モテたい男たちへ、詩人・田村隆一からのアドバイス

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ラブレターにまつわる話を5回にわたってお届けする本特集。最終回は、ラブレターを書くというロマンチックな行為からはほど遠い男を描いた、ねぎかつセブンさんの4コマ写真をご紹介します。

フィギュアなどのおもちゃを写真に撮って楽しむ「オモ写」で人気のねぎかつさんは、ツイッターのアカウント開設からわずか2年で約24万ものフォロワーを獲得。人気の理由は、撮影技術の圧倒的な巧みさと、4コマで展開する"中学男子感"MAXなストーリーの面白さでしょう。

今回の主人公は、ねぎかつワールドの主要な登場キャラクターである「モテない勇者」。彼はモテ男になりたいのに、まったくモテない。いつも悲しい程モテない。一体、どうすれば彼は非モテの地獄から這い上がれるのでしょうか。

この記事では後半、勇者の参考になればと思い、ダンディな詩人・田村隆一さんの言葉を併せてご紹介します。モテへの鍵は、「手紙を書くこと」。一体どういうことでしょうか。

(※4コマはあくまでフィクションです)

画像提供/ねぎかつセブン(@Negikatsu7)
構成・文/飯田直人(livedoorニュース)

モテを夢見て、不断の努力を重ねた勇者。彼は誠実に自分の意思を伝えた結果、女性にビンタをされてしまいました。何がいけなかったのでしょうか。「誠実さ」という、女性が結婚相手に求めるもの第1位の要素を体現してみせたはずだというのに...(出典:日経ウーマンオンライン「パートナーに求めるもの―第1位は『誠実さ』」)。

理由は簡単。
彼が誠実になったのは、相手の女性に対してではなく、「自分の性欲」に対してだったからです。そんな誠実さ、誰も求めていませんよね。いえ、場合によってはそういうあけすけな態度が好感を持たれることもあるのかもしれません。完全にセクハラですが、果敢に距離を詰める方法が奏功するケースも、ないとは言いきれません。

しかし真っ当な考え方をすれば、まず彼がすべきなのは"性欲"を露出することではなく、"あなたが好きだ"という「思い」を相手に伝えることでしょう。モテる=他者から好意を得るために必要なのは、そういう誠実さです。とはいえ、何事も初めてだと勝手がわからないもの。問題は胸中に渦巻く思いを「どうやって伝えるか」、ですね。そこで参考にしたいのが、型破りなダンディズムで知られる詩人、田村隆一さんのアドバイスです。

田村さんは今から20年以上も前、1998年に他界されていますが、30代以上の方だと下の企業広告のモデルとして記憶しているという方も多いかもしれません(広告コピーは前田知巳さん)。
▲宝島社企業広告「おじいちゃんにも、セックスを。」画像引用元:FUTURE TEXT
田村さんは、『言葉なんかおぼえるんじゃなかった:詩人からの伝言』(ちくま文庫)という本の中で、人に思いを伝えるのには手紙を書くのが良いと語っています。

「手紙ってのは、思いを伝えるのに向いているんだ。まあ、そのためには言葉と字が大切になってくる。自分の思考や感情を表現するにふさわしい言葉を識らなけりゃ、一文字だってペンは進まない。」

でも、手紙を書く前に何か特別な言葉の勉強をしないといけないというのではありません。なぜなら、手紙を書くこと自体が訓練になるからです。

「たとえば、ラブレターを書こうと思うと、嫌でも言葉に敏感になるよな。ほかの誰とも違う『好きです』『愛しています』を探すわけだ。自分の感情にピッタリくる言い回しを、真剣にね。必死だよ、自分のためだから。」

「自分の感情にピッタリくる言い回し」を真剣に探していけば、「エッチな関係を前提に」なんて言葉は出てこないはずです。もし考えに考えた結果「エッチな関係」しか浮かばないのであれば、それは相当アブない人ですが、曲がりなりにも"勇者"ともあろう人が、そうであるはずはありません。やればできる、ラブレターを書くことに挑戦すればきっと、自分なりの愛情表現を見つけられるはずです。

ところで、90年代末の雑誌連載であるにも関わらず、田村さんは「SNS疲れ」の現代社会を正確に射抜いたような指摘もしています。

「電話の便利さが、実は孤独を増長させてるのかもしれない。パソコン通信、インターネット。これからもコンピュータ情報社会はさらに高度化していくんだけど、その分、孤独は深まるかもな。(…)電話をパソコンを使うために使うことが目的化したら、きっと、奇妙な世界だけが残るよ。」

そして、だからこそ手紙が重要なのだと、田村さんは重ねて読者に語りかけます。

「だからさ、せめて手紙を書こうよ。自分で見つけた表現で、言葉で。できるだけ安定した自分の字で、手紙を書こうよ。たまには、いいだろう。なっ。」
平成も終わろうとする2019年、私たちはメールやLINEで大量の文字を送りあって生活しています。手紙をポストに投函する前には少し緊張しますが、それと同じように、送信ボタンを押す前にはやはり緊張します。直前で不安になって、文面を何度も読み直したりします。そういう気持ちの面からすると、違いは多々あれど、手書きの文字とデジタルな文字も、思いを伝えるツールとしての本質は変わらないような気がします。

いずれにしろ大切なのは「言葉と真剣に向き合うこと」、この一点ではないでしょうか。田村さんが「手紙を書こう」というのも、あくまでそのためのことでしょう。

だから、「LINEも手紙も同じようなもの」、このように仮定するならば、「エッチな関係を前提に」と言ってしまう勇者に送るべきアドバイスとしては、今の時代、「手紙を書こう」よりもこちらの方が適切かもしれません。
「まずLINE交換しよう。」
ラブレター特集の締めくくりとしてはどうかと思いますが、まずは手軽なことから始めるのが、まあ、妥当ではないでしょうか。そしていずれラブレターを交換するような関係になった暁には、本特集の1〜4で紹介している素敵なエピソードが具体的な参考になるはずです。下のリンクより、あわせてご覧頂ければ幸いです。
「ラブレターの話」特集一覧