不器用だからこそ“魂”で乗り切るしかない。佐藤 健×鈴木亮平に共通する「役者道」

ふたりの再共演に歓喜したファンも多かっただろう。ドラマ『天皇の料理番』以来4年ぶりに、映画『ひとよ』で現場をともにした佐藤 健と鈴木亮平。

この4年のあいだに、佐藤は7本の映画で主演を務め、連続テレビ小説『半分、青い。』などの話題作に出演。鈴木はNHK大河ドラマ『西郷どん』の主演俳優となり、ともに押しも押されもせぬトップ俳優として活躍してきた。

彼らが本作で演じたのは、偶然にも前回と同じ兄弟の役。監督を務めるのは、『凶悪』や『孤狼の血』などの話題作を次々と世に放ち、俳優たちがこぞって彼の作品に出演を熱望するという白石和彌だ。

これで仕上がりに期待するなと言うほうが無理な話である。無精ヒゲを伸ばし、やさぐれた雰囲気を漂わせる佐藤と、どこか頼りなさげでオドオドした印象の鈴木。彼らのビジュアルに驚く声もあったが、こちらの期待を軽々と飛び越える傑作が完成した。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

お互いの印象は『天皇の料理番』から変わらない

おふたりの共演は『天皇の料理番』以来でしたが、お互いに当時からの違いや成長を感じた部分はありましたか?
佐藤 そんなに印象は変わらないんですよね。あのときもお互いに大変な役で、魂で乗り切るしかないというか。何となく近いものを僕は感じていました。

『天皇の料理番』のときも、口に出しては言わなかったですが、兄ちゃんが大変なシーンのときは「何とか乗り切ってくれ!」って陰ながら応援していました。今回の『ひとよ』も大変そうなシーンは「頑張れ」って思っていましたし、そういう意味で(4年前が)フラッシュバックすることはありましたね。

前回はね、(佐藤さんの妻役を演じた)黒木 華という、おいしいところを飄々とかっさらっていくすばらしい女優さんがいて(笑)、今回で言うと松岡(茉優)さんがそうなんですけど。あのおふたりに関しては「頑張れ」なんて思わないんですけど(笑)、亮平くんにだけは「頑張れ」と思ってました。
鈴木 僕は正直、『天皇の料理番』のときは、つらすぎて(※病魔に蝕まれていく役で、20キロの減量をした)、現場で会話をする余裕もあまりなかったんですよね。健も健で、すごく大変で。撮影も長いし、プレッシャーもスゴくて。互いにジッと役に向き合って、修行僧のようでした。

僕も健の印象は当時とあまり変わらないんですけど、役とか作品をちゃんと背負う役者だなって思っています。責任感があるんだろうなって。

僕も健の大変なシーンは「頑張れ!」って祈っていました。共演作以外の彼の作品も見てきて、ずっとスゴい男だなと思っていましたし、魂でぶつかるしかできない不器用な俳優だからこそできることが、僕らにはあるのかもしれません。

“殺人犯の息子”という難役。緻密に考えすぎずに挑んだ

はじまりは土砂降りの夜。3人の子どもたちを守るため、稲村こはる(演/田中裕子)は夫を手にかけ、警察に自首する。それから15年。次男・雄二(演/佐藤 健)は東京でフリーライターとして活動し、長男・大樹(演/鈴木亮平)と長女・園子(演/松岡茉優)は地元で暮らしていたが、そこに、服役を終えた母・こはるが帰ってくる――。
最初に脚本を読んだときの印象を教えてください。
佐藤 初見で「これは面白い!」という作品に出会えてうれしかったです。何というか…出てくる人物はみんな、“難アリ”と言えば“難アリ”なんですけど、全員が愛おしく思えたんですよね。全員に共感する部分があったし、とくにラストの家族のシーンは、理屈抜きに感動しました。
鈴木 どのキャラクターにも感情移入できる部分があり、単なる家族ドラマじゃない面白さを感じました。

それぞれがものすごく複雑な状況を与えられている中で、「この場面はこういう気持ちだ」などとハッキリ言えるような状態じゃないまま、複雑なものを複雑なままに感じて、乗っかっていったほうが面白くなるだろうなと思いましたね。
完成した映像をご覧になった際はいかがでしたか?
佐藤 自分への反省もあって、なかなか客観的になれなかったんですが、周りの評判が異常にいいことに驚いてます(笑)。
鈴木 僕も全然、客観的に見ることができなかったのですが、そんな中でも思ったのは、“白石監督作品”になっているなということ。

