サウナ室にテレビ…独自進化を遂げた日本のサウナの「スタイル」とは?本気で考えてみた

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「友人に連れられて行ったらハマった」「週3回はサウナに行かないと生きている心地がしない」など、サウナの気持ち良さの虜になる人が増え続けている昨今。

さらなる快感の高みを目指すため、サウナ好きが作るメディア「サウナイキタイ」とライブドアニュースは9月末、ロシアから「ウィスキング」のプロであるアンドレイを招き、共同イベントを開催しました。
 
日本のサウナは海外から「ユニーク」と評されることもしばしば。今回のイベントのためにロシアから来日してくれたアンドレイにとっても、その感想は同じだったようです。

そこでイベントレポートvol.4は、世界のサウナ文化を日本流にアレンジして数多く取り入れる施設「湘南ひらつか太古の湯 グリーンサウナ」での座談会です。

同じくイベントに協力してくれた超絶サウナラバーである「Sauna Camp.」の大西洋さんを書き手に、「ウィスキングのジャパニーズスタイルとは?」を真面目に考えます!
 
世界のサウナカルチャーをガンガン採用する「湘南ひらつか太古の湯 グリーンサウナ」
 
サウナの本場といわれるロシアやフィンランドの人々が日本のサウナを見ると、決まって「サウナ室にテレビジョン⁉︎」と驚きます。1964年の東京五輪をきっかけに普及した日本のサウナは、他国に類を見ない独特の進化を遂げてきました
 
しかし近年は、日本独自の文化を継承しつつ、本場の文化を取り入れる施設が増加。サウナストーンにアロマ水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」や、ロウリュで発生した熱い蒸気をタオルなどで身体に浴びせる「アウフグース」といったサービスが行われると、サウナ室が人でいっぱいになるほどの人気を博します。
熱したサウナストーンにアロマ水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」。この熱い蒸気をタオルで仰ぎ浴びせる「アウフグース」はドイツ発祥のサービスで、日本でも大人気だ。
そんななか、いち早く海外のサウナ文化を日本流にアレンジし、数多く取り入れてきたのが、今回のウィスキング体験会の会場「湘南ひらつか太古の湯 グリーンサウナ」(以下グリーンサウナ)

グリーンサウナ社長の加川淳さんは積極的に海外視察を行っていて、「面白い!」と思ったサービスは次々に採用しています。そのためグリーンサウナでは、他ではなかなかお目に掛かれない、海外のさまざまな温浴文化を体験することができるのです。
ロシア製のテントサウナ「Mobiba」(モバイルバーニャ)について語り合うアンドレイ(左)と加川さん(右)。薪焚きのサウナを体験できる施設は全国でもほとんどない。
最近では、男性側の露天風呂スペースにロシア製のテントサウナを導入して、サウナ愛好家の間で大きな話題を呼んでいます。白樺などの枝葉を束ねた「ヴィヒタ」も自由に使えるとあって、遠方から足を運ぶ愛好家も多いとか。

今回はそんなグリーンサウナで、ウィスキングのプロ・アンドレイと一緒に、日本のサウナのこれからについて考えます。
☆おさらい☆
アンドレイってだあれ?
ロシアのウラジオストクから来日したウィスキングマスター。ウィスキング修行歴5年。「ロシアでテントサウナは大人気だよ。日本にもあるなんて素敵だ!」
☆おさらい☆
ウィスキングってなあに?
ウィスキングとは白樺などの枝葉を束ねたもの(ヴィヒタ)で身体を叩いてもらうサービス。血行促進や肌の引き締めなどに効果があるといわれている。
 
世界のサウナ文化、どう取り入れていくべき?
左からグリーンサウナ社長の加川さん、ウィスキングマスターのアンドレイ、「サウナイキタイ」開発チーム2人。
集まったのは、グリーンサウナ社長の加川さん、アンドレイ、サウナイキタイ開発チームの計4人。世界のサウナ文化を日本流にどうアレンジしていくか。はたして日本のサウナで、ウィスキングが定着する可能性はあるのでしょうか?
 
