって続けてこられたのは、やっぱり楽しいからですか?
そうですね。オリジナルの作品よりも、お客さまと共有したときに感じる手応えっていうのが、大きいんです。
たとえば「十二大戦」でいうと、「ここは絶対、名シーンだろう」っていうところは、とことん大事に作っていこうとか。そこにお客さまが反応してくださったら、自分もこの原作を好きになって良かったなって思いますし、それを形にできたことが光栄だなって。
じゃあ実際に、お客さまの反応を感じたときは「やった!」と。
涙が出そうになりますね。自分がちゃんと、いちファンになれた気がするんです。いちファンとして「このシーン、絶対大事!」って思ったところがお客さまと共有できたとすると、「よし、俺もファンのひとりだ!」というふうに。入り口はお仕事のお話だったとしても、やっとファンとして迎え入れてもらえたんだって。その瞬間がもう、たまらないですね。
原作ものというのは、プレッシャーもあると思うんですけど。やりがいや手応えを感じる一方で、そこがファンの方と一致するかっていうところが難しいですよね。
そうですね。最初に舞台化の発表があったときというのは、当然それを快く思わない方もいらっしゃると思うんです。そういう方に納得してもらうというハードルを、さっそくもらったなという感じがして。逆に燃えますね(笑)。
「この原作の舞台化は、さすがにハードルが高すぎる」とお断りされることは……?
負けず嫌いなので、基本的には挑戦状だと思って、お受けしたいほうです。スケジュールやもろもろの都合があったりするので、全部が全部、受けられるわけじゃないんですが。少なくとも、それを舞台にしようと思った人がいるんだったら、僕自身が「できません」っていうのは、負けた気になるので(笑)。できる限り、オファーは受けたいと思ってます。
伊勢さんが最初に手がけられた2.5次元作品は『PEACE MAKER〜新撰組参上〜』(2011)ですよね。
そうですね。その頃はまだ「2.5次元演劇」っていう単語自体がなかったです。ミュージカル『テニスの王子様』というムーブメントが、2003年の初演から始まって。その10年前くらいに、ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』があるんですね。だから名作の舞台化っていうものはあったんだけれども、アニメ作品が原作っていう形が多くなってきたのが、2011年くらいからですね。
ちょうどそういうときに携わらせてもらって。進化の過程を肌で感じさせてもらっているのは、ありがたいですね。
最初の頃は戸惑いなどありませんでしたか?
それほどはなかったですが、2.5次元というジャンルの中で、お客さまも成長している部分があって。今だと「このシーンはどういうふうに表現するんだろう?」と期待を持って見に来てくださるんですけど、当時は「原作好きとして、許せない」とか「アニメの声じゃない人は、絶対違う」とか、今よりもずっとハードルが高かったので。そういった意味ではプレッシャーもありましたけど、自分は「演劇」が作りたいと思っていて、その気持ちはずっと変わらないので。
それは、人が舞台の上でやることに意味がある作品を作る、ということでしょうか?
そうですね。たとえば、アニメだったらこの言い方かもしれないけど、生身の人間が表現するとしたら、そうじゃない選択肢もあるよね、とか。きちんと演劇として成立しているか、ということについては、一切妥協しないでやってきたつもりではあります。ただのモノマネとか、そういったものには収めたくないと思ってますね。

