中川大志、金髪&不良でイメージを一新。「1年以上かけて役柄と向き合ってきた」

テレビアニメも絶大な支持を得ている人気コミック『坂道のアポロン』(小学館)が実写映画になった。中川大志が演じるのは、札付きの不良高校生・川渕千太郎。金髪で見た目はいかついが、じつは心優しく、ジャズドラムが得意。この複雑な役柄に、これまでのソフトなイメージを一新して挑んだ。「内側から自然と千太郎として現場に立てた」と、中川はクランクイン時の様子をそう振り返る。こともなげに言うが、その裏には1年以上かけて役柄に向き合った努力の時間があった。

撮影/祭貴義道 取材・文/新田理恵 制作/iD inc.

撮影に入る前、我慢できずにアニメをチェックした

映画『坂道のアポロン』は昭和時代の長崎・佐世保が舞台。東京から転校してきた主人公・西見 薫(Hey! Say! JUMP/知念侑李)が、不良のクラスメイト・千太郎、千太郎の幼なじみ・迎 律子(小松菜奈)と出会い、恋や友情に揺れる様子をノスタルジー豊かに描いた作品です。撮影に入る前に、原作者の小玉ユキ先生とはお話をされましたか? 何かアドバイスは?
小玉先生からのアドバイスはなかったですね。初めてお会いしたのは撮影に入ってからでした。小玉先生は何度か現場に遊びにいらっしゃったんです。
原作者の方が現場にいらっしゃると、演じるほうは緊張するのでは?
そうですね。このキャラクターたちのお母さんなので、やっぱり緊張します。
何か声をかけてもらいましたか?
初めてお会いしたとき、第一声で「千太郎だ」って言ってくださったんです。原作者の先生にそう言ってもらえて、すごくホッとしましたね。小玉先生は現場で楽しそうに映画をつくる過程を見ていらっしゃって、僕たちが演じている薫、千太郎、りっちゃん(律子)を見守ってくださっていました。
撮影に入る前に、原作マンガやテレビアニメはご覧になりましたか?
見ました! マンガを読んで、アニメも全部見ました。
アニメで声を務めた細谷佳正さんのお芝居に、影響を受けることはありませんでしたか?
僕は、アニメのある作品は絶対に意識しちゃうので、基本的には撮影が終わってからじゃないと見ないようにしているんですけど、『坂道のアポロン』に関しては、評価が高い作品だといろんな方から聞いていたので、我慢できずに見ちゃいました。やっぱり、声優さんの声や芝居を意識せざるを得なかったのですが、本当に素晴らしくて…。千太郎の動き方やドラムを叩くフォームなどは、ちょっとアニメの影響を受けていますね。
演じるうえで気をつけたことは?
マンガを読んで、アニメを見て、「こういうもの」という絶対的な千太郎像があったからこそ、それをなぞっていく作業というか、モノマネをしていくようなことは絶対にしたくなかったです。とにかく自分の中に落とし込んで、つくり込まずに自然体で演じたいという思いがずっとありました。
あえて別物にする、と?
『坂道のアポロン』ではあるんですけど、僕たちがつくらないといけないのは映画『坂道のアポロン』なので。もちろん、原作のキャラクターの核の部分はしっかり受け継がなければいけないんですけど、僕たちが考えなければいけないのは、実際に彼らが人間として存在したらこうかな?っていう説得力を持たせることなんです。

外側が変わっていくと、役も自分のものになっていく

千太郎は見た目も金髪&短髪で、これまでの中川さんのイメージとはずいぶん違いますね。
そうですね。身体を鍛えたり、髪型を変えたり、そういう作業を重ねていくことによって、徐々に千太郎に近づいていきました。現場に立ったときに、自然と千太郎として動けたし、千太郎としての言葉が出てきて、内側から自然と千太郎として現場に立てた。力まず、リラックスした状態で芝居ができたなと思っています。
外見を近づけるということは、役になるために大事なんですね。
そうですね。やっぱり、外側が変わっていくと、どんどん役も自分のものになっていく感覚があります。最初はやっぱり、「千太郎」という別のところにいるキャラクターなんですけど、次第に「千太郎は」じゃなく、「俺は」というふうに変わっていくんです。
撮影に入る10カ月前から、ドラムの練習をされたとうかがっています。そういう時間も役に立ったんでしょうね。
身体を鍛えたり、方言の練習をしたりするのはもちろん、ドラムも練習して「千太郎になるための準備の時間」が長かったです。撮影に入る1年以上前に出演のお話をいただいてからずっとですから。千太郎に向き合ってきた時間がすごく長くて、「早く現場に入りたい、早く千太郎を演じたい」という思いの末、やっと演じられた1カ月半でした。
ジャズのリズムを自分のものにするのは難しそうです。小さい頃にジャズダンスを習っていたそうですが、その経験は役に立ちましたか?
直接的に「役に立った」という瞬間があったかどうかはよくわからないです。でも、ダンスをやっていたし、音楽も好きでしたしドラムも少し習っていたことがあるので、多少なりともリズム感はあると思います。
佐世保の方言にも挑戦されています。方言をマスターするのもリズム感や音感が大事だと思いますが、そこもクリアしやすかったのでは?
方言もわりと苦労がなかったです。すっと馴染めましたね。何でだろうなぁ…。何でですかね?(笑) 絶対に方言って苦労すると思っていたんですけど…。
ほかの地域の方言で苦労した経験があったのでしょうか?
過去にやらせていただいた作品では、方言ってすごく難しいと思ったんです。だけど、この作品はなぜかスッと入れたんですよね。『坂道のアポロン』という原作を読んでいるときに想像していた千太郎の声とか、アニメから聞こえてきた声優さんのお芝居とか、そういう声や音をいっぱい聞いて自分の中でイメージが強く残っていたのかもしれません。
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