「海外の面白い文化はどんどん採用してます」
グリーンサウナ社長の加川さん。日本サウナ・スパ協会に所属し、積極的に海外視察をしている。
サウナイキタイ「グリーンサウナは昔から世界のサウナ文化を取り入れてますよね」
 
加川さん「私は日本サウナ・スパ協会に所属していて、定期的に世界のサウナを視察して回っています。面白いと感じたものは導入していますね。ロシア製のテントサウナも視察で体験して感動し、すぐに導入を決めました」
 
サウナイキタイ「テントサウナには白樺やメープル、ユーカリなど、数種類のヴィヒタが備えてあって、自由に使えるのがうれしいです。そういう施設、関東では唯一ですよね」
テントサウナの前には、さまざまな種類のヴィヒタが用意されており、自由に使うことができる。お客さんがセルフでウィスキングを楽しむ光景がよく見られる。
加川さん「テントサウナでは皆さん楽しそうに使っていただいていますね。また、リトアニアの視察をきっかけに、4年前からヴィヒタロウリュを定期的に開催しています。ヴィヒタを浸けた水でロウリュとアウフグースを行い、最後にヴィヒタでお客さんをウィスキングするというサービスで、お客さんからも好評です」
 
サウナイキタイ「他にも視察を通じて取り入れた文化ってあるんですか?」
 
加川さん「ドイツで初めて体験した、ガッシングシャワーですかね。打たせ湯の代わりに取り入れました。高さが物足りなかったので、天井をくりぬいて設置してしまいました(笑)他にもリトアニアから女性のウィスキングマスターを招いて体験イベントを開催したこともありますね」
加川さんがドイツで体験して導入を決めた「ガッシングシャワー」。ヒモを引くとバケツから冷たい水を浴びることができる、爽快!
 
「日本のサウナは独特ですね」
バーニャ(ロシア式サウナ)と日本のサウナは環境が全然違うと語るアンドレイ。
アンドレイ「サウナ室にテレビがあって本当にびっくりしましたよ」
 
加川さん「海外で日本のサウナをプレゼンすると、ちょっと奇異の目で見られますね。本場の方々からは“ノーウェイ”と笑われてしまう。サウナの捉え方が日本とヨーロッパなどではまるで違うんですね。でも、日本独自のきめ細かなサービスは誇るべき文化だと思います。サウナだけでなく天然温泉があったり、アカスリやマッサージ、レストランや宿泊など至れり尽くせり。複合的なサービスの提供が日本の魅力だと思います」
館内着でランチを選ぶアンドレイ。豊富なメニューに興味津々の様子。
アンドレイ「スタッフがロウリュをするサービスも変わっていると思いました。ウラジオストクでは自分でやるのが普通なので」
 
加川さん「日本は安全管理の意識が高く、お客さんがヤケドしないようにガードしてるんですね。でも一方で、サウナ本来の楽しさを奪ってしまっている面もあると感じます。私は海外の視察でサウナのより深い魅力を知りました。熱いストーブがあって、自分でロウリュして蒸気を浴びることができて、外気浴も楽しめる。これが原点だと思います。しかし海外の文化をそのまま日本の施設で…というわけにはいかないんですよね」
 
サウナイキタイ「これまでの歴史もありますし、すでに日本独自の文化が形成されていますからね」
 
加川さん「ですから、少しでもそのエッセンスを味わってほしいという思いでさまざまな試みをしています。サウナ室でテレビを見る、時たま湿度調整でオートロウリュが入る。それがサウナの楽しみ方の全てではないということを知ってほしいですね。自分で蒸気を発生させて浴びる、香りを楽しむといった、サウナ本来の魅力も伝えていきたいです」
 
サウナイキタイ「少しずつでも、そういう施設やサービスが人気を呼んで、多様性が出てくるとうれしいですね」
 
アンドレイ「これは余談ですが、お客さんが顔にタオルをグルグル巻いてるのは面白かったですね。ロシアでは見たことないなぁ(笑)」
 
「日本でできるウィスキングってどんなだろう」
ロシアでウィスキングを体験し、その気持ち良さに感動した「サウナイキタイ」のメンバー。
サウナイキタイ「日本のサウナでウィスキングをやってみて、どうでしたか?」
 
