丁寧に、緻密に。演劇ならではの表現を求めて――舞台「十二大戦」稽古場レポート

小説・西尾維新×イラストレーション・中村 光の初タッグ作品となる「十二大戦」(集英社刊)が舞台化。十二支の名を宿す12人の戦士たちが、“1つだけ叶えられる願い”を賭けて戦う。2017年10月から12月までテレビアニメが放送され、Webマンガ誌「少年ジャンプ+」では、暁月あきらによるマンガ版が連載中とあって、舞台ならではのバトルロイヤルに注目が集まる。

2018年5月4日の開幕を直前に控え、ライブドアニュースでは、キャストとスタッフにインタビューを行い、さらに稽古場にも潜入。舞台「十二大戦」の魅力を全3回にわたってお届けする。

第2回は、稽古場レポート。ほかの2.5次元舞台作品と同様に、舞台「十二大戦」の稽古期間もおよそ1ヶ月。この限られた時間の中で、「初めまして」の挨拶からスタートして、演出家と出演者が一心同体になるまで練り上げていく必要がある。緊張感と熱気に満ちあふれた現場の空気を味わってほしい。

撮影/すずき大すけ 取材・文/野口理香子
デザイン/前原香織

「舞台「十二大戦」」特集一覧

オールキャストが入り乱れる、ド迫力のオープニング

4月中旬、某スタジオへ。初日まで半月あまりとなった日の稽古場を訪ねた。この日はキャスト全員が参加し、殺陣をメインとした動きを確認していく。集合時間よりも早く稽古場に入り、ストレッチを行う者もいれば、殺陣の手合わせをする者、台本にメモをとりながらセリフの練習をする者も。それぞれが高い集中力で、作品の世界に入り込んでいた。
12年に1度開催される第12回目の「十二大戦」。干支の名を宿す12人の戦士が互いの命と魂を賭けて戦う。ここで参加者の面々を紹介しよう。

「子」の戦士、「うじゃうじゃ殺す」寝住(ねずみ・演/北村 諒)は、毎日不景気な面をして学校に寝に来ている、夢も希望もなさそうな現役高校生。「丑」の戦士、「ただ殺す」失井(うしい・演/滝川広大)は“皆殺しの天才”と称されるほどの戦闘力を持つ。「寅」の戦士、「酔った勢いで殺す」妬良(とら・演/今村美歩)は酔拳の使い手。はいつくばって獣のような体勢から攻撃を行う。そして「卵」の戦士、「異常に殺す」憂城(うさぎ・演/才川コージ)。戦士の名以外、ほとんどのパーソナリティが不明という謎の人物である。(戦士の紹介はのちほど!)
▲才川コージ(憂城役)
▲左から橋本祥平(断罪兄弟・兄役)、長谷川慎也(断罪兄弟・弟役)
舞台の主題歌であるDo As Infinity『化身の獣』とあわせて、オールキャストが入り乱れるオープニングから稽古がスタート。キュッ、キュッと靴底が鳴る音が響く。ヒュッ、ヒュッと剣が空気を切る音も聞こえる。メイクも衣装も照明もないのに、確かにそこに12人の戦士がいる――そう錯覚するほどに、キャストひとりひとりが目線や息遣いまで、キャラクターの細部を表現している。
▲和泉宗兵(ドゥデキャプル役)
▲左から原 勇弥(必爺役)、梅村結衣(庭取役)
▲左から滝川広大(失井役)、横山真史(迂々真役)
残る参加者は8人。続きから紹介していこう。

「辰」の戦士、「遊ぶ金欲しさに殺す」断罪(たつみ)兄弟・兄(演/橋本祥平)。「巳」の戦士、「遊ぶ金欲しさに殺す」断罪兄弟・弟(演/長谷川慎也)。頭のてっぺんから足のつま先までそっくりな双子の兄弟を区別する方法は、一人称。「俺様」と言うほうは兄である。「午」の戦士、「無言で殺す」迂々真(ううま・演/横山真史)。寡黙でストイックな戦いぶりが広く知られる、12戦士イチの巨漢。そして「未」の戦士、「騙して殺す」必爺(ひつじい・演/原 勇弥)は、第9回の大戦の優勝者で、この大戦における唯一の経験者である。(戦士の紹介はさらに続く!)

