近年、右肩上がりの好調が続く漫画業界。漫画の制作現場にも注目が集まり、漫画家だけでなく編集者への関心も高まってきた。メディアでも編集者に関する記事を目にする機会が増え、ライブドアニュースでもこうした記事を掲載しては、大きな反響を集めている。

では、編集者は、何を考えて仕事をしているのか?
漫画家は、編集者に何を求めているのか?

「担当とわたし」特集は、さまざまな漫画家と担当編集者の対談によって、お互いの考え方や関係性を掘り下げるインタビュー企画。そこで見えてきたのは、面白い漫画の作り方は漫画家と編集者の関係性の数だけ存在し、正解も不正解もないということだ。

第4回は、「少年ジャンプ+」で連載された『サマータイムレンダ』より、漫画家・田中靖規と担当編集の片山が登場。田中は「週刊少年ジャンプ(以下、ジャンプ)」での連載経験があり、片山は令和の大ヒット作、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』を担当した。

ふたりがタッグ結成後に生み出した本作は、今年2月に大団円を迎え、アニメ化が決まり、実写化企画が進行するほどのヒット作に。「週刊少年ジャンプ」での連載打ち切り後に迷走していたという田中の復活劇の裏には、片山とのどんなやりとりがあったのか、ふたりの出会いから本作完結までの約7年半をたどる。

後編では、具体的な打ち合わせ内容にフォーカス。ゲームという共通の趣味について語らうことで、両者のあいだには「共通言語」が蓄積されていき、驚くほどスムーズに執筆が進んだという。

インタビュー前編はこちら
取材・文/加山竜司

「#担当とわたし」特集一覧

田中靖規(たなか・やすき)
1982年11月17日生まれ。和歌山県出身。2003年に『獏』が「赤マルジャンプ」2003年WINTER号に掲載されデビュー。主な漫画作品に、『瞳のカトブレパス』、『鍵人 -カギジン-』、『ガイストクラッシャー』シリーズなど。2017年から連載した『サマータイムレンダ』はアニメ化・実写化が発表されている。
    担当編集者・片山(かたやま)
    2010年に集英社に入社し、「週刊少年ジャンプ」編集部に配属。2011年6月より「最強ジャンプ」編集部に異動し、2014年から再び「週刊少年ジャンプ」編集部に。立ち上げ作品に『ブラッククローバー』、『鬼滅の刃』、『呪術廻戦』、『あやかしトライアングル』など。

      『ジョジョ』荒木飛呂彦から受け継がれた自己管理術

      編集者である片山さんから見て、田中先生の作家としてのストロングポイントはどこでしょうか?
      片山 いっぱいあるんですけど、自己を律する力がスゴいです。進行で苦しんだ記憶が全然なくて、「明日でいいですか?」と言われたことは一度もありませんでした。ネーム(注1)も原稿も遅れることがなく、それでいて土日はしっかり家族と過ごされています。
      ※注1:コマ割りやキャラクターの配置、セリフといった、漫画の構成をまとめたもの。一般的に商業誌の場合、漫画家が描いたネームを編集者が確認し、OKが出たあとで原稿に取りかかる。
      田中 『サマータイムレンダ』の連載中に緊急事態宣言が発令され、子どもの学校が休みになったときは隔週連載にさせてもらいましたけどね。
      片山 そういったトラブルにも対応しやすいのがWEB連載の強みです。
      田中先生は、『ジョジョの奇妙な冒険』を生み出した荒木飛呂彦先生のアシスタント経験がありますが、スケジュール管理に関しては、荒木先生の影響もあってのことでしょうか?
      田中 そうですね。荒木先生というモデルケースを身近に見ていたので、その影響は大きいです。

      僕がアシスタントに入っていたのは、先生が月刊誌「ウルトラジャンプ」で『スティール・ボール・ラン』(2005〜2011年)を連載されていた頃で、出勤時間と終業時間がきっちりと決まっていました。

      週3勤務で朝10時から始まり、昼休憩が2時間あって、夜9時には終わる。荒木先生は絶対に徹夜はしませんでした。我々アシスタントは、月1回の〆切の日だけ徹夜でしたけど。

