「りぼん」らしさがあれば、どんな漫画でもいい。

集英社に入社して以来、ずっと少年漫画を作り続けてきた。その先に行き着いたのは、少女漫画雑誌の編集長だった――。

2018年から少女漫画雑誌「りぼん」の編集長を務めている相田聡一。週刊少年ジャンプ編集部で『ボボボーボ・ボーボボ』、『家庭教師ヒットマンREBORN!』、『バクマン。』を世に送り出してきたヒットメーカーだ。

彼の心にあるのは、確固たる漫画愛。少年漫画はもちろん、子どもの頃からジャンルを問わず漫画を読み、編集者になってからはジャンプで面白い漫画を作ることに心血を注いできた。

では、「りぼん」ではどうだろう?

恋にドキドキ、バトルに燃えて、ファンタジーに胸を躍らせるのも、ホラーにぞくりと背筋を凍らせ、ギャグに腹を抱えてゲラゲラ笑うのもいい。子どもたちに、「りぼん」で漫画の扉を開いてほしい。相田編集長が「りぼん」で志すのは、漫画の彩りの豊かさを見せる少女漫画雑誌だった。

撮影/すずき大すけ 取材・文/川俣綾加

「こうすれば面白くなりそう」を作家に伝えるのが漫画編集者

りぼん編集長に就任する前は、週刊少年ジャンプ編集部に19年近く在籍していましたね。入社2年でヒット作『ボボボーボ・ボーボボ』を世に送り出しています。編集者としての力は、編集部に入ってから鍛えられたものでしょうか?
▲『ボボボーボ・ボーボボ』(作/澤井啓夫)。2001〜2007年に連載。©澤井啓夫/集英社
編集としてのノウハウを言語化できるようになったのはジャンプ編集部に入ってからですが、基本的な考え方は、昔からの蓄積かなと思っていて。編集者になってから新しく何かを身につけたという感覚は、自分にはあまりないかもしれません。

子どもの頃からずっと漫画を読んできて感じたものを、編集という仕事にぶつけた感じがしますね。まずは自分のやりたいことや好きなことをやってみたからこそ、早く波に乗れたっていうのはあるかな。
「ジャンプ」に配属された当初は、先輩編集者から教わることも多かったんじゃないかと……。
いや、そういうのは「ジャンプ」には全然ないですよ。何も教えてもらえないのが普通でした。雑誌作りの基礎は教わるけど、漫画作りについては全然。連載を引き継いで「あとはよろしく!」って。
えっ!
聞けば教えてくれるかもしれないけど、それをやると「俺はもう担当編集じゃないんだから、(作品との関係を)スパッと切るよ。自分で探さなきゃ」って指摘されるような文化でした。
生まれたての編集者は、そのまま漫画の荒野に放たれるわけですね。
編集者それぞれ自分の好きにやっていっていましたね。言い方は失礼かもしれませんが、面白くないところがあると思ったら、面白くすればいいんです。単純に。
想像すると、自分が思う「面白い」で突き進んでいいのか迷いそうです。
僕が思う「面白い」が、世間でも必ずしも面白いかはわかりませんが、「こうすればもっと面白くなりそう」と思ったら、それを正直に作家さんに伝えるのが漫画の編集者です。
ジャンプ編集者時代に苦労したことがあれば教えてください。
ずっと昔からジャンプを読んできたので、編集部に入ってからの引き継ぎの時点で、僕なりに「この作品はもっとこうしたら面白くなるはず」という思いがすでにあって。ジャンプ時代はそれを繰り返していく作業でした。だからそんなに挫折らしい挫折、苦労みたいなものはなかったですね。
編集者といえば、肉体的・精神的にヘビーなイメージでした。
「ずっと読んできた漫画を、自分が担当していいんだ!」って、こんなの夢しかないですよ。好きな歌手に対して、自由に楽曲提供ができるようなものです。もっと好きな作品にするために、僕ができることをやっていくのみ。
相田さんからは、迷いのなさ、ハートのタフさが伺えます。
ハートが強くないとダメですよ、編集者は。ハートが弱い人は向いてないですね。自分の考えに揺らいだり、間違いを恐れるのも。揺らがずにドンドンやっちゃっていい。

