ベートーヴェンを歌った幼少期を経て――古川慎が音楽と歩んできた道のり

アニメ『ワンパンマン』のサイタマ役や、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の白銀御行役など人気の作品に続々と出演し、2019年度の「第14回 声優アワード」では助演男優賞を受賞した声優・古川慎。

2018年には自身名義での音楽活動もスタートし、その高い歌唱力で多くのファンを魅了してきた。彼の持ち味は見事なまでの声量と、それをコントロールしてみせる技術。さらに伸びやかなロングトーンの歌声は“芸術的”といっても過言ではないだろう。

そんな彼の原点となったのは、なんとクラシックだとか。クラシック好きな両親の影響で、4歳にはベートーヴェンの『運命』を愛し、口ずさんでいたという。

音楽の嗜好だけでもさまざまな軌跡を辿り、その“年輪”を歌という形で表現してきた彼は、現在どのような景色を目にしているのだろうか。3rdシングル『本日モ誠ニ晴天也』の聴きどころと合わせて、じっくりと語ってもらった。

取材・文/原常樹

小中高を経て、歌への意識は目まぐるしく変わっていった

もともと古川さんにとって歌、音楽とはどういった存在だったんでしょうか?
幼少期から音楽は大好きでしたね。親がクラシック好きで、大きなスピーカーやコンポといった音響機材が身近にあって、幼稚園の頃はずっとベートーヴェンやモーツァルトを聴いていました。逆にポップスはほとんど聴く機会がなくて。それこそ、父親が持っていた松田聖子さんのCDぐらいでしょうか。
ものすごく極端ですね(笑)。
本当に極端でした(笑)。ただ歌うのもその頃から大好きで、ベートーヴェンの『運命』(交響曲第5番)の最後にあたる第4楽章……その明るくて、激しい部分が好きすぎた結果、がんばって20分近くを暗譜して歌っていたんです。
幼稚園の頃にベートーヴェンですか!?
4歳ぐらいの頃でしたね。幼いので、多少間違っていた部分はあるかもしれませんが。
その頃から音楽に関して、特別な感性を発揮していたと。
いやいや、別に楽器が弾けたわけでもありませんし! 歌が好きなのが遺伝かというと、そうではなく、むしろ両親が歌っているのは聴いたことがありません(笑)。ただ単に歌うのが好きという感じで、小学生の頃までは人前で歌うことにもまったく物怖じしていませんでした。

学校ごとのカラーみたいな部分もあると思いますが、僕のいた小学校は人前で表現をすることに躊躇しない人が多かった。とくに僕のクラスはそうだったので、歌に対しても素直に全力投球できました。かといって、歌手になりたいとはまったく考えていませんでしたけど。
クラシックが好きだった頃から、音楽の嗜好に変化はありましたか?
小学校の中学年から高学年ぐらいで、ようやくポケットビスケッツなどのポップスも聴くようになりました。さらにはゴスペラーズが好きな友人もできまして、その流れでけっこうな勢いで「TSUTAYA」に通ってCDをレンタルしたり、購入したりするようになって。

ただ、もっと変化したのは中学校に入ってから。ここでまず“歌うこと”に対する意識が一変しました。中学校ならではの文化と思春期とのダブルパンチで、どんどん追いやられていった結果、腐ったというか……(苦笑)。マンモス校だったからこそ、流された部分もあるのかもしれません。

気がつけば、僕は歌うときに女子から「ちょっと男子!」と言われる側の立場に回っちゃって……。いや、サボっているわけではなくて、目立たない程度にマジメにはやっていたんですけど! クラスのカーストで下から数えたほうが早いというか、何かあったときにスケープゴートにされがちな立場だったので、自然とそうなっちゃったというか(笑)。
中学校だと合唱コンクールなどもあったと思いますが、そこでは……。
練習のときに、リーダーの女の子が「ちゃんと歌っているかどうか」を判別して、合格者を外していきながら不合格者には何度も歌わせる……ということもあったのですが、僕はラスト3人ぐらいまで残されていましたね(笑)。
そんなことがあったんですか……。
リーダーの子は僕のことを嫌いなのかなと思いました(笑)。そのときは、とにかく目立ちたくないという気持ちが強かったですし、周りからも歌を褒められたことは一度もなかったです。

一方で音楽の嗜好自体はまた大きく変化しまして。ディープ・パープルやアヴリル・ラヴィーンのような海外のパンクロック、グランジやハードコアに踏み出しました。さらに、友達からスリップノットやマリリン・マンソンを教えてもらって、「カッコいいじゃん!」と夢中になったり(笑)。

