軽い気持ちで受けたオーディションが転機に。俳優・伊藤健太郎が今日に至るまで
ドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)での俳優デビュー以来、コンスタントに映画やドラマに出演し、「健太郎」という名前が浸透してきた中、21歳の誕生日を期に本名へ改名。そこに込められた俳優・伊藤健太郎としての決意を、これまで経験してきたくやしさや反省、同世代に対する思いを含めて聞いた。取材中の伊藤は、こちらの目をまっすぐ見据え、ひとつひとつの言葉を丁寧に紡いでいく。そんな姿から、彼の中にある、俳優業への熱い思いが感じられた。
撮影/ヨシダヤスシ 取材・文/馬場英美 制作/iD inc.スタイリング/池田友紀(Be Glad) ヘアメイク/伊藤ハジメ(Crollar)
現場で自分の立ち位置を理解して、芝居ができるように
- 伊藤さんといえば、俳優デビュー作となったドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』で斎藤 工さんの教え子を演じ、話題になりました。そもそも芸能界に入ったきっかけは何だったのでしょうか?
- 14歳のときに知り合いの紹介でモデル事務所に所属しました。そのときは自分が芸能界に入れるとは思っていなかったので、話だけ聞きに行ってみようかなという感じで。でも、話を聞いてみたら面白そうだったので、やってみて楽しくなければやめればいいやぐらいの軽い気持ちでした。
- そこからモデルとしての活動を始められるわけですが、俳優に挑戦しようと思ったのはなぜ?
- 「お芝居のオーディションを受けてみないか」と言われて。それは蜷川幸雄さんの舞台のオーディションで、モデルを始めたときと同じぐらいの感覚で、楽しければいいかなと軽い気持ちで行ったら、これが大失敗でした。
- というのは?
- まったく準備をしないでオーディションに行ってしまったんです。でも、周りにいる同世代の役者さんたちは、ちゃんと準備をして役を勝ち取りに来ているわけです。その熱の違いに圧倒されたのと、オーディションに落ちてくやしかったのもあり、役者をやってみたいと思うようになりました。
- 『昼顔〜』への出演が決まったのは、その直後ぐらいですよね?
- そうです。現場ではかなりしごかれました。芝居なんてしたことがない素人ですから、当然、役作りというのが何かもわからず、怒られ続けました。
- いきなり洗礼を受けたわけですね。
- 今思えば、本当に基本的なところから教えていただいていたのですが、そのときは何を言われているのかも理解できなくて。でも、何もできないことがくやしかったし、そこで自分が納得できる芝居ができるようになりたいと強く思うようになったんです。
- その後、『学校のカイダン』(日本テレビ系)、『仰げば尊し』(TBS系)などの学園ドラマで重要なキャラクターを演じ、順調にキャリアを伸ばしていますが、ご自身ではどう感じられていますか?
- 本当にありがたいことだと思います。『学校のカイダン』のときは、本気で全員を潰してやろうと思っていたのですが、今思うとそのやり方は間違っていたなと。とりあえず目立ちたい、ほかのキャストよりも多くのセリフが欲しいという思いが強すぎて、かなり邪魔な動きをしていました。
今も「(共演者を)食うぐらいの芝居をやってやる!」という気持ちは変わりませんが、自分に与えられた立ち位置を理解して、その中でどれだけのことができるかを考えるようになりました。
ほかの役者の動きよりも、街中の人を役作りの手本にする
- 昨年公開された映画『デメキン』では、映画初主演を務められました。俳優としての意識の変化に影響があったのではないでしょうか?
- ありました。主役となると、現場にいるキャストやスタッフさんに気を配らないといけないので、そこで見えてきたものは大きかったです。たとえば、役者さんが今どうしているのか、スタッフさんがどう動いているのかを見て、その場の空気を察知したり。勉強になることがとても多かったです。
- その『デメキン』では、いじめられっ子から暴走族の総長に昇りつめていく役でした。同時期に放送されていたドラマ『アシガール』(NHK総合)の若君を見て健太郎さんのファンになった方は、驚かれたかもしれませんね(笑)。
- そうかもしれないですね(笑)。
- ここ最近で役柄の幅が広がってきていると思いますが、課題はありますか?
