「痛み」を乗り越えて、自分と向き合う。朴 璐美が『鋼の錬金術師』で得た“真理”

もう10年以上も前に、アニメ番組から聞こえてくる男性キャラクターの素敵な声に強く心を惹かれた。瞬く間に夢中になったけれど、その声を担当しているのが女性だと知って、とても驚いたことが忘れられない。そこから、「可憐な女の子」のものとは一味違う女性声優の声を、自然と追いかけてしまうようになった。それは、凛とした女性らしさがありつつも、決して男性にも引けをとらない力強さをもつ声だったり、心の奥がざわざわするような不思議な色気を秘めた声だったり、少年よりも少年らしい純粋さとまっすぐさを備えた声だったり…。あのとき、私が恋に落ちた声色たちは、今でも変わらずアニメの世界を彩っている。

ライブドアニュースでは、カッコよく魅力的な声でアラサー女性をトリコにし、今なお第一線で活躍し続ける女性声優を特集。全3回にわたって、そのインタビューをお届けする。第3弾では、自らの過酷な運命に立ち向かう、直情的だが正義感の強い『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリックを演じた、朴 ろ美に話を聞いた。

撮影/アライテツヤ 取材・文/青山香織
スタイリング/鬼束香奈子 ヘアメイク/MIZUHO(vitamins)
デザイン/犬飼尋士(DESIGN for, inc.​)