間違ったとしても、また新たな挑戦をやればいいだけですから。漫画家やファンに厳しいことを言われても、それで自信をなくして何も言えなくなるのもダメ。「この漫画を作る」と決めたら、前に進むしかないんです。
ハートの強さの秘訣は?
好きなことだから強いんですよ。でも、本来の自分はビビリだし、小心者だし強くないです(笑)。

でも楽観的で前向きでもあり、ネガティブとポジティブの両方がありますね。入社2年目で連載を持ってヒットした経験も大きい。ここで大きな挫折があれば人生が変わったかもしれないけど、運よくスムーズにいけたのはたしかです。
早い段階で作品をヒットさせたことが、漫画編集者としての心の基盤を作ったのですね。
ジャンプ編集部では「3年目までに連載作をヒットさせろ」と、よく言われています。なぜかと言えば、早く当てれば、それだけ早く自信がつく。そのあとの仕事もやりやすくなるからです。
「ジャンプ」で漫画を作るうえで大切にしていたことを教えてください。
いっぱいあります。基本的なところでいえば、週刊連載だったので“引き”をとくに大事にしていました。「単行本を買ってもらえばいいや」じゃダメ。毎週雑誌で読んでもらうことがとにかく大切です。

1話の中で必ずヤマを作って、次回に回したりはしない。主人公を絶対に出して、主人公の目線は必ず作る。細かいことはたくさんありますが、それは漫画全体でも、他のエンターテインメントでも同じですよね。

漫画家にはなれないけど、漫画編集者にはなれるかも

相田さんは子どもの頃から漫画編集者を目指していたのでしょうか?
高校生くらいのときに漫画編集者という職業に憧れが生まれ、ちょうどそれくらいの時期に、ジャンプの部数が下がり始めたんですよ。僕の大好きなジャンプがそういう状態になって、どうしたらいいのだろうか?と考えたのがきっかけですね。
それで実際にジャンプの編集者になれるって、それ自体が夢みたいです。
やっぱり、好きなことを仕事にしたかった。その中で、「なりたい」かつ「できそう」のバランスで最も現実的だったのが漫画編集者です。

漫画家は無理だし、プロ野球選手もきっと無理だし、幼い頃の夢は実際には無理だって、成長するにつれて次第にわかるじゃないですか。でも、編集者はギリいけるんじゃないかと。安易ですよね(笑)。

「なりたい」というまっすぐな想いだけはあったので、漫画を読むときも素人ながらに「どうしたらもっと面白くなるか」を考えながら読んでいました。
大学生活はどう過ごしていましたか。
とくに漫画編集者に向けた何か……、たとえばマスコミ勉強会に入るとかはまったくしていなかったです。漫画を読んで、テレビドラマを観て、大学の課題をやって、普通の大学生っぽい生活でしたね。
「りぼん」も子どもの頃に読んでいたそうですね。
大人になるにつれ離れてしまいましたが、小学生の頃に読んでいました。
自分で購入していたんですか?
祖母の家に行くと親戚のお姉さんが買っていた「りぼん」と「別マ(別冊マーガレット)」、他にも少女漫画の単行本がたくさんあったので。
「りぼん」で好きだった作品は?
『星の瞳のシルエット』ですね。『有閑倶楽部』も全盛期でよかったな。ちょうど『ちびまる子ちゃん』の連載が始まったし、コミックスも集めていました。白泉社の少女漫画も読んでいましたね。
▲『星の瞳のシルエット』(作/柊あおい)。1985〜1989年に連載。全10巻。©柊あおい/集英社
『有閑倶楽部』(作/一条ゆかり)。1981〜2002年に連載。全19巻。©一条ゆかり/集英社
『ちびまる子ちゃん』(作/さくらももこ)。1986〜2016年に連載。全17巻。©さくらプロダクション
守備範囲が広い!
「漫画が好き」と言えるようにたくさん読んでいました。「もっと面白い漫画が他にもあるんじゃないか」って気持ちもありましたね、面白い漫画を知らないのは悔しいから。お金がかかるようなほかの趣味もとくになかったし(笑)。
少年時代の相田さんは、少女漫画のどういった部分に面白さを感じていましたか。
ちょっと表現が難しいのですが、少し引いて客観的に、物語の面白さを見ていました。少女漫画の恋のときめきに惹かれていたかといえば、ちょっと違う気がします。男の子なので、可愛い女の子のキャラクターがいれば気になってはいましたけど。

