【佐藤康光の感謝】将棋を愛するすべての人に届けたい「ありがとう」のメッセージ

「棋士の感謝」というテーマを定めた時、最初に頭に浮かんだのが佐藤康光だった。

タイトル戦の前夜祭、各種イベントに記者会見。壇上の“佐藤会長”は平身低頭、同席者が恐縮してしまうほど全身で感謝の気持ちを表わす。「この企画にはぴったりだ!」。たしかにそう思っていた。

しかし、その考えは下準備の段階で粉砕されることになる。

過去の発言に焦点を絞ると、佐藤が公の場で特定の個人や団体に謝意を向けることはない。例えば、「将棋界の将来の担い手は?」というごく一般的な質問に対しても、必ずタイトルホルダー全員の名前を挙げるとともに、「羽生世代も黙っていないし、若手の台頭も著しい」とパーフェクトな答えが投げ返されてくる。

つまり“佐藤会長”は、安易に固有名詞を出すことをしない。

中途半端な選択はありえない。出す場合は全てに配慮して、関係者“全員”の名を挙げる。

それでも“佐藤康光”の本心が聞きたい。将棋ファンに届けたい。

今回のインタビュー最大のミッションは、佐藤から「いくつ固有名詞を引き出せるか」がポイントになり、佐藤と筆者との勝負になった。

結果ーー

筆者は敗れた。佐藤の“緻密”で完璧な受けに屈してしまった。

ぜひ読者の皆様には、「固有名詞を引き出そうと攻める筆者」vs「会長の立場を崩さない佐藤」の勝負の模様を見届けていただきたい。

佐藤が会長として譲れぬアイデンティティー、そして目指す将棋界の未来を、行間から感じていただければ幸いだ。

撮影/MEGUMI 取材・文/伊藤靖子(スポニチ)

「棋士の感謝」特集一覧

まずは2018年度を振り返っていただくところから始めたいと思います。「棋士・佐藤康光」、「会長・佐藤康光」、それぞれ何点を付けますか?
棋士としては50点くらいですかね…。会長職については、皆さんに判断していただく部分かと思いますので、お任せします。
棋士としても順位戦A級に残留するなど、お忙しい中でも結果を残してファンを楽しませてくださいました。会長としても、棋聖戦には不動産デベロッパーのヒューリック、王将戦には“大阪王将”を運営するイートアンドの特別協賛獲得、女流棋戦ではヒューリック杯清麗戦という新棋戦が増えた1年でもありました。もっと高くても良い気がします。
いやいや。対局のほうは19勝19敗でちょうど勝率5割でしたから。なので50点くらいです。

ファンのみならず、長らく支援していただいている関係各位の皆様はもちろんですけど、新しく関心を持っていただいている企業があるというのは、それだけメディアなどで取り上げていただいている機会が多いということですので、ありがたいですね。

新しいスポンサーの獲得も、今の役員メンバーに貢献してもらったおかげです。私はほとんど何もしていません(笑)。

将棋自体の魅力もありますし、棋士それぞれの魅力もあります。タイトルホルダーも若返っていますからね。広瀬(章人)さん、佐藤天彦さん、豊島(将之)さん、渡辺(明)さん、斎藤(慎太郎)さん、高見(泰地)さん。女流では里見(香奈)さん、西山(朋佳)さん、渡部(愛)さん。(女流含めすべてのタイトルホルダーの名前が漏れていないか確認しながら回答する会長)

棋士の魅力から、新しいつながりが生まれることもありますから、そういう縁は大事にしたいなと思っています。
会長職をこなしながら棋士としての対局もあり、想像を絶するお忙しさだと思います。
前任の谷川(浩司)先生も50歳を過ぎてもA級にいらっしゃいましたから、役員と兼任だからと言い訳せずに、最前線で頑張らないといけないなとは思っています。

順位戦に関して言えば正直、運が良かったという感じです。自分の実力以外のところで相手のミスに助けられたことが多かったですね。

会長職のほうは2年が過ぎましたけど非常に難しいことが多いというか…。現状の将棋連盟には課題が山積しているので、地道に解決していかなければいけない、と考えています。