家族の話というのは、言ってしまえば地味なことが多いですし、今回の物語も(こはるの甥が経営する)タクシー会社の中だけで行われることばかり。でも、「次に何が起こるんだろう?」とグイグイ引っ張っていく演出が白石さんらしいというか、飽きさせないんですよね。画に乗っかっているエネルギーが、すごくパワフルでした。
そうした“強度”は撮影中から感じていたんでしょうか?
鈴木 いや、全然感じなかったです。むしろ現場では、ただの家族の話というか…先ほども言った通り、複雑なことを複雑なままやって、それが伝わってくれたらいいなと思って演じていたんですが、作品を見るとガンガン引っ張られるというか。
“殺人犯の息子”という想像を絶する苦しみを背負って生きてきた雄二と大樹ですが、どのように役を作っていったのでしょうか?
佐藤 そこまで緻密にああだこうだと頭で考えて作り上げていくものでもないので、こういうときに言葉にするのが難しいんですが…。

普段からも作りこんで現場に行くことはほとんどなくて、今回もノープランで行くことが多かったですね。ただ、兄妹のシーンであれば、兄や妹の顔を見て、「こんな15年だったのかな?」「こんな少年時代を過ごしたのかな?」と何となく感じるものがあるんです。そういう部分から膨らませていきました。
過去にとらわれて心を閉ざした様子は、これまでに見たことのない佐藤さんの姿だなと思います。
佐藤 それもね、僕に言わせれば意外と普通というか…(苦笑)。たしかに「いままでと違う」と言われるんですけど、自分の中ではナチュラルというか、そんなに新しいことをしたつもりもないんですよね。
鈴木 普段から、母親に対してもああいう(ぶっきらぼうな)感じなの?(笑)
佐藤 あんな感じのときもあるのかな…。いや、もうちょっと大人というか、優しいですけど(笑)。

ただ、今作では兄妹3人の中で、雄二はわりと行動的というか。ちょっとワルだけど、頼りになる同級生っていたじゃないですか? そういう感じをイメージすることはありましたね。
鈴木 僕も、兄妹たちの顔を見ながら、どんどん(大樹が)わかってきたというか…。何となく「こんな15年を過ごしてきたのかな?」というのはあったんですけど、それ以外では、(少年時代の大樹らを演じた)子役たちの芝居を見て「あぁ、こういう子ども時代だったんだ」と知ることくらい。

あと、園子との最初のシーンで、園子が意外とやさぐれてて、「いろいろあったんだな」と(笑)。「妹がこういうふうになっていたら、兄はこう向き合うのかな?」とか、そこにあまり会話をしてこなかった雄二も帰ってきて「雄二はこんな感じね。いるいる!」って。自分の役のことはあまり考えてはいなかったです。
むしろ、雄二や園子の姿を見て、その関係性の中で大樹ができあがっていった?
鈴木 そうですね。とくに今回、何も考えずにポンっと現場に入ったので。みんなに助けられました。

メイクをせずに撮影したからこそ、気持ちが裸になれた

佐藤さんは「全員に共感できる部分がある」とおっしゃっていましたが、雄二とご自身は似ていると思いますか?
佐藤 (作品によっては)自分と役を切り離して、客観的に演じる場合もあるんですけど、今回はそうではなく、わりと僕自身が思っていることや心情をそのまま表現しようという感じでした。どのシーンでもある程度、共感できましたし、全然違う人間だとは思わなかったです。
鈴木さんは、大樹との共通点、もしくはまったく違う部分はありましたか?
鈴木 いちばん違うところは、大樹はコミュニケーションが苦手なところですね。僕はコミュニケーション能力で世を渡ってきたところがあるので(笑)。
佐藤 コミュニケーション俳優?(笑)
鈴木 そうそう。コミュニケーション俳優(笑)。嫌われないように…というのは言いすぎだけど、人とのコミュニケーションで生きてきたところはあるので。
ご自身とまったく違う役柄というのは難しいものですか?
鈴木 意外とそうでもなくて。大樹はこの15年、「話しかけられたくない」「自分を見ないでくれ」と思って生きてきたんだろうなと感じて、自分の中に(役が)ストンと落ちてきました。

あとは、メガネをかけて…。これは現場のスタッフさんからも聞いたんですが、白石さんは役者に、普段と違うものを乗っけたがるんですよね(笑)。

僕にはメガネ、健にはヒゲ、松岡さんは茶髪。それこそ、通常の作品であれば多少のメイクをして撮影することが多いんですが、今回は僕も健もノーメイクで出ているんです。そういう意味で、気持ちが裸になれた部分もあったのかなって思いますね。
ちなみに鈴木さんのコミュニケーション能力は、今回の現場でも発揮されていたんでしょうか?
佐藤 それはもう。本当にどの現場でも、もっとも安心できる俳優さんですね。役者にとってもそうだし、スタッフにとってもそうだと思います。
鈴木 今回の現場でもそういう話をしたね。
佐藤 しました。
鈴木 健はちょっとクールに見えるんで、スタッフさんに誤解されてしまう部分がありそうだなって話をして。健に「亮平くんは好かれるでしょ?」って聞かれたから、「俺はね…好かれる(笑)。好かれたいと思ってるからね!」って。

