「結局、あの人は何なの?」と思われたい。中村倫也が見せる、変幻自在な芝居の裏側

ゆるふわのイケメン大学生に狂犬のようなヤクザ、警察官に競艇狂いの副料理長…。これらは全部、5月に見られるドラマ、映画で中村倫也が演じている役柄である。本人は「混乱させすぎてこの春、一気にファン離れが進むんじゃないかと…」と笑う。すべてはカメレオン俳優と称される演技力と、作品の世界に溶け込んでしまう絶妙な存在感があってこそだが、その核にあるものは――? 久々の朝ドラ出演から30代を迎えた“いま”の立ち位置まで、時折センス抜群の“毒”を交えつつ、たっぷりと語ってくれた。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
デザイン/前原香織

「NHK連続テレビ小説『半分、青い。』」特集一覧

“ゆるふわイケメン”を演じるのは「綱渡り」の感覚

おうかがいしたいことが山ほどあるのですが、まずは4月2日より放送中のNHK連続テレビ小説『半分、青い。』について。朝ドラ出演は、2005年の『風のハルカ』以来、13年ぶりですね。当時はまだ俳優としてデビューしたばかりでした。
当時、自分なりに「こうしたら面白いんじゃないか?」というものを信じてやらせてもらったんですが、いま思うとそうじゃないなと感じる部分も多いです(苦笑)。経験がないので本の読み方も浅いし、役の作り方も限られていて…。
放送開始時は18歳でしたね。
僕が曲がらないぶん、周りのみなさんが合わせてくださって、それで「面白い」となった部分もあったし、でもやっぱり、それは自分が見えてないものが多かったからだなと思います。いまだったら、もっとプロとして、いろんな経験をかけ算して演じることができるんでしょうけど…。
十数年を経てもう一度、朝ドラへの出演機会が巡ってきました。
じつは今回の制作統括プロデューサーの勝田(夏子)さんは、『風のハルカ』のときに演出を務めていらしたんです。恩返しじゃないけど、「大人になりました」という成長した姿を見せられたらいいなと。
『風のハルカ』以来、朝ドラに対して特別な思いは持ち続けていましたか?
全国で見られる作品ですからね。あとは、朝ドラに出たことで売れていったヤツらをよく知ってるんで、意識しないと言ったらウソになりますね(笑)。僕が演じるのは朝井正人という役なんですけど、“ロス”が起きないかと…。
全国のお茶の間に“正人ロス”を?(笑)
取材のたびに「ロスが起きてなくても、起こっているふうに書いてください!」ってお願いしているところです(笑)。「え、ロス、起こってんねや?」って視聴者はもちろん、僕にも思わせてほしいですね。
その正人ですが、岐阜から上京してきたヒロイン・楡野鈴愛(にれの・すずめ/永野芽郁)の、最初のロマンスのお相手と言われていますが…?
そうなんです。ちょっと何か、つかめないけど気になる存在で…という感じの男で。最後までつかめないのかなぁ?(笑) いや、話が進むうちに正人のコアな部分も見えてくるので、楽しみにしていただきたいです。
正人は、鈴愛とともに上京した萩尾 律(佐藤 健)の大学の同級生。公式情報では、「誰にでもやさしい。不思議なことに絶えず複数の女性からモテており、数々の女たちを泣かしている」、つかみどころのない“ゆるふわイケメン”であると…(笑)。
脚本の北川(悦吏子)さんは、僕と面識がない状態であて書きをされたそうで、僕の写真を机の前に貼って、イメージを膨らませたらしいです。僕自身の中に存在する要素もあって、わかるところもありつつ、でもたくさんの女の子を泣かせたりはしねーよ!って(笑)。
数々の女たちを泣かせることはないとして(笑)、具体的にどういう部分は自身と近いのでしょうか?
昔からずっと「何を考えてるかよくわかんない」って言われますね。まあ、何も考えてないだけだよって(笑)。なぜか勝手に周りがいい方向に捉えてくれることが多くて。そこまで深く考えていないのに、何かを考えている人に思われているみたいです。それは得な部分だし、うまく使えば正人という役の魅力も上がるんじゃないかと。
フワッとした、つかみどころがない役を作りあげていくという作業は?
やっててもつかめないですね。演じながら、細いロープの上を綱渡りしている感じというか…。どっちかに転んじゃったら、その印象に染まっちゃうじゃないですか。でも、そうはならず、ミステリアスさとマイペースな感じではぐらかしつつ、愛嬌のある存在に…その塩梅は難しかったですね。