そんな中で近年は特に羽生(善治)さんや藤井聡太さん、さらに若手棋士の活躍で、非常に多くの関心を持っていただいています。そのような期待に応えられる将棋界にしていかないといけないなと思っています。

会長に就任された2017年2月から振り返っていただきたいのですが、将棋界激動の真っただ中での就任だったと思います。
会長職を志したのは、「少しでもお役に立てるのであれば」という感じでした。

役員になって、将棋界の課題の多さを目の当たりにしていますね。プレーヤーに専念していたときには気づかなかった部分がたくさんありますし、実際に役員になってみないと見えてこない部分もありましたので、ひとつひとつ経験させていただいています。

役員になりますと、現実的な問題をどう解決していくかという結果を求められますので、他の役員の方や携わっていただいている多くの方々の力を借りながら、とにかくひとつひとつ前に進めていきたいという状況です。
佐藤会長が考える「結果」というのは、どういう部分を指すのでしょうか?
「ひとりでも多くの将棋ファンを増やしたい」というのが私の願いです。また、これまで以上に大きな大会や棋戦を立ち上げられれば良いなという思いも、もちろんあります。

でも、今まで先輩方が培ってきた将棋の歴史も重んじ継承しながらという部分はあります。それを忘れずに、両立して進めていくというのが理想です。

またプロ棋士は、大変な苦労をしてプロになっていますから、少しでも報いられるような形を取りたいですし、対局や普及イベントをもっと増やすことで、皆さんに還元していければいいですね。
会長として、棋士として、常に両方の顔や力量が求められると思いますが、唯一、“棋士”に戻れるのが盤の前に座ったときなのかなと想像していました。しかし、対局中継を拝見していると、盤側には関係各社の飲料がズラリと並べられていたり、対局中でも各方面への気遣いを忘れずにいらっしゃる姿に驚きました。
応援していただいているスポンサーが増えていますからね。ありがたいことです。

実際、どれも美味しい飲み物、食べ物が多いですし、棋士にとっては対局中において、とてもパワーになっているので、たくさん持っていくのは自然なのかなと思っています。
新聞も、全紙読んでいると伺っています。タイトル戦の前夜祭など、イベントの場でも掲載紙をご紹介していただくなど主催紙としては非常にありがたいことなのですが、普段から意識していないと、ふとした瞬間にはできないことですよね。
実際に将棋界は、愛好家の方や応援していただいている新聞社や企業、自治体等、関係各位おかげで成り立っています。私のみならず棋士は、支えていただいている方々に常に感謝する気持ちで過ごしていかないといけないと思っています。

少しでも期待に応えられるような活動や内容で、歴史を刻んでいかなければならないと考えています。
昨今、スポーツ界やさまざまな団体の不祥事が世間をにぎわせました。要因のひとつとして、OB・OGが各団体のトップを務めるが故の難しさというのもあります。将棋界でも、現役の棋士が会長を兼任するというのは限界があるというような厳しい声もあるかと思われます。そのバランスをどうお考えになりますでしょうか?
引退して役員に専念された先生もいらっしゃいますし、その時々の環境を踏まえて最善のやり方を追求していけばいいと思うんです。

役員は引退棋士と現役棋士とで区別することは、とくにありません。たまたま今は現役である私がやっているだけで、同じように谷川先生も現役中に会長職を務められていたわけですから。

現役棋士は現役であるが故の難しさもありますが、良いところもあると思います。実際に外部の方にお目にかかると、現役棋士のほうが親近感を持ちやすいという声もいただくので、プラスにはなっている部分も多いと思います。