      だから僕もそれを真似しよう、と。ただ、荒木先生も秋本治先生(『こちら葛飾区亀有公園前派出所』など)の真似をされたそうなんですよ。
      スゴい系譜ですね! たしか秋本先生の職場にはタイムカードがあると、うかがったことがあります。
      片山 僕は入社1年目に見習いとして秋本先生の担当に1ヶ月ほどくっついていたんですけど、「アトリエびーだま」(秋本先生を中心とする漫画制作集団)のスタッフさんたちは、昼になるといなくなるんですよ。外でご飯を食べたり休憩したりして、午後になるとスタジオに戻ってきます。
      田中 3日くらい不眠で破滅的にやってもいいんですけど、僕は荒木先生のスタイルが格好いいと思ったので真似しています。長く描き続けるなら絶対にこのスタイルだな、と。
      週刊連載の作家としては、非常に優等生タイプですよね。
      片山 田中先生の場合は、アシスタントさんを入れずにひとりで描いているのに、スケジュールがまったく乱れない。器用というレベルではないですよ。本当にスゴいです。
      そういえば『僕だけがいない街』の三部けい先生も、荒木先生のアシスタント経験者で、同じくタイムループ作品を手がけました。何か共通点は?
      田中 三部先生は先輩ですね。アシスタント時期がかぶっていないので直接の面識はないのですが、言われてみればそうですね。共通点は……、あるのかなぁ?
      片山 「スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う」的な?
      田中 まさか(笑)。

      「毎日が楽しかった」という、鉛筆作画へのチャレンジ

      『サマータイムレンダ』はすべて鉛筆で作画をした、とコミックスのあとがきに書かれています。
      田中 紙に鉛筆で描いた絵をスキャンしてパソコンに取り込み、それを原稿にしています。背景とキャラを別々の紙に描いて、パソコン上で合成して1枚の絵にしたりできるので便利ですよ。アニメのセル(注2)を重ねる手法に近いのかもしれませんね。
      ※注2:セルアニメの制作過程で使われる透明シート。背景を描いた紙の上に、別の絵を描いた数枚のセルを重ねたり差し替えたりして撮影する。
      ▲第6巻のあとがきでは、田中先生愛用の画材や作業方法が紹介されている。絵の合成には「CLIP STUDIO PAINT」を使っているそう。
      なぜ、そのような作画スタイルになったのでしょうか?
      田中 僕から「鉛筆描きでやりたい」と申し出ました。そのほうが速いんじゃないかと思ったからです。新しいチャレンジでしたね。
      工程のいくつかをスキップできる?
      田中 僕の中ではそうでした。漫画家の中には、ラフな下描きをして、そこにもうペンを入れちゃう人もいます。荒木先生はそのタイプでした。

      僕はものすごく丁寧に下描きをするタイプです。鉛筆で下描きをしたあと、さらにそれをトレースし、そこからペン入れをしていました。だからペン入れが全然面白くないんですよ(笑)。ただ絵をなぞるだけ。この時間はいらないな、と思ったのがきっかけです。
      ▲田中先生のデスク周り。下描きを清書する際にはトレス台が欠かせない。鉛筆がたくさんあるが、短くなったものは、落書き用として子どもにあげているとか。
      下描きではいい表情が描けたのに、ペンを入れたら「これじゃない」感が出る……みたいな話はよく聞きます。
      田中 Gペンは描ける方向にけっこう制限があるんですよ。それに対して、鉛筆は自由。どの角度、どの方向にも動かせる。Gペンでシャッシャッシャッって描くのが好きな人もいますけど、僕は鉛筆のほうが好きです。
      片山 鉛筆描きだと筆圧までわかって、人間味というか、ぬくもりをより感じますよね。
      編集者としては「鉛筆描きでやりたい」と言われたときに、どう思いました?
      片山 印刷にさえ出れば何で描いても問題ないです。Gペンを使わない方もいますしね。カブラペンやミリペンなど。最近はデジタル化が進み、そもそもペンタブで描く方も多いですし。
      田中先生は、連載中に描いていて楽しかったのはどのあたりですか?
      田中 鉛筆で作品を描くのが初めてだったので、最初からずっと楽しかったです。ほかにやっている人もいないだろうな、という思いもありましたし、「今日はこうしてみようか」と新しい試みの連続でした。絵を描くこと自体が楽しかったです。

