ロシアから来日したサウナ界のホープよ…日本の「ザ・スーパー銭湯」を見てくれ!

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「サウナの気持ち良さって本当にヤバいよ…」「もっと早く知りたかった…」という会話をあちこちで耳にするようになった今日この頃。「友人に連れられて行ったらハマった」「週3回はサウナに行かないと生きている心地がしない」など、気づけば会う人、会う人が熱に浮かされたようにサウナのことを話している。

な、なんなんだ、この現象は?

気になってしょうがないライブドアニュース編集者。話を聞こうと、サウナ好きが作るメディア「サウナイキタイ」に連絡をとったところ、「サウナが気持ち良いのは僕らにとってはもう当たり前で…それよりロシアのウラジオストクで受けた“ウィスキング”がヤバかったんです(体験記事)。あれを日本の皆さんにも味わってもらいたいんです!」とキラキラした目で熱弁。
 
「そりゃもう気を失いそうなくらい神秘的な体験でした」「サウナ好きなら絶対に受けて後悔はない」「ロシアからウィスキングのプロに来てもらいましょうよ!」とトントン拍子に話は進み、一緒にウィスキングの体験イベントを開催することに。

 

こうしてイベントのために、ロシアからウィスキングのプロ、アンドレイ(写真中央)を日本に招くことが決まりました。
 
この特集では、同じくイベントに協力してくれた、超絶サウナラバーである「Sauna Camp.」の大西洋さんを書き手に、9月末に開催したおそらく日本初の「ロシア式ウィスキング体験イベント」の様子を、感動あり驚きありの全5回でお伝えします。

イベントレポートvol.1は、日本に来てくれたアンドレイへのおもてなしパート。プロのウィスキングを披露してもらう前に、日本を代表する「ザ・スーパー銭湯」といっても過言ではない「草加健康センター」でリフレッシュしてもらいました。アンドレイ!これが日本のスーパー銭湯の結晶だ!

 
あらためて、アンドレイってだあれ?
 
アンドレイ、もちろんただのサウナ好きなロシア人ではありません。

彼はロシア極東の街、ウラジオストクで活躍する「ウィスキング」のプロフェッショナル。24歳と若いながらも修行歴5年の実力派です。
 
実はロシアは世界有数のサウナ大好き国家。その起源はなんと6世紀とも言われ、現代でも週末はサウナ(ロシア語ではバーニャ)で家族や友人とのんびり過ごすのが定番。自宅や別荘にサウナを持っている人も少なくないのです。
こういう極寒の小屋で、ウィスキングは行われているのだ。ああ、さむそう。
そんなロシアを「サウナイキタイ」のメンバーが旅行したのは2017年冬のこと。そこで受けたウィスキングの施術に感動し、今回のイベントに繋がった訳です。

ちなみにアンドレイは、「サウナイキタイ」メンバーにとって衝撃的な出会いとなったウィスキングマスター、イーガルさん(登場記事)の弟子筋にあたる存在。イーガルさん自身は残念ながら今回日本に来られなかったのですが、「アンドレイなら腕も確かだ!」と、お墨付きで送り出してくれました。
 
ウィスキングってなあに?
 
ところで皆さんは「ウィスキング」(ロシア語ではパレーニエ)を知っていますか?
 
サウナ内で、白樺など枝葉の束を身体にたたきつけるマッサージ技術で、血行促進や殺菌作用、リラックス効果があると言われています。ロシアをはじめ、フィンランドやエストニアでも古くから親しまれているんですよ。

日本のバラエティー番組では罰ゲームとして紹介されたりするものの、サウナの本場では定番。修行を積んだプロのサービスは、かつてない恍惚を覚えるほどの気持ち良さ
 
そんなウィスキングのプロであるアンドレイは、指名を受けてはプライベートサウナや貸切サウナパーティで施術しているらしい。
 
「日本でサウナが流行ってるなんて初めて知ったよ」と語るアンドレイは、身長180cm越えムキムキボディで、口数少なめのちょっぴりシャイボーイ。

アンドレイの口数が少ない上に、サウナの中ではお互い慣れない英語で話したりするものだから、余計に会話が進まなくて…端から見ると、灼熱の中でモジモジしてるおっさん2人だよ!
 
そんなアンドレイが滞在中にもっとも多く発した英語で、唯一、正確に聞き取れたのがこのフレーズ。
 
どこの国でも若者のスマホ依存は深刻か…。初めての日本旅行で楽しみなことを聞くと、「スシとメイドカフェ」

スシとメイドもいいけど、まずはスーパー銭湯をしっかり楽しんでくれよ!
 
