YouTuberにも働き方改革を! 6年間休みなく走り続けてきたHIKAKINの本音
トップを走り続ける秘訣は――? 4つのチャンネルの総登録者数は1千万人超。押しも押されもせぬトップYouTuberであるHIKAKINは、そんな問いにしばらく思案したのち「周りに合わせられることかなぁ…?」とつぶやいた。独創的で過激な作品がよくも悪くも話題を呼ぶYouTubeの世界で、「周りに合わせる」という言葉は一見、弱気に映るが、そこにこそ日本一“優しい”YouTuberの神髄があった! ライバル(?)はじめしゃちょーへの思いから、2018年の目標、さらにその先まで、HIKAKINがたっぷりと語る。
撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.ヘアメイク/堤 紗也香
動画は「遊んでいたら撮り終わっていた」が理想
- 天気予報通り、雪が降り始めました(※取材が行われたのは、東京が大雪に見舞われた1月下旬)。こんな悪天候の日にお越しいただきましてありがとうございます。
- いやいや、雪国(※新潟県)の出身なので、これくらいの雪は全然! ちなみに新潟は今年、8年ぶりくらいの大雪らしいです。
- 雪もさることながら、朝早い時間の取材で恐縮ですが、普段この時間帯は…?
- 寝てますね。変則的にその日その日を生きてますが(笑)、どうしても明け方まで作業して、昼まで寝るという生活が染みついてます。
- 最近の1日の過ごし方を教えていただけますか?
- 昼に起きて、それから作品を撮り始めて、何とか頑張って夜の7時か8時くらいには編集まで終わらせてアップすることが多いかな? そして、余力があればごはんを食べたあとにゲーム実況の撮影をする感じですかね。それプラスお仕事の打ち合わせやTV出演などもあり、とてもカツカツです。
- いま現在、日々の作品に関してどんなプロセスでアイデアを考え、作品に落とし込んでいるのですか?
- ありがたいことに、様々なお仕事をいただいている中で毎日動画を作っているため、ストックがなかなか作れず、「明日はやることないなぁ」ってことも多いです(苦笑)。でも、1日何もしない日ができて、そこで集中すれば20〜30個は余裕でアイデアが出てくる気がします。去年までは、そういうことを考える余裕すらなかったんですよ。
- 目の前のことで、いっぱいいっぱいになっていた?
- 「1日休めば余裕じゃん」って考えることすらできず、自分を客観視できずに「休んじゃダメだ!」って…。そうなると結局、アップしない日も編集をしていたりして、休んでないんですよ。キッチリ緩急をつけたいですね。とはいえ、常に何かアイデアを探し、考え続けるだろうとは思うんですけど…。
- ただ、考えることが「今日の動画、どうしよう?」なのか、少し先の未来のことなのかでは、大きく違うかと。
- かなり違いますよね。編集するにせよ、3日先の作品をどうしたら面白くできるか? と考えて編集することができたら、超優雅ですよね(笑)。メッチャ楽しいと思います。いまは「ヤバい! ヤバい! ヤバい!」って毎日なので…(苦笑)。
- HIKAKINさんですら、いまでもそんな状態なんですか?
- 僕もそうですし、みんなそうだと思います。昨日も、20時半ラストオーダーのとんかつ屋に行きたくて、何とか頑張って、20時29分に店に入って「まだいけますか?」って(笑)。そうなるのは、まだ「他人に任せたくない」という気持ちが強いからでもあるんでしょうが…。
- ひとりですべて完結させたい?
- そこは動画愛があるからと言いますか、外注にしたり、人を雇って任せるという選択肢もある中で、やっぱり「他人には任せたくない」って人が自分も含めて多いですよね。そこも今後、どうなっていくのか…。
- それこそ、漫画家がアシスタントを雇うように、そういうシステムも変わっていくだろうと思いますか?
- いまも変わっていってはいます。でも、10人のアシスタントを雇ったら、これまでのように気楽にはできないですよね。より仕事っぽくなるというか。「好きなことで生きていく」というのとズレがあるんじゃないか?というのも考えることになると思います。
- 自分だけでなく、経営者として社員の生活を背負うことになる?
- 僕もアシスタントに助けてもらっている部分はあります。正直、作業や撮影面では、いてくれると確実に楽なんですけど、一方でアシスタントにどんな言葉をかけるべきなのか?とか、経営者としてのスキルも求められるようになっちゃう。そっちに頭や労力を使うのは、果たしてクリエイターとして正解なのか…? それはわからない。
- 悩ましい部分ですね。
- でも、大きいことをやるには、やはりひとりではキツいというのはある。その意味で、ある程度のチームは必要なんですよね。かといって、そこで質は下げたくないし…。そこは、イヤになるくらい細かくダメ出しして、妥協せずに自分の理想を追い求めたい。そうじゃなきゃ、作品が薄まっちゃうと思うんです。
- 「楽しんでやっている部分」と「仕事としてやっている部分」のせめぎ合いはありますか?
