24年前の他人のラブレターを入手してロマンチックが止まらない話(前編)

写真拡大 (全19枚)

ラブレターにまつわる話を5回にわたってお届けする本特集。

今回は、偶然中古の家具から24年前のラブレターを発見し、それを本来の持ち主に返しに行ってきたという、嘘みたいだけど本当にあったロマンチックな「実話」をご紹介します。

イラスト/オカヤイヅミ
文/飯田直人(livedoorニュース)
デザイン/桜庭侑紀

家で使っている中古家具の引き出しから、24年前のラブレターが出てきた。便箋3枚。見覚えがない宛名の手紙は、引き出しの前の持ち主のものらしい。

まずは、皆さんにこの最高に素敵なラブレターを読んでいただきたい。そして、自分の家の引き出しから突然これが出てきたらどれ程びっくりするか、ちょっと想像してみてほしい。
【山中みゆきさんから、坂口俊一さんへの手紙 ※個人情報保護のため、名前は仮名に改変しています。】


このラブレターを見つけたのは昨年の秋、部屋の大掃除をしているときだった。
3年前にリサイクルショップで買ってから一度もまともに掃除をしていない引き出し。今日こそは完璧にキレイにしてやろうと思って、中身を丸ごと取り出し始めていた。
その途中、奥のほうに何か白いものが2つ落ちているのが見えた。
そうして出てきたのが、さっきの手紙と、なんと、みゆきさんの履歴書。

この時点では手紙の内容をまだ知らないので、私はむしろ履歴書が落ちていたことに驚いた。

「履歴書? こんな個人情報を残したまま売るって、お前(笑)」と、前の持ち主の失態にあきれ、笑ってしまった。
だから、「他人の手紙を読む」なんて普通なら罪悪感を感じそうなところだが、「残していったほうが悪いからな!」というくらいの、軽い気持ちで封筒を開けてみることにした。

そして――
いざ開いて見ると、それが最高のラブレターだったことは、皆さんご存知の通りだ。

私は興奮し、その場で一気読みした。

すぐに写真を撮って、身近な友人の何人かに送りつけた。

そして、全員で身悶えした。
しかし、私はこの手紙の何にそれほど興奮したのか。

文章の美しさやロマンチックさはもちろんであるが、一番興奮したのは別のところだ。少し意外に思われるかもしれないが、つまり、私の感想はこういうものであった。
「エロい」
端的に、便箋3枚目の「精神的にも身体的にも深いつながりを得ることができ」という部分である。この一文に私は衝撃を受けた。「身体的にも」って、どういうこと…?

私は妄想を止められなくなった。あんなこともこんなことも考えた。ド派手な暴走族のように、無数の、大変にエロティックなイメージが、私の脳内を、騒々しく駆け抜けていった。
それにしても、エロスが薫るのはその一文だけではない。

「会社の帰り食事をしたり」
「チームの他の人には内緒で楽しい思いをする」

これらの記述から、ふたりが職場の同僚であり、周囲には秘密の仲だということは察することができる。さらに、そこには「スリルを味わうような気持ちが」あったという。ただ内緒にしているだけではなく、一緒にいることが危険ですらあるようだ。
「もしや、ふたりは上司と部下の関係なんじゃないのか?」
手紙の語調が非常に丁寧であることも考慮に加えれば、そのような関係にあったと推断しても不自然ではないはず。
これは、部下から上司へのラブレターなんじゃないのか?
私は寝床の中でも、手紙を繰り返し読みふけった。ふたりの人柄に結びつくヒントがもっとありそうだ。そう思った。手紙だけでなく、履歴書も隅々まで読んだ。

履歴書は2011年のもの。みゆきさんはシステム関係の会社で何社か勤めたのち、2011年に再び転職しようとしていたようだった。

そうして、長らく手紙と履歴書を眺めているうちに、私は重要なことに気がついた。
そう。
どうやら手紙を書いた“山中みゆき”さんは、“坂口俊一”さんと結婚して、“坂口みゆき”さんになっているらしい。おおお! 「本当の恋」は本当に本物だったんだな! ハッピーエンドだ!

そこまでわかるとなんだか安心してしまい、私はそのまま眠りに落ちた。

夢の中で、1995年のふたりを、見たような気がする。
目が覚めても、ふたりのことをずっと考えていた。
気になって仕方なかった。

それに、こんなに素敵な手紙を赤の他人である自分が持っていていいんだろうか。そういう罪悪感も抱き始めていた。

昨晩は好き放題読みまくっていたクセに! という感じだが、こう思ったのは本当だ。

だから、私はその日会社を休んで、履歴書に書いてある住所まで手紙を返しに行ってみることにした。

そこから先が、また長い道のりになるとは知らずに。
「ラブレターの話」特集一覧
【後編はこちらです↓】