稽古場の一角には、キャストやスタッフからの差し入れが。体力を消耗する稽古場には、甘いものが必須なのだ。合間にドーナツを食べている姿をキャッチ。
▲ドーナツや果物の差し入れ。右側にあるカラフルなコップには、キャストの名前シールが貼ってある。
▲左から護 あさな(異能肉役)、今村美歩(妬良役)、北村 諒(寝住役)
▲左から護 あさな(異能肉役)、竹内 夢(砂粒役)

心揺さぶるダイナミックな殺陣シーンは、鍛錬の成果

脚本・演出を担当する伊勢直弘は、個人の長所を伸び伸びと磨き上げる演出方針により、若手俳優の育成に定評を持つ。「ひとつひとつの動きを丁寧に」「頭で考えてやっているから、それを身体に落とし込んで」――この日もキャラクターの心情を丁寧に説明しながら、役者の理解を促す。自らサーベルを握り、指導する場面もあった。殺陣は技術だけではなく、キャラクターの心情をも表現する。だからこそ、“ひと振り”に熱が入る。
▲伊勢直弘
▲滝川広大(失井役)
「このシーンだけど、こう変えようと思う」。伊勢のひと言で、殺陣の動きが変わることも。その場で新しい動きを覚え、何手か合わせて次のシーンへ。役者には瞬発力が求められるのだ。

激しい闘いを表現する殺陣においては、数センチの間合いがズレただけで、事故につながることも。「安全かつ全力で……見ている人がドキドキするのはいいんですけど、心配させたくないから」――過去のインタビューで、北村 諒がそう話していたことを思い出す。観客の心を揺さぶるアクションシーンは、練習に練習を重ねた努力の賜物である。
▲伊阪達也(怒突役)
さて、残る参加者は4人。

「申」の戦士、「平和裏に殺す」砂粒(しゃりゅう・演/竹内 夢)。メガネとヘッドフォンがトレードマークの究極の平和主義者。「酉」の戦士、「啄ばんで殺す」庭取(にわとり・演/梅村結衣)。可愛らしい雰囲気からはとても想像ができない、凄惨な虐待を受けて育った過去を持つ。「戌」の戦士、「噛んで含めるように殺す」怒突(どつく・演/伊阪達也)は武器を持たず、牙で噛みつく戦闘スタイル。そして「亥」の戦士、「豊かに殺す」異能肉(いのうのしし・演/護 あさな)。名家の跡取り娘らしいエレガンスな立ち振る舞いで、重厚な兵器を自在に操る。

以上が12人の戦士。戦いに勝利した者は、どんな願いでもたったひとつだけ叶えることができる――最後に生き残る者は誰か?

本編は殺伐としたシーンが続くため、現場にも緊迫した空気が漂っているが、キャスト同士がピリピリしているわけではない。息つく暇のないアクションシーンの直後に、笑って肩を叩き合う、そんな光景もたびたび見られた。
▲北村のアドリブに爆笑する橋本。緊張感はありながらも、楽しい雰囲気の稽古場だ。
▲取材カメラを見つけてピース! 才川は現場のムードメーカー的存在。
人気原作の舞台化というと、「再現率の高さ」に注目が集まりがちだ。本作もキービジュアルが解禁になると大きな話題を呼んだ。しかし、舞台「十二大戦」の注目ポイントはそこだけではない。繊細に描かれたキャラクターの心情、そこから繰り広げられるハードなアクション、そして舞台ならではの演出は、胸にグッとこみ上げてくるものがある。初めて「十二大戦」に触れる人はもちろん、原作ファンの期待を裏切らない作品になりそうだ。

戦士たちの背負っている過去、願いをかけた戦い、そしてその結末を劇場で見届けたい。

「舞台「十二大戦」」特集一覧

出演作品

舞台「十二大戦」
(原作:西尾維新「十二大戦」(集英社刊))
神戸:2018年5月4日(金)〜5月5日(土)@新神戸オリエンタル劇場
東京:2018年5月9日(水)〜5月13日(日)@シアター1010
※5月11日(金)14:00〜Do As Infinity『化身の獣』SPライブ付追加公演決定!
○公式サイト:http://12taisen-stage.com/
○公式Twitter:@12taisen_stage

©西尾維新・中村光/集英社 ©エイベックス・ピクチャーズ株式会社

【お詫びと訂正のお知らせ】今村美歩さんの名前部分の漢字に誤りがありました。今村美歩さんと読者の皆さんに訂正してお詫び申し上げます。
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
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