若者に偏見もあったが…「教えること」を決意した理由

2013年、朴は自身のボイススクール「studio Cambria(スタジオ カンブリア)」を開校。公式サイトには、「瞳の奥を開け 腹を決めろ」「熱く激しく 燃えてなんぼ」という魂のメッセージがつづられており、若者だけでなく、朴より年上の生徒まで、幅広い年齢層の人々が集まっているという。これまで彼女の話を聞いていると、決して妥協を許さないまっすぐな姿が見えてくるが、それを人々にも伝えようと思い立つまでには気持ちの変遷もあったのだとか。
最初に声優養成所で特別講師を務めるまでは、「最近の子たちは他人の目を気にする」と否定的な思いがあったそうですね。どういう背景から、そのように考えていらっしゃったのでしょうか?
「演劇集団 円」(※朴さんが所属していた劇団)で若い後輩を見たり、ラジオで悩み相談のおたよりをいただいたりして、「何でこんなに人の目を気にして生きているんだろう? 何が楽しいんだろう?」と思っていたんです。「この服を着たら変に思われちゃうから、好きだけど着れない」とか…。意味がわかんねえ、着りゃあいいじゃん! おかしいと思われたって、その状況すら楽しめばいいのに!って。
そういうとき、朴さんは後輩から相談されたら「そんなの気にするなよ!」と、バシッと言うのでしょうか?
後輩はね、もう怖がって相談しませんね。まだ相談してくれたら「ココとココとココじゃね?」って教えられるんだけど、「朴さんの成功した話を聞かせてください!」って言ってくるんですよ。「それ聞いてどうすんの? あたしの人生だし、あんたの人生じゃねえし」って言うと、「あっ…じゃあもういいです……(小声)」って(苦笑)。セッションしたいのかしたくないのか、どっちなんだ!?っていうこともあって。でも、すごくかわいそうに思ったんですよね。
周りを気にしてしまうあまり、自分を上手く出せない、と。
そうですね。「右向け右、左向け左じゃないとダメですよ」っていう教えの中で生きてきちゃってるから、今さら変えようがない。
最初に「養成所の特別講師をやってもらえませんか?」って言われたとき、「客寄せパンダになる気はないので」ってお断りしたんですが、すごい情熱的な方がいらして。「私がやったら全員ガチで泣かせますよ。そしたら、そちらも商売になりませんでしょう?」ってお伝えしたところ、「泣かせてもらってかまいません」と。「ケンカ売られたな…」と思って(笑)。その頃、ケンカっ早かったんで、「本気で泣かしていいんだったら、一回だけやりますよ」と引き受けたんです。
それで、「今の若い子たちって、どうせしらけてるんでしょ? これはできないでしょ?」って思うようなことをやらせたら、ついてくるんですよ! レッスンの一番最後に、ほふく前進して大声で叫びながら、相手の目の奥に飛び込むっていう過程があるんですけれど、みんなやるんです。過呼吸になっちゃう子もいれば、涙が止まらない子もいて。もう泣き方が尋常じゃないというか、「うああああっ!!」って、だらだら出ちゃうみたいな。そういう姿を見て、私も「うっ…」ってこみ上げてしまって。
真剣に頑張る子たちを目の当たりにして、衝撃を受けたのですね。
私は今の若い子たちに、すごい偏見をもっていたなって。こんなに自分を見てほしくて、こんなに自分ってものがあるのに、大人から決められた「こうしなさい」というルールを守らないといけない。何てかわいそうな子たちなんだろう…!それ以来、どこから呼ばれても絶対に行くって決めてるんです。「役者が人に教えるなんてことをやったら、終わりだぞ」って言われて、たしかに私もそう思ってたんですけど、「終わりだったら終わりでいいじゃねえか!」と考えて。
それが、朴さんがボイススクール「studio camblia」を立ち上げたことにつながるのですね。
養成所や専門学校って、まあ大人の事情があるのもよくわかるんですけど…、しっかり教えてあげてるとは思うんだけど、「(役者や声優に)なれるよ!」って言っちゃいけないと思うんですよ。それなら、ちゃんと理由も伝えてあげなきゃいけない。「大丈夫! 君もなれる!」なんて、もう絶対になれないやつだよねそれ、っていう(笑)。
うちは一応「ボイススクール」とうたってはいるんだけれど、入ってきた子たちには「役者や声優になりたいなら、よそに行ってください」と伝えています。うちは相手の目の奥を見て話せる人になるところなんで。でも、それが(役者や声優になる)一番の近道だとも思っているし。だから、むしろ「自分を知りたい人」のほうが大歓迎で、他とはちょっと変わっていますね。

