心が腐りかけた4年間の下積み生活。それでも、小林裕介は声優の夢を諦めなかった

声優になることを夢見て、専門学校や養成所などの門を叩く若者の数は、年間2万人とも3万人ともいわれている。しかしそのうち実際にデビューすることができるのはわずか数パーセントであり、長年の下積み生活に疲弊して、業界を去る人がほとんどである。

それほど厳しい声優業界において、30歳を目前にして主人公デビューを果たした声優がいる。『Re:ゼロから始める異世界生活』のナツキ・スバル、『Dr.STONE』の千空など、多くの人気アニメで主人公を演じる小林裕介である。

一度は会社員として働きつつも、夢を諦められずに脱サラを決意。事務所に所属はできたが、オーディションを受けても箸にも棒にもかからず、バイトに明け暮れる日々が続いた。4年間の下積み生活のなかで、アニメ出演はモブキャラの一言のみだったという。

だから小林は断言する。「安易にオススメできる職業ではない」と。

このインタビューを声優志望の人に、いや、夢を追いかけるすべての人に捧ぐ。

撮影/小嶋淑子 取材・文/岡本大介
ヘアメイク/蓼沼仁美

大学まで出て、今さら夢を追うのは邪道なのか?

一度は会社員になり、それから改めて声優に挑戦した小林さんですが、もともと声優になりたいという気持ちは持っていたんですか?
高校生のころから声優になりたいとは思っていたんですけど、そのときは父親の反対もあって大学に進学したんです。大学在学中も頭のどこかに声優になりたいという気持ちはありつつも、そのまま周囲の環境に流される形で就職しました。大学まで出て今さら夢を追うのも邪道なのかなって。
でもやっぱり、入社後に声優への思いがだんだんと強くなっていったんですね。
電機メーカーに就職し、技術者として空調関連の開発を行っていました。最初は楽しかったんですが、僕がもっともやりたかった設計の分野になかなか携われないことに息苦しさを感じるようになって。このままだとストレスが溜まる一方だから趣味を充実させようと、ボーカルスクールに通うようになったんです。
もともと歌が好きだったんですね。
そうですね。ただスクールに通おうと思ったのは別のきっかけがあるんです。会社員時代、仲のいい同僚とよくカラオケに行っていたんですけど、その彼がX JAPANを余裕で歌いこなすくらい音域が広くて歌がうまかったんですね。僕はとにかく負けず嫌いなので、「歌でこいつに勝ちたい!」というのが直接のきっかけです。でも彼に「お前に負けたくないから俺はスクールに通うぞ!」と宣言したところ、「じゃあ俺も行く!」となり、結局ふたりで通うことになりました(笑)。
ボーカルスクールに通うようになって、そこでさらに転機が訪れるんですよね?
そうです。スクールの先生に「じつは学生時代は声優になろうと思っていたんです」と話したところ、レッスン中にお芝居のセリフ回しを見てくれる時間を取ってくださって、「ここまでできるなら、一度ちゃんとやってみたら?」と言ってくれたんです。先生の後押しで、専門学校に通うことにしました。

会社を辞めるという決断に、両親と同僚の反応は…

最初は会社に勤めながら通っていたんですよね。
そうです。社会人をしながら通えるクラスは限られていたので、僕は週1回のコースに入りました。半年に1回ある学内オーディションに受かると通年コースに入れるというもので、2年くらい通っても受からなかったら諦めようと思っていたんですけど、幸運なことに最初のオーディションで受かったんです。
通年クラスに移ると、会社勤めはできなくなりますよね。
はい。仕事のほうは思った業務につけなくて倦怠期だったこともあり、会社を辞めることで声優という道が拓けるのであれば、ぜひ挑戦したいと思うようになっていました。2年半くらい勤めて貯金もそこそこあったので、多少バイトをすれば金銭的にも大丈夫かなと。

