
杉野遥亮ってどんな人?“究極の2択”から読み解く、人生観と恋愛観。

「やっとスタートラインに立てたかな」――。杉野遥亮は静かにそうつぶやいた。初めて俳優としてカメラの前で演技をした作品である、映画『キセキ ―あの日のソビト―』が公開を迎えたのはわずか1年と少し前のこと。その後も次々と話題作に出演し、Twitterのフォロワー数は22万人を突破。3月30日にはファースト写真集『あくび』(ワニブックス)が刊行される。驚くべきスピードで階段を駆け上がっていく22歳。だが彼が求めているのはブレイクなどという一時的な盛り上がりではなく、もっと遥か先にある、想像を超えるような景色だ。
撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
初の写真集に「誰が買ってくれるんだろう?(笑)」
- 奄美大島・加計呂麻島にて撮影されたファースト写真集『あくび』が発売となります。当然ですが、事務所も出版社も「売れる」と思えるからこそ写真集を出すわけです。デビューからわずか1年半ほどで、そうした企画が成り立つ存在になったと言えます。
- なかなか、僕の中でそういう考えに至らなかったんですよね。「ここまで来た」という。思ってもなかったようなスピードで周りの期待がどんどん膨らんでいくのを、頭の中でぼんやりとわかっていたとはいえ、きちんと実感できていなかったからなのか…。
- 「写真集を出すことになりました」というお話を聞いて、最初の反応は?
- 僕ばっかり写っている本なんて、誰が買ってくれるんだろう?って(笑)。
- なかなか天然な反応ですね(笑)。
- ただ、いまになって、本当にいろんな方が動いてくださり、周りに支えられてできあがった写真集なんだなと感じています。ここに至るまで短いスパンだったかもしれないけれど、話が動き出してからいろんなことがあったので。

- 客観的に見て、デビューからここまで、間違いなく“スピード出世”と言えるかと思います。
- そうなのかもしれないな、という思いはあります。でも、何せ負けず嫌いの性分でして、常にその思いでひとつひとつの仕事を大切にやってきたし、歯を食いしばってやってきたことのほうが多かったなとも思うので…。
- 「快調にスイスイここまで来ました!」という感覚ではない?
- 「何くそ!」という負けん気でここまで来たって思いのほうが強いんですよね。あまり自分で、スピードを気にしていないという部分もありますし。「よし、ここまで順調なペースだな」なんて感覚でやっていたら、そこまでですから。もっともっと、そのずっと先を見ているからこそ、実感がないのかもしれませんね。

- 逆に言うと、「目を開けていられないほどの速さでついていけない!」という感覚でもなかったということでしょうか?
- いや、最初はそうでした。勢いをものすごく感じました。グリーンボーイズ(※映画『キセキ』から派生したボーカルユニットで菅田将暉、横浜流星、成田 凌とともに結成)でいきなりCDデビューまで話が進んでさいたまスーパーアリーナのステージに立たせてもらって、少し前まで芸能人ですらなかった僕に何が起こっているのか、よくわからなかったし。
- あまりの急展開に振り落とされそうになる感覚?
- とてもじゃないけど追いつけないようなスピードを感じました。でもやっぱり自分は、周りじゃなくて前を見て走っていくタイプなんですよね。だから、ものすごいスピードではあるんですけど、周りに支えていただきながら、しっかりと前を向いて、このスピードにちゃんとついていこうという気持ちで走ってこられたと思います。

1年後、いまの自分をハッキリ否定できる成長を遂げたい
- 事務所の先輩には松坂桃李さん、菅田将暉さんら各世代を代表する方々がいて、当然、杉野さんに対してもデビュー時から大きな期待があったかと。そうした自身にかかる期待をどう受け止めていましたか?
- 事務所に入って2ヶ月くらいの頃かな? 忘年会があったんです。その場で、事務所の社長から言われたのが「あなたが今後、うちの事務所を支えていくのよ」という言葉でして。
- 以前のインタビューでも、そのエピソードはお聞きしましたが、事務所に入って2ヶ月の段階だったんですね! 当時、すでに俳優としての仕事は…?
- いやいや、まだ全然。レッスンとかに通っていた時期です。
- デビュー前の時点で「あなたが事務所を支えていく」と…。
- 「え…?」と思いつつ、でもそれからずっとその言葉が自分の中に支えとしてあるんですよね。それをどう受け止めるかは自分次第だと思いますが、僕にとっては期待が糧になっているところが確実にあると思います。
- 普段から性格的に、そうやってポジティブな言葉を信じて、それを力に変えて前に進んでいくというところがあるのでしょうか?
- それはすごくありますね。自分で「絶対にやれるはずだ」と信じてやってしまう感覚は。もちろん、ネガティブになることもなくはないんですけど。この仕事をしていく中で、そのポジティブさって必要な部分でもあるのかもしれませんね。