でも、もちろん会長と棋士、両方第一線で活躍するというのは難しいという側面もあります。

棋士はもともと個人事業主で、一匹狼なところがありますから。それが役員になった瞬間から、いきなりリーダーとして組織を束ねていくのはとても難しいところではあります。

でも連盟の職員をはじめ関係者の皆さん、もともと将棋に関わりたい、もっと良くしていきたいという気持ちで働いていただいている方ばかりなので、非常に助けられています。将棋という歴史あるゲームには感謝しかありませんね。
一般の企業や団体ですとリーダーがミッションやビジョンを掲げて、それをベースに周囲の人たちが力を合わせていくという感じだと思うのですが、将棋連盟でもそのような形をとっているのでしょうか?
もう少し私自身が旗を振って、将来に対する明確なビジョンを伝えていくべきだとは思うんです。けれど現状は問題が山積みで先のことまで考える時間がないというか、そこまで到達していないということ自体が課題ですね。

先輩方から受け継いできた“将棋”そのものや、“将棋界の在り方”みたいなものを大切にしていかなくてはならないということはわかるのですが、実際に今後も団体として存続させなければいけないわけですからと難しい部分はあります。
もし何の忖度(そんたく)もなく、自由にできる立場にあるとしたら、どのようなビジョンを描きますか?
皆さんに、将棋をより「身近に感じてもらえるような環境作り」をしたいですね。将棋は日本の伝統文化ですし、世界に誇れるゲームだと思っています。

将棋はルールがわからないと、なかなか楽しめないゲームなんですけど、最近は「観る将」という、将棋をあまり知らなくても関心を持っていただいている方がいますよね。

これまでとは違う新たな将棋を楽しむスタイルや棋士の魅力を、ファンの方々から引き出していただけているなと感じます。私たちの役目は、そういう新しい部分をどう広げて浸透させていくか、が大事なんですよね。

AI(人工知能)やコンピューターの導入だったり、時代に合わせた変化というのもの必要だと思います。

一方でもう少し、人と人が直接将棋を指せる環境も広げていければいいなと思っています。日本全国くまなく、どんな地域でも直に将棋を指せる場所が増えればいいなと思っています。今だとネットで指せる環境はありますけど、実際に盤を挟むことでより面白味が伝わると思いますので、コミュニケーションの活性化という意味でも大きな役割を果たすと思っています。


事前にお答えいただいたアンケートのお話に移りたいと思います。影響を受けた方として、室岡克彦七段のお名前を挙げられました。
京都から東京に引っ越してからの師匠のような存在で、非常に影響を受けた先輩棋士です。

私は中学2年の終わりに、父の転勤で東京の奨励会に移ってきました。当時は将棋連盟でしか対局も見られませんでしたから、将棋会館に行くことが勉強の第一歩だったんですよね。そのときに、よく連盟の控室に室岡先生がいらっしゃいまして、そこで一緒に勉強させてもらっていたのがきっかけで、研究会にも呼んでいただけるようになりました。

棋士になってからは、よく一緒に旅行にも連れて行ってもらいました。海外だけで20カ所くらい行ったと思います。

四段になってすぐ、初めての海外旅行でモロッコに行きました。だいたい、当時は3月に順位戦が終わると少し対局の間隔が空くんですよね。モロッコに行ったのは、室岡先生が「『カサブランカ(1942年公開のアメリカ映画)』という映画が印象深かったので、そこに行ってみよう」という単純な理由なんですけど(笑)。

自分はついていくだけなんですけど、迷路のような旧市街地で3時間くらい迷子になってしまったり、日本人が珍しいのか子どもたちがたくさん集まってきてしまって。あのときは「もう日本には帰れないな」と思いましたね(笑)。

室岡先生はチェスがお好きだったので、海外のトッププロのトーナメントを見にいくこともありました。モロッコの次の海外旅行がベルギーのブリュッセルでしたかね。各地に連盟の支部がありますから、現地の方に指導対局をしながら交流させていただく、というパターンが多かったです。
室岡先生からはどんな影響を受けたのでしょうか?
将棋に関して影響を受けることが多かったです。当時はあまり序盤を細かく研究するというのはまだそこまでではなく、徐々に構築されていく時期だったんです。でも細かく序盤を研究していくというのは、室岡先生がお好きなチェスの世界では当たり前だったんですよね。

よく室岡先生がおっしゃっていたのは「すべては疑い得る」という言葉です。

元は哲学者のカール・マルクスの言葉なんですけど、室岡先生いわく「初手からいろんな可能性を追求していかなければならない」という思想でした。その時代に今みたいに序盤が多様化するとは、思っていなかったですけど。