「私たちが恋した女性声優」特集一覧

『鋼』が始まったときから抱いていた、不思議な感覚

物質を別のものに作り変える「錬金術」が存在する世界を舞台とする、荒川 弘氏による人気コミック『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)。エドワード(エド)とアルフォンス(アル/声:釘宮理恵)の幼い兄弟は、亡くなった母親にもう一度会いたいという思いから、錬金術の禁忌とされる「人体錬成」に挑む。
しかし、結果は失敗。「等価交換」の代償として、エドは左足を、アルは身体すべてを奪い去られてしまう。弟だけでも取り戻そうと、エドは自身の右腕と引き換えに、アルの魂を鎧に定着させる。これは元の体を取り戻すため、伝説の「賢者の石」を求めるふたりの旅を描いた物語だ。
2003年に初めてアニメ化された『鋼の錬金術師』。そこから、劇場アニメ版や2009年から放送されたアニメ『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』と続き、2017年には実写映画も公開されました。たくさんの取材を受けられる中で、エドについて考える時間も多くなると思いますが、朴さんにとってエドはどういった存在なのでしょうか?
なーんだろうねえ……。思い返すというより、つねに「エドがそこにいちゃう」感じです。取材で「あのときはどうでした?」って質問されても、それに対して思い起こして考えて…っていうことがなく、すんなり言葉が出てくる。あと、とても縁深い作品だなあと思います。舞台の衣装家をやっている大親友の西原梨恵が、まさかの『鋼の錬金術師』で、初めて実写映画の衣装を担当することになって。さらに、作品にも出させていただいてお付き合いのあった、曽利(文彦)監督がメガホンをとるという。
朴さんの意図しないところで、いくつもの「縁」がつながっていたんですね。
梨恵から、エド役の山田(涼介)くんが会いたがってるって聞いて、曽利監督とプロデューサーさんたちと一緒にお食事したことがあったんですね。最初は「録り終わっちゃったのに、会っても仕方ないでしょう」って思っていたんですけど(笑)、彼の「ここでエドとシンクロできたという感覚があって…」という話を聞いて、「えっ、あたしも!」みたいな。山田くんとお話するうちに、お互いの中にエドがいるという感覚になったんです。
そういったできごとがあって、自分の中にエドがいるということに確信がもてたんですね。エドとの出会いは、朴さんの人生にどう影響したと思いますか?
私はもともと声優になろうとは考えていなくて、棚からぼたもち的にお仕事が始まったんですよね。『∀ガンダム』の生みの親の富野由悠季さんに見出していただいて、繊細でピュアな主人公のロラン・セアックを演じたんですが、そのときはまさか自分が男の子役をやるなんて思っていなくて。
当時は、もう声の仕事をやることはないと思っていました。でもその後に『デジモンアドベンチャー02』で、闇に支配された一面と、そこから抜け出そうとする一面をあわせもったナイーブな少年である一乗寺 賢を演じて。その後の『シャーマンキング』では“ちび+クール”みたいな道 蓮、『ドラゴンドライブ』では(第一部の)主人公の大空レイジ。そういう役をやらせていただいてからの『鋼の錬金術師』だったんですが、これらの役をやってなかったら、たぶんエドは演じられなかったと思うんですよね。だから、全部がエドにつながる道すじだったのかなあ。
それまで演じた役があったからこそ、“ハマり役”とも言えるエドとの出会いがあったと。ちなみに朴さんは、もともとエド役のオーディションを受けていなかったんですよね。当時の事務所が、スケジュールの都合でお断りしていたとか。
そうそう(笑)。舞台が入っていたからと事務所が勝手に断っていて、私は(オーディションの存在を)知らなかったんですよ。それで、とあるスタジオでばったり水島(精二)監督とお会いして、「何で受けてくれないの?」「へっ、何のオーディションですか?」と。そこで話を聞いて、事務所に「これは絶対受けたい! 何が何でも受けたい!」って伝えたんです。水島さんには『シャーマンキング』ですごくお世話になっていて、その監督さんが「何で受けてくれないの?」とまで言ってくださってるのに、受けないなんてないでしょ!と。
もしそこで水島さんとたまたま会わなかったら、知らないあいだに終わってましたよね。ぞっとします。そういう意味でも、縁深い作品なんですよ。
最初の段階から、そういう「めぐり合わせ」が起きていた作品なんですね。
始まったときから、不思議なものは感じていました。二次オーディションでは、いろんなアル役の子と組ませていただいて。それで釘宮理恵ちゃんと演じたときに、「あ、こいつとやるな」っていう。何ですかね? あの感覚(笑)。
他の作品でも、「この役は私がやるな」と直感することはあるんですか?
ありますね。『エアマスター』(※朴さんは主人公・相川摩季役で出演)のオーディションで、「うらあああ!!」って回し蹴りするシーンがあったんですが、やりすぎてブラックアウトしちゃって。天と地がわからなくなって、どーんって倒れちゃったんです。そんなの人生で初めてだったんですが、自分の中では「(ここまでの経験をしたんだから)やるしかないよね」って思いましたね。
そういうことがあるんですね! 釘宮さんも、朴さんと同じようなことを感じていたのでしょうか?
いやー、ないと思いますよ!(笑) これで思ってたらね、美談ですけどね。そうならないのが『鋼』なんですよ。美談だけで終わらないっていうか。でも、エドはどんだけエネルギーを使って演じても足りないくらいの子というか、作品自体がブラックホールみたいにぐわーーーっと(演者やスタッフのエネルギーを)吸い取っていっちゃうんで。「どいつが一番自分に力をくれるヤツ?」って、探してたのかなあ…。こいつでもねえ、こいつでもねえって。
朴さんがエドに出会ったというよりも、『鋼の錬金術師』という作品のほうが朴さんを見つけたという…。
なーんか悔しいけど、そんな感じがしますね。