- 改めてお聞きしますが、俳優デビューから1年半、いまご自身が置かれている状況、立場をどう捉えていらっしゃいますか?
- やっとスタートラインに立てたのかな…? やるべきこと、やりたいこと、やらなくてはいけないことが、まだ何もできていない気がします。それでも、ここまで周りを信じてやってきたことが、少しずつ形になりかけて、見えてきたのかも…。まだ振り返る必要はないという思いで、前だけを見て進んでいきたいと思います。
- いま、とくに目標としていることはありますか?
- 小さなことならいっぱいあるんですよ。「こういう仕事をしたい」とか「この監督の作品に出たい」とか。でも、大きな目標として考えているのは、1年後に、いまの自分に対して「全然ダメだったな」と言えるくらい、成長して変わった自分になっていることですね。
- なるほど。
- 映画に出演すると、完成した作品の中の自分を見たときに、どこかで「全然だな」と思う自分がいつもいるんです。それは、撮影時からそのときまでに成長があるからこそ。それと同じで、この1年で「ガキだな」「ダサいな」「カッコつけてるな」でも何でもいいんですけど、いまの自分をハッキリと否定できる成長を遂げたいと思っています。

- いまの時点で、ご自身の強みはどういう部分にあると思いますか?
- 先ほども話しましたが、前向きに考えられる部分ですかね。いろんな要素……誰かの言葉だったり、期待や状況を自分の中でポジティブに変換して、奮い立たせることができるのは、自分の強さだなと思います。
- それはひとつの才能ですね。“愛されキャラ”“持っている”など、いろんな言い方ができるかと思いますが、そのポジティブな空気が、ご自身だけでなく周囲を巻き込み、動かしていく。それは誰にでもできることではないと思います。
- そこは親に感謝です(笑)。僕自身、基本は「楽しむこと」を大事にやっているので、そういうことなのかもしれません。やっぱり、自分が持っている空気が周りにも影響を与えていくのを感じます。まずは自分が楽しんでやればいいのかなと。
- いま、この仕事は楽しいですか?
- いまに限らず、この仕事はずっと楽しいですね。もちろん、早起きがつらいというのはいまだにあるけれど(苦笑)。

「自分にサラリーマンは絶対に合わない」と思っていた
- 写真集の中のインタビューでも芸能界入りの経緯をお話されています。さまざまな要素が積み重なった結果、この世界に入ることになったわけで、もしかしたら、普通に就活し、サラリーマンをしていた可能性もあったんですよね? そんな偶然の結果、“天職”と言える仕事にたどり着くってスゴいことですね。
- ただ、自分の中で学生の頃から、サラリーマンは絶対に合わないだろうって思いはどこかにあったんです。
- 芸能界入りをとくに考えていたわけでなくても、普通に就職活動して…というのが無理だろうという感覚は確実にあったんですね?
- どこかで息が苦しくなっちゃうだろうなって。規則正しい生活って本当にダメなんです。決まったスケジュールの中で動くのが…。学校生活もじつはすごく窮屈で苦手でした。だから将来に関しては建築家とか、必ず同じような生活ではない仕事をぼんやりと考えていたんです。


- そういう意味では、俳優という仕事は性に合っているんでしょうね。
- そうなんです。しかも、ものすごい飽き性なので(笑)。この仕事は毎回、役も物語も共演者も変わりますし、飽きることはないですからね。いまは刺激しかないです!
- お話をうかがっていても、どちらかというとしっかり者で、協調性もあって周囲に自分を合わせることができるタイプだと感じていました。でも心の内には、狭い枠にはめられることへの反発心や、外に飛び出したいという強い思いが…。
- あったんです(笑)。実際、高校時代はその気持ちが爆発して、どうしても学校に通えない時期もありました。全然、問題を起こすような生徒ではなかったんですけど、しばらくルールに沿って、規則正しい生活を送っていると、プチンと気持ちが切れちゃう瞬間があって…。
- 自分を抑えきれなくなる?
- そうなると朝、家を出てから部活にだけ顔を出したり…。