      幼年誌からサスペンス調へ。苦労した頭身バランスの変更

      絵の修正をお願いすることはあるんですか?
      片山 『サマータイムレンダ』では、連載前に設定画を見た段階で「もう少しキャラクターの頭身を上げてもらえませんか?」とお伝えしました。連載を始めてから急に変えたら、読者は違和感を抱いてしまうので。
      田中 この作品の前まで、僕が幼年誌(「最強ジャンプ」)で描いていたからですね。もともとの僕の絵柄は、今と近い感じでした。
      以前、ジャンプで連載されていた『瞳のカトブレパス』や『鍵人 -カギジン-』の頭身バランスは、『サマータイムレンダ』と近いですね。
      田中 幼年誌では「もっと頭身を下げて」と言われ続けました。いきなり頭でっかちのキャラを描くのは難しいんですよね。そして今度は、幼年誌のタッチから元に戻すのに、また時間がかかりました。
      ▲「最強ジャンプ」で連載された『ガイストクラッシャー』(監修・協力:カプコン)。
      ©田中靖規 ©CAPCOM CO., LTD. 2013 ALL RIGHTS RESERVED.
      頭身を上げた理由は?
      田中 今作はサスペンス調でリアリティ・ライン(注3)が高いので、キャラがデフォルメチックだと合わないと思ったからです。
      ※注3:その作品における、世界観の現実度。たとえば、殴られてケガをするとリアリティ・ラインが高い、プクーッとたんこぶができて次のコマで消えるとリアリティ・ラインが低い、といえる。
      片山 幼年誌の頃とは全然違う作風ですからね。
      田中 でも、自分では頭身を上げたつもりなのに、片山さんからは「もうちょっと上げて」と言われました。幼年誌に合わせた絵が「自分の絵」になっていたから、まだ頭身が低いままだと自分では気づけないんですよ。それを変えるのはめちゃくちゃ大変で、すぐには直らない。根気よく、時間をかける必要がありました。
      片山 かなりアクロバティックな画風の変更でしたが、よく応じていただけました。
      田中 今読み返すと、1巻の段階だとまだ前の画風を引きずっている感じはあります。僕の手癖が見えてイヤですね(笑)。連載中にも絵柄は変わっていったんですけど、そういう意図的ではなく、自然に変わった部分もあります。
      片山 読んでいるほうはアハ体験みたいなもので、気づきにくいですよね。
      田中 1巻と最終巻を比べるとわかりやすい。ラストのほうは、敵を怖くしたい意識があったので、リアルめになっています。
      ご自分で気に入っている絵柄はどのくらいの時期ですか?
      田中 個人的には9巻くらいが好きですね。

      「カッコいい」を共有するために、互いの共通言語を探る

      「面白い」って、すごく抽象的な言葉だと思うんですよ。どういったものを面白いと思うか、お互いの「面白さ」を擦り合わせたりはしますか?
      片山 めちゃくちゃします。「最近何がよかった?」とか、そんな話ばっかりですよね。ゲーム、漫画、映画、小説、とにかくなんでも。
      田中 直近だと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ですね。どこがよかったか話しましたよ。
      おふたりのあいだで、趣味が合う?
      片山 基本的に一致しますね。
      田中 担当編集とこれだけ一致するのは初めてですね。中野さん(中野博之。初代担当で、現「週刊少年ジャンプ」編集長)はゲームをしない人で、その部分は一致しなかったので。
      片山 中野は、「俺は『プーヤン』しかやったことがない」と言ってます。嘘だと思いますけど(笑)。
      田中 (笑)。
      片山さんは、個人的にゲームが好きだからプレイするのか、それとも田中先生の「好きなモチーフ」を探るためにプレイするのか、どちらですか?
      片山 もともとゲーム好きなので、好きだからです。田中先生とはゲームのどこに魅力を感じるのか、感覚が近い気がします。好きな作品の話をするのは、お互いにとっての共通言語を探るためですね。共通言語がないと打ち合わせにならない。
      共通言語とは?
      片山 たとえば「このキャラ、カッコよくしましょうよ」と言ったときに、「カッコいいとは何か」という話になりますよね。
      お互いにとっての「カッコよさ」に齟齬があると、話が食い違ってしまいます。
      片山 あるいは「もっとシビれる展開にしましょうよ」と言っても、「シビれる展開とは?」と。
      田中 そういう言語化しにくい感覚は、「あの作品のアレみたいな」で通じると、話が早いですよね。
      片山 ひとつ具体例を挙げると、『へうげもの』(作:山田芳裕)ですね。田中先生から「『へうげもの』の顔芸がスゴいよ」と話をしてもらいまして。それからキャラの表情を大げさにしたいところは、「『へうげもの』っぽく」と言えば通じます。
      田中 雁切真砂人の表情は、『へうげもの』に影響を受けた箇所もありますよ(笑)。
      ▲第10巻より。ゲーム好きの宮司・雁切真砂人。慎平たちが自らの正体に迫ったときは、普段の柔和な笑みは立ち消え、残忍で歪んだ表情を見せた。
      なるほど、それが共通言語ですね。共通言語が多いほどやりやすい?
      田中 非常にやりやすいです。イメージを共有しやすい。
      片山 共通言語を増やしたうえで、作家さんに「こういうの面白くないですか?」「こういう展開どうでしょうか?」とアイデアを伝えても、そのときは「はあ……」と、あまり響いていないようなリアクションの方も多いです。でも、数週間後にその影響が出てくる。