永野芽郁は、見ているだけで自然とこちらをニコニコさせる

ヒロインの鈴愛に感情移入して見ている視聴者が多いかと思いますし、彼女を絶妙のバランスで支え続ける律の人気も高いです。その律を差し置いて、鈴愛のロマンスの相手になっていくかもしれない、しかも“ゆるふわ”男子。視聴者からどんな受け止め方をされるのか…。
でも、絶対に嫌われることはないと思います。正人は、悪気がないんですよね。何か、居ついてるなぁ…でも、居心地は悪くないなぁって感じですかね?(笑) “恋のライバル”という触れ込みもあるんですけど、それもまたちょっと微妙に違う気がしていて…。不思議な3人の関係があるんですよね。
単なる“ゆるふわ”にとどまらず、正人は“マシュマロ男子”なんて言葉でもたとえられるそうですが…。
脚本にト書き(※俳優の動きや照明、音響などの演出を説明する文)がいっぱいあるんですよ。“マシュマロ男子”とか“ホイップクリーム系”とか…(笑)。
北川さん自身の命名なんですね! 漠然としていますが、なぜかイメージは伝わってきます(笑)。きっと北川さんは、正人のことが大好きでたまらないんでしょうね。
いろいろ、想像が広がってるんでしょうね。それはト書きじゃなく、プロット(※脚本前の段階の物語や人物の説明)に書いておくことじゃないの?って思います(笑)。「切実さがないのが魅力」とか、もはやト書きですらないし!
永野さんと共演されてみて、いかがでしたか?
芽郁ちゃんはかわいいんですよ! いや、鈴愛ちゃんか? うん、両方ですね(笑)。とにかくかわいいので、見ているだけでこっちも自然とニコニコとなるんです。
なるほど。一方、佐藤さんとの共演は?
健とのシーンは、絶妙と言いますか…何とも言えない会話が多いんですよ。正直、それまでの『半分、青い。』の流れから、ガラッと雰囲気が変わると思うんですよね。
それは律と正人という、噛み合わないふたりの関係性ゆえに?
いや、噛み合ってないんですけど、噛み合ってるんですよね(笑)。そこがすごく楽しかったです。何とも言えないやり取りを、何とも言えないままやった感じで。
おふたりが19歳の大学生という役柄で、共演されているというのが面白いですね。
あははは。健がいま29歳? 僕は今年32歳ですよ。芽郁ちゃんがリアル18歳でしょ? 同い年って困っちゃいますね(笑)。おっさんだってバレないようにしなきゃ!
改めて、13年ぶり2度目の朝ドラの現場は楽しかったですか?
楽しかったですね。勝田さんが、今回の現場で「中村くんの芝居は“仕事師”という感じだね」とおっしゃってくださって。それは、僕にとっては最上級のほめ言葉であり、あぁ、やってよかったなと思えた瞬間でした。

『孤狼の血』のヤクザ役は、まさかのオファーだった

ゆるふわ系男子を演じた朝ドラと打って変わって、5月12日より公開中の映画『孤狼の血』では、抗争に明け暮れる暴力団の若き構成員・永川恭二を演じられています。まず、映画そのものがすさまじい熱量を持っていて、中村さんの出演シーンも含め、激しい暴力シーンの連続で…。
なかなか、最近にはなかったタイプの男臭い作品で、先輩方がみなさん、楽しんで演じられているのが伝わってきました。僕自身は、とにかく必死で…でも、それがバレないようにすることにも必死でした(笑)。
広島県の架空の都市・呉原を舞台に、ふたつの暴力団組織の抗争のあいだに立つベテラン刑事・大上章吾(役所広司)を主人公にした本作。永川は自分の組のシマが荒らされると、躊躇なく相手と一戦を交えようとする、血気盛んな男です。
まさか、自分にオファーが来るとは思ってもなかった役でしたけど、監督が白石(和彌/『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』)さんなので、何かしら狙いがあるんだろうと。人を殴ったこともない自分がああいうキャラを…大丈夫かな?と思いつつも、ダメだったら全部、白石さんのせいにしようと思って頑張りました(笑)。
ご自身でも「まさかこの役が?」という意外なオファーだった?
自分に来るなら、どっちかと言うとインテリヤクザっぽい感じかなって。顔立ちも濃い感じではないですし…。こういう男臭い、狂気やエキセントリックな感じを持った“刺激物”的な扱いだと、これだけのそうそうたる面々の中で、目立たなくなってしまい、作品に貢献できないんじゃないかと…。
実際、永川の出演シーン自体は決して多いわけではないですが、いずれも激しい暴力描写があり、“爆発力”が必要とされたかと。そういうシーンに臨むにあたって、ご自身の中でのスイッチなどは?
永川は、暴れたくてヤクザになったのに、暴れさせてもらえずに鬱憤がたまっている男なんですね。そういう、押さえつけられてため込んでいる“熱”は常に持っていました。それを思い切り爆発させるわけですけど、あの衣装を着込むと自然と気持ちが入ったので、とくにスイッチのオンオフを意識する必要はなかったですね。
あの髪型に衣装、目の下にはシャブ中のクマを入れて…と変身すると、肩で風を切って歩きたくなりそうですね。
そうそう(笑)。お客さんも映画館を出るとき、そうなってるんじゃないかと。
ヤクザ顔負けの型破りな刑事・大上役の役所さん、永川が所属する尾谷組を取り仕切る若頭・一之瀬守孝役の江口洋介さんをはじめ、あの豪華共演陣の中で芝居をするのは、さぞ楽しかったかと…。
役所さんの横でずっと芝居ができる(松坂)桃李(※大上とコンビを組む若き刑事・日岡秀一役)が、ひたすらうらやましかったですねぇ…。
「うらやましい」と言うなら、この映画に出演されていること自体、他の俳優さんからしたら、相当うらやましいことだと思います。
たしかに白石さんの作品に出たという時点で、いろんな人からうらやましがられますね。「俺も白石さんと仕事をしてみたい」って言われることもありそう。「そうなんだ? じゃあ、言っておくよ」と返事をしつつ、絶対に言わない(笑)。
そこは言わず、早めに芽をつぶしておく?(笑)
知るかっ! 勝手につながれ!と(笑)。
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