9組に1組のカップルがオンライン経由で出会っている――令和時代の恋愛事情

近年、日本の恋愛事情、とくに出会いの形に変化が起こっている。これまでは「知人の紹介」「合コン」「街コン」などが主流だったが、最近では「マッチングアプリ」を利用して交際・結婚相手を見つける人が増えてきた。

2019年に累計会員数1,000万人を突破し、国内の業界シェア1位を誇る「Pairs(ペアーズ)」は、マッチングサービスの最古参のひとつ。市場の先陣を切るペアーズ運営会社、エウレカの代表取締役・石橋準也氏によると、日本国内のカップルはおよそ9組に1組がオンラインを通じて出会っているという。

なぜ、マッチングアプリでの出会いが増えているのか。いい出会いを掴むために、どのようにアプリを活用すればいいだろうか。エウレカ代表の石橋氏に、令和時代の恋愛事情について話を聞いてみた。

撮影/西田周平 取材・文/阿部裕華

出会いの手段に変化をもたらした、SNSとスマホの普及

出会い自体にはさまざまな選択肢があると思いますが、それがどのように変化しているか教えてください。
そうですね。出会いの“手段”のトレンドはつねに変化しています。

1960年代まで出会いの手段は「お見合い」が主流でした。そこから出会いの手段は徐々に「職場」へ変わっていきます。そして、女性の社会進出やセクハラ問題の顕在化などにより、職場は恋愛をする場ではなく、仕事をする場という感覚に変化していきます。
職場での出会いが減少しますよね。
そこで「職場」以外の手段である「合コン」、そして一部が「街コン」という出会い方に移り変わり、現在は「マッチングサービス」と、トレンドが変わってきました。
「お見合い」「職場」「合コン」「街コン」とオフラインだったところから、なぜオンラインの「マッチングサービス」がトレンドに…?
マッチングサービスは一種のSNSです。日本におけるマッチングサービスの普及は、Facebookとスマートフォン(以下、スマホ)の存在が影響していると思っています。

サービス開始当時のFacebookは完全実名制だったので、信頼性が担保されていました。「ペアーズ」含め、マッチングサービスはFacebookログインで利用する仕様にしていたため、出会い系サービスと線引きされるように。

加えてスマホが普及して、オンライン上で時間を消費する人が圧倒的に増えたことで、可処分時間の一部をマッチングサービスが獲得できるようになっていると考えています。

「男女の恋愛はコスパが悪い」と思っている人が約半数

現在、ペアーズの業界シェアはどれくらいなのでしょうか?
2019年1月に累計会員数が1,000万人を突破しました。また、2019年のApp Annie社調べの年間セールスランキングによると、業界シェアは1位です。同社の各アプリのセールスデータでは、2位以下のマッチングサービスと大きく差が開いています。
男女比や年齢層など、ペアーズの利用者層について教えてください。
男女比は55:45の割合となっています。マッチングサービスとしてはバランスの良い男女比です。

また、マッチングサービス自体の年齢層は20代〜30代後半と幅広く利用されていますが、ペアーズのボリュームゾーンは25〜35歳です。
ペアーズがサービスを開始した2012年から8年の間で、マッチングサービス全体の利用者層に変化はありましたか?
男女比が徐々に均等になっています。マッチングサービスが出始めたとき、男性の利用者が多くいました。女性の方はオンラインで出会うことに抵抗を感じていたのでしょう。徐々に信頼性が担保されてきたことで、女性の利用者も増えてきました。

ただ、時代が進むにつれ、恋愛観にも変化が現れていると感じています。
どのような変化でしょうか?
若者を中心に恋愛の優先度が下がってきている、という調査結果が出ています。

「婚活」という言葉の生みの親である中央大学の山田昌弘教授とペアーズが「日本の恋愛・結婚意識」に関する共同調査を行ったところ、交際相手がいない20〜30代の男女の約45%は「交際したいと思わない」と回答しています。
交際したいと思わない…!?
相手に合わせることの面倒くささから、交際自体を面倒くさいと感じている人が多数いました。また、インターネットやスマホの普及により、恋愛をしなくても、ひとりで余暇を楽しめる人が増えています。交際には、精神的・金銭的・時間的な負担がかかることに対し、「男女の恋愛はコストパフォーマンスが悪い」という意識を持っているようです。