自分の土台になっていることは間違いないです。昔の自分は序盤のちょっとしたところでリードを広げていって、先行逃げ切りというパターンが非常に多くて、自分のスタイルとして確立していたところはありました。

序盤は室岡先生のところで研究して、中・終盤は毎日連盟で学んで。高校生になると、連盟まで近かったので、平日は連盟に行くことが多かったですね。練習将棋を指したり、対局を見ながら中終盤を養う。今の言葉で言えば、豊島さんではないですけど、意外に当時の私は「隙がなかった」かもしれないですね。今は隙だらけですが(笑)。
「隙がない」で思い出しましたが、少し前にTwitter上で、佐藤会長を布教するマンガが話題になっていましたが、ご覧になられましたか? 序盤から定跡を崩すのに、殴り合うのがとても強いという…。
(マンガをのぞき込みながら)知らなかったですね。でもこうやって取り上げていただけるのは、とてもありがたいことです。以前より最近の将棋のほうが変わってきたのかなというのはあります。
一緒にご旅行された楽しかった思い出や、室岡七段を慕っていらっしゃるご様子がとてもよく伝わってきます。室岡七段はどんな先生なのでしょうか?
非常に努力家の先生です。

自分は時間があれば怠けちゃうほうなので、まったく努力家だとは思っていません。でも将棋盤の前に座って研究することはまったく苦にならない…それは努力ではないんですよね。好きなことなので。

将棋は特別変わった勉強法というのがほとんどなくて、単純作業をいかに続けられるかが大事です。今だとソフトがあるので、また違った勉強法があるのかもしれませんが、当時はなかったのでどこまで行っても単純作業だったんです。研究会で誰かと指すか、詰め将棋、局面研究、そういう作業を延々と繰り返して、強くなっていきます。

室岡先生が「勝つために、強くなるために何が必要なのか」を考えられて努力されている姿を見て、自分自身も自然に努力ができたと思います。5、6年前くらいから一緒に研究する機会というのは減ってきています。今思うと、若い頃にそういう環境があったことには感謝したいですね。
「自然に努力ができた」とのことですが、将棋の勉強を苦しいと感じたことはなかったのでしょうか?
性格が楽天的なのでそこまで苦しいというか、思い詰めたことがあんまりないんですよね。

でもタイトル戦で負けると、やはり精神的に苦しいです。羽生さんにかなり負けが込みまして、追い詰められた部分はありましたけどね(笑)。

室岡先生も努力家ですが、基本的にポジティブです。常に夢を持たれている先生ですよね。そういうところは共感できます。

本来、棋士は夢を抱きやすいんです。たとえば、棋士になればどんなに負けが込んでいても、ひとつの棋戦ですべて勝てば、必ずタイトルを獲れるわけなんですよ。何歳になっても、どんな境遇になっても、そういう夢は持つことができるんですよね。

そうは言っても、年数が経ったり負けが込んだりすると、なかなか夢を持ちにくくなると思うんです。室岡先生とは、どちらかというと「上を見る話」が多かったので、そういう点では良かったと思います。

「下を見る話」は、ほとんどしたことはなくて、トップ棋士の話や「あの手はすごかったね」という話が多かったので、常に上を向きながら勉強させてもらったなというのがあります。
今回5人の棋士の方々にインタビューさせていただく中で、永瀬拓矢七段は「対局姿勢や普段の所作など、佐藤会長ら羽生世代の先生方から影響を受けたことがたくさんある」とおっしゃっていました。ご自身が意識してきたことなどはありますか?
後輩の模範にならなければいけないという意識はまったくしていません。

一歩一歩前に進んでいかなきゃいけないという気持ちは持っていますが、その延長線上が普段からの立ち居振舞いにつながればいいという感じですけどね。

自分たちの世代も、先輩たちを見て学んできたところがあると思っていますし、それはどの時代も変わらないことだと思います。

棋士の場合、受け継いでほしいことは、話をしなくても盤を挟めば自然に伝わると思っています。すべてにおいて「マニュアルがあって一から説明する」とかはないんです。私たちも先輩たちから、何かを言われたことはありませんから。