ただ、父親がどういう反応するかだけが気になっていましたね。専門学校に通っていることは親には内緒だったので。
どのタイミングでご両親に伝えたんですか?
学内オーディションに受かった翌日です。そもそも高校卒業後に専門学校に行こうとしたときに一度喧嘩していて、そのときは「大学には行け。そのうえでどうしても目指したいなら止めない」と言われていたので、今回は苦笑いしつつも僕の意思を尊重してくれました。母親はもともと「いいんじゃない?」って言ってくれていたので、素直に応援してくれました。
両親にも報告を済ませ、いよいよ会社を辞めるわけですね。
その翌日には会社に辞意を伝えました。同業他社からの引き抜きを疑われたのか、人事部に呼び出されて「どうして辞めるのかな?」と、ちょっとピリついたムードで迫られましたが、僕が正直に声優になりたいからだと伝えると「あ……そうなの?」と戸惑いつつではありましたが、了承してくれました(笑)。
円満退社だったんですね。
直属の先輩たちも、頑張れと応援してくれました。「どうせなら有名作に出て、俺らに自慢させてくれよ」と、快く送り出してくれましたね。
一緒にボーカルスクールに通っていた、仲のいい同期の方は?
もちろん最初に報告しました。今でもたまに会っていて、僕が出ている作品もチェックしてくれているそうです。彼は出世して結婚して子どももいて、僕がもし声優の道を選ばなかったら辿っていたであろう別ルートの人生を見ているようです。
そういう別ルートの人生に未練を感じたこともありますか?
下積みのいちばんツラかった時期などは、うらやましく感じたこともありました。「会社にいたら、俺も今ごろ主任になっていたかもな」とか。

専門学校を卒業して、事務所の正所属へ

会社を辞めた小林さんですが、次は専門学校生に通う毎日が始まります。同級生は何人くらいいたんですか?
僕の学年は全体で60人くらいだったと思います。
卒業後に事務所に所属できる人というのは、そのうちどのくらいなんですか?
僕の期だと、ほとんどの卒業生が事務所には入れたと思います。ただし、今も声優として活動している人は、ごくわずかですね。
やはり厳しい世界ですね。事務所に入ると、仕事はすぐにもらえるものなんですか?
そんなことはないです。事務所それぞれでも違うと思いますが、僕が所属するゆーりんプロだと、最初は「預かり所属」で、そこから「ジュニア」、「準所属」、「正所属」と上がっていくシステムです。声優として本当のスタート地点と言えるのは、事務所内で「正所属」になってからですね。
どうやって上がっていくんですか?
うちの場合は舞台公演にも力を入れているので、そこでのお芝居だったり、それとは別に事務所内でのオーディションがあったりします。それらの出来を含め、総合的に判断して決まります。
小林さんの場合はどうだったんですか?
幸いにも1年で「正所属」にしていただけました。
スゴい、そこまではかなりトントン拍子だったんですね。
そうですね。当時はこのまますんなりデビューするものだと思っていて、まさか4年間も下積み生活が続くとは思ってもみませんでしたね……。

4年間の下積み生活で、心は腐りかけていた

下積みの時期というのは、具体的にはどんな生活を送っていたんですか?
平たくいうと、オーディションを受けても箸にも棒にもかからず、ただただバイトに明け暮れる毎日という感じですね。
オーディションは頻繁にあるんですか?
年に数回でした。これは事務所によってかなり違うと思いますけど、(当時)うちの事務所は企業系のナレーションなどの仕事が多くて、アニメのオーディションの話が来るのは稀でした。でも企業系のナレーションはどうも僕の声質と合わなくて、そういうものは経験のある先輩方に振られていたように思います。

アニメやドラマCDの仕事はどうしてもオーディションで勝ち取らないといけない。そもそもチャンスも少ないし、まったく受からない。所属1年目にして厳しい現実を叩きつけられました。
メインキャスト以外の、たとえばモブなどで出演することもなかったんですか?
一度だけありました。ネット放映されていたアニメで、『北の国から』のナレーションのモノマネ芝居という。そのときは現場に専門学校の大先輩でもある柿原徹也さんがいらっしゃって、「スゲえ、柿原さんだ!」ってミーハー丸出しになりましたけど(笑)。

ただアニメの現場は初めてだし、そもそもマイク前に立つこと自体が久しぶりだったので、めちゃめちゃ緊張した覚えがあります。たった一言だけのモブとはいえ、ミスったら永久追放されるくらいに思って(笑)。

結局、下積みの4年間でアニメに出させてもらったのはその1回だけでしたね。
4年間の下積み生活でアニメ出演はモブの一言のみ……。心が折れそうになりませんでしたか?
折れかかってましたよ。本当にこんなことを続けていて意味があるのかなと何度も思いました。どれだけ必死に勉強したりインプットしても、何ひとつ結果に結びつかなくて。結果が得られないと、どんな小さな自信も持つことができないんですよ。

そんななかでも決定的だったのは、オーディションで最終候補の3人まで残ったときのこと。個人的にはすごく手応えを感じていて、内心これはイケるんじゃないかと思ってたんですが結果は受からず。最終的に受かったのは松岡禎丞くんで、当時のマネージャーからも「彼は今勢いがあるから、芝居が似てる裕介は今後厳しいかもね」とかなりキツいことを言われました。