- 年々、自分の規模が大きくなるにつれ責任が増し、仕事感が強くなってきた気がしますね。本当なら僕は「遊んでたら撮り終わってた」というふうになりたいですね。
YouTuberも休日が必要。「休みます」宣言の意図
- 「休んじゃダメだ!」というお言葉がありましたが、現状、多くの人気YouTuberたちがほぼ1日に1本の作品を自身のチャンネルにアップしている状況です。だからこそ毎日、見てもらえるというのは事実ですが、HIKAKINさんほどのファンがいれば、もはや毎日投稿しなくてもその人気を維持できるのでは?とも思いますが。
- まさにいま、その過渡期にあるのかなと思っていて。自分は昨年くらいから、必ずしも毎日アップしないようにしています。
- それは効率や作品の質の向上を考えたうえで?
- 「絶対に1本上げなきゃ!」と無理してアップしたものが、時代を大きく変えるような作品になったり、ターニングポイントと言える作品になることはないだろうって感じるんですよね。逆にゆっくり休んで、アイデアを練ろうという方向にシフトしています。
- 社会でも“働き方改革”が叫ばれていますが、その業界のトップが率先してそうすることによる影響は大きいと思います。
- 実際、去年の夏頃に「休みます」という動画をアップしたんです。
- はじめしゃちょーさん、フィッシャーズのシルクロードさんを巻き込んでの『ぼくたち、休みます』という宣言ですね。
- そうしたら、休むYouTuberが増えたんですよ。
- 「ちょっと無理しすぎかも…」「そろそろ休みたいけど」と思いつつも、なかなか休めなかったYouTuberたちの背中を押すことになったんですね。
- 視聴者のみなさんの反応も好意的なものが多かったです。「何言ってるんだ? 仕事だろうが!」という批判も多少はありましたが。それもひとつの意見として受け止めつつ、一方でトップのYouTuberからはボソッと「あの動画、マジでよかったっす」って言われることが多くて(笑)。
- ボソッと感謝のつぶやきが…(笑)。
- やはり、ちゃんと休まないとみんな疲れちゃうんでね。とくに昨年は、みんなちょっと頑張りすぎたんじゃないかなって。それはいいことなんですけど。
- 頑張る時期も必要でしょうし、再生回数や登録者数の数字が伸びることで、アドレナリンが出まくって、疲れを感じないでどんどん、作品を生み出せてしまう時期もあるんでしょうが、どこかでシフトする必要がある?
- そういう意味で、今年は去年をどういう形で乗り越えていくのかがひとつ、ポイントになるのかなって。去年は、いいネタを温存する余裕もない状況で、「全部やってやる!」って感じの年だった気がします。YouTuberが盛り上がるのは夏ですが、今年はどうなるのかな? と気になっています。
「いまでも自分は“普通の人間”だと思っている」
- 休みの導入の一連の流れのように、YouTubeの世界全体のことを考えて行動したり、若いYouTuberたちのロールモデルになろうという意識は普段からお持ちですか?
- 少なからずありますね。一応、トップと言ってもらえる中で、よろしくないことはできないし、自分がやることで「それ、やっていいんだ」と思われかねないのでね。一見、どうでもよさそうに見える部分について、誰よりも細かく考えているかもしれないです。
- それは普段の作品作りにおいて?
- そうですね。ちょっとした細かい言い回しとか振る舞いに関して、誰も気にしないだろうというところまで気にすることは多いです。本当に小さなことで炎上する時代ですしね。
- それこそ、握手会で中腰になって、子どもと同じ目線で握手をしたり、さまざまなファンの要望に応えたりするさまが、「神対応」、「ぐう聖(※ぐうの音も出ないほどの聖人)」と称賛を呼んでいます。意識してというより、HIKAKINさん自身の人間性によるところが大きいのでしょうが…。
- 普段の作品に関しては、YouTuber全体のイメージを考えて、何をしたらいけないかというのは意識してますけど、握手会やイベントに関しては、とくに何かを意識することはなく、自分の素直な気持ちとして、できることをやらせてもらっています。
- とはいえ、変顔や得意のビートボックスに加えて、壁ドン、脈拍を測る、赤ちゃんを「高い高い」するといったイレギュラーな要望にまで笑顔で応えるというのは、なかなかできないことかと思います。
- このあいだも、福岡でのイベントのために東京からわざわざ来てくださった方がいたんですよ。僕なんかに会うために…。僕はアイドルでもないですし、いまでも自分は“普通の人間”だと思っているので、とてもじゃないけど、威張ったりなんかできないですね。
- 日本でNo.1のYouTuberとして称えられ、同じYouTuberたちからさえも仰ぎ見られるような存在でいることに対し、ご自身ではいまだに戸惑いがありますか?