そこから高校に入ったあたりで、また環境が一変します。それまでは家族や親戚と行った記憶ぐらいしかなかったカラオケにも行き始めて、ハマっている曲を歌うようになりました。それこそBUMP OF CHICKENの楽曲とか! そうしたら一緒に行った友人たちから「そんな見た目してるのに、意外と上手いじゃん!」とか褒められて(笑)。
高校生ぐらいになると、歌が上手いことがステータスになるんですよね(笑)。
小学校のモテる基準のトップクラスである“かけっこが速い”が落ち着いてきて、その代わりにランクインする気がします(笑)。

その頃はアニソンにもどっぷりとハマっていました。携帯電話でインターネットにも自由に接続できる環境になったことで、掲示板の「オススメのアニソンを挙げていくスレッド」を眺めるのが楽しくて。うちが「スカパー!」のアニメチャンネルを観られる状況だったのも手伝って、ネット上で話題になっている作品のオープニング曲とエンディング曲を片っ端から聴くようになりました。
「もしかしたら自分は歌を武器にできるのでは」と思ったのは、いつぐらいでしょうか?
そんな恥ずかしいことを聞きます!?(笑)

うーん、そんなことは、うーん……。(しどろもどろになりながら)……あえて言うならば、小学校の頃までさかのぼりますかね。隣で歌っていた子の音程がなんとなく外れていたのがわかって、「違うよ〜!」と主張するためにわざと大きい声で歌っていたんです。「僕はそういう(音程の)ことはわかるのかな」と漠然と考えてはいました。

歌を武器に、という意味では、やっぱりカラオケで褒められたときですかね。当時の僕は誰かに褒められることなんてほぼありませんでしたし、調子に乗るところまでいかずとも、こそばゆくってどうしていいのかわからない感情にはなりました。

好きだと言ってくれる人がいるならば、その声に応えたい

その後、2011年から声優として活動。ついには2018年、CDデビューを果たすことに!
着実に1歩1歩踏みしめていってそこに到達するという“階段の先”と、それとは別に、遥か遠くに浮いていて「あそこに行けたらいいな」と感じる“バラ色の世界”があると思うんです。もちろん僕にとって、CDデビューというのはバラ色の世界。「自分自身の持っている要素で、音楽活動なんてできるわけがないだろう」と思っていた時期もありました。

でも、夢物語を語るのは自由。キャラクターソングのお仕事もさせていただくようになって、「歌うのも好きだな。表現の勉強になるな」とは思っていたんです。むしろ僕にとっては、芝居よりも歌のほうが自己表現としての歴史が古いわけですし。

やっぱり歌っている人ってカッコいいじゃないですか。お風呂場でそれをマネしながら歌うのもずっと好きだったんです。キャラクターの模倣というと失礼にあたるかもしれませんが、“そういう感覚やニュアンスで歌ってみる”というイメージもできたので、キャラクターソングのお仕事などではうまく投入させてもらっていました。その頃は、まさか自分の歌を歌わせてもらえるなんて思ってもいなかったので(笑)。

でも、目標として掲げることぐらいは許されるだろうと思っていたら、デビューのお話をいただいて。もちろん怖さもありましたけど(笑)、認めてもらえたということは本当にうれしかったです!
それだけ多くの人にデビューを期待されていたという証左ですものね。古川さんはもとから「歌が上手いキャラクター」を演じられてもいたので、ファンの期待値も高かったのではないでしょうか。
たしかに、声が大きくて歌が上手い役のキャラクターソングを歌わせてもらったときに、「古川さんのことはこの役で初めて知りました。声がつくということで、歌が上手いという部分がどうなるのか不安でしたが、蓋を開けてみたらすごく納得いく表現をされていて安心しました」というおたよりをもらったこともあります。

キャラクターとして歌っているからこそ、補正がかかってそう感じていただける部分もあったと思いますし、それでも受け付けないという方もいらっしゃったとは思います。

でも、上手い下手はさておき、そんな自分のキャラクターソングを好きだとおっしゃってくださる方がひとりでもいらっしゃるなら、その方たちに向けて、精一杯の表現をしていけたらいいなと。そんな一心でした。
そのひたむきな姿勢が、CDデビューにもつながったのだと思います。
まぁ、褒められるのが基本的に好きなので、褒められたい、認められたいという気持ちでひたすらがんばっていたら、ここに辿り着いたという感じでしょうか。なので、もっと褒めてください!(笑)