じゃあ少女漫画に恋愛を求めていたかというと、やっぱりストーリーテリング、キャラクターの配置、エピソードの作り方、そういった部分のほうが子どもの頃の僕には響いていたんでしょうね。
恋のときめきではなかった。
そうですね。『星の瞳のシルエット』だと、主人公である香澄と智史の恋愛はもちろん、沙樹や真理子といった脇にいる友達のキャラクターが本当にいいですよね。

最初は真理子のことを好きになれなかったんですが、途中から「すごくいい子じゃん!(笑)」と。もしかしたらこれが胸キュンかな?って感じるときもありましたけども。
その“キュン”は、少年漫画を読んでいて「ヒロインがかわいい」と感じるのとは違う?
相手役の男子がいないと成立しがたい少女漫画と違って、意外と少年漫画の読者は、少年漫画のヒロインをそんなに重視してないと思いますよ。だって少年漫画の世界を楽しみたいから。ヒロインはストーリーに必要だからいるだけで、あくまでハマるのは男同士の熱い世界。

少女漫画と少年漫画は、心理描写の置き方も違いますよね。少年漫画はバトルや冒険を通しての成長を描きたい。構成とキャラクターに肝があるのはどちらも同じですが。

子どもたちに「りぼん」の存在を知らせないといけない

2018年に、相田さんがりぼん編集長になって、違いを感じたことは何ですか?
漫画作りに関してはジャンプとほぼ同じでしたが、編集部の文化は違いますね。ジャンプは漫画家と編集者が基本的には1対1。担当じゃない人は関与しない。

一方で「りぼん」は雑誌の特性上、編集部で漫画家を抱えているイメージです。担当編集者だけでなく、ふろく担当や企画ページの担当ともやりとりがあるから。
新しく編集長になった際に、やってみようと思ったことはありますか。「りぼん」としての目標であるとか。
新たに任されるってことは、いろいろ期待もされていたとは思います(笑)。僕が思ったのは、昔は「りぼん」は子どもならみんな知っている漫画雑誌だったけど、どうやら今はそうじゃない。
漫画が面白いか、面白くないか以前の話になっている、と。これまでとは違う課題ですよね。
たとえば、「りぼん」を読むか、YouTubeやTikTokを観るかで迷って、その結果として「りぼん」が選ばれないなら、まだわかる。でも、そもそも比較対象にすらなってないのなら、とても怖い。

「ジャンプ」は、みんなが読んでいるかは別として、その存在は知られている。でも「りぼん」はどうか。「少女漫画を読むなら、『りぼん』だよ」という道筋を改めて作らないといけない、と強く思いましたね。
幼年誌で漫画を経たかどうかは、将来的に漫画の売り上げを左右する重要なポイントですよね。
そこを経てないのに大人になって急に漫画を読んでくれるかといえば、やっぱり難しいじゃないですか。いろいろな漫画誌があれど、そこを担うのが「ジャンプ」と「りぼん」だと思っています。
「りぼん」が選択肢にあがらなくなった要因は、何だと思われますか?
難しいなあ、どれが理由でしょうね。ひとつには、少女漫画原作のアニメが減ったのはあるかもしれない。
作品に定期的に触れる機会が減っているということですね。一方で、少女漫画原作の実写映画は増えた気がします。
実写映画を観るのは、幼年誌を読む子どもよりも少し上の層でしょうから。それに、1回きりの映画で「『りぼん』を読もう」とまで思わせるのは難しい。
90年代や00年代は、『ママレード・ボーイ』や『満月をさがして』などのTVアニメが放送されていましたよね。『美少女戦士セーラームーン』もアニメから入った女の子も多かったはず。
▲『ママレード・ボーイ』(作/吉住 渉)。1992〜1995年に連載。全8巻。©吉住 渉/集英社
『満月をさがして』(作/種村有菜)。2001〜2004年に連載。全7巻。©種村有菜/集英社
「ジャンプ」だと、今も日曜の朝に『ONE PIECE』が放送されていますけど、少女漫画原作のアニメは減っていますね。アニメが減ったから「りぼん」が選択肢にあがらなくなったのか、選択肢にあがらなくなったからアニメが減ったのか……タマゴが先かニワトリが先かはわかりませんが。