まるで「事件現場」…緊張感に満ちあふれた中での収録

エドとアルの旅はやがて、国家や歴史を揺るがすような壮絶な真実を明らかにしていきます。さらに出会った人々との死別など、ヘビーな展開も多い作品でしたが、朴さんはどのように収録に臨んでいたのですか?
エドっていう子は、本当に欲しがりで…。大変なんですよ、あの子を「自分の中に入れる」っていうのは。毎週月曜、朝10時からの収録だったんですけど、週の頭にやるような作品じゃなくって(笑)。月曜から「お前の全部をくれ!」ってエドが私の中に入ってきて、ずあーーーってひきずり出されたものを、ぶわーーーっと持っていっちゃう。「ああ…あと日曜日まで、余力もない状態で生きていくしかない…」みたいな。
週の残りは抜け殻のようになってしまいそうですね…。「エドが朴さんの中に入ってくる」という感覚、素人にはなかなか想像ができないのですが、どのキャラクターもそうやって演じられているのでしょうか?
そういう役とそうではない役があるんですけれどね。エドに関しては、とにかく『鋼』の現場自体が、「事件現場か!」っていうくらい緊張感に満ちあふれていたのもあるのかな。「ポトって何か落としたら殺されんじゃねえか」っていうような…。スタッフさんたちの殺気がスゴくて、とてもリラックスした現場ではなかったです。
作品への期待が大きかったから、そういう雰囲気になっていたのでしょうか?
みんな若かったんじゃないですかね(笑)。『鋼』が放送されていたのって土6(※土曜の夜6時)で、今思うと、MBSもアニプレックスもすごく力が入ってたのかな。南 雅彦さん(※アニメ制作会社・ボンズの代表取締役で、同作のプロデューサー)にしても、何て言うのかな…若かったんですよね。いきり立っているというか。
好視聴率をとっていたり作品の関連商品がヒットしたりと、当時の「土6アニメ」は非常に注目度が高い放送枠でしたから、良い作品を作ろう、という思いも強かったんですね。
「え?」っていう一言でも30テイク録ったりとか。音響監督の三間(雅文)さんも、そのときはお若かったんでしょうね。理由も言わず、「もう一回。もう一回。違う、はいもう一回」っていう感じで、「どれがOKだよ!!」みたいな。キツい収録現場なうえに、自分が主演を張って、作品の看板を背負わなきゃいけないっていうのがあって、気が重かったんですよね。
朴さんにかけられたプレッシャーも、相当なものだったのではないかと思います。
そのときは「プレッシャーだ」と自覚したことはなかったんですが、無意識に感じてたんでしょうね。(収録の)前日にVチェック(※1)するのも本当に嫌で。わかります? 12時を過ぎないとDVDを入れる気持ちになれない苦しさ…。でもやり始めたらやり始めたで、作品にすごい力があるから、ぶぁーーっと集中してやってしまうんですよね。ただ、その後の消耗度が大きいことも知っているから、(Vチェックを)やるまでにものすごく時間がかかる。
【編集部注】
※1 Vチェック…VTRチェック。アフレコの前に映像を見て、話の内容やセリフを入れるタイミングを確認しておくこと。
作品にはコミカルなシーンも多いですが、楽しい雰囲気になることはなかったんでしょうか?
一切ないですね。楽しいシーンほど、ピリピリするっていうか。そっちを頑張って進めておかないと、その後にどれだけしんどいシーンが待っているかっていうのがあるから。なので、明るいシーンほどダメ出しも多かったような気もしますね。
あんなに楽しいシーンなのに、現場はそんな雰囲気だったんですね…! では、最終回の収録が終わったあとは、解放感が大きかったんでしょうか?
もちろん、すごく寂しさはあったんですけれど、「もう大丈夫、これで終われる!」っていう。
あとは、どうやったらエドと一緒になれるのかなっていうことを常に考えていたんです。不器用なんで、カラオケで(たくさん歌って)声をつぶして、上っ面の音を全部消してからでないと収録に臨めなかったりもしたので、「あー! もうカラオケ行かなくてすむー!!」という気持ちもありましたね。