初めての薬湯、初めてのジェットバス…“草加健康センター”をアンドレイが満喫
2Lサイズの館内着でもちょっと窮屈そう?
ついにアンドレイが、「スーパー銭湯デビュー」を飾る時…。
 
体験してもらったのは、埼玉県にある「湯乃泉草加健康センター」。サウナ好きならその名を聞いただけでヨダレが出てしまう、24時間営業・あらゆる種類の温泉やサウナが充実したスーパー銭湯です。
 
「ロシアにも公衆浴場はあるけど、ここはとっても大きい…」とさっそくカルチャーショックを受けるアンドレイ。そうだよ、草加健康センターは、関東でも有数のでっかい温浴施設なんだ!さあ、まずはサウナに直行して、プロの感想を聞かせておくれ!
熱さにも表情ひとつ変えず冷静なアンドレイ。
草加健康センターはサウナーの間では“超激アツ”として有名な施設なんだけど、入った感想はどう?
 
「なかなかイイね!でももっと熱くて、湿度が高くてもオーケーだよ」(※聞き取れた英語)
 
さすがプロ、日本の歴戦サウナーがうなるほどの灼熱空間でもケロリとしている。
参考までに、こちらがロシアのバーニャ(サウナの意味)。たしかに、天井が頭すれすれに低くて、人が2人入っただけでかなりの密度。天井の低いロシアのバーニャは、日本より強烈に熱いんだって。
 
 
すると突然サウナ内で横になり始めたアンドレイ。急にどうしたんだ!我々取材陣に対してのサービスショットか?!と思いきや、「ロシアでは全身ムラなく温めるために寝そべるのが一般的だよ」
 
そうか、熱は高いところに留まるから、足と頭で温度差ができないようにするんだね。混雑する日本のサウナではなかなかできないんだよなあ。貸切りが多いロシアのサウナがうらやましい。
 
サウナで体を温めたら、もちろん水風呂へ。

水温は約15℃。この冷たさ…さすが、草加健康センターはサウナ好きの気持ちを分かってる!しかもバイブラ(気泡が湧き出す)効果で体感はもっと冷たい。どう?どう?とアンドレイに感想を急かすと、「ベリークール!」とご満悦。良かった。
 
そのまま日本人と同じ感覚で1分ちょっと入ってもらったら「ねぇ…まだ入るの?ロシア人はそんなに長く水風呂入らないよ…」としょんぼり。水風呂への耐久力はもしかしたら日本人の方が上なのかもしれない。ごめんねアンドレイ。
 
続いてチャレンジしたのは薬湯。8種類の漢方をブレンドした「効仙薬湯」には興味津々の様子。草加健康センターには薬剤師が所属していて、自社で薬草専用工場を持つほどの本格派なのです。
 
独特の色をした薬湯に警戒しつつ、ニオイをかぐアンドレイ。ヨーロッパの中では珍しくバスタブに浸かる文化のあるロシアでも、さすがに薬湯は見たことがないらしい。

異文化の湯に触れて、サウナのプロたるアンドレイは何を語るのか。難しい顔でしばし考えた結果…
正直なアンドレイ。
なんてこと言うんだ!めちゃめちゃ身体がポカポカするし、お風呂から上がってもこの香りを楽しんでいるサウナーはたくさんいるんだぞ!薬湯はアンドレイにはちょっと早過ぎたかな。30年後にまた入ってください。

しばらくすると「ち、ち○ちんがピリピリしてきた…」と慌てだすアンドレイ。そう!ここの薬湯には蕃椒(バンショウ)という生薬が配合されているのです。もちろん健康に良いものの、長く浸かっているとカプサイシン成分でいわゆる「チンピリ」状態になる。すぐに言わなくてごめんねアンドレイ。くさいとか言うからわざと黙ってたよ本当ごめん。

アンドレイの信頼を取り戻すべく、次のコーナーへ。
 
アンドレイの表情から察するに、一番のお気に入りは水流のマッサージが楽しめるスーパージェットバス。「これは気持ちいい!ロシアに持って帰りたいよ!」と大興奮。
 
「終わっちゃった…」とこの表情。スーパージェットバスのおかげで、カメラを向けると照れてしまうアンドレイの、おちゃめな表情をゲットできました。
 
コミック?カジノ?カラオケ?もうここに住めるよね?
風呂上りは腰に手を当て、ジャパニーズスタイルで牛乳を。
日本のスーパー銭湯は、お湯に浸かるだけが楽しみではありません。醍醐味はこれから。まずは風呂上がりの牛乳をプレゼント。寒いロシアだと、風呂上がりはウォッカやビールを飲みまくるのかな?
 
