今の時代は、どうしても品行方正を求められてしまう。小栗旬が考える芸術性の価値

太宰治といえば『走れメロス』や『斜陽』など、後世に語り継がれる名作を生みだした文豪であるが、数度の自殺未遂を繰り返し、自堕落な女性関係を持つなど、奔放な私生活を送っていたことでも有名だ。

そんな彼の生き方を、遺作『人間失格』が生まれる秘話とともに描いたのが、映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』。

太宰を演じたのは、2020年公開予定の『ゴジラVSコング(仮)』でハリウッドデビューも果たす小栗旬。「太宰のように突き抜けた行動ができるのはうらやましくもあるけど、今の時代では難しいでしょうね」と、太宰の姿と照らし合わせながら、日本のエンターテインメント業界に抱く危機感も語ってくれた。

撮影/平岩享 取材・文/馬場英美 制作/iD inc.
スタイリング/臼井崇(THYMON Inc.) ヘアメイク/KIMURA CHIKA (tsujimanagement)
衣装協力/スーツ ¥150,000(ブリッラ ペル イル グスト/ビームス 六本木ヒルズ)、ネクタイ ¥16,000(フランコ バッシ/ビームス 六本木ヒルズ)、チーフ ¥6,300(フマガッリ/ビームス 六本木ヒルズ)、他スタイリスト私物

この役を演じたら、私生活にも影響が出るのではと思った

蜷川実花監督から、「この役は小栗くんにしかできない」という出演オファーがあったそうですね。
ある日、実花さんから「小栗くんの太宰治で『人間失格』をやりたいんだけど」と連絡がありました。そのときは自分の中であまりピンとこなかったので、返事を待っていただいたんですが、脚本を読んだら、とてつもなく面白かった。なので、これをやらない手はないなと思いました。
最初に返事を躊躇された理由は何だったのでしょうか?
正直、すごくしんどい役になるだろうなと。でも、脚本に衝撃を受けて、最終的にはお引き受けしました。
どういうところに衝撃を受けられたのでしょう?
この役をやったら、本当にいろんなことがダメになるだろうなと思って。
というのは?
この映画で描かれる太宰は、控えめに表現してもひどい人間じゃないですか(笑)。これを演じると、私生活にまで影響が出るかもしれないと思ったし、自分でも想像がつかないところがありました。結果的には、そんなに大きく彼の影響を受けることはなかったのですが。
小栗さんは役に影響を受けやすいタイプなのでしょうか?
昔はそうでした。僕たちの仕事はパラレルワールドで生きているようなところがありますからね。

でも、子どもが生まれてからは、家に仕事の顔を持って帰るわけにはいかないですし、子どもたちは一瞬にして現実に引き戻してくれるので。徐々に切り替えができるようになったのかもしれません(笑)。

役作りでキツかったのは、体重を大幅に減量したこと

太宰治を演じる前後で、太宰に対する印象は変わりましたか?
僕がもともと太宰に抱いていたイメージは、内向的でウジウジしている人というものでした(笑)。学生時代に『人間失格』と『斜陽』は読みましたが、この作品をやる前までは、太宰についてそんなに多くを知っていたわけではありませんでした。

ただ、今回改めて『人間失格』を読み返して思ったのは、若いときはすごく共感する部分が多かったのに、今はそれが難しかったということ。
それは、小栗さんが大人になったということなのでしょうか?
そんなに繊細に自分の内面を考えなくなったんでしょうね。今、太宰の本を読むと、「こんなに内面と向き合っていたら、疲れちゃうじゃん」と思ってしまいます(笑)。
今回の映画での太宰は、繊細で内向的といった一般的なイメージとはまったく違いますよね?
太宰に関してはいろんな文献が残っていて、それを読むと、自分をネタにして笑わせるのが好きな人だったみたいです。あと、お酒を飲むのが大好きで、お酒の場ではいろんな人を笑わせながら飲んでいたと。だから、すごい気遣いの人だったんだろうなと思います。
映画にもそういうシーンがたくさん出てきますね。
『トカトントン』や『女生徒』といった喜劇的作品を読むと、不思議なユーモアがあるんですよね。あの時代としては先取りしていたと思うし、最先端な人だったんだろうなと。だからこそ、周囲に理解されるのが難しかったんだと思います。

あと僕が思うに、流行に敏感な人って、明るく元気な人が多いんですよ。みんなと話していても、それが彼を形成していた大きな部分であり、きっと太宰は書いているものに比べて、ずっと明るかったんじゃないかという解釈に至りました。
そんな太宰が正妻の美知子(演/宮沢りえ)に「あなたはもっとスゴいものが書ける」と言われて、一筋の涙を流すシーンは印象的でした。
心の中では、きっと泣いちゃいけないんだろうなと思っていました。でも、ずっと待っていてくれると信じていた人から「もう帰ってこなくていいですよ」と言われたらショックですよね。

太宰は多額の税金を請求されて「俺の金をこんなに持っていくのか」と泣いたというエピソードもあるぐらいなので、かなり女々しいところがあったのかなと。なので、あそこで涙を流したのはよかったのかなと思います。
太宰を演じるうえで苦労されたところはありますか?
体重を10kg以上落としたんですけど、減量しているときに子どもといるのはけっこうキツかったですね。目の前でものすごくお菓子を食べますから(笑)。

でも、体重を落としたことで後半のやつれ感は出たと思うし、太宰は酔っ払っているシーンが多いので、意識的にお酒を飲むようにしていました。なので、けだるさみたいなものは出せたんじゃないかと思います。