自分のなかでは「絶対に負けていないのに」と、なかなか納得できませんでした。あまりにショックで、悔しくて……それからしばらくはアニメも観れなくなっちゃいました。
そうですよね……。
それから1年間くらいはオーディションもなくて、僕自身もいちばん腐っていた時期ですね。実家暮らしだったんですけど、両親の顔もまともに見れなくて、家に帰るのもツラかった記憶があります。
ご両親からは声をかけられたり、励まされたりしたんですか?
はい。でもその優しさがツラかったんですね。こんなにダメで腐っている俺なんかに、そんなに優しくしないでくれと。だからいつも「ご飯はいらない」と言って出かけていました。仕事やバイトが早く終わってもなかなか家に足が向かなくて、漫画喫茶で時間を潰しては、親が寝静まったころに帰宅していました。

じつは最近、当時の僕とまったく同じ心境のキャラクターを演じる機会があったんですよ。ひさびさに憑依する感覚を味わいましたし、経験者にしかできないお芝居ができたと思います(笑)。
転んでもタダでは起きないですね。そんなどん底のなかで、もう一度前を向くことができたのはなぜですか?
あるときにたまたま『ソードアート・オンライン』を観たんですけど、松岡くんが演じる主人公のキリトを「めちゃめちゃカッコいい」と思っちゃったんです。僕はそれまで「松岡には負けてない」と勝手に思っていたんですけど、全部僕の思い上がりで、幻想だったと思い知らされました。自分に対する評価がグンと下がったことで、「実力がないならつけるしかない」と、もう一度奮起することができたのだと思います。

それからは事務所に掛け合ったり自分のツテを頼ったりして、高校生向けの演劇鑑賞会に出たり、ミュージカルに出たりと、とにかく芝居をする機会を増やしてスキルアップに専念しました。それによってどのくらいお芝居がうまくなったかは自分ではわかりませんけど、思い切りだったり度胸のようなものは確実についたと思います。

泥酔して猛アピール!? デビューのチャンスは偶然に

そしてついに2014年、TVアニメ『ウィッチクラフトワークス』の主人公・多華宮仄を射留めます。
すごい偶然でした。すでに正規のオーディションは終わっていて、僕は受けることもできなかったんですけど、作品のスタッフさんがタイミングよくうちの事務所にワークショップをしに来てくださったんです。ワークショップ自体はズタボロでいいところなしだったんですけど、その後に飲み会があり、そこでお酒をしこたま飲みました。
ヤケ酒的な?
まさに(笑)。酔っ払った勢いでその方に「僕はぁ、松岡なんかには負けませんよぅ?」って絡みまくっていたら、「君、なんか面白いね」と言われて。オーディションは終わっているけど、セリフを録音したテープを送ってと言われて、それで送ったら受かっちゃったんです。
仄のイメージにドンピシャだったんですね。
いや、そのときのテープを聴いたらオンエアの声とは全然違っていて、なんで受かったんだろうっていう感じです(笑)。あとになって聞いたところによると、監督の水島努さんが積極的に新人を起用したいと考えていたこと、同じことをそのスタッフさんも考えていたことなどが重なって、僕の起用につながったらしいです。
道が拓けたきっかけは、運もあったんですね。それでもそのチャンスをしっかりと掴めたのは、4年の下積みがあってこそですね。
そうですね。腐った時期もあれど、諦めずに頑張っていてよかったなと思います。
それにしてもいきなり主人公というのは、かなりのプレッシャーですよね。
あまりにお腹が痛くて、収録前はずっとトイレにこもりっぱなしでした(笑)。
どなたかに相談したりはしましたか?
身近には相談できるような人はいませんでした。ただこれも偶然なんですけど、下野紘さんにアドバイスをいただく機会があって、下野さんの言葉にはすごく救われました。
下野さんも『ラーゼフォン』の主人公役でアニメデビューを果たしていますから、境遇が似ていますよね。
そうなんです。僕も『ラーゼフォン』は好きで観ていましたし、主人公の神名綾人のことをカッコいいなと思っていました。
事務所は違うと思いますが、どんな縁でアドバイスをもらえたんですか?
うちの事務所の先輩が出演するイベントがあって、僕は招待されて観客として観に行ったらところ、そこに下野さんも出演されていたんです。もちろんまったく面識はないんですけど、楽屋へご挨拶に行った際「下野さんとちょっとだけお話させてもらえないですか?」って聞いてみたら、快くOKしてくださったんです。

