「結果がすべて。努力してる姿は人に見せなくていい」――役者・北村 諒のプロ意識

昨年秋に上演された『舞台「青の祓魔師(エクソシスト)」島根イルミナティ篇』を見れば、北村 諒が並々ならぬ努力を重ねていることは一目瞭然だ。北村が演じる主人公の奥村 燐は「これこそ少年漫画の主人公!」といった、まっすぐで純粋な性格の持ち主で、頭で考えるよりも先に身体が動くタイプ。言ってしまえば、北村自身と正反対のキャラクターである燐を、確実に自分のものにしていた。しかし舞台から降りると一転、どこか飄々としていて、余裕を漂わせているようにさえ見える、素顔の27歳がそこにいる。なぜ北村 諒は努力を隠すのか。その答えは、「過程よりも結果を見てほしい」という役者としてのプロ意識にあった。

撮影/西村 康 取材・文/野口理香子 ヘアメイク/車谷 結(raftel)

燐として、必死に全力で突っ走ることしか考えてなかった

『舞台「青の祓魔師(エクソシスト)」京都紅蓮篇』のときにインタビューさせてもらったんですが、北村さんは「自分は主人公キャラじゃない」とおっしゃっていて。
そうでしたね(笑)。
そのときはたしかに……と思ったんですけど、今回の「島根イルミナティ篇」、めちゃくちゃ主人公じゃないですか!! 主人公だから当たり前ですが、京都篇から島根篇のあいだに、北村さんの中で何か変わったんじゃないかと思うくらい、主人公感が増した印象がありました。
自分の中で、舞台青エクってすごく大きい作品なんです。北村 諒という人間の中のけっこう大きい割合を占めているなと思います。だからまたやれるっていうのは本当にうれしかったし、前回よりさらに成長した自分をぶつけられるのが楽しみでした。前回は、自分にとってゼロからつくった燐で、今回は京都篇があっての燐なので、さらに深く掘り下げることができたんじゃないかなと思います。
京都篇の燐は、ひとりぼっちのシーンも多かったですが。
それを経ての島根編で、燐に仲間がいっぱいいて、絆が深まっているところからのスタートだったので。仲間の存在は心強かったですし、みんなに助けられました。
新たに参加されたキャストもたくさんいらっしゃいますね。
そうですね。でも僕は本当に変わらず、燐として突っ走るだけ。初めて参加するキャストを気遣ったり、「大丈夫だよ」って声をかけたりすることもなくて。楽しい作品にする、楽しい現場にする、ということだけを考えてました。
3月28日に島根篇のBlu-ray&DVDが発売になるということで、一足お先に特典映像を拝見したんですが、稽古場を盛り上げる北村さんの姿がとても印象的でした。
演出の西田(大輔)さんに、京都篇のときに「周りを楽しませろ」ってすごく言われていたので。その言葉がずっと頭の中にあって。
「周りを楽しませろ」というのは、座長として? 燐として?
どちらかというと役者として、なのかな。「お前が座長なんだから、責任を持って、全員が楽しいと思う場所を作れよ」と。そういうひとつの役割を与えられた気がして。誰かひとりでも「楽しくない」って思ったら、いい作品は生まれないだろうし。だから楽しいときはみんなで笑って、やるときは真剣にやって、という現場にしたいと思いましたし、できたんじゃないかなと。
北村さんよりも年下のキャストが多いですよね。「自分が引っ張っていかなきゃ」って感じる場面もあったのでは?
引っ張っていかなきゃと考えたことは一回もないです。僕はただ必死に全力で走ることしか考えてなくて、たぶん、燐もそうで。燐が動き回ることでみんなが影響されていったり、ほっとけないな、気になるなって燐の周りに人が集まってくる。そんなキャラクターだと自分では思うので、それを体現できたらいいなと。自分が燐として先頭を走ることによって、この背中についていこうと思ってもらえたらいいなと。だから僕はとにかく必死に走るだけでした。
燐と出会い、自分自身が変わったと思うことはありますか?
まっすぐさだったり、いい意味での馬鹿さだったり……燐から学ぶことはすごく多くて。燐に出会って、明るくなりました! 人見知りだし、自分から発信するタイプじゃなかったんですが、燐のおかげで解消されたというか。陽のパワーをもらったんだと思います。青エクに出てから、お芝居の面か人柄かわからないですけど、「変わったね」って言われることがちょくちょくあったので、いい方向に成長できているんじゃないかなと。