エモーショナルな歌詞には、職人魂を刺激される

7月29日発売の3rdシングル『本日モ誠ニ晴天也』は、アニメ『啄木鳥探偵處』のオープニングテーマとなっています。制作にあたり、古川さんから伝えたことなどはありますか?
こちらに関しては、僕のほうから何かコンセプトなどを提案するということはなく、楽曲制作チームと作品制作サイドの方たちに曲作りはおまかせしました。

あがってきた楽曲を聴いたときの第一印象は、とにかく「ハイカラだな」と。タイアップ先である『啄木鳥探偵處』の世界観にもピッタリ合っているし、オシャレでいいなぁと感じました。
軽妙な語りかけのような歌詞も独特ですよね。
冒頭からいきなり「今日は(こんにちは)」ですからね(笑)。初めてこの曲を聴いてくださる方へのあいさつにもなっていますが、なかなか楽曲の中でこういったあいさつを取り上げることはないと思います。

表記から楽曲の時代感も伝わってきますし、そのあとも「胡坐が二つの四畳半」や「目眩く文明開化」といった単語が次々に出てくる。うまく世界観を説明しながら曲が進行していく印象があります。そして、ラストを締めくくるのは「本日モ誠ニ晴天也」。ここまで生きてきていろいろなことがあったけれど、改めて「きょうはいい日だ」と感じてしまう言葉ですよね。
歌う側としても気持ちを引き立てられるものがある?
そうなんです。歌詞のあちこちにエモーショナルな単語が散りばめられているからこそ、「ここはもっと切なく歌おう」とか「ここは熱を込めたいな」と思わせてくれることが、自分にとっても大きな助けになっている気がします。職人魂を刺激されるといいますか(笑)。

とはいえ、そこまで当初のイメージから大きくブレることはなく、基本的には仮歌を参考にしつつ、細かいニュアンスで変化をつける感じですね。「歌詞の区切りどころをこっちに持ってきたほうがいいんじゃないか?」とか、「ここの語尾はなだらかに下げたほうがよさそうだ」とか。

マイナーチェンジを繰り返しつつも楽しく収録させていただきました。これだけ素敵な楽曲になったのは、ディレクターさんの手腕あってこそなのは間違いありません!

人見知りなので、女性ダンサーとのMV撮影に緊張……

MVもロマンあふれる映像に仕上がっています。最初に撮影プランを聞いたときはどんなイメージを持たれましたか?
「万華鏡を覗くとそこでは不思議なショー、それも華やかで目を奪われるような光景が広がっている」というのがコンセプトだそうで。そこに自分がどうやってパフォーマンスをしていけばいいのか、いろいろなことを考えましたね。
タイアップしている『啄木鳥探偵處』とは、またちょっと違ったピンク色のイメージです。
たしかにアニメにはMVのようなピンクなイメージがあるわけではないので……、いやまぁ多少はありますけど(笑)。でも、殺人事件ならではの“妖しい空気感”が共通していたり、そういう表層的には出ないようなつながりはあるのかもしれません。

物語には実在する文豪たちも多数登場しますが、その時点で文化的側面からも“エロス”とは切り離せませんし。作中でも多少そういった描写が出てきますが、石川啄木なんかはそういうお遊びが好きだったそうで…(笑)。もしかすると、映像制作の方々もそういった部分を裏テーマに掲げて作ってくださったのかもしれません。
舞台がダンスホールというのも雰囲気作りの一助となっている気がします。もしかして、舞台となったのは横浜にあるダンスホールですか?
ええ、そうです! ご存知でしたか?
さまざまなアーティストのMVでよく登場するロケーションなので、もしかしたらと思っておりました(笑)。
なるほど、そうだったんですね! 今でも実際に使われているそうで、現存しているダンスホールとしてはかなり珍しいロケーションで……。さまざまな作品に使われているというのは初めてうかがいましたが、だとしたらものすごく光栄です!