「僕はサウナ前後に冷たい飲み物じゃなくて、ハチミツ入りの温かいお茶を飲むよ」
 
へえ…体を冷やさないようにするんだ。イメージとだいぶ違うね。
 
日本の健康センターやサウナではおなじみのリクライニングルームへ案内すると「まるで飛行機のファーストクラスだ!」とご満悦。

ロシアの公衆サウナにもレストランや貸切カラオケがあるけど、ズラッと並んだリクライニングチェアはもの珍しく映るらしい。「サウナに泊まったり、ひとりでTVを見たりするっていう発想がない」とのこと。
 
漫画が好きだと聞いて次に案内したのが、4万冊の漫画コーナー。
 
「さっきは飛行機のファーストクラスみたいだと思ったら、今度は図書館か…」
 
どんな漫画に興味を持つのかとチラ見していると、まさかのチョイエロ系。ロシアにはそういうセクシー系の漫画が少ないんだって。ページをめくりながら「ビューティフル」と連呼してました。

日本がコミック大国なのはもともと知っていたようだけど「大衆浴場にこの量があるのはもはや狂気を感じる」と、アンドレイ。まったくもってそのとおりだ、ここから動けなくなる人が続出するに違いない。
 
麻雀ルームの居心地も気に入ったアンドレイ。「この施設はお客を家に帰す気がないの?」と純粋に疑問を抱いた様子。まったくもってそのとおりだ、本籍地を草加健康センターに移す日本人が出ても不思議ではない。
 
「カジノまであるのかい、こりゃダメになっちゃうね」とついに呆れるアンドレイ。もちろんカジノではないけれど、1日中ここで遊んでいるお客さんもいる。ロシアでも、サウナで友人たちとボードゲームやポーカーを楽しむ文化はあるらしいけど、ここまで大衆浴場をエンタメ化している国って珍しいんじゃないかな。
 
極め付けは、カラオケ付きの大広間。「ここで歌うって恥ずかしくないの!?日本のサウナはとことんエンターテインメントだね」
 
ロシアでもカラオケは大人気らしいから「歌って」って頼んでみたけど、「知らない人の前で歌うなんて絶対やだ」とバッサリ断られました。やっぱりシャイなんだな。
 
ロシアと日本の温浴文化、全然違っておもしろい!
 
日本のサウナ好きは毎日のように熱心にサウナに入っている、と伝えると「うーん、ちょっと多過ぎるね…ロシアでは週に1回くらいが負担が少ないと言われているよ」と困惑気味。
 
「でも、若い世代がそんなに熱狂的にサウナに入っているのはうらやましいかな。ロシアのサウナも見習うところがあるかもね」とアンドレイ。
 
「ロシアでは若い人のサウナ離れが進んでいて、遊びはナイトクラブやバーが中心になってしまっているんだ。サウナでもスイカを出したり、ビールではなくクワス(ライ麦と麦芽を発酵させて作るアルコール飲料)を出したり工夫してるけど、この日本の施設のようなサービスはまず見たことがない。サウナにテレビがあったり、飛行機のファーストクラスみたいな椅子があったり…ロシアとあまりに違うところが多いから驚いたけど、エンターテインメント性が強くて面白かったよ。そりゃ、毎日通いたくもなるよね」
 
うんうん、そうなんだよアンドレイ!日本のスーパー銭湯のこの魅力、まずは感じてもらえたみたいでよかった!
 
No.1メイドカフェグループめいどりーみん(電気街口駅前店)にて。
ご所望だったスシとメイドカフェも、後日ちゃんと堪能したよ!
次回予告
 
イベントレポートvol.2は漫画界きってのサウナ好き・まんしゅうきつこさんが登場!レポートvol.1ではシャイな青年に徹していたアンドレイですが、サウナに入った途端、アンドレイのプロとしての鉄人ぶりが明らかに…?まんしゅうきつこさんがウィスキングでバシバシ叩かれます。ふたりの対談パートも注目です、お楽しみに!
 
おまけ:ロシア語単語集
 
バーニャ:
ロシアではサウナを“バーニャ”と呼ぶ。サウナとバーニャは明確に異なる定義があるが、本稿では「サウナ」と表記している。

パレーニエ:
白樺などの葉で身体を叩くこと。ウィスキングと同じ意味。

パリーシュク:
パレーニエを行う人。プロフェッショナルが存在する。

ヴェーニク:
白樺などの葉を束ねたもの。日本では“ヴィヒタ”という名称で浸透し始めている。
写真/阿部ケンヤ
文/大西洋(Sauna Camp.)
デザイン/桜庭侑紀、上條慶(イベントロゴ)
企画/サウナイキタイ
宮川サトシさんによる連載漫画「サウナマン」も合わせてどうぞ!