苦手だったイベントも、エドと一緒に乗り越えられた

収録現場は殺伐とした雰囲気だったとのことですが、そのぶん、オンエア直後の反響やイベントの歓声などに、嬉しさを感じることはありましたか?
いや、ないですね。もし自分がそういうところに喜びを感じられたら、もうちょっとハッピーな人間になれたんでしょうけど…、まったくそういうのないんですよね。目の前のことをやるのに必死なので、イベントも逆にしんどいっていう…(笑)。
え、そうなんですか! 朴さんは、ラジオ番組やイベントでもとても楽しそうにしていらっしゃるイメージでした。今日の取材も、ドリンクやお菓子をスタッフにも分けてくれたり、撮影中にも場の雰囲気を盛り上げてくださったので、てっきりイベントなどもお好きだったのかと…。
恥ずかしい話なんですが、『鋼』までは、イベントで司会の方が質問してきても、「その質問、本当に私に聞きたいわけじゃないんでしょ」と感じてしまっていて。司会の方って、その次のことも同時に考えていらっしゃるから…。
司会者はその後のプログラムのことも考えてイベントを進行しなくてはいけないため、片手間に質問されているように感じてしまった、ということでしょうか?
そうそう、(司会が次のことを考えるのは)当たり前じゃないですか。でも、「私はお話をしに来てるのに、この人と話せない!」ってなってしまって、だんまり。「もう話しかけないでください…!」みたいにシャットアウトしてしまって、舞台上で後ろ向いたりとかしちゃって。水島さんの別作品でのことなんですけど、水島さんを焦らせるくらい、本当にイベントが苦手だったんです。
今の朴さんからは全然想像がつきません…!
その場に子安(武人)さんとかミキシン(三木眞一郎)さんがいらっしゃると、まだしゃべれるんですけどね。いらっしゃらないと、もう何を話していいのか本当にわかんなくなっちゃって。
おふたりとは共演が多かったこともあり、話しやすかったのでしょうか?
アニキふたりが現場の話をしてくれて、そこに乗っかって答えることはできるんだけれど、司会の方から質問されると、何を私に聞いてるのかわからなくなってしまって…、もうバカなんです(笑)。本当にひどかったなって思うんですけれど、それくらいイベントができなかった。
それが『鋼』が始まって、いきなりひとりで2時間も回さなきゃならなくなったときに、死んでしまいそうになって。いろんな人に(イベントの進行について)話を聞いてもわからず、出たとこ勝負になるしかない状況でした。そしたら水島さんが、「エドのギャグシーンの気持ちでいればいいんだよ!」と。
アドバイスをいただいたんですね。
その通りにやったら、「よくできたじゃない!」って言われて。それで感じがつかめたのかな。今まではアニキたちが周りにいてくれたけど、『鋼』のラジオは釘宮理恵が相方だったから、「俺が守らなきゃ」みたいな気持ちになれたんでしょうね。
そうだったんですね。実写映画が世界190ヶ国以上で公開されたり、海外のアニメフェスでもエドやアルのコスプレが人気だったり、今になって、「こんな世界的に知られる作品になったんだ」とじわじわ感じることはありましたか?
今も別に、そういう気持ちはないですねえ。良いことか悪いことかはわからないけれど、あまりそういう感覚を持ってないのかもしれない…。
さっき「楽しい気持ちはなかったんですか?」って聞かれましたけど、エドと一緒に「わーい、楽しい♪」という気分になることは全然なかったです。だけど「ガチでマジになれる瞬間をエドと過ごせた」のは、めちゃくちゃ「楽しい」んですよ。腹に「うっ…」て力を入れながら(演じて)、「こんなことができる、ここまでマジになれるんだ」って感じられる瞬間。そのときは思っていなかったかもしれないけど、今振り返ると、そういう「楽しさ」がありましたね。