「泣いてんだろうが!!!!」感情がこみあげて叫んだ日もあった

島根篇は、北村さんも大好きな神木出雲ちゃんがメインの回ということで。
そうなんです!!
啓明結社イルミナティに連れ去られた出雲を、祓魔塾生のみんなで救出しにいく、というストーリーです。助けに来た燐が、出雲をぎゅっと抱きしめるシーンは、原作にはなかった描写ですよね。
あれは西田さんの演出で。たしか、稽古の最後のほうだったと思うんですけど、「助けに来たら、ガッとやっちまえよ!」と。西田さんにそう言われて、そうするようになってから、さらに胸が熱くなるというか、感情がまたひとつ深く入るような感じがありました。
島根篇の後半はシリアスな展開が続き、涙してしまうシーンが多くて。演者のみなさんも涙を浮かべながらお芝居されてましたよね。
ボロボロでした。ヤバかったですね。最後のほうは、涙と汗と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃでした。もう全部出てた(笑)。そのくらいがむしゃらになれる作品って、なかなかないですし、きっとそれが……自分がやってて言うのもなんですけど、その感じが燐だなぁって思ったり。
同じセリフ、同じ動きではあるけど、日によって変化はありますよね。
燐が出雲を助けに来て、外道院(ミハエル)を殴って、「泣いてんだろうが!!!!」って言うシーンがあるんですけど。僕は島根篇のNo.1名言だと思ってるんですけどね。これがじつは、日によって違って。いつだったか忘れたんですけど、公演後に(出雲役の大久保)聡美ちゃんが「きょうの『泣いてんだろうが!!!!』はヤバかった」って。
意識的に言い方を変えてるわけではなく?
どう言おうとか考えてるわけじゃなくて、そのときの感情のまま……もはや「泣いてんだろうが」って言えてなかった日もあると思うんです。聞き取れないくらい、ただ叫んでるような日もあったと思うんですけど、それくらいリアルな感情をぶつけたセリフでした。
シリアスなシーンを引き立てるように、コミカルなシーンも随所にあって和みました。演者のみなさんの素の表情が見え隠れしていたような気もしたんですが。
たぶん、僕らも素で楽しんでいたと思います。後半に進むと、なかなかシリアスな感じになるので、前半は楽しんでおこう! 遊べるところがあったら遊ぼう!っていう。それに、ワイワイにぎやかなシーンがあればあるほど、後半のシリアスさが引き立つと思うんですよね。教室でダンスパーティーの話になるシーンは、クラスメイトと遊んでるような感じで。俺は(宝)ねむにちょっかいを出してましたし。
コミカルなシーンといえば、正十字学園での学園祭の様子も描かれていましたが、北村さんの学園祭の思い出というと?
あんなに楽しくなかったなぁ……(笑)。最後の学園祭、高校3年生のときに『西遊記』の劇をやったんですよ。俺は本当に人前に出たくなくて、「頼むからセリフのない役にしてくれ」ってお願いして、開始早々に倒される門番の役になりました。
えー…! まぁ当時は、こういうお仕事につくなんて、考えてもなかったんですよね。
そうですね。できることなら目立ちたくないという気持ちだったので。だから学園祭の記憶、あんまりないんですよね……。でも、いいですよねぇ。「あぁ……こういう青春したかったなぁ」とはすごく思いますね(笑)。

青エクは体力勝負! 1公演で2リットルの水を消費

本当に盛りだくさんの内容で、とっても濃密な3時間でしたが、演者のみなさんにとって、この3時間という長さは体感的にどうなんでしょう?
全然、長く感じないですね。青エクに関してはとくに、感じないかもしれないです。体感スピードが速いので。作品性なのかわからないですけど、すごくあっという間に過ぎていきます。
体力的には?
もうヤべえっす。なかなかの体力勝負でしたね。1公演で水2リットルは飲みます。
そういえば舞台裏の映像(特典DVD収録)で、直前まで飴をなめてましたよね。疲れをとるために甘いものを摂取されているのか、あるいは喉のケアとか?
たぶん、のど飴かな。京都篇のときに喉をからしてしまったので、今回は飴以外にも蜂蜜を直接飲んだり、吸引機を用意してもらったり。喉のケアを入念にしてました。
ステージ上では可動式の舞台装置を駆使して、正十字学園からイルミナティの本拠地までさまざまな場面を表現していて。前回よりも確実に難易度があがってそうな。
最初は縦だけとか横だけとか、レールで動く予定だったのが、西田さんのひと言で縦横無尽に動くことになり……。動かしてる人たちは死ぬほど大変だったと思います。僕らよりも、アンサンブルのみんなが大変で。本当にスゴいなと、尊敬しますね。
アンサンブルの方と稽古中にお話することも?
タイミングだったり、スピードだったりはけっこう話しました。そのへんは怪我に直接かかわることなので気をつけないといけないから。……彼らがいてこその舞台「青の祓魔師」だと思います。本当に、感謝と尊敬の気持ちでいっぱいです。
台を動かすこともそうですけど、台の上で動くことも大変なことでは、と思うんですが。
んー…、台の上で動いたりするのは全然大丈夫なんですけど、(志摩)廉造と階段の上で殺陣をするシーンがあって、そこだけ怖かったですね。大きいほうの台は動いても揺れないんですけど、階段だとすごく揺れるんですよ。ふたりの息を合わせて、安全かつ全力で……見ている人がドキドキするのはいいんですけど、心配させたくないから。あれはなかなか大変でした。
そんな島根篇の舞台が映像化するということで。自分の過去の作品を見返したりしますか?
いやー、ないですね。恥ずかしいんです。でも、島根篇に入るときは、京都篇のDVDを見ました。それに関しては、青エクが好きすぎて。でも基本的には見ないです。恥ずかしいもん。「俺、しゃべってるよ〜」って(笑)。
では、Blu-ray&DVDの見どころや注目ポイントなどあれば教えてください。
劇場で見た方は細かいところまで見られるので、隅々まで見てほしいですね。劇場で見られなかった方には、劇場での熱量とはまた違った熱量を画面越しに感じられると思うので、みんなの生き様を見てほしいなって思います。あとは、(特典DVDで)バックステージのわちゃわちゃを楽しんでいただければ。僕のオススメは「廉造TV」です。おなかが痛くなるくらい笑いました。
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