- そんなことがあったんですね!
- 中学くらいまでは、ごく普通の規則正しい生活になじんでいたんですけどね。引き出しの中もきちんと整理整頓されていて(笑)。高校に入ってからかなぁ? 「なぜいま、これをしているのか?」とか哲学的なことを考えるようになっちゃって…。
- 本当にいまの仕事に巡りあってよかったですね。というか、偶然の積み重ねに見えて、必然だったのかもしれません。
- そうかもしれませんね。とにかく束縛がダメなんですよね。時と場合によっては他人と合わせることも必要ですけど、はけ口がどこかに必要だし、それが詰まっちゃうと「わぁー!」ってなっちゃうんです。

出世と結婚、選ぶならどっち? 理想の家族像を聞く
- ここからは、こちらが用意した“究極の2択”に挑んでいただくことで、さらに杉野さんのパーソナリティを掘り下げていきます。
- え? 究極の2択?(笑)
- まず1問目は「タイムトラベルができるとしたら、過去に行くか? 未来に行くか?」。
- これ、過去や未来に行ったら、行きっぱなしじゃなくて戻ってこられるってことですか? 一部だけを変えて戻ってくるとか?
- それは可能という前提でお願いします。過去の自分の失敗を取り戻したり、未来から有益な情報を持って帰ってきたりするのもありということで。
- 究極ですね。ただ、いま自分が置かれている状況って、先ほどから話しているように、いろんなことの積み重ねの結果であって、何かひとつでも違っていたら、いま自分はここにいないと思うんです。だから、過去を動かすというのはなしですね。
- ということは未来に?
- 未来に行って、楽しそうないい未来だったら帰ってこないでそのまま住みつきます(笑)。もしそうでもなくて、何か悪いことがあるようだったら、いつどこでそうなったのかを確認したうえで、帰ってきます。
- 話をうかがっていても何となく感じますが、すべてはなるようにしてなるという、運命論者ですか?
- そういう部分はあります。なるようにしかならないんだって。どこかで決められた道を自分は歩いてるだけなんだろうと。

- 続いて2問目です。「仕事のうえでの出世と幸せな結婚」、選ぶならどっち?
- 出世ってこの仕事で、ですよね? うわ、それ究極だ…(苦笑)。でもどちらかを選ぶなら、仕事ですかね? やっぱり…。でもそうしたら結婚できないってこと?
- そちらの道を選べば、仕事のうえで確実に成功できて、もう片方の道を選べば、仕事がどうなるかはともかく、幸せな結婚生活を送れるのは間違いないということです。
- つい最近、『アバウト・タイム 〜愛おしい時間について〜』という映画を見たんですよ。
- 『ラブ・アクチュアリー』で知られるリチャード・カーティス監督による、タイムトラベルもののラブストーリーですね。
- それがすごく幸せな映画で「あぁ、結婚してぇ!」って思ったんですよね(笑)。でも…いまはやっぱり仕事ですね。仕事のためなら、できることは何でもしたいです。

- ご自身の中で、仕事と恋愛のバランスや理想的な関係について、何か考えはありますか?
- そのとき惹かれ合う相手がいるなら、「恋愛も仕事も!」という感じでどちらも頑張る糧になると思います。逆に、無理に「恋愛しよう」と思うことって昔からないので。
- 「恋愛したい」ではなく、相手がいて、その人のことを好きだから恋愛する気持ちになるということですね。とはいえ、結婚願望はある?
- それは『アバウト・タイム』を見る以前からありますね。結婚はしたいし、子どもが欲しいという思いもあります。
- やはり家族とすごく仲が良いというのが影響しているんでしょうか? 写真集のインタビューでも、家族に深く愛されているということが伝わってきました。
- そうかもしれません。「家庭を持ちたい」という気持ちは以前から強いですね。夕飯は必ずみんなで一緒に食卓を囲むけど、それ以外はそれぞれが自分で好きなことをやる、という家族が理想なんです。親として、子の人生にあまり干渉しすぎず…みたいな家族像を勝手に想像してます(笑)。