      しかも、僕が言ったことよりもはるかに面白いアイデアが出てくる。僕はそれを「ボディブロー」と呼んでいます。
      あとになってジワジワ効いてくる感じですね。
      田中 僕は作品を論理的に分析したり、方法論を知るのは好きです。だけど、いざ自分が作品を描くとなると、感覚的になっちゃうんですよね。
      片山 田中先生は「感覚的」と言いますけど、本人の知覚していない無意識のところで、取り入れたものが消化されて、アウトプットされていると思うんですよね。
      田中 だから論理を入れてくれる編集者は助かります。編集者の中には作家の自由にさせてくれて、なんでも受け止めてくれる方もいるので、それが合っている作家もいると思います。でも僕は「自由にやってくれ」と言われるほうが、やりにくいのかもしれない。

      武器、グロ表現、敵のセリフ…「リアルさ」の境界を模索

      『サマータイムレンダ』では、実際にどのような打ち合わせをしたのか教えてください。
      片山 連載開始前は、リアリティ・ラインについて話し合いましたね。
      田中 最初は「リアルにやろう」と話していて、「実写ドラマになるようなサスペンス調の作品」を目指していました。だから敵と戦う武器にしても「聖なる武器」みたいなファンタジックなものではなく、日常的に身の回りにあるものを使おう、と。
      片山 一般人がいきなり日本刀を振り回したら浮いちゃいますもんね。
      田中 南雲先生の武器をスレッジハンマーにしたのは、片山さんのアイデアでしたね。
      片山 工具として持ち運んでいてもギリギリ不自然でなく、ギャップを生み出せるものとなるとハンマーかな、と。

      決まったあとに映画『ターミネーター:ニュー・フェイト』を殺陣の参考として田中先生にオススメしたんですけど、ハンマーを振り回すシーンがとてもカッコよかったんです。華奢な女性が持っているとギャップがありますから。
      田中 戦う相手は影なので、平面で叩きつぶすのが絵的にも合っていましたね。
      ▲第3巻より。
      片山 だから最初は、どんどんリアリティ・ラインを上げようとしていたんです。敵側のセリフもカットしましたよね。
      敵側のセリフというと?
      片山 たとえば少年漫画だと、「アイツがやられたか」「ヤツは四天王の中でも最弱」みたいに、敵側が自分たちの事情を説明するシーンがあるかと思います。けど、そういう敵側の視点はカットしましょう、と。

      今言ったのは『ギャグマンガ日和』(作:増田こうすけ)ですが(笑)。
      田中 慎平の知り得た情報だけで物語を進めるようにしました。敵が何を考えているかわからない、不気味な存在にしたかったという狙いもあります。
      なるほど。サスペンス調の作品らしいですね。
      田中 グロい表現もありました。2巻ラストの夏祭りでは「食べる」表現がもっと直接的で、ゾンビもののようにグチャグチャになる予定でした。
      片山 当時のWEBマンガの中にはグロく人気のものも多かったのですが、今後は潮流として減っていくんじゃないかって話をしましたね。グロテスクのレベルは下げよう、と。
      ▲第2巻より。巨大な影に飲み込まれるように、人々が「食べ」られていく。

