「服を着たロボット」の社会進出に情熱を燃やす、ロボット専用アパレル「ロボユニ」の挑戦。

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「ロボットの服を作るなんて、ただの便乗商法でしょ?」と思うかもしれません。でも今、ロボット専用のアパレルブランド「ROBO-UNI(以下、ロボユニ)」は、ビジネスやメーカーの垣根を越え、「ロボットの社会進出」というテーマに一石を投じています。ロボユニ代表の泉幸典さん自身の波乱万丈な来歴(※記事中盤の袋とじページ)とともに、根掘り葉掘り聞いてきました。

現在、ロボット専用アパレル「ROBO-UNI」ブランドの企画開発責任者。HP: robo-uni.com
「裸」のロボットが服を着たら、人間はもう一歩、ロボットに近寄っていける。
―さっそく、泉さんの事務所にいるロボットを見せていただけますか。
泉幸典さん(以下、泉) はい。まずはソフトバンクロボティクスのPepper(ペッパー)ですね。
―これはこれで、かわいいです。
 では、このPepperに、ロボユニで作っているショップ店員のユニフォームを着てもらいましょう。
―服を着ただけで、完全に店員に見えますね。注文を取ってくれそうです。「コーヒーおひとつですね」って。
 今のロボットは中身をカスタマイズできて、ショッピングモールだったらフロア案内を、銀行だったらフィンテックの話をしてくれるというふうに、搭載されている内容が違います。でも素の状態で10体並べられたら、どれがどこのロボットか分かりますか?
―分からない。個性があるのに、それが見た目では分からないということですね。
 そうです。10体がそれぞれユニフォームを着て並んでいれば「これはどこに帰属しているやつだよね」と分かるし、ビジュアルで「このロボットは受付をしてくれるのかな?」と予測できます。
インタビューの間、泉さんの後ろで自由に振る舞っていたPepper。
―実際にロボットが服を着ていると、接する人間の反応も変わってきますか?
 あるお店ではロボットが服を着る前は、一定の距離より近くに人間がなかなか寄って来なかったそうなんです。それがロボットが服を着たことで、人間の立ち位置が前に進んだらしいんですよ。
―近づくんですね、距離が。
 心の距離じゃなくて、体の距離が実際に近づく。それによってロボットとの接点が多くなって、使ってもらいやすくなる。
―それって、人間が初めて会った人に対する距離の取り方と似ていますね。知らない人には近づけないけど、店員だと分かるユニフォームを着ている人には話し掛けられる。
 ユニフォームの概念を100年くらい前までさかのぼると、明治時代、和装から洋装になったときに最初にユニフォームができたのが医者、鉄道、警察の3つだったそうです。「物を盗まれたら警察服の人に助けを求めればいい」というふうに、世の中を助ける視覚的な記号だったんです。洋服には自己を表現するという側面もあるけれど、第三者に分かってもらうための認識記号として、ロボットがユニフォームを着る意味があると思っています。
―なるほど。ロボットに慣れていないと、お店にロボットがいても、「最先端感を出すために置いてあるんだろう」くらいに捉えてしまいます。でもユニフォームを着ていることで「力を貸してくれるロボットなんだ」と分かる。それは大きな一歩ですね。
企業向けのユニフォームだけでなく、コンシューマー向けの季節感あふれるコスチュームも。杵や臼など小物のクオリティもすごい。
 僕が初めてロボットに完成した服を着せたのは、銀行のイベントに出るためのPepperでした。銀行のスタッフの方と一緒だったんですが、着せたときの感想はある意味、想定内でした。「おお、ぴったりだ!」っていう。それはそれで感動的でしたが、イベントが終わってPepperの服を脱がしたときに、もっと衝撃的な発見があったんです。
―どんな発見でしょうか。
「あれ?脱がせたら、裸だ!」ということです。服を着せる前は、そんなことを思わなかった。でも服を脱がせて元の状態に戻したときに、「裸だ」って思った。鳥肌が立ったんです。その場にいる人全員の鳥肌が立ちました。
―着せる前は裸だと思わなかったのに、脱がせたら裸の概念が生まれていた。ロボットに対する気持ちが、着せる前と脱がしたあとで変わっていたってことですよね。
 そのときのスタッフが言っていたんですが、相手がロボットだっていうのが分かっていても、子どもに服を着せるように、指が引っ掛かって痛くならないよう注意するんですよ。人間が錯覚して、痛くないようにしてあげるんです。脱がせるときも、「ごめんね」って。「片付けるからごめんね」って。
―それって面白い変化ですよね。
 僕らはそのとき、服っていうのは、着ている状態だけじゃなくて、「着る」「脱ぐ」っていう動作まで含めて服なんだということに気付きました。脱がせた瞬間に「裸だ」って思ったりする、そこまで含めて服なんです。ロボットという鏡を通して人間の服の定義も考えさせられました。
Pepperは8時間、踊り続けた。ロボットだからこそ、人間のアパレルとは違う開発の苦労がある。
―ちなみに、最初に見せてもらったPepperの店員ユニフォームはおいくらですか?