それで「初めまして」と挨拶するやいなや、「あしたから主人公役で収録が始まるんですが、僕はいったいどうしたらいいんでしょうか?」って(笑)。
積極的というか、強引というか。
完全にテンパってました。でも下野さんが「俺もかなりテンパってたけど、なんだかんだで無事に終わるから大丈夫だよ」と。下野さんのような大先輩にもそんな時代があったんだと安心しましたし、失敗も覚悟して臨めばいいんだと思えて、すごくラクになりましたね。まあそれでも、毎回トイレにこもる程度には緊張はしたんですけどね(笑)。
ちなみに、バイトを辞めて声優活動だけに専念した時期はいつですか?
『アルスラーン戦記』が始まる直前です。ぶっちゃけ声優だけの稼ぎで生活するのはまだまだ苦しい時期だったんですけど、とある先輩に「そんなことを言っていると、いつまでたっても辞められないよ」と言われて、なかば売り言葉に買い言葉で「じゃあ辞めますよ!」って(笑)。

たしかに背水の陣に身を置くことで回ってくるものもあるし、何かをきっかけにして踏ん切りをつけたかったタイミングでもあったんです。その先輩は自分も同じような時期にそうされていて、つまり目の前に成功例があるわけなので、これはいい機会だと思って決断しました。
結果的に、声優1本に絞ったことがよかったと思いますか?
僕に関して言えば、よかったですね。『アルスラーン戦記』に臨んだときは間違いなくそれまでとは気持ちの持ち方が違っていて、「なんとしてもやってやる!」っていう気迫が前面に出ていたんじゃないかと。結果的にそれが表現として声に乗ったり、周りにも伝わったんじゃないかなと思います。

「主人公をやりたい」=「脇役は嫌だ」ではない

小林さんの新たな魅力が爆発し、知名度をグンと押し上げたのは『Re:ゼロから始める異世界生活』の主人公、ナツキ・スバルだと思います。演じる前と後では何かが変わりましたか?
声優・小林裕介としてのイメージや見られ方という意味では、スバルをきっかけに大きく変わったなと思います。それまではアルスラーン(『アルスラーン戦記』)や一希東(『ブブキ・ブランキ』)といった大人しくて綺麗なキャラクターを任せてもらうことが多かったんですけど、スバルを演じてからというもの、ウザかったり大声を張り上げたりと、荒々しいキャラクターを演じることもかなり増えました。
スバルというキャラクターのインパクトはかなり大きかったですからね。
僕個人としては、スバルを演じたことで感情の振り幅の上限が広がったなと感じています。それまでは、もう少し感情を爆発させたいけど、キャラクターを守るためにはここがギリギリかなとか、意識してセーブしていた部分も正直あったんです。でもスバルを演じる際はそんなの度外視で、泣きも怒りも200%という、どこまでも振り切った表現を求められて。

僕自身も、感情というのはここまで出さないと説得力ないよなとも感じて、じゃあほかのキャラクターでももうちょっと攻めても大丈夫かなと思うようになりました。あとは、単純に喉が鍛えられました(笑)。
絶対に諦めないスバルと小林さんは重なって映ります。
ははは。そう言われればそうかも(笑)。
小林さんはよく「主人公を演じたい」とおっしゃっていますよね。小林さんの世代でそういうことを堂々とおっしゃる人は少ないので、とても印象的です。
「役を選んでいる」とかそういうことじゃなくて、僕は純粋に主人公がいちばんカッコいいと思うし、とにかく大好きなんです。子どものころから戦隊モノは必ずリーダーのレッドを好きになるし、大好きな『らんま1/2』も、カッコいいキャラがたくさんいるなかで、僕はやっぱり早乙女乱馬がいちばんカッコいいと思っちゃう。これはもう刷り込みに近いですね。