アンドレイ「日本のサウナは天井が高くて広いから、ロシアでのウィスキングを完全に再現するのはちょっと難しいと思ったかな。貸切ではなくパブリックな施設だから仕方ないんですけど、狭い空間じゃないと蒸気をダイレクトに浴びせられないんです」
 
サウナイキタイ「ウィスキングを行うバーニャの条件って具体的にあるんですか?」
 
アンドレイ「高さ3メートル以下、広さ16平方メートル未満が理想ですね。伝統的なバーニャのウィスキングスペースは大体そうかな。日本でやるとしたら、狭いサウナ室でやるか、ベッドの高さを上げるのがいいかもしれません。もちろん大前提として、ロウリュができることが必須です」
ウラジオストクで「サウナイキタイ」メンバーがウィスキングを体験したバーニャ。天井が低く、空間が狭い。
サウナイキタイ「なるほど。狭い低温サウナなんかを改装して、ウィスキング用のサウナ室にする施設が出てこないかなぁ…。ヴィヒタの葉っぱが散らかるので、掃除が大変という問題もありますよね」
 
加川さん「オペレーション次第だとは思いますよ。ウチもヴィヒタロウリュでは散らかりますが、そんなに時間をかけずに掃除できていますし」
 
サウナイキタイ「フィンランドではヴィヒタを模したハタキでウィスキングをすることもありますよね。例えばそれにアロマを吹き付けてウィスキングするとか…。アイデア次第で、全く新しい日本式のウィスキング文化が生まれる可能性はあるかもしれませんね」
 
次の加川さんの視察はロシアに決定か?
 
「ロシアの視察は一度検討したが、諸事情で断念した経緯がある」と加川さん。
 
加川さん「今回改めて、ロシアのサウナ文化に興味が湧きました。ロシア式のテントサウナも素晴らしかったし、バーニャでのウィスキングも体験したい。次回の視察先にロシアを提案したいですね」
 
アンドレイ「もちろん大歓迎です。僕は施設に所属していないフリーのパリーシュクなので、ぜひ連絡してください。理想の環境でウィスキングを披露しますよ!」
 
サウナイキタイ「この企画がきっかけで、ウィスキングとバーニャの魅力が広まったらうれしいですね。今日はありがとうございました!」
 
施設紹介
湘南ひらつか太古の湯 グリーンサウナ
 
関東で唯一、アウフグース後に熱波師がヴィヒタで身体を叩いてくれるサービスを行っているサウナ。この「ヴィヒタロウリュ」を目当てに遠方から訪れるファンも多い。現在は土日限定で、露天スペースにてテント型のロシア式サウナを体験できる。テントには白樺のほか、メープルやユーカリ、オークなど数種類のヴィヒタが用意されており、セルフウィスキングを楽しむことも可能。地下1300mから湧き出す弱アルカリ性の天然温泉も名物で、美人の湯として女性にも人気を博している。

神奈川県平塚市錦町1-18
0463-22-1772
年中無休・24時間営業
(春・秋1回ずつ、館内メンテナンスのため臨時休業あり)
 
次回予告
 
次回はアンドレイのウィスキング実践講座!日本の熱波師やサウナフリークが、アンドレイに弟子入り。超実践的なトレーニングの様子を徹底レポートします。
ウィスキング企画は次が最終回です、お楽しみに!
おまけ ロシア語単語集
 
バーニャ:
ロシアではサウナを“バーニャ”と呼ぶ。サウナとバーニャは明確に異なる定義があるが、本稿では「サウナ」と表記している。

パレーニエ:
白樺などの葉で身体を叩くこと。ウィスキングと同じ意味。

パリーシュク:
パレーニエを行う人。プロフェッショナルが存在する。

ヴェーニク:
白樺などの葉を束ねたもの。日本では“ヴィヒタ”という名称で浸透し始めている。
写真/阿部ケンヤ
文/大西洋(Sauna Camp.)
デザイン/桜庭侑紀、上條慶(イベントロゴ)
企画/サウナイキタイ、武藤寛奈
宮川サトシさんによる連載漫画「サウナマン」も合わせてどうぞ!