まず建物の雰囲気が素晴らしいのはもちろん、ライティングひとつで趣もガラリと変わるセットだなぁ……と眺めていました。今回のMVでも“妖しさ”と“華やかさ”が感じられるライティングになっていて、スゴかったなぁと。

そんな感じでロケーションは素晴らしかったのですが、不安だったのはダンサーさんがいるということ。僕はけっこうな人見知りなので、その話を聞いたときは「なるほど……。ダンサーさんがいるんですねぇ……」と自分の感情を処理しなければならなくなりました(笑)。
古川さんにとっては難題だった?(笑)
ええ! しかも自分より若い女性の方ということで、「うまくパフォーマンスできずに蔑んだ目で見られるんじゃないか」とトラウマを刺激されつつ、当日を迎えました(笑)。
しかし、古川さんのステッキ捌きはお見事で。
なかなか難しかったですけど(笑)。ダンサーさんに対してがんばって話しかけようともしましたが、どうにか多少のコミュニケーションが取れたのは、後半の1時間ぐらいでしょうか(笑)。こういうところはなんとかしなきゃいけないと、自分でも思ってはいるんですが……難しいですね。

そんなダンサーさんのおかげで、映像もものすごく華やかになりました。合わせて花吹雪も豪勢に散らしていただいて…。
たしかに壮観な光景です。
それだけじゃないんですよ。外から見える景色がいわゆるMVで観られる映像だとしたら、それとは別に内側から……つまり、舞台にいる僕だけが観られる景色もあります。花吹雪が視界に舞っている中で歌えるというのは本当に素敵なもので、テンションも一気に上がりました。

ただ、花吹雪自体は人力なので、視界の隅に必死に花吹雪を撒いていらっしゃる方の姿も入っていまして(笑)。裏方さんのがんばりも目に焼きつけながら歌っておりました。

「“僕ら”の唄」という歌詞にしたのには理由があるんです

そして、カップリング曲『パトスのカタチ』は古川さん自身が作詞を担当されています。どんなイメージで作られたのでしょうか?
1stシングル(2018年7月発売の『miserable masquerade』)を録り終わったあたりから、ラテン系の楽曲を歌ってみたいという話をしていたんです。そもそもなぜラテン系かというと、身近なところにラテン系のカッコいいBGMがたくさんあったから。

それこそゲームのBGMですとか、アニメのBGMですとか、フラメンコギターがものすごくカッコいい曲をずっと耳にしてきたので、「自分で歌詞をつけて歌えたら、なんかテンション上がりそうだな〜!」と思っていたんです。
冒頭でもうかがったように、さまざまな方向に枝葉を伸ばした“音楽の軌跡”があるからこそ、ラテンミュージックを歌ってみたいと思われたのかなぁ……とも邪推してしまいます。
たしかにそれはあるかもしれませんね。いろいろなものに触れる機会があったからこそ、そういう発想に至ったというのはあるでしょう。
アイドルソングの中にはラテン系のノリの楽曲も多いと思いますが、そういう方向から影響を受けた部分は?
なるほど、アイドルソングか……。いや、今までまったく考えていなかったんですが、たしかにラテン系のアイドルソングってけっこうありますね! 知らず知らずのうちに影響を受けていた部分もあるのかもしれません。個人的にはKinKi Kidsが好きなので、ああいったイメージの楽曲もいつかは歌いたいなと思っていたりします。

あっ、話が脱線してしまいましたが、ラテン系の曲を歌いたいという念願は、こうやって見事に3rdシングルで叶いました。いただいた曲の中からも自分の理想に限りなく近い楽曲を選ばせてもらえて、本当にうれしかったです。ただ、いざこの理想の楽曲に作詞をするとなると、これがまた、どう歌詞をつけていいのかわからない(笑)。

海外の言葉で歌われているラテンミュージックを耳にすることが多かったので、どんなテーマが歌われているのか自分なりにも調べてみました。そうしたら、「こんなに息苦しい世の中、君と踊って夜を明かしたい」とか「狂おしいほど君を愛している」とか「燃えるようなこの心をどう表現したらいい!」とか……簡略するとそんな内容ばかりで(笑)。
情熱的な旋律の楽曲は、やっぱり歌詞のテーマも情熱的なものが多くなりますよね(笑)。
根底にある文化がそういうカラーなのはわかります。でも、「じゃあ、自分もそれに倣って書こう!」とは思えなくて(笑)。むしろ逆に、愛とか恋といった言葉を使わないようにしてみようと。いろいろ悩みましたが、結果的に「何かをやりたいという抑えきれない衝動や欲望」をテーマに書こうと決めまして。それがこの歌詞なんです。
抑えきれない衝動ですか…。
ひと口に抑えきれない衝動といっても、それを叶えられない、満足のいく状況にできないということが、人間誰しもあるはずです。