      面白さ優先で、整合性はあとから考えるようにしていた

      ストーリー全体に関わる部分は準備段階で話し合っていたんですね。最初の時点では、どこの展開まで考えていたんですか?
      田中 物語の全容は、先にプロットでお伝えしていました。病院に行って、洞窟に行って、体育館に行って……と、ゲームのダンジョンをクリアしていく感じです。
      片山 ロケーションが変わるのは面白いと思いました。
      田中 各キャラクターの「この日のこの時間に何をする」といった時系列順の行動は、表にまとめて管理していました。
      ▲作中でタイムリープをする7月22日からの3日間、キャラクターがどこで何をするのかをまとめた行動表。これを元に緻密なストーリーが練られている。
      では「どこで何をしてラストを迎える」といった、物語の大筋は最初から決まっていたんですね。
      片山 そうですね。打ち合わせでは、かなり驚かされることがありました。

      連載ネームは普通3話分まで作ってもらうんですけど、それを読み終わって「面白いじゃないですか」ってお伝えしたら、「まだあるんですよ」って4話目が出てきたんです。4話目を読み終わったら、また「まだあるんですよ」と、さらに5話目が出てきた。

      結局、1巻分あったんですよ。編集やってて初めてですよ、あんなサプライズは。
      田中 ただ、物語の途中で敵と対峙してからはバトル展開に突入するんですが、そうすると、それまでのリアリティ・ラインが崩れるんですよ。潮が髪の毛をビュンビュン振り回して戦ったら、「実写ドラマになるような作品」どころじゃない(笑)。

      だからバトルが掲載される週は、読者が受け入れてくれるかどうかドキドキしてました。
      バトルに舵を切った理由は?
      田中 やっぱりバトル漫画っていいな、と思ったんですよね。
      片山 当時、田中先生から「劇場版『ドラゴンボール超 ブロリー』は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と同じくらいの高揚感が得られますよ!」という話をしてもらいまして。
      そんなに!
      片山 ふたりで観てめちゃくちゃテンションが上がりましたよね。本当に面白すぎて、泣いた記憶があります。
      田中 そうそう。その影響で、潮に『ドラゴンボール』ばりの肉弾戦をさせました(笑)。
      ではラストまでの過程で具体的に何をするかは、その都度打ち合わせで決めていったのでしょうか?
      片山 まさに、そんな感じです。
      普段の打ち合わせの頻度はどれくらいですか?
      田中 週に1度、だいたい3時間いかないくらいですね。
      片山 毎週火曜日に。前日か当日までにその週のネームを送ってもらっていたので、拝見したうえで気になる箇所をチェックしつつ、「面白かったです。では次回どうしましょうか?」と打ち合わせに入りました。

      そこでディスカッションすることもあれば、田中先生から「こうしたら面白いと思うんですけど、どうですかね?」とアイデアをいただき、そこから変ではないか考えることもありました。その繰り返しでしたね。
      田中 何か面白そうなアイデアを思いついたら、まず言ってみるんです。「このキャラクターの正体が○○だったら面白くないですか?」とか「敵もループしたら面白くないですか?」とか。
      片山 「それをやるともっと大変になりますよ」とか言いながらも、「そのほうが怖いし、面白いから全然アリだな…」と思っていました。
      田中 整合性はあとから考えればいいから。
      片山 だから僕は、田中先生のデバッグ作業(プログラム内のバグを見つけて改修すること)をお手伝いしていた感じですね。

