「YouTuber一本で行ける確信があった」ポッキーがつかんだゲーム実況という仕事

小中学生の将来の夢ランキングでYouTuberが上位に入ることは、もはや当たり前となったが、一方で、ある媒体が親世代に「子どもに就いてほしくない職業」を調査したところ、YouTuberが1位だったという。そんな中、YouTube、そしてゲームという、親世代が眉をひそめる世界で熱い支持を集めているのが、ゲーム実況者のポッキーである。高校卒業と同時にYouTuber一本で生きていくことを決断した、彼にあった覚悟と展望とは? YouTuberになりたい若者、それを冷ややかに見る大人は、ぜひ彼の言葉に耳を傾けてほしい。

撮影/ヨシダヤスシ 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/石橋修一 ヘアメイク/堤 紗也香

積み上げてきた実績が“仕事”への自信につながった

前回のインタビューでは、浅草の花やしきで浴衣姿を撮影させていただきましたが、今回は社会人、そしてクリエイターのオンとオフをテーマに、少しフォーマルに決めた姿と私服姿を切り取らせていただきました。普段、ジャケットやスーツを着る機会は…?
いや、まずないですね。成人式も行かなかったので、今回、初めての経験です。
カチッと決めた姿で、LINE社での打ち合わせ風のカットも撮らせていただきましたが、いかがでしたか?
さっき、ジャケットを着ている自分の姿を鏡で見たんですけど、こういう格好をすると雰囲気が変わりますね! 「え? 俺、仕事できるんじゃない?」って(笑)。
ポッキーさんが「仕事ができる」社会人であることは事実です(笑)。細身で背筋がスッと伸びているので、ジャケットがお似合いだと思います。
ありがとうございます(笑)。今後、こういう格好をする機会があったら楽しみです!
本日は“職業”としてのYouTuberについて、いろいろお話をうかがえればと思っています。ポッキーさん自身、子どもの頃やYouTuberとして動画の投稿を開始する前、将来は企業に就職してサラリーマンとして働くことになるだろうと思っていたんですか?
毎日、普通にネクタイにスーツで通勤して…という感じで働くことになるだろうと思ってましたね。
具体的に将来の夢や、こんな仕事をすることになるんじゃないかというイメージはありましたか?
パソコンを触るのがずっと好きだったので、パソコンで何かを作ったりとか、そういう仕事に就くんだろうって漠然と考えていました。
それが想像とかけ離れた場所に…。
いや、本当ですね。まさか撮影のためにジャケットを着ることになるなんて…(笑)。
同世代や周りの友人の中には、大学で勉強に励んだり、すでに社会人としてネクタイにスーツ姿で働いている方も多いかと。
僕自身、最初は「これでいいのかな?」と(進学、就職をせずにYouTuberとして生きていくことに)不安もありました。普通の仕事のほうが安定してるだろうなとか。でも、いまやっているゲーム実況という選択肢は、自分にしかできないもので、ここまで自分が頑張ってきたからこそ、いまがあるんだという思いがあったんですよね。
まず何より、ご自身が積み上げてきた実績に対する自負があったんですね。
投稿自体は学生時代に始めたことですし、その頃は趣味のような感覚でしたね。ただ、高校を卒業するタイミングで、完全に「動画配信者として生きていく」と意識するようになっていました。