- うーん、そうですね。いままでよくここにいられたなぁ…って思いますね、正直。2012年に正式に専業YouTuberになって、YouTubeが自分の仕事になって、その当時はまだまだやっている人も少なかったけど、ポツポツとすごい人も出てきて、逆に勢いがなくなっていく人も見てきて。そんな中でよく生き残りましたよね。
- 生き残るどころか、総登録者数で言えばぶっちぎりの日本No.1です。ご自身の強み、他のYouTuberとの違い、他の人たちにはないものはどんなところだと思いますか?
- 難しいですね。YouTuberへの期待のハードルがどんどん上がっていく中で、僕の動画はいまだに面白い商品を紹介することで成り立っていたりするんですよね。そういう部分かな? 最近はチームが増えて、「みんなで○○ゲーム!」とか複数のメンバーでやってるけど、僕はひとりなので。
- ひとりで昔と変わらない商品紹介をやっている?
- 昔ながらの商品紹介って減ってきてるんですけど、それをしっかりと成り立たせている。チームだとキッチリ役割分担があったりして、それはうらやましい部分でもあるんですけど、一方でひとりだと、視聴者に覚えられやすいんですよね。ある種のアイコンと言いますか…。そういうところは、ひとりでやってることの強みを感じますね。
「自分が面白いと思うものを動画にする」譲れないこだわり
- 「アイコン」という言葉が出ましたが、自身を意識して“キャラクター化”している部分はありますか?
- 日に日にリアクションがデカくなったりしていて、キャラっぽくなっている部分はあるのかもしれません(苦笑)。
- それこそファンの小中学生たちにとってHIKAKINさんは、生身の人間であると同時に、人気アニメに登場するような、ある意味で“キャラクター” のような存在となっているのでは?
- なるほど…。もし、そう思ってもらえているなら、すごくうれしいですね。ただ、動画のターゲットとして子どもを意識しているわけではないんですよね。基本、敬語ですし。じゃあなぜ、あんなに子どもたちに見てもらえるのか? そこは自分でもわかってないんですけど…(笑)。
- 子どもたちの存在に限らず、ネタを考える際にターゲット層を意識することもないんですか?
- まったくないわけではないですが、どこかで自分が「面白い」と思わないとやらないというのが大前提ですね。ただ、もう30歳に近いので、小中学生とのズレはあるのかもしれないなぁ…とたまに考えたりします。たとえば、自分はミニ四駆とか『ビーダマン』に熱狂した世代ですけど…。
- 80年代から90年代の小学生カルチャーですね?
- でもいま、自分が「うぉー! ミニ四駆、懐かしい!」って動画をアップしても、子どもたちは「このおっちゃん、何言ってんだ?」って感じでしょうし、同じ世代に共感してもらえても、数字は伸びないと思います。
- たしかに。いまの子どもたちは、その存在すら知っているかどうか…。
- だからといって、いま僕が戦隊ものの動画をやるのはどうなんだ?とも思う。やったことないですけど、やれば反響はあるかもしれない。でも、やるなら毎週見て好きになってやりたいし…、いまはその時間もないし…。
- もともと、「好きなことを仕事に」という意識で始めたということが大きいのでしょうか?
- やろうと思えば、本当に大好きじゃなくても楽しくできてしまうと思うけど、それを長年、続けたらおかしくなっちゃう気がするし、ズレが生じてくると思います。自分で「面白い」と思えなければやるべきじゃない、というのだけは守りたい。そこを吹っ切ることができたら、ある意味で最強なのかもしれないですが…。
- いまでは、子どもの頃にHIKAKINさんの姿を見て、YouTuberになったという人もいます。若いYouTuberたちとのあいだで、ジェネレーションギャップといいますか、YouTubeに対する意識の違いなどは感じますか?
- それはそんなに変わらない気がしています。僕自身、好きな動画を撮って、それで収入を得られるという点にすごく大きな魅力を感じて、YouTuberになったのはまぎれもない事実ですし。
- 変わったのはYouTuberの認知度の大きさ、マーケットの大きさでしょうか?
- そこだけのような気がします。最近、ニュースのキュレーションサイトを見ると、絶対にどこかひとつは「YouTuberの○○が…」ってニュースがあるんですよ。あまりよろしくないニュースも多いんですけどね(笑)。
- 世間がYouTuberを当たり前の存在として捉え始めてる?
- こうやって、徐々に“普通”になっていくんでしょうね。まだいまでも、目新しさはありますけどね。「YouTuberがTVに出るの?」とめずらしがられる空気は残ってる。でもそれもいずれ、当たり前になっていくのかもしれません。