ニーナのシーンで痛感「エドに身体を貸しているんだ」

『鋼の錬金術師』の中で読者や視聴者にひときわ強い衝撃を与えたのが、研究に行き詰まった錬金術師の父親によって、ニーナという幼い少女が愛犬との合成獣(キメラ)に錬成されるエピソードだろう。エドとアルになついていた少女はかつての面影をなくし、知能も極端に低下した生物となってしまう。彼女を救うすべはなく、周囲から「天才」と称賛されてきたエドは、自らの無力さに打ちひしがれる。作品内でも重要な位置を占めるこのシーンを、朴はどのような気持ちで演じていたのだろうか。
「ガチでマジになれる瞬間をエドと過ごせた」ということについて、もっとお聞きしたいです。とくに印象に残っているシーンはありますか?
私がエドと一番シンクロした瞬間が、ニーナという子がキメラに錬成されてしまうシーンなんですが…。
前日に家でやったリハから、もう涙が止まらなくって。「これ明日、私どうなるんだろう…」って思いながら、腫れ目のままで現場に行って。テストでも「うっ…」てなっちゃうわけですよね。「そのぶん本番は冷静にできるはず。大丈夫!」って思っていたんですけれど、こおろぎ さとみさんの可愛らしい声で(キメラとなった)ニーナに「おにいちゃん」と呼ばれ、ぶわあああっと涙腺が崩壊してしまって。その後のタッカー(※ニーナの父親)に殴りかかるシーンも、今までのいろんな感情が全部出ちゃうっていうくらいだったんですよね。
そうだったんですね…。
もうひとりのろ美ちゃんが、「こんなに冷静さを失ってしまったら、絶対に口パクも合わないな。ああこれNGだ…」って落ち着いて見ているんです。でも、もう一方の私は「それでもいいや。どうせ録り直しだろうから、バンバンぶつけるだけぶつけてやれ」と思っていて。そうしたら気持ち悪いくらいに、ぴっっったりエドと朴が合うんですよ! もうひとりの冷静なろ美ちゃんが、頭の上から「すっげえ…キモッ…」って思いながら見てるんですよね。
あんな経験はしたことがなくって…そのへんからかな。本当に(エドに)乗っ取られたっていうか。身体とかいろんなものをエドに貸してるな、決して自分がやってることじゃないんだなって感じたのは……。
私たちがアニメで聞いていたエドの言葉は、朴さんがしゃべっているわけではなく、エド自身が朴さんの声や身体を借りて発していたものだという…。
そう……。なんですけど! 私も(すべてを出しきったことで)放心状態だったんですが、普通に三間さんからリテイクを要求されて。「……え? 今のシーン録り直し? 嘘でしょ、私もうこれ以上のものはできない!」って。それで、「もう絶対に(あれより良いものは)できないから、さっきのテイクが本番で使われるに違いない」と思いながらリテイクをしたんですね。
先ほど、三間さんからの指示で、たった一言を30テイクも録ったことがあるとおっしゃっていましたが…。
どんなに激しくて、これ以上やったら喉がつぶれちゃうよっていうシーンでも、三間さんが気に入らなかったら何回でも何十回でもやらされるんですよ。だから、リテイクの1回目っていうのはランスルーみたいな感じで、みんな、わりと(力を)抜くんですよね。どうせまたやるから。それで1回目のリテイクを録ったら、「はい、これいただきます」って言われて。
えっ!?
そう。さすがにブチギレて。もう半泣き状態になりながら、「どういうことですか! 全然意味がわかんないです!」って言ったら、(三間さんがアフレコブースに)入ってきて、「たしかに、さっき本番で録ったテイクは、エドとして最高のテイクでした。だけど、我々が作りたい作品は、『子どもたちに傷を残さないように、痛いことを教える作品』。あなたのさっきのお芝居では、傷がついてしまう。だから、さっきのテイクはいりません。こちらを使わせてもらいます」と。本当に「この野郎、殺してやる…」って思ったくらい、悔しくて悔しくてしょうがなかったんですけれど、またひとつ教えられたというか。
演者は役のことを考えるのが仕事ですけれど、演出っていうのは、やっぱり画面の向こうの視聴者のことを考えるものなんだよな、っていうことを教えられた瞬間でしたね。そのときはもう3ヶ月ぐらい納得ができなくて、「顔も見たくない!」と思ったりもしましたけど。
でもそれ以来、視聴者のことも考えながら演じるということを、ずっと心がけていらっしゃる、と。三間さんは、朴さんが出演した『NANA』(大崎ナナ役)や『進撃の巨人』(ハンジ・ゾエ役)も担当されており、昨年は『音鬼と朴ろ美のH話×3』(音楽アプリ「SMART USEN」)というトークバラエティで共演するなど、ご一緒する機会が多いですよね。
このクソじじいは本当に、厄介な人でしてねえ…。でも、舞台も含めて、私が会ってきた演出家の中では……最高なんですよね、やっぱり…。ムカつくんですけどね(笑)。
そうなんですね。30回もリテイクするって、他の作品ではないことなのでしょうか?
他の作品ではないです。富野さんが監督されていた『ブレンパワード』では、まあ30テイクまではいかなくても、リテイクがあって。私も「すみません、ここをもう一回やりたいです」って食いついていけばいくほど、やらせてもらえたりとかしたんですけど、他の現場ではないですね。
では、かなり珍しいスタイルなんですね。
珍しいです。でも、役者がみんな三間さんを好きになるっていうのは、そういうところ。これだけ、マジでガチでやってくれる人はなかなかいないから。
スゴい現場だったんですね。エドともガチで向かい合って、監督やスタッフともガチで向かい合って…。
スタッフさんたちの熱気や勢いがスゴくて、こっちも「この野郎!」って思いながらやっていました。ちょうど、エドの中にも大人たちに対する「納得できねえ…!」みたいな思いがあって、そういうところもすごくシンクロしたんじゃないですかね。
次のページ