海外YouTuberを参考に。自分の強みは何かを模索した

会社員とYouTuberという二足のわらじではなく、YouTuber一本に絞ってやっていこうと決断した経緯は? おそらく、兼業でやり続けることも不可能ではなかったと思います。
でも自分の場合、兼業にしてしまうと絶対に時間がなくなって、おそらくほかのYouTuberと差が開いてしまうだろうと思ったんです。それなら、YouTubeを続けたほうがいいだろうと。親は別の進路に進んでほしかったようですが、その頃、ちょうど乗りに乗っていた時期で、このまま進めば絶対にもっと良くなる!と。
確信があった?
あの頃はありましたね。ゲーム実況は、以前から海外のYouTuberを参考にしていて、あまり日本国内にはないタイプのものだったので、このままやり続ければ絶対に上に行けるかなって。
ゲーム実況というジャンル自体は、以前から日本にも存在しています。具体的にどういったところが、ほかにはない部分だったのでしょう?
まずソフト自体、日本のゲーム実況者があまりやらないような海外のものもやっていました。当時、そういう人は僕以外、ほとんどいなかったですね。その頃は“シリーズ系”といって、ひとつのシリーズの実況動画を何本もアップしていくのが主流で、僕のように、クリアするまでが早い、動画1本で完結するようなゲームでやっている人もほとんどいなかったんです。
そういう部分は、先を見据えて戦略的にやっていたのか、それともあくまでポッキーさん自身が楽しんでやっていた結果なんでしょうか?
当時は戦略というより、僕自身が海外のゲーム実況者が好きで、強い憧れを持っていて。その真似をしたかったというのが一番大きかったですね。
その当時は勢いに乗っていたとしても、その後はどうなるかわからないという、先行きが不安になったことは…?
もちろんありましたよ。ゲーム実況という分野は、やっている“人”以前に、まず「何のゲームか?」で動画がクリックされる部分が大きいジャンルなんです。そこで、ポッキーならでは、ポッキーだからこその動画を作ることができるのか?と不安でした。
現在、チャンネル登録者数は180万人超(※取材が行われたのは3月下旬)。その頃の不安は杞憂だったと言える、順調な伸びを記録しています。今後伸ばしていきたいという部分も含めて、改めてゲーム実況者・ポッキーの強み、個性はどういうところだと?
やはり、さっきも言いましたが、海外のゲームも含めて常にリサーチし、動画にしているというところですかね。いまでも、日本であまりやっていないゲームを扱うことは多いので、そこは自分の強みなんだなと思います。
専業のYouTuberになって以降、悩んだり、試行錯誤されたりということはなかったんでしょうか?
ゲーム実況というジャンル自体、当たり前ですけどゲームがあってこそ成り立つんですよね。そういう意味で、ゲーム実況者以外のマルチな配信者さんたちが、ゼロから自分たちの作品を作り上げていっているのに、自分はそれができてないんじゃないかと悩んだことはありました。
もの作りの根幹に関してですね。
ただやっぱり、普通にゲームをしてるプレイ画面だけで、誰でも楽して数字が獲れるわけじゃないですからね。そこは自分だからこそなんだと、ポジティブに受け止められるようになりました。

“ながら見”が多いジャンルだから毎日の投稿が重要

現在、ほぼ1日に1本のペースで動画をアップされていますね。最近ではHIKAKINさんが“働き方改革”を打ち出すなど、投稿の仕方も少しずつ変わってきているかと。ゲーム実況というジャンルにおける投稿ペースについては、どのように考えていますか?
難しい部分なんですけど、ゲーム実況ってわりとみなさん、“ながら”で見ることが多いんですよ。尺も長いですし。毎日のちょっとした時間に、“ながら”で楽しんでもらうには、毎日アップすることは大事なのかなと思っています。シリーズ系でその日に更新がなかったら、同じゲームをやっている別の実況者のほうにいってしまうので。
同じゲームを扱っているからこそ、ほかのジャンルに比べて視聴者の奪い合いになるという部分が大きいのかもしれませんね。
みんな「毎日は大変だよね」と言うんですけど、それでもアップしてますからね(苦笑)。本当にその“人”に付いているファンでなければ、同じゲームの動画があればそっちに行くのは当然ですし。(視聴者を奪われる)怖さはあります。そこでアップし続けることがどうしても重要になってきちゃう。
作業の労力という点では…。
撮影だけで1日終わっちゃうこともありますし、大変です。ただ、編集はテロップとカットが中心なので、ほかのジャンルの方々と比べると、かかる時間は少ないかもしれません…。でもやはり、毎日となると大変ですね。
現在の1日のタイムスケジュールはどのような感じですか?
昼の11時とか12時頃に起きて、ゲームを選んでプレイを始めて。だいたい2〜3時間くらい撮って、それを編集してアップするのが19時とか20時ですかね?
基本的に、その日中にすべてを終わらせるんですね?
前の日にゲームを選んでおくことはありますけど、基本は1日で完結させるようにしています。その時々の流行りだったり、伸びがあるので、なかなかストックをため込んで…というのは難しいんですよね。
プレイしている最中や、編集している中で「あ、これは数字が伸びそうだな」などと感じるものなんでしょうか?
感じますね。クリックされるかどうかって、サムネイルとタイトルに懸かっている部分がすごく大きいんですよ。
少し前に、サムネイルとタイトルの重要性を訴える動画「YouTubeで一番大切な物がやっとわかりました!!!」を投稿されていましたね(笑)。
そうなんです(笑)。実際、ゲームをしている最中に「あぁ、この動画はこういうタイトルとサムネイルでアップしよう」って浮かんでくるものは、数字も伸びますね。逆に最後までなかなかそれが浮かんでこないものって、伸びが悪いんです。
自然とキャッチーな瞬間が見えてくる作品は、視聴者にも伝わるんですね。
そうです。それだけの熱と盛り上がりを持っているということなんですね。