そして、「交際したい」と回答した約55%のうち、80%以上の人は「相手を探す活動をしていない」と。交際したいと思っているが、相手を探すために、どうしていいのかわからないというのが主な理由でした。
交際したいと思いながら、半数以上が何も行動を起こしていないんですね……。
マッチングサービス自体の利用者は徐々に増えてはいるものの、「恋愛相手を探すのに積極的な人」が中心です。
恋愛に対して消極的な人がそんなに多いとは……。
一方、多くの人は交際・結婚相手に「精神的な充足・満足」を求めている。自分を大切にしてくれるかどうかに重きを置いている人が多くいます。

そういった恋愛事情におけるトレンドや、ユーザーのみなさんの声を鑑みて、ペアーズでは「わたしの大切な価値観」という機能をつくりました。プロフィールには趣味やライフスタイルも記載できるため、相手がどんな人なのか、自分と合うかどうかをお互いに理解した状態でコミュニケーションを始められます。

9組に1組はオンライン経由で出会っている

そもそも、マッチングサービスはいつ頃生まれたものなのでしょうか?
始まりは1995年、弊社の親会社である米国Match Groupの運営するMatch.comが発祥と言われています。弊社がペアーズを立ち上げた2012年、アメリカではすでに3組に1組がオンラインでの出会いを通じて、交際・結婚している状況でした。
アメリカではマッチングサービスでの出会いが当たり前になっているんですね。日本はいかがでしょう?
既婚または交際相手がいる20〜49歳を母数に取ったとき、およそ9組に1組がオンラインを通じて出会っているという調査結果が出ています。

海外と比較するとまだまだ伸びしろがあると言えますが、App Annieのデータを見るとマッチングサービスの日本市場は世界トップ3に入ります。
今、日本国内だけでどれくらいのマッチングサービスがあるんですか?
弊社が把握しているだけでも、200近くのサービスがありますね。
想像以上に多い……! 日本でマッチングサービス市場が開けてきたのはいつ頃からですか?
2016年頃からマッチングサービスが急激に増えました。マネタイズを念頭に置いたサービスを考えたとき、マッチングサービスにビジネスチャンスを感じる企業が多くいました。当時のApp Annieでも世界のトレンドを見る限り、マッチングサービスが来るだろうと想定できましたし、当時はまだプレイヤーの数も少なくかつ圧倒的なシェアを獲得する企業がいなかった。参入障壁がなかったのかなと。

2012年にはペアーズやネットマーケティングさんの「Omiai」くらいしかなかったマッチングサービスですが、リクルートさんの「ゼクシィ縁結び」やサイバーエージェントさんの「タップル誕生」など、大手企業も市場に参入してきました。
競合が増えることに不安はなかったのでしょうか?
弊社としては、同業者のみなさんを“競合”とは思っておらず、市場を一緒に拓いていく“仲間”だと思っています。実際、仲間が増えたことで、マッチングサービスの信頼性が上がり、2016年以降から利用者数も急激に増えています。

安心安全な出会いのために、24時間365日のサポート体制

ペアーズは早い段階から市場に参入し、安定してシェアを伸ばしています。200近くのサービスがある中、なぜ安定してシェアを拡大し続けられるのでしょうか?
ひとつはネットワーク効果が要因です。マッチングサービスはユーザー数の増加に応じて価値、体験のクオリティが上がるサービスなので、市場でもっともユーザー数の多いペアーズに自然とユーザーが集まってきます。