僕としては「主人公をやりたい」っていうのはエゴでも意地でもプライドでもなんでもなくて、ごく自然な感情です。ただ受け取り方によっては「脇役はやりたくない」と言っているようにも聞こえてしまうらしくて、同業者から「もうちょっと考えて発言したほうがいいんじゃない?」と言われたこともあります。主人公がやりたいというのは本心ですけど、だからといって脇役をやりたくないと思ったことはないんですけどね。
主演作が途切れない人気っぷりですが、声優としての強みはどこにあると考えていますか?
自分ではよくわからないですが、「小林さんがいてくれると安心します」と言ってもらうことは多いような気がします。たとえば配信番組やイベントなどで僕がMCを務める現場だと、他の人が暴走したとしてもなんとかしてくれるとか。そういった芝居以外での使い勝手のよさ、安心感のようなものは評価していただけているのかなと思います(笑)。
イベントなどでキャストさんと絡む場合、小林さんは基本ツッコミですが、いじられることも多いですよね。
そうですね。僕は昔から真面目だと言われていて、それがコンプレックスだったんです。最近はバラエティもこなす面白い声優さんも多いですし、お芝居でもユーモアがなくてつまらないと言われたこともあって。だから面白くならなきゃともがいていた時期もあるんですけど、だんだんありのままの僕の立ち振る舞いを求めてくださるようになってきて、「あ、このままでもいいんだ」と、それからは邪念が消えましたね。
社会人経験が声優としてプラスに働いているところはあると思いますか?
直接的にお芝居そのものに生きているかというと、そんなに関係がないような気がします。社会人だったことが生きていると感じるのは、台本の読み方だったり、社会人としての礼儀だったりとか、そういった副次的なところですね。会社員時代は企画書やプレゼン資料を作ったりしていたので、どうすれば人に伝わりやすいだろうとか、逆に無駄なものはどこだろうとかをすごく考えていて。今でもそういう視点で台本を読み解いています。
小林さんは座右の銘に「失敗しても死にゃしない」という言葉を挙げられていますが、そういう姿勢もまた、声優活動において役立っているように思います。
これは声優界に限らず、どんな世界でも大切な考え方だと思います。
たしかにそうですね。小林さんはいつからそう感じるようになったんですか?
これは大学時代にやっていた空手のおかげです。空手って基本的に階級制ではないので、試合になると、2mの人とか100kgの人とかと戦うこともあるんですよ。そんなときは「絶対に骨が折れるな」とか「前歯がなくなるな」とか本気で思うんです。でもいざ戦い終わったら、まだ手もあるし歯もある。顎関節症になったり骨格が歪みこそすれ、人間ってそう簡単には壊れないんだなと。

もちろん今でも未知の現場に向かう際の不安はありますけど、でも行ってしまえば緊張を忘れられるので、それは空手でメンタルを鍛えられたおかげだなと、感謝しています。

芸事を磨くには、批判に晒されるところに身を置かないとダメ

競争率が高く厳しい世界といわれる声優界で輝くためには、小林さんはどんな考え方やスキルが必要だと思いますか?
これは正直なところわからないですね。っていうか、この世界で確実に売れる方法があるならまっさきに僕が知りたいです(笑)。
今の声優さんはいろいろなことに挑戦されていて、タレントに近いですよね。
僕が声優を目指した当時とは大きく変わっていて、今は顔出しが当たり前ですし、バラエティ番組に出たり、歌ったり踊ったり、配信をしたり。そういう意味では間口は確実に広がっているので、声優になるための道もひとつではないのかなと思います。個人的には求められるものが多すぎて戸惑うこともありますけど、でも自分のなかで優先順位を設けて、取捨選択をしながらやればいい話ですからね。
小林さんも取捨選択をしているんですか?
はい。僕がいちばんやりたいのはもちろんお芝居ですから、まずはそれを基本にして、そのうえでちゃんとパフォーマンスが発揮できるかだったり、過度にストレスにならない範囲でコントロールしているつもりです。マネージャーとも相談しつつ、方針として決めていますね。
業界のニーズや変化というものと、自分のキャパや能力をうまくマッチングさせることも大切なんですね。
そこは考え続けています。だからこそ「なんとなく目指してみようかな」っていうくらいの気持ちの人には、とてもオススメできる職業じゃないですね。それに僕らの仕事って、1クールのアニメが終わったらその現場は解散になるので、またイチから就活しなくちゃいけないんです。永遠に就活し続けているようなものなんですよ。
精神的に相当タフじゃないとやっていけませんね。
無理矢理にでも自分に自信を持たないとやっていけないとは思います。僕は身体に出てしまう体質なので、余計に心に余裕を持つようにしています。
身体に出る体質とは?
たとえば、あしたの現場で高いトーンの声を出さないといけないとして、「ちゃんと声が出るだろうか?」と不安な気持ちのまま寝てしまうと、翌日はまったく声が出なかったりするんです。なので、マインドコントロールでもなんでもいいから「大丈夫、俺はやれる」って思い込むようにしていて。まあ、それをやり続けた結果、今ではよくも悪くもかなり楽観的になりましたけど(笑)。
後輩から相談されることもあるんじゃないですか?
「どうしたらオーディションに受かりますか?」と聞かれることはありますね。もちろん確実に受かる方法なんて僕も知らないですけど、そういうときは芝居を磨くために今どんなことをしているかを聞きます。
その後輩が「舞台に立ったり、朗読劇をやっています」と言ったら?
仮に芝居を磨くために舞台や朗読劇などをやっていたとしても、その座組の空気感によって受ける刺激や緊張感はまったく違ってきますよね。