そんなときでも「あなた自身が本当にその衝動を大事に思っているんだとしたら、それを糧にがんばっていこう」というのがこの曲に込めたメッセージなんです。

僕自身はビビリで小心者なので、あまり大それたことは書けませんでしたが、自分の持っているものや見えている世界を、限定感をなくしながら、言葉として表に出していったような感覚です。
ということは、古川さん自身の「こうありたい」という部分が描かれている歌詞でもあるわけですね。たとえば、「僕らの唄を 愛し続けよう」とか。
そうだと思います。ちなみに「僕らの唄」という部分について、「僕」ではなく、「僕ら」としているのにもちゃんと理由があります。やっぱり社会生活を送るにあたって、自分ひとりだけでできることって、よくよく考えるとそんなにないんですよ。誰かしらの助けが必要ですし、そういった方々の情熱や理想を身に受けながら活動していくことになるので。

ここでは「唄」と言っていますが、これもシンプルに歌だけのことではありません。一緒に作っていくものだとか、やろうとしていること。もっと言えば、みんなで協力しながら特定の地点を目指すという、道ゆきそのものを物語として捉えた結果、「僕らの唄」と言えるんじゃないかと。

まぁ、ここまで詳細に解説すると、ボケを解説している芸人さんみたいで恥ずかしくなりますけど……すみません、ほんとに(笑)。
いえいえ、想いが伝わってくる解説、こちらこそありがとうございます! 2ndシングルで作詞された『道化師と♠(sadness)』が物語調だったのに対して、『パトスのカタチ』は古川さん自身に即したアプローチだということも伝わってきました。
そうですね。物語を書くというよりは「何かについて語ってみた」というほうが近いかもしれません。

とはいえ、言葉選びには難航しました。毎回そうなんですけど、シソーラス(連想類語)などの辞典を引きながら、「こういう言葉を使いたいんだけど、合ってるかなぁ……」と悩みながら書かせてもらった感じです(笑)。

選択肢がありすぎるからこそ、自分名義で歌うのは難しい

楽曲の歌いやすさとしてはいかがでしたか?
こちらもなかなかキツかったですね(笑)。情熱的に歌いたいと制作チームに話したら、逆にいろいろな提案も出てきて。そのときは乗り越えるのにいっぱいいっぱいでしたが、あとから聴いたら「たしかにこのディレクションのおかげで情熱的に聴こえる……」みたいな部分もたくさんありました。本当に熱量にあふれていた現場だったと思います。

ただ、「これをライブで歌うとなったらどうする?」という話もあがってきまして(笑)。忠実にやりたい気持ちはあるし、がんばるべきだという声もいただきましたけど、でもこれはキッツいぞ〜と(笑)。
どうライブに落とし込むのか、試行錯誤するのも楽しかったり……?
いやいや、この難易度はさすがになかなかですよ……。結果として「うん、今考えるのはちょっとやめておこう」となるぐらいなので(笑)。あと、キャラクターソングではなく、僕自身として歌うのは選択肢がありすぎるからこそ難しいんです。
選択肢がありすぎるから、ですか。
キャラクターソングであれば、「このキャラクターはこういうパフォーマンスをしたいだろうな」とか、「ここでこういう歌の表情をつけたいんだろうなぁ」とか、自分の中で固まっている部分があるもの。

そのうえで歌ってみて、ディレクターさんからの指示を仰ぎつつ、微調整をしていくという流れが多いんです。自分の気持ちもキャラクターに寄り添っているので、自然とキャラクターソングというものの真に迫るようなパフォーマンスが出てくるわけですね。

ところが、これが自分の歌となると、選択肢の多さがこちらを惑わせる! はたしてどういうアプローチをすれば自分自身が納得するのか……。もちろん、収録が済んだものに納得してはいるんですが、それはそれとして、違うバージョンも歌ってみたいと考えちゃうんですよ。

たとえば『パトスのカタチ』だったら、歌詞が飛んでもいいぐらいに熱量を上げて歌ったらどうなるのか……。それとは真逆に、脱力した状態で歌ってみるのもおもしろそうだな、とか。

表現をひとつの形態だけで終わらせてしまうのはもったいないし、やれる幅がそれだけ広いからこそ、どれを基本となるCDに載せるべきなのかとずっと悩んでいたりします。
楽曲の中心軸にいるのが、あくまで自分自身だからこその難しさですね。
はい。キャラクターソングであれば、キャラクターのパーソナルな部分が楽曲に“年輪”のように出たとしても、わりと自然にひとつの答えに辿り着けると思います。

一方でそこにあるのが“自分自身の年輪”だとしたら、生身の人間だからこそ、その日の気分だったり、その日あったできごとによって年輪の幅がまちまちになってくるもの。そして、最終的にどんな形にするのかは自分自身で決めないといけないんです。