- 自分が作品に入っているときに、別の作品、それも強烈な映画やドラマを見てしまうと、それに引っ張られるところがあって。『仰げば尊し』のようなマジメな学生を演じているときに、『池袋ウエストゲートパーク』のキング(窪塚洋介)なんかを見てしまうと、それに影響されてしまうクセがあるんですよね。それはよくないので、作品に入っているときは別の作品を見ないようにしています。
- 系統が同じ役なら、いい影響を受けることもあるのでは?
- 映画やドラマを参考に見ることもありますが、それが応用できているかといえばどうなのかなと。たとえば、ある役者さんが個性的な水の飲み方をしているとしますよね。それを僕が違うところでやっても、オリジナリティがないと思うんですよね。
僕も人間なので、自分が見たことのある行動しかできないというか、自分の中にあるものしか出せない。だから、ほかの役者さんのお芝居はとても勉強になりますが、それよりも街で見かけた人の行動を役に取り入れることが多いかもしれないです。
北村匠海、中川大志は切磋琢磨し合う特別な存在
- 学園ドラマでは同世代の俳優さんと共演されることも多いですが、ライバル視している方はいますか?
- ライバルというのとはちょっと違いますが、北村匠海くんとは同い年で、中川大志くんもひとつ下で。ひとつ上の年齢には村上虹郎さんや新田真剣佑さんがいますが、まったくの同い年はあまりいないんです。なので、互いに意識しているところはあると思います。
- 北村さんは『仰げば尊し』、中川さんとは『覚悟はいいかそこの女子。』(MBS系/映画は10月12日公開)で共演されていますね。
- 仲が良くて一緒にご飯に行くこともあって、そのときに入っている作品の話をしていると、「いいじゃん、楽しそうじゃん」と口では言っているけれど、どこかでくやしさもあって(笑)。それはふたりも感じていることだと思います。
- そうやって同世代で刺激し合えるのは、とてもいいことですね。
- 本当にそう思います。3人で会っているときも「この3人で何かを一緒にできたらいいね」とか、「お互いに切磋琢磨して高め合っていきたいね」という話をしているので、いい仲間に出会えてよかったなと感じています。
- 3人とも今注目を集めている若手俳優なので、コラボを見たいファンの方も多いと思います。
- 共演という形なのか、それとも一緒に何かを作るのかはわからないけど、いつか実現できたらいいですね。
- ちなみに、21歳というと学生生活を送っている方も多いです。14歳から仕事をしていると、同年代の友人と接したときに環境の違いを意識することはありませんか?
- それはないですね。というよりも、僕が一番大事にしているのが、“地元の健太郎”なんです。実際、地元に帰ると自然と素の自分に戻れますし、少しでもカッコつけていたら、友達に「お前、何調子に乗ってんだよ」と笑われてしまいますから。自分を見つめ直すという意味でも、“地元の健太郎”はいつまでもなくさないようにしたいなと思います。
健太郎から伊藤健太郎へ。俳優人生の新たなスタート
- 21歳の誕生日をきっかけに、芸名を本名の伊藤健太郎に戻されましたね。その理由を教えてください。
- モデルの場合、下の名前だけで活動されている人も多いので、これまでは健太郎と名乗ってきましたが、役者の仕事をするようになり、いつかは名字をつけようと思っていました。でも、自分では20年後か30年後かわからないけれど、もっと先のことだろうと思っていて。
- では、なぜ今のタイミングで?
- 映画『コーヒーが冷めないうちに』の撮影中にプロデューサーさんから「役者をやっていくのなら早く名字を付けたほうがいい」と言っていただいたり、10月から放送されるドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)で、伊藤真司という役をいただいたんです。自分の本名も伊藤なので、これは運命なのかなと。しかもドラマの撮影中に21歳になったので、このタイミングを逃したら後はないんじゃないかと感じました。
- 本名に戻したことで、ご自身の中で何か変化はありましたか?
- ガラッと変わったことはないですが、伊藤健太郎と名前がクレジットされているのを見ると、20歳までの“健太郎”が一区切りで、“伊藤健太郎”となった21歳からが新しいスタート地点だなと気が引き締まるところはあります。
- 現場では「伊藤さん」と「健太郎さん」、どちらで呼ばれることが多いのでしょうか?