僕がミュージカルに出させてもらっていたころは、とにかく厳しい演出家に「なんか面白くないなぁ」とか「もっとさ、ないの?」とか、散々ダメ出しされたんです。当時の僕は「絶対にこの人に面白いと思わせてやる」っていう一心で稽古に励んでいました。

やっぱり真剣になって芸事を磨くためには、批判に晒されるところに身を置かないとダメなんじゃないかなと思うんです。だからそれが足りないと感じた後輩には、「内々の環境だけじゃなく、もうちょっと外の厳しい場所に出たほうがいいんじゃない?」ってアドバイスをしますね。

一生続く就活。でも、そういう道を自分が選んだ

才能に溢れた後輩もたくさん見ていると思いますが、そういう存在を「怖いな」と感じることはありますか?
それはないです。もちろん役を競い合うこともあると思いますけど、そのときはまた違うポジションにも挑戦できるような声優になっていればいいだけですから。『炎炎ノ消防隊』なんてまさにそう。僕は主人公の同僚役で、これまでだったら絶対に振られない役柄なんです。スタッフさんに聞いたら「小林くんもこういう役が任せられるようになったなと思って」と言われて、なるほどと。
自分自身もどんどん進化していくから、後輩の台頭は脅威ではないんですね。
キャスティングというのは適材適所ですから。まあでも、後輩から「あの人スゴいな」と思われるような存在ではありたいとは思っていますけどね。
小林さん自身は、悩みを相談できる声優仲間というと、誰になりますか?
松岡くんをはじめ、同じ世代の声優さんたちですね。新人時代こそ勝手に敵視したり嫉妬したりしてましたけど(笑)、今はすごくいい意味でライバルだと思っています。
小林さんは「ライバルを作るのは大切」だとおっしゃっていますよね。
そう思います。今でも松岡くんと同じ現場になると、「やっぱりスゴいなっ」と思わされるし、素直にそれを伝えます。だから僕も「やっぱ裕介っていいな」と思われるようなお芝居がしたいと思いますし、逆に何も言われなかったら少し凹みますから。そういう意味で、松岡くんの存在は刺激にも励みにもなっていますね。
どこまでも就活が続いていく声優という職業を、前向きに捉えていく秘訣はあるんですか?
どんな状態でも、つねに楽しさを見出していくことが大切だと思います。アフレコだったら、「きょうはこんな人と掛け合えるんだ」というのはひとつの大きな喜びですし、ひとりきりの収録でも、クライアントさんの笑顔を見るとやっぱり嬉しいんです。とにかく日々の仕事をモチベーションにして楽しむようにしています。そういう気持ちをつねに保ち続けるのは大変ですけど、でも自分で選んだ道ですからね。

大先輩である大塚明夫さんも著書でおっしゃっていますけど、「役者とは生き方である」とは、まさにその通りだなと。生き方について考えるのであれば、常に前向きにやらないとダメじゃないかと書いてあって、いつも「わかりみが深いな」って思っています(笑)。
小林裕介(こばやし・ゆうすけ)
1985年3月25日生まれ。東京都出身。B型。2013年にTVアニメ『とある科学の超電磁砲S』(小佐古俊一役)で声優デビュー。2014年にはTVアニメ『ウィッチクラフトワークス』多華宮仄役で初主演を果たす。主な出演作に『アルスラーン戦記』(アルスラーン)、『コメット・ルシファー』(ソウゴ・アマギ)、『この美術部には問題がある!』(内巻すばる)、『ブブキ・ブランキ』(一希東)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(ナツキ・スバル)、『妹さえいればいい。』(羽島伊月)、『ガンダムビルドダイバーズ』(ミカミ・リク)、『Dr.STONE』(千空)、『ダーウィンズゲーム』(須藤要)など。

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、小林裕介さんのサイン入りポラを抽選で2名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2020年5月18日(月)12:00〜5月24日(日)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/5月25日(月)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
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