[画像] 「プライオリティ・パス」だけじゃない!クレカの改悪…見逃せない「旅」関連の‶しれっと″変更の中身

なぜ「改悪」が相次ぐのか……? 

「そもそも、日本のクレジットカードは特典が多すぎたということもあります」 

そう言うのは、マネーライターでクレジットカード事情に詳しい松岡賢治氏。 

「ゴールドカードでも年会費無料のカードが登場する中、カード会社の主な収益源は加盟店での買い物や食事等で発生する加盟店手数料になりました。しかし、その手数料も電子マネーやQRコード決済の台頭で、その昔は3%台だったものが、今は2%台になっているようです。 

各社競争力を維持するため、ポイント還元率は下げられないので、他の特典を縮小するしかない流れになっています」

特に、旅行は、クレジットカードとの関連性が深い。ホテルや航空券などは金額が大きいため、クレジットカードで支払う人も実際多い。数多のクレジットカードがある中で、旅行関連のサービスを手厚くするカード会社も少なくない中、旅行関連の改悪は旅行者にとって大きな痛手となることもある。

相次ぐ【プライオリティ・パス】のルール変更。その理由が……

直近、旅行者の間で特に話題なのが、国内外の空港にあるラウンジや飲食店舗などを利用できる「プライオリティ・パス」の利用ルールの変更だ。

プライオリティ・パスは、一部の上級カードにサービスとして付く。特に、年会費1万1000円の楽天プレミアムカードが有名で、プライオリティ・パスが特典として付けられ、回数無制限で利用できた。

しかし、’25年1月より、プライオリティ・パスの無料利用回数を「年5回」に制限し、6回目の利用から有料(35米ドル=約5000円)となることが、’23年11月に発表された。筆者も長年、プライオリティ・パスのために楽天プレミアムカードを保有してきたが、正直痛手である。

また、’24年9月初め、JCBと三菱UFJニコスもプライオリティ・パスのサービス内容の変更を相次いで発表した。JCBは、同年10月31日よりプライオリティ・パスの利用を、国内ではラウンジ施設のみとして食事などを提供するレストランは対象外(海外は従来通り)に変更。三菱UFJニコスは同年10月1日より空港ラウンジのみに限定し、飲食店舗などでの利用は料金が発生する可能性があるとした。

三菱UFJニコスの公式サイトに、サービス変更と同時に意味深な文言が掲載された。「昨今、空港における飲食店舗やリフレッシュ施設等でのプライオリティ・パスのご利用が大変増加しております。それに伴い、本サービスに関連するコストが増加しており、本サービス自体のご提供を続けることができなくなるおそれがございます」とのこと。しかも、サービス変更の発表から1ヵ月あまりでのメッセージ掲載に「相当ひっ迫しているのでは」とのうわさも広がった。

ラウンジの壁に「撮影禁止」の注意書きがある空港も

プライオリティ・パスはそもそも、飛行機利用があったその日に、空港のラウンジやレストランなどの飲食店舗などで利用できるサービスのこと。ラウンジでの軽食・ドリンクの提供やシャワールームが使えることなど、筆者は航空会社のラウンジが利用できない航空会社の搭乗時、また格安航空会社(LCC)の利用時など、特に海外で重宝することが多かった。

一方で近年、「旅行でのお得なサービス」として、SNSなどで次々紹介されることが異常なほど増えてきたのも日々目の当たりにしてきた。

例えば、関西国際空港国内線の「ぼてぢゅう1946」での利用では、1人あたり最大3400円分の値引きで飲食ができる。筆者の地元空港であり、一度試しに利用してみたところ、客の半数以上がプライオリティ・パス利用で驚いた。

保安検査後エリアにあるものの、出発時も到着時も利用できるため、旅行での行きも帰りもわざわざ利用する人もいると聞く。しかも、プライオリティ・パスでの飲食店舗ではテイクアウトできることはまれだが、この店では、ドリンクとたこ焼きなどがセットになったテイクアウト用のメニューまで存在する。

ほかにも、プライオリティ・パスで利用できるラウンジが多いタイ・バンコクのスワンナプーム国際空港、シンガポール・チャンギ国際空港などでは、1度の搭乗で1ヵ所どころか何ヵ所も手あたり次第にラウンジや飲食店舗を‶はしご″して利用し、ラウンジ内部や軽食などの写真や動画を撮り、YouTubeやインスタグラムなどのSNSやブログなどに投稿する行為を行う人々が、ここ数年で明らかに増えた。筆者が訪れた台湾・高雄国際空港ではそれもあってか、ラウンジ内の壁に「撮影禁止」と貼られた注意書きを見かけたこともある。