“仕事か家庭か”は、人生における究極のテーマ

太宰は作家としては天才だったかもしれませんが、ひとりの人間としては女性にだらしなかったり、ダメなところがあると思います。同性として共感してしまうところはありますか?
たくさんあります。だって、自由じゃないですか。本能と衝動で生きていて、人間らしいなと思います。

これで何もしてなかったら本当にただのクズ野郎ですけど、名作と言われるものをたくさん残してますからね。そうすると不思議なもので、肯定せざるを得ないというか。そこが彼の成功した部分だと思います。
作品を生み出すという意味では、小栗さんも同じアーティスト。そこの部分への共感はありますか?
それは蜷川監督とも話していました。仕事を取るのか、家庭を取るのか。作品を残すことを取るのか、自分の人生を取るのか。これは究極のテーマですよね。

太宰のように突き抜けられるのはうらやましくはあるけど、今の時代では難しいでしょうね。僕個人としては品行方正である必要はまったくないと思っているけど、どうしても僕たちは品行方正を求められてしまいますから。
とくにSNS時代の今は、みんなに監視されているようなものですよね。
それって芸術的な部分では、芸術家の首を絞めていると思うんですよね。だからこそ、この映画を通して、ものを生み出すことの大変さが伝わるといいなと思います。
以前、別のインタビューで、「俳優として作品に関わるときも、単にお芝居をするだけじゃなく、別の関わり方をすることで、より面白さが見出せるのではないか」と話されていました。今回はいかがでしたか?
今回は俳優としての仕事しかしてないです。実花さんのチームがしっかりとできあがっているし、実花さん、プロデューサー、脚本家が長年温めてきた企画だったので、そこにそのまま飛び込んだという感じですね。
蜷川監督の演出はいかがでしたか?
芝居について細かく言うことはそんなになくて、寄り添ってくれている感じでした。ただ、ラブシーンにはかなり熱が入ってましたね(笑)。

「このシーンでは、この瞬間にエロく触ってほしい」とか。それを実花さんが実際に演じて見せてくれるので、僕としてはとてもやりやすかったです。

ただ、太宰と静子(演/沢尻エリカ)がオペラを見に行ったあとのシーンでは、ちょっと(太宰に)遠慮が見えると思います。というのも、あのシーンが撮影初日だったんですよね。あの日は静子に対して太宰が負けていました(笑)。

渡辺謙さんのように、後輩に示せる道を作っていきたい

先ほど、今の時代では太宰のように生きられないと思うと言われていましたが、小栗さんは今の日本のエンターテインメント業界をどう見られているのでしょうか?
どんどん面白さが減ってきている気はしますね。経費は削減、労力もあまり使えないのが当たり前の状態になってきているので、厳しい時代だなと思います。

僕個人としていちばん難しいなと思うのは、「僕らに協力してくださる方がたくさんいること」なんですよね。とてもありがたいことではあるんですけど、できることとできないことが出てきてしまう場合もあるなと。そこは慎重に考えていかないといけないと感じています。
2020年公開の映画、ハリウッド版『ゴジラVSコング(仮)』に出演していますが、日本のコンテンツが世界で認められていることをどう思いますか?
それは単純にうれしいですね。日本には世界的に注目されているコンテンツがたくさんありますからね。まあ、世界が原作ものばかりになるのはどうかと思いますけど(笑)。
ハリウッドでも活躍されている渡辺謙さんが、「『ゴジラ』のような日本の作品がハリウッドで映画化されて、そこに日本の俳優がちゃんと出演していることがうれしい」とおっしゃっていました。
僕が『ゴジラ』に参加できたのは、渡辺謙さんのおかげだと思っています。謙さんが作ってくださった道があるから、僕たちは入っていけるので。

今後は僕も、そこから違う道を作っていくようにしないといけないなと思っています。
それは後輩たちのためでもありますね。
そうですね。まずは自分が外に出て、みんなが「そっちもあるんだ」と思える環境作りをしていけたらいいなと感じています。
小栗旬(おぐり・しゅん)
1982年12月26日生まれ。東京都出身。O型。1998年に『GTO』(関西テレビ)で連続ドラマに初レギュラー出演。以降、映画、ドラマ、舞台などで幅広く活躍する。近年の主な出演作として、映画『ミュージアム』、『追憶』、『銀魂』シリーズなど。今年は蜷川実花監督作品『Diner ダイナー』にも出演しており、公開中の『天気の子』には声優として参加している。またハリウッド版『ゴジラVSコング(仮)』や、主演映画『罪の声』が2020年に公開待機中。

映画情報

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』
9月13日(金)ロードショー
http://ningenshikkaku-movie.com/
Instagram(@NSmovie2019
Twitter(@NSmovie2019
監督:蜷川実花
出演:小栗旬 宮沢りえ 沢尻エリカ 二階堂ふみ
成田凌 / 千葉雄大 瀬戸康史 高良健吾 / 藤原竜也
脚本:早船歌江子、音楽:三宅純 撮影:近藤龍人
主題歌:東京スカパラダイスオーケストラ「カナリヤ鳴く空feat.チバユウスケ」(cutting edge/JUSTA RECORD)
配給:松竹、アスミック・エース
© 2019 『人間失格』製作委員会

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、小栗旬さんのサイン入りポラを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年9月9日(月)18:00〜9月15日(日)18:00
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