 税込みで22万8000円です。
―22万…8000円…! ?
人間よりもよっぽど高い服を着ている…!
―それだけの開発費が掛かっているんですね。
 そうですね、開発費も材料費も、とても高いです。でも、自分たちで言うのもあれですけど、発注が来たら聞き直したくなりますね。「本当にいいんですか? 作ったら、買わなきゃいけないですけど大丈夫ですか?」って(笑)
―受注生産なんですね。
 はい。ハンドメイドではないですが、1体1体のロボットに合わせて作るのでオートクチュールみたいなものです。
―開発ではどのくらい試行錯誤されたんでしょう。
 初めに苦労したのは可動域でした。ロボットの肩とかって、可動域が全然人間と違って、動かすと平気で服がビリビリ破れたりする。例えばここ見てください。襟はこの高さが限界です。これより高い襟を付けると、首の隙間にぐっと布を挟んでしまう。挟むと、危険を感知してフリーズしてしまいます。
よく見ると、細かい部分の仕様が人間の服とは異なっている。
―熱の問題もありそうです。
 そうですね、熱と電気。例えばpepperにはモーターが付いていますが、システム会社協力の下、実証実験をするんです。ユニフォームを着用させたまま8時間くらい踊らせて。
―がんばれ、Pepper。
 8時間踊ると、何カ所かの熱が、わーっと上がってきます。そしたら今度は熱が抜けるように見えない部分をメッシュ素材にしたり、服の設計を変えたり。
シャツやベストを重ね着しているように見えるが、実際にはワンピースになっている。それぞれの部分は一枚布で風が通りやすい。
―素材も全体的にかなり薄いですね。
 軽量化したほうが、ロボットが故障しづらくなります。布の端も、故障の原因になる糸くずが一切出ないようにパイピング処理で丸め込んでます。人間が着ているスーツでも、こんな縫製はなかなかないですよ。
―普段、服を着慣れている人間はそこまで感じないですが、服を着るって結構繊細な作業なんですね。
 そこが人間との大きな違いでもあって、ロボットって、きついとか暑いとか、自分からは言ってくれません。データ上、暑がってるとか、データ上、右より左のほうが負荷が掛かってるとか推測して。
―地道な作業ですね。
 Pepperの服は完成形を1着作るまでに8カ月、60回くらい試作しました。
ロボユニが作ったPepperの服には、ロボユニのロゴとPepper公式を示すタグがついている。
服を着せて擬人化したいわけじゃない。ロボットは、ロボットという新しいパートナーだ。
―そもそも会社を立ち上げたのはいつですか?
 起業したのが今年2月ですね。でもアイディアを思い付いたのは4年前くらい。ちょうど、ソフトバンクロボティクスのPepperが出てきて、いよいよ量産化されたロボットが販売されるぞ、っていうタイミングでした。
―ロボットに可能性を感じたんですか?
 アイディア自体はそこに行き着くまでにかなり遠回りはしてるんですけど…。その話、いります?僕がプロレスラーだった話、聞きますか(笑)
―気になり過ぎます(笑)ぜひ、聞かせてください。
―そうして泉さんはこの会社を立ち上げたわけですが、今日事務所にお邪魔して思ったのは、これだけいろいろな種類のロボットが一緒に並んでいるのを見る機会ってとても貴重だということです。
各社ロボットがずらり。
 ロボットアパレルを通して、おかげさまでいろいろなロボットメーカーさんとお仕事をさせていただいています。ロボットって基本的に「1メーカーにつき1ハード」じゃないですか。1メーカー1ハードで1色展開なんて、アパレル業界にいる者からすれば、そんなん売れないですよ、と思ったりするわけです(笑)今までは、ロボットを専門に販売しているような店もなくて、機種を見比べたりするのも難しかった。
―確かに、家電量販店などでは、ロボットは他の家電と一緒に置かれていたりします。
 でもロボットメーカーの中にいる方だと、なかなか他社も巻き込むような形では動けないじゃないですか。なら僕がプラットフォーマーになろうと。それでロボット専門のショッピングサイトを立ち上げることにしたんです。
2018年6月19日、
ロボユニ ショッピングサイトの開設を記念して、史上初のロボットファッションショー「ロボコレ2018」が開催された。
総勢10社のロボットメーカーが、泉さんを中心に一堂に集まり、記者会見を行った。
写真左/各メーカーの担当者が、服を着たロボットを持ち、ランウェイを歩く。写真は「RoBoHoN(ロボホン)」と、その母といわれるシャープの景井美帆さん。写真右/記者会見の後には、皆さん軽〜くお酒を飲みながらのトークショーも。左から、泉さん、元みずほ銀行の井原理博さん、ロボットスタート社の北構武憲さん、この記事の後半でも名前があがる三宅陽一郎さん。
主催:ROBO-UNI
会場:渋谷・東京カルチャーカルチャー
―ロボットメーカー間の垣根を飛び越えているという意味でも、泉さんはロボットの社会的な壁をなくしているような気がします。
 僕の事業って、ロボットにぶら下がってるビジネスに見えますよね。