もうひとつは青臭い話に聞こえるかもしれませんが、弊社はペアーズをリリースした当初から「多くのカップルを生み出す」ことをゴールに掲げてサービスの運営をしてきました。その一環としてマッチングサービスは女性に安心して利用してもらえなければ、男女比の均衡が取れません。均衡が取れなければ多くのカップルを生み出すことが困難になるため、安心安全への投資は過剰にも見えるくらい行ってきました。
具体的にどのような投資をしてきたか教えてください。
不適切なメッセージや画像が公開されることがないように、24時間365日社内のオペレーターがパトロールを実施。メールやチャットによるユーザーからの問い合わせへの迅速な対応、ユーザー間のトラブルで生じた違反報告もカスタマーケアのスタッフが24時間体制で全件に目を通して、利用規約に則り、警告や強制退会の判断をしています。

これをすれば利用者が伸びる、といった具体的な数字で示せる投資ではなく、安心安全に利用していただくことがサービス成長のキーになるという思いで取り組んできた結果、女性の利用者数も順調に増えていったと感じています。

また、定期的にアンケートを実施したり、リアルの場で開発中の機能のコンセプトや実際のUIに意見をいただく会を開催したり、ユーザーのみなさんの声もサービス開発に参考にさせていただいています。
ユーザーさんから聞いたお話で、印象に残っているものはありますか?
ペアーズがキッカケでご結婚された夫婦の方で、教師をされている奥さんの実家へ移住するため、旦那さんは仕事を辞めて移住、そして教師になったというエピソードを聞きました。

そういった話を聞くと誰かの人生に大きく影響を与えるサービスだと感じます。ペアーズの中で起こる出会いがいいものでなければいけない、と気が引き締まりました。
▲取材を行ったのは3月。社内の様子を撮影させていただきました。

「出会い系」のイメージを払拭し、偏見を取り除きたい

とはいえ、いまだに「マッチングサービス」=「出会い系」のイメージを持つ人もいると思います。サービスをリリースした2012年は、今以上に偏見があったのでは……?
当時は採用にも影響がありましたね……。内定を出して本人も入りたいと思っていたけど、親御さんに反対されたという人がいました。

だからこそ、僕らがイメージを変えていくしかないと思っていました。マッチングサービスから出会い系のイメージを払拭するために、広告のクリエイティブには気をつけていました。出会い系のような過激なクリエイティブにしたほうが人の目につきますが、クリーンなイメージのクリエイティブをつくり続けてきました。実際に成果は出ていますし、今では各サービスのクリエイティブも足並みが揃ってきています。

ただ、いまだに利用者の方がマッチングサービスで出会ったと言うと、「出会い系と何が違うの?」といった反応をする親御さんもいらっしゃるようです。
親世代からネガティブな印象を持たれることはまだありそうですね。そういったイメージを変えるための解決策は何かあるのでしょうか?
3つのプランを考えています。

1つ目は、ペアーズで出会って結婚した方に出演していただく広告の実施です。マッチングサービスはどの国でも口コミによる流入が大半。「いい出会いがあった」という口コミを発信してもらうため、結婚したユーザーさんを対象に、広告に出演いただいています。この広告を見たペアーズなどのマッチングサービスで会った方に「マッチングサービスで会ったということは思ったより普通のことなのかもしれない」と思っていただくことが狙いです。
2つ目は何でしょう?
2つ目は、サービスの正当性の理解を促進する取り組みです。日本は年々未婚率が上がっています。未婚率が上がると出生率に大きな影響を与え、少子化につながっていく。そんな中、マッチングサービスは未婚化・少子化の課題解決に必ず貢献できると思っています。
2019年に結婚に特化したサービス「Pairsエンゲージ」をリリースされたのは、そういう理由もあるんですね?
ペアーズは必ずしも結婚がゴールのサービスではありませんし、数多くのお相手の中から自分に最適な人を選ぶサービスですので、出会い、付き合い、結婚までとなると、ある程度時間がかかるのも事実です。ですが、利用者の中には「すぐにでも結婚したい」と考えている人が一定数います。半年〜1年以内に早く結婚したいという人をターゲットに「結婚までの過程の効率化」を追求したサービスが「Pairsエンゲージ」です。