「りぼん」には、大人が読んでも面白い作品が揃っている

そうした状況の昨今でも、2018年から連載が始まった『さよならミニスカート』(『さよミニ』)は非常に話題性が高かったですね。
▲『さよならミニスカート』(作/牧野あおい)。2018年から連載(現在は休載中)。既刊2巻。©牧野あおい/集英社
▲連載開始時に投稿された、りぼん編集部のツイート。同様の広告が、書店や駅構内にも掲示された。
メッセージ性を打ち出した宣伝のおかげで、狙い以上の効果がありましたね。

ただ、作者の牧野あおい先生や担当編集の狙いとしては、基本的には王道のガール・ミーツ・ボーイの物語です。そこに、牧野先生がお好きなアイドル、カッコいい女の子を主人公に据えたいという気持ちが組み合わさって生まれた漫画です。
反響はどうでした?
「りぼん」は読者の入れ替わりが激しい雑誌で、低年齢層向けのイメージが強すぎていたこともあり、宣伝担当からも「中高生や大人が読んでも面白い漫画がいっぱいあるのに、もったいない」と言われていました。

その点で言えば、『さよミニ』は男性も含む幅広い読者から、嬉しい感想をいただきました。部数にもそれは反映されていると思います(編注:2020年9月時点で、55万部を突破)。漫画好きはいっぱいいるわけで、雑誌のターゲット以外の他の層も、面白ければ読んでくれる。『さよミニ』はそこに届けるきっかけになりました。
広い読者に届ける難しさがあり、そこを変えたかった?
広い範囲に届けるのが難しいというより、小学生のときにちゃんと漫画と出会ってもらって、そこから離れないのが本来的には、いちばんいいですね。

中学生になれば「りぼん」からは離れてしまうかもしれない。でも『ハニーレモンソーダ』からは離れない、みたいな。単行本でもいいので買い続けてくれるのが理想です。
▲『ハニーレモンソーダ』(作/村田真優)。2018年から連載。既刊14巻。©村田真優/集英社
好きな作品を追い続けるのは、読者にとっても幸せなことですしね。
昔からそうですが、「りぼん」の漫画は「りぼん」の読者層にだけ向けて描かれているわけではなく、誰が読んでも面白いんです。だから結局は作品のクオリティが大事。
ラブストーリー、友情、ギャグ、ホラー……、今だとお仕事紹介などの企画ページもあり、ジャンルのバリエーションが豊富なのも昔からで。
雑誌を作るときに、「『りぼん』の読者を意識した漫画であれば、あとはなんでも自由にやっていい」が、編集部の共通認識になっていてほしいです。

そうすれば、漫画家志望の中高生も、「こういう作品も、りぼんで描いていいんだな」と思ってくれるだろうし。今は少女漫画より少年漫画雑誌に投稿する人が多いかもしれませんが、こちらにも魅力を感じてもらえるようにしたいです。
「少女漫画は恋愛ジャンルがメイン」だと思われがちだけど、そうじゃない、と。
恋愛ももちろんいいし、恋愛じゃなくたっていいんです。