たとえば記録係を務めて、先輩の闘う姿を見て律したり、影響を受けるものだったり。そこは少し他の世界とは違うところなのかもしれません。
先生方の世代も個性的なキャラクターの方が多いですが、その上の世代となると、さらに「超・個性的」な先生方が多いような印象があります。
たしかに当時は特徴のある棋士が多かった時代ですからね。そういう先輩の背中を見て育ったというのはありますね。修行時代に覚えたことは忘れないというか、影響は大きかったと思います。5年前のことはすぐ忘れちゃうんですけど、30年前のことはよく覚えているんですよね(笑)。
将棋愛がひしひしと伝わってきますが、佐藤会長は愛妻家でご家族をとても大切にしていらっしゃる面も大きな魅力のひとつです。
結婚してからもう15年くらい経ちましたかね。家族には感謝しています。

役員になってからは環境が劇変しましたからね。基本的に棋士は家に居て研究する時間が多い職業なんですけど、役員になってからは将棋会館に行くことが多くなり、家を空けていますから。イベントがあると土日も家にいませんし、妻には何かと不便をかけていると思います。

勝手に決めて行っていることも多いので、助けられている部分が多いと思います。
佐藤会長の場合、特定の誰かに感謝というよりは、全方位、すべてへの感謝の気持ちが全面に表われているように感じます。
役員になってから、そういう気持ちが強くなったのは間違いないです。

タイトル戦ひとつをとってみても、いろんな方のご尽力のおかげで成り立っているというのを、これまで以上に実感しています。

対局者として会場に行くと「将棋に勝つにはどうしたらいいか」ということを考えるのが仕事なので、そこまで考えなくても許される部分があるんです。

けれど役員の立場ですと、いろんな人の助けをいただいてひとつの対局が成り立つということを、より実感させられます。いろんなパーツがキレイにはまってこそ成り立つので、どれかひとつが欠けても大変なことになります。非常に感謝しているところです。

もちろんタイトル戦だけでなく、全国で開催されるさまざまなイベントや大会も同じです。棋士が全国に点在しているわけではないので、地元の愛好家の方に力を借りるケースが多くなります。皆さん、将棋が大好きで協力いただいているわけで。役員になってから、より感謝の念が強くなりましたね。

今の将棋界は10代から始まり、各世代に魅力的な棋士が多く、会長としても心強く感じられるのではないでしょうか?
特徴のある魅力的な棋士が増えてきたと思いますね。元来、タイトルを獲るような上位にいく棋士というのは何かしらの個性を持っていますから。

ファンの方にそういう部分を見つけていただくのが一番ありがたいことです。“何でもそこそこ優秀”では、なかなかタイトルは獲れないと思うんです。何か“突き抜けている部分”がないといけないと思ってるんですね。そういう“突き抜けている部分”が魅力になってくるんじゃないでしょうかね。
役員のメンバーでは日々どんな“作戦会議”が繰り広げられているのでしょうか?
意外と会議が長いんですよ(笑)。私の責任でもあるんですけどね。

それだけ課題が多いですし、それだけ話せることがたくさん多いというのは、良いことなのかもしれません。でも将棋の技術面とはまったく関係ないところなので、難しいですよね。

今のメンバーは理事職の経験が私も含めて少ない人が多く、知らないことも多いので難しさもあります。でも逆に経験が浅い分、思い切って今の時代に合わせやすいというのもあると思います。
「文春オンライン」のインタビューで、今後の目標としてタイトル獲得を掲げられたところ、専務理事の森内九段から「役員なんだから、プレーヤーとしての目標を立ててはいけないと苦言を呈された」と話されていて、ファンの間でも話題になりました。
半分冗談で森内九段から「苦言を呈された」と言ったつもりだったんですが、なんだか悪者にしてしまったようで森内さんに悪いことを言ってしまいましたね(笑)。