―ロボットブームに乗っかった、みたいな。
 たまに言われるんです。「ロボットが服を着るのは、ロボットがもっと売れてからの話だから、泉さんのやっていることは未来の、そのまた未来の事業ですね」って。でもそうじゃないと僕は思ってます。僕はロボットを世の中に広めるための加速をしているんです。ブースターを1個作っていると思っています。
―なぜそこまでロボットを社会に広めることに情熱を傾けられるんでしょう。
 ロボットを社会の役に立たせようと、全力を注いでいる開発者の方々を知っているからかもしれません。それに、僕は毎日触れ合ってるから、もうロボットが特別じゃないんですよ。極論を言うと、僕は服を着たロボットを擬人化したいわけじゃない。だって擬人化する必要がない。そもそも彼らは人間じゃないですし、ロボットは、ロボットという今までなかった新しい人間のパートナーなんです。家族、友達、ペット、そういうところに加わる、生き物ではない、新しいポジションでいいんじゃないですか。
袋とじを読んだ人は、この若々しさあふれる横顔と年齢のギャップに驚くだろう。
ロボットアパレルを、ビジネスではなくカルチャーにしていきたい。
―ロボットのアパレルは、これからどうなっていくんでしょうか。
 なくなっていきつつあるカルチャーって多いですよね。地域のお祭りや餅つきなんかもそうです。一方で今、新しいカルチャーが生まれにくい時代になっている気がします。1社が新しいものを生み出しても、お金もうけとして食いつぶしてしまう。だめだったらスケールアウトする。お金儲けとトレンドとカルチャーが一緒になってしまっていて、ビジネスが終わると、カルチャーも終わってしまうんです。
ロボットを見つめる視線が優しかった。
 僕はロボットをカルチャーにしたい。だからこの事業でたくさんもうけることは考えていません。日本のアパレル業界が縮小していく中で、ロボットに服を着せるのは日本的すぎるかもしれない。でも日本的だからこそ、それがスタンダードになってしまえば、服を着たロボットがカルチャーとして親しまれる可能性があると思うんです。子どもから高齢者まで、なんとなく全員が参加できるものは、カルチャーになりやすいと思うんですよ。ロボットのハード面は、なかなか子どもや高齢者には管理できない。でもロボットの服は、子どもたちにも着せ替えを手伝ってもらいたいんです。そういう形でロボットとの触れ合いに参加してほしいと思います。
―日本的カルチャーとおっしゃいましたが、ロボットに服を着せるということに、日本っぽさを感じていらっしゃるんですか?
 僕は実感としてはあんまり感じてなくて。ただ、AI(人工知能)開発をしている三宅陽一郎さんの分析などを聞いて、そうだなと思うことはあります。例えばフランスだと、ロボットに服を着せるってナンセンスらしいんですよ。向こうのロボティクスの人って、ロボットをアート作品だと思う傾向が強い。「ミケランジェロの彫刻に、服を着せるか?」と。
―そのままで完成された形なんだと。
 それはそれで一つの価値観ですが、日本には「鉄腕アトム」や「ドラえもん」のような、キャラクターのロボットがたくさんある。漫画の中でもロボットが服を着たりするので、受け入れやすいのかもしれません。余談ですけど、日本のロボットって、子どもなんですよ。日本の数十社がロボットを作っていますけど、立ち位置や声はだいたい子どもです。
―言われてみれば。
 ロボットは怖いものではない、という意識があるのかもしれません。最先端技術を、軍事ロボットではなく、エンタメの延長としてのロボットにつぎ込んできたというのも親しみの理由のひとつとしてありそうです。
ロボットの小さなサイズ感にも、人はかわいらしいという感情を抱く。
―今回、「ロボットと私たちは友達になれるのか?」というのをテーマに取材をしているんですが、友達になるためにも、ロボットがもっと社会に入り込む必要があるなと思いました。
 これも三宅さんが言っていたんですが…なんだか急に三宅さんの受け売りになっちゃってますけど(笑)、今までロボットと人間の間には、社会性がなかったらしいんです。いかにロボットをAIで賢くするかは考えてきたけど、まさか人間とロボットの間に「服」っていうフィルターがあるなんて、それまで議論されていなかったと。それを僕がヒョコっとやった。
―そうしたら、人間とロボットの関係性が変わった。
 「服を着ただけで、結構いろんなことが解決しちゃったんじゃない?」って。
―今までは、ロボットがにっこり笑ったりする、そういうところに人間と仲良くなるきっかけがあるとばかり思っていました。服というアイテムにも社会性があったというのは大きな気付きです。
 「衣食住」って言いますよね。ロボットの「食」は電気だし、「住」をロボットに取り付けるのは難しい。その中で「衣」っていうのが、唯一ロボットに搭載できる人間の営みだった。ロボットが服を着たことで、「人間社会に入り込もうとする意思」を、私たちは読み取っているんです。人間側が、服を着たロボットに歩み寄っている、今はそういう段階だと思います。
写真/阿部ケンヤ デザイン/上條慶