言葉で後輩を引っ張るよりも、背中を見せていきたい

冒頭で鈴木さんから「役柄、作品を背負う」という言葉が出ましたが、年齢・キャリアを重ねていく中で、自分たちの世代を背負うという意識や、業界を変えていこうといった意識が芽生えてきた部分はありますか?
佐藤 うーん。「新しいことをやっていきたい」という願望はすごくありますが、それは「自分が業界を引っ張っていかないといけない」とか「このままじゃいけない」みたいな使命感というよりは、純粋に自分がやりたいからという気持ちが強いかもしれないですね。
鈴木 健が現場で言っていたことで、すごく印象に残っているのが「背中を見せていくしかないですよね」という言葉。本当にその通りだなって思います。

何か言葉で引っ張るより、僕らが全力で頑張っている姿を後輩に見せて、それが日本の役者のレベルの底上げになっていけばうれしいなという思いがまずひとつ。

それからもうひとつ。映画の配給・配信のサービスもそうだし、少子化も進む中で、日本だけでやっていく時代じゃなくなっていく。日本の俳優として世界のいろんな国でやっていくべきだし、そうなったとき「日本の役者のレベルは高いな」と思ってもらいたい。

好きだからやっているんですけど、そのうえで、みんなでレベルを上げていきたいって思いがあるので、とにかく芝居を突き詰めていきたいなと思っています。
最近では俳優が企画や制作を務める機会も増えていますし、Netflixのドラマ『全裸監督』のように、これまでにない作り方で高い評価を得る作品も増えてきました。ご自身で企画や制作を担ってみたいという思いはありますか?
鈴木 ある?
佐藤 僕は…やりますね。
鈴木 やるの?
佐藤 いや、決まっているという意味じゃなく、何ていうか…今後、やらざるを得ないんじゃないかと思います。
鈴木 たしかにね。そういう時代にはなっていくんだろうなと思いますね。僕も常に「新しいことをしたい」という思いはあるし、それこそNetflixはとても大きな動きだと思います。日本で作られた作品がここまで大きな話題になっているってスゴいことですし、脚本の作り方なども従来と違うと聞いています。

こうした動きが、日本のエンタメ業界にやがて大きな変化を生むことになるだろうし、これからの日本のエンタメの作り方は変わってくるだろうとも思います。ただ結局、いいものを作り続けないとしょうがないんですよね。
今後は必然的に、日本で作られた作品が、海外でも見られるコンテンツになっていかないといけないし、そのために必要であれば、企画や監督もやりたいですね。とはいえ、僕自身がやっぱりいちばん興味あるのは自分が演じることなんですよね。
佐藤 世界遺産より?(笑)(※鈴木さんは世界遺産検定1級を持つ)
鈴木 そうね、世界遺産と同じくらいかな(笑)。健は監督をやりたいの?
佐藤 いや、僕は監督はできないと思いますね。
ということは、脚本や企画、制作といった部分で?
佐藤 どうでしょうね…? というか、やる前にあれこれ聞こうとするのはズルいですよね(笑)。言えるときが来たらご報告しますのでお待ちください!
鈴木 「何か意味深な笑みを浮かべていた」と。
佐藤 そんなことないから!(笑)
佐藤 健(さとう・たける)
1989年3月21日生まれ。埼玉県出身。A型。2006年に俳優デビュー。ドラマ『ROOKIES』(TBS系)やNHK大河ドラマ『龍馬伝』に出演し人気を博す。主なドラマ出演作に『Q10』(日本テレビ系)、『天皇の料理番』(TBS系)、連続テレビ小説『半分、青い。』、ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)など。主な映画出演作は『カノジョは嘘を愛しすぎてる』、『バクマン。』、『世界から猫が消えたなら』、『何者』、『亜人』など。2017年公開の『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2020年夏には映画『るろうに剣心』の最終章が2作続けて公開される。
鈴木亮平(すずき・りょうへい)
1983年3月29日生まれ。兵庫県出身。A型。2006年に俳優デビュー。2014年にNHK連続テレビ小説『花子とアン』でヒロインの夫を演じ話題を呼び、翌年のドラマ『天皇の料理番』(TBS系)でも高い評価を得た。2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』では主演を務めた。主な映画出演作は『TOKYO TRIBE』、『俺物語!!』、『海賊とよばれた男』、『忍びの国』、『羊と鋼の森』など。主な舞台出演作は『ライ王のテラス』、『トロイ戦争は起こらない』、『渦が森団地の眠れない子たち』など。2020年には映画『燃えよ剣』が公開される。

映画情報

映画『ひとよ』
11月8日(金)ロードショー
https://hitoyo-movie.jp/
©2019「ひとよ」製作委員会

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応募方法
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受付期間
2019年11月5日(火)12:00〜11月11日(月)12:00
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  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから11月12日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき11月15日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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