下からの新たな勢力は「きちんと受け止めたい」

動画の作り方に関して、以前と変化した部分はありますか? プロとして、PVやチャンネル登録者数などの数字を意識するようになったりしてるんでしょうか?
数字に関しては、以前と変わらず、あまりこだわらないようにしてます。ただ、新しい層を取り入れることは意識していますね。初めての人、ゲームをあまり知らない人でも楽しめるように考えたりしますし、ゲームだけでなくアプリの解説もしてみたり、より幅広い人々にとって気になるチャンネルにできたらと思っています。
以前から、おるたなChannelさんとコラボをされたりもしていますが、ほかのジャンルの方との交流は意識してやられているんですか?
どんなクリエイターさんとでも、自分が「面白そう!」「やりたい」と思ったらやりますね。そうした現場で、普段の自分の動画作りでは見られないことを感じられたりして、勉強になることも多いです。そこで得たものは、どんどん取り入れていこうと思っています。
今後のYouTube界、ゲーム実況というジャンルの将来についてはどんな展望をお持ちですか?
このジャンルに参入する人が増えれば、レベルもどんどん上がっていくことになると思うんです。そこからはどうなるのかなぁ…? でもやっぱり、海外は日本よりもさらに進んでますからね。編集力も非常に高いですし。そういう技術的な部分は上がり続けていくでしょうね。
なるほど。
ゲーム実況というジャンル自体、まだまだ注目度が上がる余地は残されていると思います。いまはまだ、ゲーム以外のマルチの方たちの勢いが強いですから、ゲーム実況もより幅広い人たちに、気軽に見てもらえるようにしていかないといけないなと。
先ほどの話で、同じゲームを扱う以上、どうしても視聴者の奪い合いの側面が出てくるとおっしゃってましたが、それでも新規参入者が多いほうがいいと?
これまでもゲーム実況って、何年も同じ人たちがトップにいる状況だったんです。その人たちが投稿することで、ジャンル全体も伸びるという。逆に上の人たちが伸び悩んでいくと、全体が衰退する。そこにすごい力を持った人や、際立った編集力のある人が新たに出てきたら、全体にとっても大きな刺激になると思います。
下から伸びてくる勢力を脅威に感じることはないんですか?
僕自身も投稿を始めた当時、上のほうにデキる人たちがたくさんいる状況で、そこに割って入っていけるように頑張ってきました。だから、下からそういう人が出てきたら、僕もその存在をきちんと受け止めつつ、自分をさらに改善していけるんじゃないかと思います。
YouTuberの中にも「自分は自分」というタイプの方もいれば、何がヒットしているのかと周りを見つつ、時代に合わせようとするタイプの方もいますね。HIKAKINさんは自身を後者のタイプだとおっしゃっていました。ポッキーさんは周りの存在をどんな目で見ているんでしょうか?
どんなゲームをやってるかだけはチェックするようにしています。ただ、動画の中身まで見ちゃうと、自分がプレイしていて行き詰まったときに、自然にその人のリアクションとかぶってしまったりするんです。同じ言葉が出てきたり…。
同じようなゲームをやっているからこそ、無意識に刷り込まれていて、つい出ちゃう?
それはよくないので、やっているゲームやどういう動画が伸びているかは見ますが、それ以上は見ないようにしています。流行に関してはTwitterでも常にチェックしていますしね。
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