まぁ、幅が広いということは、自分の音楽の可能性がそれだけ広いということでもあるので、喜ばしいことなのですが。そして、自分にどこまでのことができるかというボーダーラインは音楽制作のスタッフさんが決めてくださる。

少し前に話し合いをしたときも、「もっとこういう曲をやりたいんです!」と提案したら、「あの楽曲と比較して、どれぐらいの激しさですか?」みたいな感じで真摯に耳を傾けてくださいました。こういった環境があるのは本当にありがたいことだと思っています。

言葉をどれだけ真剣に言えるか、そこだけはこだわりたい

近年は声優さんの中でも音楽活動をする方も増えました。同じくCDデビューをした声優さんと、日常的に歌の話をすることもありますか?
そうですね。とくにそういうポジションで、現場でいちばん話をする機会が多いのは内田雄馬くん。共演した作品の主題歌を彼が担当していたこともあって、そういう話になることがよくありました。

彼の楽曲は僕ではマネできない方向性ですし、パフォーマンスや歌としての表現も同じくマネすることができません。だからこそ、好きだなと思うと同時に「自分もがんばらなきゃいかんなぁ」と思わされてしまう刺激的な存在なんです。

これは内田くんに限った話ではありませんけど、自分にないテクニックを持った方の表現を見たときに、「自分にも取り入れられないかな?」と感じる部分はあるかもしれません。

ただ、根底にあるスタンスや考え方はそれぞれに固有のものだと思うので、そのまま持ってきて、自分の固定している部分に移築することはできません。どちらかといえば、「ちょっと拝借してもいい?」と上澄みだけを分けてもらう感じですかね(笑)。周囲から吸収できる部分はうまく拝借しつつ、もっともっと自分を高めていきたいと今は思っています。
古川さん自身は、現在のご自身の音楽活動での本質はどんな部分にあると考えていますか?
難しいですね…。そこだけはこだわりたいという部分であれば、「言葉をどれだけ真剣に言えるか」でしょうか。「愛している」とか「憎たらしい」といった単語も、心からそう思って歌えたら、より多くの人に伝わると思うので。これは歌だけではなく、お芝居もそうですね。

まぁ、歌詞の字面に引っ張られるのは良し悪しかもしれませんが、いずれにしても真剣に言葉に向き合っていきたいなと。ここだけは注意してやっているので本質に近いんじゃないでしょうか。
声優として普段から言葉と向き合っている古川さんだからこその考え方だなと感じます。声優といえば、2019年度の声優アワードでは助演男優賞も受賞されました!
本当にありがたいことだと思っています。僕がここまでやってこられたのも、関わらせていただいた1つひとつの作品や役がつながって、次の役を呼び込んでくれたからなんですよ。これは個人の賞だと捉えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、僕は作品に関わってくださったスタッフさんや、共演しているキャストさんの力なくしては受賞できなかったと思っています。

もちろん、僕に注目してくださって、応援してくださっている方々がいたから、今の僕があるんだと思います。みなさんがいなかったら、今ここでインタビューを受けている古川慎は存在できていなかったはず。

みなさんのおかげで現在の自分があるということに、改めて感謝を伝えさせてください。本当にありがとうございます!
古川慎(ふるかわ・まこと)
1989年9月29日生まれ。熊本県出身。A型。2012年に声優デビューしてからは、『ワンパンマン』のサイタマ役や、『アイドルマスター SideM』のアスラン=ベルゼビュートⅡ世役、『刀剣乱舞-ONLINE-』の大倶利伽羅役、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の白銀御行役など、数々のアニメやゲームで活躍。2018年7月4日にランティスよりアーティストデビューし、デビューシングル『miserable masquerade』はオリコンデイリーランキングで初登場7位を記録。3rdシングル『本日モ誠ニ晴天也』は、自身も若山牧水役で出演しているアニメ『啄木鳥探偵處』のOP主題歌としても注目を集めている。

CD情報

3rdシングル『本日モ誠ニ晴天也』
7月29日リリース!

左から初回限定盤、通常盤。

初回限定盤[CD+DVD]
¥1,800(税抜)
通常盤[CD only]
¥1,200(税抜)

サイン入り色紙プレゼント

今回インタビューをさせていただいた、古川慎さんのサイン入り色紙を抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2020年7月28日(火)12:00〜8月3日(月)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月4日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月4日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月7日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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