ペアーズは少子化の課題に真剣に向き合っています。そういった思いを持って運営しているサービスであることを、専門家や政府などへ向けて理解を得ていく取り組みを進めています。
なるほど。では3つ目は?
3つ目は、テレビCMや電車の中吊りなどのマス広告の実施です。ターゲットとしている消費者の方はSNSやネット上で広告に触れることが多いですが、親世代の方にはマス広告がいちばん届く手段だと思います。だからこそ、そのような広告媒体も積極的に活用していきたいと考えています。現在マッチングサービスはまだテレビCMを出稿できませんが、有意性が広まればその状況も変わると信じています。
偏見を払拭させるために、まずはマッチングサービスが「安心安全」なサービスだという印象を根づかせていくんですね。
はい。もちろん、すべての出会いや結婚がマッチングサービスである必要はないですし、身の回りでいい出会いがあるならそれでいいと思います。ただ、出会いがない人やより良い人と出会うための手段を探している人にとって、マッチングサービスが当たり前に選択肢のひとつにあると思ってもらいたいですね。

ペアーズの中の人に聞く、マッチング率を上げるポイント

マッチングしてからカップルになるまでの平均期間は4〜6ヶ月だそうです。「出会いがない」と嘆く前にできることがある……! ということで、これまで25万人以上に恋人ができたペアーズに蓄積されたデータから、マッチングするためのポイントを教えてもらいました。
自撮りを上手く撮れる方が少ないのと、日本人の価値観的に「自撮り=ナルシスト」と思われることが多かったり、自撮りに慣れていない人が多いのが理由です。友だちやペットと写っている写真のほうが自然な表情ですしね。ペットと一緒に映っていると好感度が高くなるというのは数字上にも出ています。
説明的ではなく、自然な文章で性格や人柄がわかるような書き方がいいです。付き合ったあとのイメージがわくように、ライフスタイルを見せたり、大切にしている価値観を書いたりするといいかもしれません。

あとは、プロフィールに表示される「つぶやき」に、クスっとするようなユーモアのある一言を書く人は興味を引きやすくマッチング率が高ったりします。
「コミュニティ機能」は、同じ趣味や価値観を持った人が集まる場として実装したものです。自分でコミュニティをつくることも可能です。

みなさん、平均で23個ほどコミュニティに入っているのですが、もう少し多くのコミュニティ入ってもいいと思います。共通のコミュニティが多いほど、相手と一致するポイントが増えるので積極的に入りましょう。

ピンポイントでお相手を探したい場合は、細分化されたコミュニティがオススメです。たとえば、「山登り好き」のコミュニティだと、どのレベルで好きなのかわからないので、都心近郊の山に登るとかよく登る山域、などピンポイントなコミュニティに入る。なければ自らつくってみてください。
自分から「いいね」するのは恥ずかしいけど気になっている、という人が定期的に足跡をつけている場合もあります。「定期的に足跡がついてるな」と気づいて、そのお相手が気になる方であれば、ぜひ「いいね」してあげてください。

1ヶ月に30いいね付与されるので、それはしっかり使い切ることが重要です。当たり前のことですが積極的に「いいね」することで、マッチングしやすくなります。
日数が空いている人は、出会いに対して意欲的でないと思われますし、どのマッチングサービスもログイン頻度が高い人の方が表示される可能性が高くなります。つまりログイン頻度が高いほどマッチングしやすくなるので、積極的にログインしましょう。
メッセージはお相手の興味関心のあることに対して話題を振りましょう。実際に会ったときの会話をイメージできる状態をつくることが重要です。話題に困ったときは、プロフィールに表示される「つぶやき」に書いてある内容に触れるなどタイムリーな話題を振るなど、工夫してみるといいかもしれません。もちろん、ペアーズ側でもサポートしていきます!
石橋準也(いしばし・じゅんや)
1987年8月22日生まれ。株式会社エウレカ 代表取締役CEO。2013年に株式会社エウレカに入社し、2016年9月に代表取締役CEOに就任。2019年4月に親会社であるアメリカMatch Groupの日本・台湾のGeneral Managerに就任し、当該地域のMatchグループ全ブランドの成長戦略を推進している。
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