痛い思いをした記憶は強く残る。だから「傷をつけたい」

実際に指導してみて、難しさを感じることもありますか?
本当に難しいですねえ…。始まって2、3年くらいは、もう「伝われえええ!!」って無駄に暑苦しかったんですが、「でも、そうやっても結局この子たちのためにならないのかな…?」と悩んだり。私に火をつけてもらうっていう感覚だと、私頼りになってしまうじゃないですか。それは絶対違うから、自分から火をつけられるようになるには、どうしたらいいのかな?っていう。「ほっとけばいいの? 他の養成所みたいに、『いいよいいよー!』って褒めながら、ある日突然バンッと切られて、そのときに現実を知るのがいいの?」って。
でも結局、人は痛い思いをしないとわからないから。一番痛い思いをした記憶って、強く残ってたりするじゃないですか。それで、痛い思いをしたときに、頑張った記憶も一緒に残るじゃないですか。だから、この表現が正しいかはわからないですけど、「傷はつけたい」んですよね。
傷をつけて、そこから自分で自分に火をつけてほしいという…。
つけてほしいなあ! このやり方が正しいのかをつねに自問自答しているし、一方で、「いや、私が迷っちゃいけないよな。思ったことをちゃんとやろう」って考えながら、日々やっていますけどね。
朴さんにも、自分と向き合うことの大切さに気づいた瞬間があるんですね。
もうたくさんあるし、それに感謝しています。私は本当に叩かれて叩かれてきてるんで。「いいよいいよー」なんて言われたこと、一回もないんでね。そういうふうに教えられていたら、私どうなっちゃったんだろうなって……、ちょっと怖いですね。
今とは全然違う性格だったかもしれない?
いや、性格というか、役者自体やってないんじゃないですかね。三間さんにも「しつけえよ!!」ってくらいフルボッコにされてたし、劇団でも橋爪 功さん(※「演劇集団 円」で代表を務めている)に満身創痍になるくらいフルボッコにされてたし…。胸ぐらをつかまれることもありました。決して優しくはないですよね。痛くないわけがないし、恥ずかしくないわけがない。でもそれが、一番の優しさだと思ってます。そんなことしてくれる人、家族以外で誰がいるだろう?って。
すっごい悔しくて「もうムリだよ…」ってどん底を味わっても、そこから「やるしかねぇ!」って腹をくくって、全部脱いで恥をかいたぶんだけ前に進める、っていうことを教えてもらいました。
そこでくじけたり、「もうやめてやる!」とはならないんですね。
私も並みじゃないほどプライドが高いんでね(笑)。「やる」って言ったらやるんです。もう絶対に私の中でそれは決まっていて。周りには反面教師というか、有言不実行な人たちがすごく多いんですが、そういうのが本当に大嫌いで。有言不実行だけはやりたくない。自分で「やる」って言ったんなら、どんなに失敗して回り道してもやってみる!っていう。
ただ、全員にできることかというと、難しい部分もあると思います。たとえば、ボイススクールの生徒さんの中には、打ちのめされたときになかなか立ち上がれない子もいるかと思いますが…。
そのときは、もう切り替えますね。頑張れる子に対しては、もうめちゃくちゃ行くんですよ。でも、「あっ、ダメだこの子は。まだ全然だ」って感じたら、手法をバンと変えて、褒めますね。ここまでできたことを褒めて、だけどここから先はこうだよねって教えたり。
そう考えると、これまでみなさんが朴さんに厳しく教えていたのは、朴さんがそこであきらめないこと、絶対に立ち上がってくることをわかっていたからなんですね。
そうですね。自分の生徒に向かいながら、橋爪さんの気持ちがすごくわかる。橋爪さんもどうでもいい人のことは、本当褒めるんですよ(笑)。でも、そうじゃない人間にはものすっごい辛辣。橋爪さんに言わせたら「俺とお前はつながってるんだから」って。
すごい愛情です…!
愛情なんて言ったら…、あのひねくれオヤジは絶対、「あ?」って言うに決まってるんですけどね(笑)。