両極化が進む2.5次元演劇。“上質”なものを送り出したい

伊勢さんご自身がご覧になって、衝撃を受けた2.5次元演劇というと?
センセーショナルだったのは、やっぱりミュージカル『テニスの王子様』ですね。それまで演劇はすごくサブカルチャーの……一般の方から遠い場所にあるメディアだったと思うんですけど、たとえば仕事帰りにふらっと、綺麗な格好のお姉さんが見に来るとか。オシャレな方が客席に増えたっていうのが、あのくらいの時期で。
テニミュが演劇の“入り口”になった。
演劇人口をどんどん増やしていったという点でも、すごく価値のある作品だと思っています。演出方法なんかも、「演劇でやるなら、そうだよね」って思う部分が、すごくあるんですよ。今でもたまに見に行きますよ。
現在の2.5次元演劇の盛り上がりに関しては、どのようにお考えですか?
まず今やっぱり、これだけジャンルとして確立されつつある中で、デフレというか、良いものとそうでないものの両極化が、どんどん進んでいくと思うんですね。だからそこで、良いものを提供し続けるという立場に、なんとか食らいつくというか。なんなら俺が引っ張ってやる!くらいにならなきゃいけないなって思っている部分もあります。
より良いものを。
どれだけ上質なものを送り出せるか。今は、業界全体の過渡期だと思うんです。あとは、さきほど言った、演劇をちゃんと作っていくという部分を忘れちゃいけないな、と。「どれだけ再現できるか」ではなくて、「どれだけ演劇に変換できるか」っていうことがちゃんと成立しないと、業界としてもっと大きくなっていけないんじゃないかなって。
ビジュアル的な再現度のクオリティは上がってますもんね。
スタッフさんの技術も経験値も増えているし、再現度はどんどん高くなっていて。内容的な部分でいかに表現できるか、大風呂敷を広げたぶんだけ、より丁寧に作っていかなきゃいけない、っていう時期に来たんじゃないかなと思います。
今後の展望については、どうお考えですか?
2.5次元演劇は、現時点では演劇界に新しいお客さまを呼んでくる、一番大きな入り口じゃないかと思うんです。2.5次元出身の役者さんたちも、どんどん幅が広がって大人な舞台に出たりしてますし、そういう人たちが、お客さまも連れていってくれるんですね。だから、どれだけ育てるか、どれだけお客さまをつかんで離さないようにするか、どれだけ演劇そのものを好きになってもらうか、っていうところでプレッシャーは感じますね。
そこまで考えていらっしゃるんですね。
新しいお客さまを呼ぶということよりも、呼んだお客さまに、また次に足を運んでもらうためにはどうすればいいか。そのほうが、みんなが幸せになれるんじゃないかなって。「舞台ってこういうふうにやるんだ、じゃあ他の作品も観てみよう」ってなったら、少なくとも舞台「十二大戦」で初めて劇場に足を運ぶというお客さまをお呼びした価値があるなって。次に興味を持ってもらうためのプレゼンになればいいなって。
ただ、業界的にはまだ2.5次元に対する風当たりは強い部分も、正直あったりして。
まだありますか?
やっぱり、演出家や脚本家自身で、自分の世界観を作りたいという人もいて。そういう人から見てみると「本当に楽しんでやってるの?」って心配されるときがあります。
世界観やキャラクターの設定から、全部自分でやりたくならないの?と。
そうそう。でもそう聞かれたら、こう答えるんです。「いや、死ぬほど楽しいよ!?」と(笑)。パズルのように組み立てる快感っていうのは、人からもらったものじゃないとできない部分があるから。
制限があるからこその楽しさ、みたいな。
そう! そうなんですよ。「何でもやっていいよ」だと、何もできなくなっちゃうので。そこがすごく楽しいです。
伊勢直弘(いせ・なおひろ)
1972年3月21日生まれ、北海道出身。B型。会社員を経て劇団X-QUESTに加入し、2007年結成のハイブリッド・アミューズメント・ショウbpmでリーダーとして活動。2008年に舞台『飛行機雲2008』で初演出。2009年にはロサンゼルスで演出作品『ひこうき雲』を発表。以降、脚本・演出を手がけた主な作品は『新撰組異聞PEACE MAKER 再炎』、『ノラガミ-神と願い-』シリーズ、舞台『四月は君の嘘』、劇団シャイニング from うたの☆プリンスさまっ♪『天下無敵の忍び道』 、『歌謡倶楽部 艶漢』など。『おそ松さんon STAGE〜SIX MEN'S SHOW TIME〜』シリーズでは脚本を担当。舞台「十二大戦」以降も、『BOYS★TALK 第3弾』【脚本・演出】(6月)、舞台『炎の蜃気楼昭和編 散華行ブルース』【演出】(8月)、舞台『DIVE!! The STAGE!!』【脚本・演出】(10月)など、数多くの作品を手がける。

「舞台「十二大戦」」特集一覧

演出作品

舞台「十二大戦」
(原作:西尾維新「十二大戦」(集英社刊))
神戸:2018年5月4日(金)〜5月5日(土)@新神戸オリエンタル劇場
東京:2018年5月9日(水)〜5月13日(日)@シアター1010
※5月11日(金)14:00〜Do As Infinity『化身の獣』SPライブ付追加公演決定!
○公式サイト:http://12taisen-stage.com/
○公式Twitter:@12taisen_stage
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