従来の利用からかけ離れた行為とSNS投稿の関連性

関西国際空港にあるぼてぢゅうの場合、利用者にとっては3400円分が無料で食べられ、店舗側はカード会社に利用金額をそのまま請求するだろう。しかし、カード会社からすれば、年会費1万円足らずで年間どころか、たった1回の旅行で何ヵ所も利用されては、その費用が負担になってくるのは容易に想像がつく。

また、中部国際空港(セントレア)を、プライオリティ・パスの聖地と称するSNSユーザーもいる。第1ターミナルの「海膳空膳」「ぼてぢゅう」、フライト・オブ・ドリームスの「THE PIKE BREWING RESTAURANT & CRAFT BEER BAR」で、3400円相当の飲食が‶それぞれ″でき、「くつろぎ処」では飲食だけでなく展望風呂も利用可能。国際線出発時には3ヵ所のラウンジも利用できる。これらすべてをわざわざセントレアまで足を運び、楽しむ様子を紹介するまとめ投稿も散見される。

いずれにせよ、一部のYouTuberやインフルエンサーらによる異常ともいえる利用回数が、自らの首を絞めてしまった形となったと言えるだろう。そして最も割を食ったのは、ラウンジを適正に利用していた出張などの一般ユーザーだ。

ちなみに、プライオリティ・パスは一般販売もされている。これまで楽天プレミアムカードで提供されていたのは3ランクあるうちの「プレステージ」で、年会費469米ドル(約6万7000円)だ。それが年会費1万1000円だったことを考えると、そのお得度は半端なかった。

クレカの【旅行保険】、「自動付帯」から「利用付帯」が急増

クレジットカードには、海外旅行や国内旅行の「旅行保険」が最初から付帯しているのが一般的だ。

例えば、三井住友カード(NL)の場合、旅行傷害保険として最高2000万円が付帯する。このカードの年会費は永年無料で、付帯分も無料。加えて、海外でけがをしたり病気になったりした場合、三井住友海上の「緊急アシスタンスサービス」(24時間365日、日本語対応)も利用可能だ。これらは海外旅行保険で、国内旅行保険は三井住友カード(NL)だと付帯していない。

旅行保険は、もちろん別途加入することもできる。しかし、クレジットカードの付帯分でも十分な場合もあり、特に、年会費が高額なほど補償内容が手厚い。近年、年会費無料のクレジットカードが増える中、普通カードでは補償内容が手薄になる傾向も見られる。

また、カード付帯の旅行保険は、以前は「自動付帯」と呼ばれる、そのカードを保有しているだけで保険を使うことができるサービスが普通だった。しかし今は、その旅行での航空券代やツアー代金をそのカードで支払った場合にのみ適用される「利用付帯」への変更が近年相次ぐ。

エポスカード、アメリカン・エキスプレス・カード、セゾンカード、オリコカード、JCBカードなどがここ数年で、自動付帯から利用付帯へ変更となった。※一部ブランドは自動付帯のままの場合もあり

また、年会費無料の楽天カードは以前から利用付帯だったが、以前は日本出国前の「公共交通機関利用」、もしくは「募集型企画旅行(いわゆるツアー)の料金」を楽天カードで支払うと保険の補償が受けられた。だが’20年10月、「募集型企画旅行の支払いのみ適用」に変更され、しかも航空券のみの料金の支払いなどでは適用外。

さらに’22年6月、現地での盗難などで適用される「携行品損害」も補償対象から除外された。

もちろん、それぞれの変更時にはお知らせメール等で告知はされているが、見逃している場合も多いと思うので、旅行のプランを立てる時に必ずチェックしたい。

海外利用分の【海外事務処理手数料】の引き上げ

クレジットカードの改悪は、ほかにもある。交通系ICカードのチャージがポイント付与対象外となる事態が数年前に大手カード会社を中心に広がった。

また、三井住友カードは’24年11月1日から、海外で利用した支払いの「海外事務処理手数料」を現行の2.20%から3.63%に引き上げることをこのほど発表し、他社の追随も気になるところだ。

前出の松岡さんによると、

「競争力維持のためにポイント還元率の1%は死守しなければならず、それ以外の特典の改悪は全てあり得ます」

という。どのカード会社も、利用者獲得に余念がないのは昔も今も変わらない。物価高や人手不足などでの年会費や手数料などの負担増、サービス削減などは致し方ない部分もある。

だが、あくまでルールから逸脱こそしていないとはいえ、常識を超えた利用を繰り返したユーザーが一部にいたのも事実。その旨がカード会社の公式サイトに掲載までされるのは異例と言えるだろう。避けられない改悪、一方で利用マナーにも気を付けたいところだ。

取材・文・写真:シカマアキ