「人の抱える闇に触れたときこそ、その人に近づける」

2017年11月に、デビュー当初から所属していた「演劇集団 円」を離れてフリーに。朴さんの公式サイトには、「LAL」という事務所の名前に込めた思いがつづられていますね。「時代が目まぐるしく変化する中、変わらずブレない心」という一文がとても印象的なのですが、これはどういう思いから出てきた言葉なのでしょうか?
「ブレない心」というと、何かを目指してるように聞こえるかもしれませんけど、そうではなくて「何を大切にするか」ということなんですよね。今って世の中に情報がたくさんあふれてるじゃないですか。だから、自分で決断しなきゃいけないときに、どれも素敵に見えちゃったりする。そういうとき私は、「ちょっと待てよ。一番大切にしたいものは何だったっけ?」ってことを考えるんです。
たとえば、今作っている舞台のフライヤーのデザインを見て、良いんだけど何か違うって思ったとき。「私はこれをもって何を伝えたいのか?」っていうことがブレてしまったら、それは絶対に完成しないから、「私はこの本(原作)の真髄が見えてないんじゃないか」と、その「中身」や内容までを考えるようにしています。
今作っている舞台というと、7月26日から上演される『死と乙女』ですね。アリエル・ドーフマンの戯曲で、舞台は南米の独裁政権が終わったばかりの時代。学生運動に携わっていたためにレイプや拷問を受けた女子大生が、約20年後にその加害者と再会するという物語です。
本当にきつい話で…。でも、今みなさんに伝えたいのは、娯楽でも何でもなくて、やっぱり「傷」。見ている方々に、痛い思いをしてほしいんですよね。「どうして金払って痛い思いをしなきゃいけないんだよ?」って思うかもしれないけど、「ちゃんと痛い思いをして、どこが痛んだのかわかろうよ」っていうのをテーマにしたいんです。それによって他者や自分を知ったり、(自分の力だけでは)ままならないことがあると気づく中で、「だからこれが大切なんだ!」ってわかるキッカケになればいいなって…。そういうのをすごく大切にしたいんです。
なるほど。作品の中で、女性は加害者を椅子に縛り上げて詰問。「真実を話してくれたら、今すぐ解放する」と告げるけれども、男はやっていないと否定し、学生運動のリーダーをしていた彼女の夫もその場に居合わせて…。
私が演じる「忘れられない人」、その夫である「忘れさせたい人」、そして加害者は「忘れたい人」っていう、三つ巴の作品です。概要だけだと、ものすごくブラックなお話に聞こえるかもしれないけれど、そうではなくて、今の日本の問題にも通じるところがあるんです。見たくないものを見ようとしない人、真実をちゃんと見て受け止めなきゃっていう人、いろんな人がいて…。
今回は変わると思いますが、戯曲では最後に鏡がばーっと降りてくるという演出になっているんです。鏡に観客が映って、「さあ、今のお話はあなたたちのことですよ」と思わせるという。
ドキッとする演出ですね…! でも、朴さんがこれまでお話されていた「人や自分と向き合う」ということを体現するかのような作品ですよね。
「人とちゃんとつながりたい」っていうのが、私の中で一番重きを置きたいことなんじゃないかな、と思ってますね。「みんな一緒だよ」みたいなふわっとした関係って、どこか信用できなくて。
なるほど。でも「有言不実行な人が多い」ともおっしゃっていましたし、朴さんの周りに「ちゃんとつながれる」方々というのは…。
いないいない! 私が今言ってることって、結局なかなかできることではなくて。もし、それができる人たちが集まったら、どうなるんですかね? でも、そういう人ばかりが集まったパフォーマンスが、はたして良いものになるかといったら、また違うと思うし。そうなったら何か宗教っぽくないですか? 「朴ろ美教を作らなきゃ」というわけではないんです(笑)。
作り手側と見る側にそういう違いが生じているからこそ、つながれるものがある。そういう意味では、ここにも「ままならないこと」が多いんじゃないですかね。
自分と同じように考えられる人ばかりじゃない、ということを理解したうえで、人とのつながりを大事にしようと心がけてらっしゃるんですね。
ちょっとネガティブな意見に聞こえるかもしれないけど、その人が抱えている闇に触れたときこそ、その人を信用できるじゃないですか。闇を知って、その人に触れられたような感じがあるし、中に入っていけるような感覚にもなり得るんじゃないかな。決して、傷の見せあいっこをしようということではなく、ちゃんと「痛い」って思いましょうよっていう。すべてが「陽」の人なんて、絶対にいないですから。
※朴 ろ美の「ろ」は、王へんに「路」が正式表記です。
朴 ろ美(ぱく・ろみ)
1月22日生まれ。東京都出身。AB型。1998年、『ブレンパワード』のカナン・ギモス役で声優デビュー。代表作に、『∀ガンダム』シリーズ(ロラン・セアック)、『鋼の錬金術師』シリーズ(エドワード・エルリック)、『NANA』(大崎ナナ)、『進撃の巨人』(ハンジ・ゾエ)など。2017年11月から、個人事務所LALを設立しフリーランスとして活動。女優として舞台の出演・プロデュースにも取り組んでおり、7月26日から舞台『死と乙女』への出演も控えている。

出演作品

舞台『死と乙女』
2018年7月26日(木)〜8月5日(日)@サンモールスタジオ
作:アリエル・ドーフマン
演出:東 憲司
出演:石橋徹郎、朴 ろ美、山路和弘
http://www.shi-to-otome.com/

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