- まだ健太郎のほうが多いですね。自分でもクレジットに名字がついていると、「あっ! そうだった」と思ってしまいます(笑)。
- 本名なのに(笑)。
- 健太郎時代が長かったから、クセになっているんでしょうね。今でも自己紹介するときについ「健太郎です」と言ってしまうことがあります(笑)。
自分にないものを持っている女性を魅力的に感じる
- 9月21日(金)より公開中の、映画『コーヒーが冷めないうちに』では、望んだとおりの時間に戻ることができる不思議な喫茶店「フニクリフニクラ」の常連客で、大学生の新谷亮介を演じられました。出演が決まったときの感想を教えてください。
- 監督の塚原あゆ子さんとは、ドラマ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系)でご一緒させていただいていて。あの作品で僕を知ってくださった方が多いので、とても大切な作品です。そのときは撮影期間が3日間ぐらいだったんです。なので、今回こうやって再びお仕事させていただけることになってうれしかったですし、前よりも成長した姿を見せたいと気合が入りました。
- 新谷は、有村架純さん演じるヒロイン・時田 数と恋に落ちます。どこか不思議な雰囲気を持った女性ですが、数のような女性をどう思いますか?
- 僕、あまり好きな女性のタイプというのがないのですが、自分にないものを持っている人は魅力的だなと思います。それは新谷と数も同じで、ふたりはまったく違う性格で、新谷を“陽”とするなら、数は“陰”。だから、互いに惹かれ合ったんじゃないですかね。
- お互いにない部分を支え合うこともできますよね。
- 居心地の良さを求めるなら、似たもの同士のほうがいいと思うけど、長い目で見たら、違う性質を持っている人のほうがいいんじゃないかなと。時には新谷が数を引っ張り、時には数が新谷を引っ張るという関係性は、違う考えを持っている同士だからできることであり、とてもステキだなと思います。
- 劇中では数の年齢について言及されていませんが、有村さんは健太郎さんよりも4歳年上。年上の女性についてはどう思いますか?
- 僕には9歳年上の姉がいるので、年上の方と一緒にいるほうが落ち着けますね。
- 9歳も離れていたら、お姉さんは健太郎さんのことがかわいくてしょうがなかったでしょうね(笑)。
- いや、姉は厳しいんですよ。小さい頃はよくいじめられていました。大人になった今はいい関係が築けているけど、それでもよく怒られてます(笑)。
- どういうことで怒られるんですか?
- 本当にささいなことから、女の子に対する態度までいろいろと(笑)。
- 女の子に対する態度?
- 「女性はこういうもの」とか、「女性にはこうしなさいよ」と指南されたりします(笑)。
- たのもしいですね(笑)。
- よく男兄弟だけだと、女性の意外な一面を見てショックを受けたとかいうじゃないですか。でも、僕は姉を見て育ってきているので、大抵のことでは驚かないかもしれない。何があっても大丈夫と思えるようになったのは、姉のおかげかもしれませんね(笑)。
- ご家族は今の活躍をどう見られているのでしょうか?
- 応援してくれています。作品もよく見てくれているようです。
- 感想をもらうことも?
- 「よかったよ」ぐらいですね。最初は家族に見られるのは少し恥ずかしかったですが、僕らは見てもらうために仕事をしているので、一番近い存在の人がそれを見てくれるのは、やっぱりうれしいですね。
- 伊藤健太郎(いとう・けんたろう)
- 1997年6月30日生まれ。東京都出身。A型。14歳で芸能界入りし、雑誌や広告のモデルとして活動。2014年にドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)で俳優デビューし、2015年の『学校のカイダン』(日本テレビ系)、2016年の『仰げば尊し』(TBS系)や2017年には映画『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』、『先生!、、、好きになってもいいですか?』などに出演。2017年の『デメキン』では映画初主演を務めた。映画『覚悟はいいかそこの女子。』が10月12日公開、ドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)が10月14日から放送スタート。ドラマ『LIFE!スペシャル 忍べ!右左ヱ門』が12月19日、『アシガールSP〜超時空ラブコメ再び〜』(ともにNHK)が12月24日に放送予定。
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