運営者としての立場と、プレーヤーとしての立場というのは、棋士によって考え方の違いはありますよね。そのスタンスについては、やはりしっかりと考えを持っておかないといけないと思っています。
「将棋の未来」についてのお考えを教えてください。今の時代を生きる若い世代はさまざまな娯楽に囲まれています。将棋のライバルとしてeスポーツなどの目覚ましい台頭があり、生き残りを掛けた厳しい時代ですね。
将棋界は長い歴史がありますので、その部分を生かしていく必要があります。とはいえ、時代の変化も激しいですし、その流れに乗っていくのは難しい部分があるんですけど、伝統と変化、両方とも必要だと思います。
参考にしている団体などは具体的にありますか?
他団体のお話を聞いたり実際に見学させていただいたりして、取り入れたいなと勉強になる部分もあります。先日もAbemaTVさんが配信されている、昨年発足した麻雀のプロリーグ「Mリーグ」を見学に行きました。内部だけだと視野が狭くなったり、将棋連盟自体が特殊なところでもあるので、外部の方に意見をお聞きしたり、実際に力になっていただいたりというのも必要なことかなと思っています。

やはり今の時代に合わせた新しいことを取り入れていきたいです。

先日のニコニコ生放送の叡王戦開幕の発表会で振り駒を担当した「Vキャラクターのひふみちゃん」なども、将棋界だけの発想では生まれてこなかったですからね。新しい時代を感じています。
王将戦での“勝者の罰ゲーム写真”というのも、先生方のご協力のもとでチャレンジした結果、ファンの皆さんに楽しんでいただけるところまで、盛り上げていただいたという認識があります。
王将戦では、他のタイトル戦ではできないことをたくさん経験しましたね(笑)。アイデアがあればぜひやっていきたいですね。いろいろな楽しみ方が増えた時代になりました。

今期は「大阪王将杯」という新たな形でスタートしていますので、新たな魅力を発掘できれば、という気持ちもあります。
第61期王将戦、浜松対局の一夜明けにウナギのつかみ取りに挑戦する佐藤九段(スポニチ提供)
第56期王将戦、河津対局の一夜明けに浜辺で対局を振り返る佐藤棋聖(スポニチ提供)
アメリカのメジャーリーグは、さまざまなIT化で速報やスタッツなどを、ファンがいつでもどこでも楽しめるようになりました。将棋とITというのはすごく相性が良いと思うのですが、どのようにお考えですか?
将棋とITの相性はとてもいいですね。そういう点で変化は起こっていると思います。第68期の王将戦では「将棋プレミアム」(囲碁・将棋チャンネル)での全局完全生中継でしたが、対局の見せ方について変わってきているとは思います。

でも本質的な勝負の面白さという部分を、皆さんに見て感じていただくという点は以前とまったく同じです。将棋の中身をいかに濃くしていけるのか、というのは我々、棋士全員の使命でもあります。
最後に“観る将”、“指す将”、すべての将棋ファンへメッセージをお願いします。
たとえば局面の評価も昔は解説者の役割だったんですけど、今はコンピューターの評価値というのが登場して、より身近に応援できるようになったと思います。

難しそうな顔をしている棋士の顔を見ているだけだと、やはり判断するのは難易度が高いですよね。今は評価値を基準にして楽しむ人もいらっしゃるでしょうし、解説者や、他の人のコメントを見ながら楽しむ人もいらっしゃると思います。棋力や強さに関係ない、対局自体の楽しむ環境が整っていると思います。

ここ数年でも、自分たちでは想像のつかないような見方というのも出てきました。まだまださまざまな楽しみ方があるんだろうなとは思います。時代の環境に合わせた新しい方法というのは、将棋に限ったことではなく、スポーツや他の文化でも出てくると思うので、参考にしていきたいと思います。

でも将棋自体、「盤上の輝き」というのはいつの時代になっても変わらないと思います。それをいかにファンの皆様に伝えていくか、特に中身の濃さをどう伝えていくかというのが、我々の課題だと思っています。


「棋士の感謝」特集一覧

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、佐藤康光会長の揮毫入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年4月4日(木)21:00〜4月10日(水)21:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/4月11日(木)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから4月11日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき4月14日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
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