      『SIREN』は最初の共通言語。公式解説本も大きなヒントに

      この作品を描くにあたって、参考にした作品は?
      田中 ループものにはお約束があるので、それを確認する意味でループものはけっこう観ましたよね。それで、同じシーンに戻るのは3回くらいにとどめよう、と。
      最初はそこが楽しいんですけどね。
      田中 そうなんですよね。でも、あまり同じシーンを繰り返すと、読者がまどろっこしく感じちゃうでしょうから。
      片山 当時何度も『All You Need Is Kill』(原作:桜坂洋)の映画版を見ていたのですが、あちらも中盤以降はかなりループシーンを省略しているし、ループにも制限がありました。
      田中 何度も死ねたら緊張感がなくなってしまう。だからループに制限をもうける必要があって、そこで考えたのが「スタート地点が少しずつズレてくる」というアイデアでした。
      『All You Need Is Kill』は、トム・クルーズの情けない死に方が楽しい映画です。
      片山 どういう死に方をしたら読者が驚くか、いろいろ話しましたよ。
      田中 『Re:ゼロから始める異世界生活』(作:長月達平)で、主人公が寝ているあいだに死んでいたってのがありましたよね。あれは面白い。「え、俺死んだの?」みたいなのは怖いです。『STEINS;GATE』も好きですね。アニメを本放送時に観始めたんですけど、続きが気になっちゃって、途中でゲームを買ってきたくらいですから。
      片山 田中先生、ゲームだと『SIREN』もお好きですよね。
      田中 かなり影響を受けてます。『SIREN MANIACS -サイレン公式完全解析本-』が素晴らしくて、世界観やゲーム内で手に入るものの解説が面白いんですよ。こういう設定資料的なものから想像をふくらませるのが好きなので、コミックスに収録する「記録」を作る際には参考にしました。
      片山 僕も『SIREN』はプレイしていました。
      ▲コミックスの巻末やカバー下には、謎を読み解くヒントとなる「記録」を掲載。上記は第2巻に収録された「記録#003」。
      田中 かなり初期の打ち合わせで、「『SIREN』面白いよね」って話になりました。『SIREN』は最初の共通言語でしたね。
      片山 お互いにゲームが好きだから、「リアルタイムレンダリング」の話もしましたよね。あらかじめ用意されたムービーシーンではなくて、ゲーム中に3D画像をリアルタイムで演算処理して、ムービーのように演出する手法のことです。
      田中 その「リアル」を「サマー」に変えて、『サマータイムレンダ』というタイトルにしました。タイトルに「夏」とか「時間」というキーワードを入れて、わかりやすくしたかった意図もあります。もともとの『ジャメヴ』だと、オシャレですけど内容が想像しにくいですもんね。
      片山 ループした時間がレンダリングされている、という意味合いに。
      田中 このタイトルだと、モザイクとかデジタル風の演出もマッチしました。
      ▲第2巻より。影の見た目はオリジナルの人間とそっくりだが、時折その姿にモザイクがかかることがある。

      効果的な演出が満載で、想定したよりも納得のいく作品に

      『サマータイムレンダ』は全13巻で完結を迎えました。
      田中 最初は10巻以内に終わるだろうと思っていました。
      片山 当初の予定よりも話数が増えたのは、南雲先生の存在が大きいですね。
      田中 もっとも初期設定から変化したキャラクターでした。当初は二重人格でもなかったし、あそこまで戦うキャラでもなかった。もっと文筆家っぽい風貌でしたし。
      キャラが生き生きと動いたことで、そのぶん連載が長くなったのでしょうか?
      田中 そういうことだと思います。
      片山 本作では、泣く泣く削った演出がほぼありませんでした。当初考えていた効果的な演出が過不足なく入った作品だったと、僕にとっても新鮮な体験でした。最終話でカラーになるところも、電子書籍版ではカラーのまま収録されています。あそこも効果的でしたね。
      田中 思い描いていたラストに到達できたし、想定していたよりも納得のいく作品ができました。最初はグロもあるサスペンス調の作品を志向していたのに、ずいぶんいろいろな風景が出てきたな、と感じています。
      連載が終わったタイミングで、打ち上げとかはされたんですか?
      片山 編集部から感謝を伝えたいので本来ならそうしたいんですけど、新型コロナウイルスの影響で、まだできていないんですよ。

      そのかわり、「PlayStation®5」をプレゼントしました。「田中先生には何をあげたら喜ぶんだろう?」と考えた結果、いろいろなルートをたどって『サマータイムレンダ』のメディア担当の方に入手してもらいました。
      田中 めちゃくちゃうれしかったです(笑)。
      インタビュー前編はこちら

      作品紹介

      漫画『サマータイムレンダ』
      全13巻
      価格660円(税込) ※第13巻は693円(税込)


      ©田中靖規/集英社

      「#担当とわたし」特集一覧

      サイン入り色紙プレゼント

      今回インタビューをさせていただいた、田中靖規先生のサイン入り色紙を抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

      応募方法
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      受付期間
      2021年7月8日(木)18:00〜7月14日(水)18:00
      当選者確定フロー
      • 当選者発表日/7月15日(木)
      • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
      • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから7月15日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき7月18日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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