いちばんよくないのは、漫画家志望の若者が「自分が描きたいのは恋愛じゃないから、少年漫画に投稿しよう」と考えること。その先入観は払拭したいです。

漫画雑誌には、面白さとともに多様性があってほしい

6月に発表された、『初×婚』と「ゼクシィ」のコラボである“妄想”婚姻届のふろくも、話題になっていましたね。
▲『初×婚』(作/黒崎みのり)。2019年から連載。既刊4巻。©黒崎みのり/集英社
ネットでいろいろな反響をいただき、僕らとしても考えるところもあったのですが、本誌の読者と『初×婚』のファンにはふろくを喜んでもらえたと実感しています。
結婚をテーマにした作品なので、それを踏まえるとファンには嬉しいふろくだったのでは。婚姻届の内容も作品にフィーチャーしたものでした。
今年は「りぼん」65周年で、婚姻届のふろくはそのプロモーション企画の一環でもありました。

作品を読んでもらうきっかけになったなら成功です。あのあと『初×婚』の重版が決まり、作品が面白いと感じてもらえたのだと励みになりましたね。
ここまでお話を聞いていると、少年漫画でも少女漫画でも、相田さんは「面白い漫画を作る」ことに徹しているのだと感じます。
そうです、まずは面白さ。そして面白さと同じくらい、僕は漫画に多様性があってほしいと思っています。

「りぼん」は漫画の入り口になる雑誌なので、いろいろなパターンの漫画が載っています。前編集長の冨重(実也)さんの置き土産で、4コマ漫画賞の「R-4グランプリ」をスタートしたのもそういった理由です。

今の「りぼん」はだいぶカラフルさを出せてきていると思います。そのおかげか、部数も前向きな数字になりつつありますね。「りぼん」らしさがあれば、どんな漫画でもいい。恋愛はもちろん、バトルも、大河も、『鬼滅の刃』みたいな漫画が「りぼん」に来たっていいんです!(笑)

テーマを毎話きちんと表現できるのが、クオリティの高い漫画

先ほど「結局は作品のクオリティが大事」とおっしゃっていましたが、どういう漫画を「クオリティが高い」と感じますか?
たくさんありますが、新しい要素が入っていて他の漫画と差別化できていること、キャッチーで読者を惹きつける要素があること。描きたいテーマを毎話きちんと表現できているか。

設定や要素がよく練られていても、長期連載になるとそれが薄くなったりブレていたり、売りである要素を描かなくなるのもダメですね。逆に、それをやり続けている漫画はクオリティが高い。自分の作品のよさをわかっていて、毎月もしくは毎週、やり続ける力がある作品ですね。

さらに細かいことを言えば、無駄なコマやページがないこと。「そこにページを割くより、もっと描くことあるよね」って思うときもありますから。読者がそれを感じてしまうようなことはしてはいけないです。
読者の期待を裏切らないこと。
読者が求めているものを超えてくれば、それは当然スゴい。でも、求められていることをそのままやるのも、じつは大事なことです。いちばん大事なのは読者の期待値から下がらないこと。大ヒットではなくとも、職人としてそれを定期的に送り出すことは十分にスゴいことですから。
そこで編集者が担うべき役割は何でしょうか。
読者が求めるものと、漫画家が描きたいものを結びつけることですね。青年誌だと、漫画家の作家性のみで描いても面白がってもらえる可能性があります。作者のことも好きになってくれるし。

でも「りぼん」は子ども向けだから、一度好みと違うとそっぽを向かれるとあっさり他に行ってしまいます。興味が失われないように、とくに気をつけないといけないですね。
この先、相田さんが漫画編集者として目標に掲げていることは?
漫画編集者としては、「面白い作品を作れた」と満足しているんですよ。だから次世代の漫画編集者を育てたいですね。編集長・副編集長は漫画を作る立場にない。じゃあ何をやるかといえば、方向性を示すことです。
方向性。
いちばんは「編集者として、面白い漫画を作ることは幸せだよ」と下の世代に伝えること。口で言うだけじゃなくて、実感としてわかってもらえるようにしたいです。
「ジャンプ」での新人編集者時代とは逆ですね。
昔のジャンプ文化だと「編集者は教えてもらうな」でしたが、ほっといても勝手にやる時代から変わってきているんですよね。若い世代はみんなやる気があって、真面目な人が多い。だからこそ「教えるな」「自分で学べ」も大事だけど、やっぱりどこかできちんと教えないといけない部分もあると感じています。

僕がそういうことが好きっていうのもあるし、漫画編集者の面白さをしっかり引き継いでいかないと、集英社は終わってしまうと思っているので。
危機感があるんですね。
人口が減っているのも要因かもしれませんが、漫画界全体の話題性は高くても、僕の実感として出版社・編集の志望者は減っている気がします。編集者を育てるのはもちろん、編集者志望も増やさないといけない。こうしてインタビューを受けているのもそのためです。

編集者がすべきことは、宣伝ではなく面白い漫画作り

ときどき、編集者・出版社不要論が話題になることがあります。
僕は編集者がいないと大ヒット作品は出ないと思っています。

漫画編集者がノウハウを蓄積して、読者が求めるものを分析して、寝る間も惜しんで漫画家とやりとりする。それ抜きで、『ONE PIECE』のような社会的ブームを起こす大ヒットは生まれません。
Twitterに投稿された漫画が大きな反響を呼んで書籍化するケースもありますが、それはどう捉えていますか?
それは違うジャンルでのヒットじゃないですか。TVとYouTubeの違いみたいなもので、SNS上でヒットしても、こちらの漫画を脅かす大ヒットはまだ出ていないと、僕は思います。
昔と今で、漫画編集者の役割って変わっていますか? SNSで宣伝するなど、新たな役割も加わっているように感じます。
それは逆ですね。みんな「宣伝しなきゃ」と考えすぎていて、肝心の漫画作りに力を注げなくなっているんじゃないかな。自分が面白いと思ったら、面白さを信じてやればいいんですよ。

宣伝やプロモーションはその担当に任せて、編集者は漫画作り以外に時間を割かないほうがいいです。編集者は漫画を作ることに集中し、それ以外はサポートメンバーを増やして対応するのが僕の理想ですね。
ネットがあることで他の作品がどれほど宣伝されているか可視化されてしまうので、漫画家が気にする気持ちもわかります。一方で、編集者が担うものが増えすぎるのも大変ですよね。
今は作品の数も多いから、読者が面白い漫画を見つけづらくなっている時代でもあります。だから『鬼滅の刃』のような大ヒットがあれば、普段は漫画を読まない人や、これから漫画を読む子どもにとってはわかりやすいですよね。
では最後に作り手から見て、“漫画の強み”や、“漫画だからこそできること”とは何でしょうか?
読者が楽しみに連載を待っていてくれる文化と形態ですね。それを最大限、生かしていきたいです。
毎週、毎月、あるいは不定期でも、ファンは待っていてくれる。
あとは、絵じゃないと描けないものもありますよね。漫画だからこそのキャラクターや世界があって、感情表現も表情だけじゃなくて背景、フキダシ、コマ割、あらゆる要素を使って自由に表現できます。

漫画原作の映像もたくさんあるけど、漫画は映像化の材料を提供するための存在ではないから、漫画でしかできないことをしっかりやっていきたいです。

紙とペン、今ならパソコンとタブレットがあれば、漫画家は読者をどんな世界にも連れていける。描くのはとても大変な作業ですが、SNSなどの娯楽が増えた今でも、現に漫画の大ヒットは生まれてくるわけです。だから、漫画の面白さを信じてやっていければと思います。
相田聡一(あいだ・そういち)
1999年、集英社に入社し週刊少年ジャンプ編集部に配属される。「ジャンプ」時代の主な編集担当作品に『ボボボーボ・ボーボボ』、『家庭教師ヒットマンREBORN!』、『バクマン。』など。その後、りぼん編集部に異動となり、2018年6月からは同誌の編集長を務める。

    雑誌情報

    「りぼん」
    毎月、好評発売中!
    http://ribon.shueisha.co.jp/

    ©りぼん2020年11月号/集英社

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