[画像] リンガーハット「半チャーハン」の製法が凄かった


リンガーハットの隠れた人気メニュー「チャーハン」。市販の炊飯器60個を使い、1時間で1分ごとに60回炊き上げるような運用をとっています(写真:リンガーハット)

「このメニュー、そこまで有名ではないけど自分は好きだなあ」「定番や看板ではないかもしれないけど、好きな人は結構多いと思うんだよな……」――外食チェーンに足を運ぶと、そう思ってしまうメニューが少なからずあります。店側はどんな思いで開発し、提供しているのでしょうか。

人気外食チェーン店の凄さを「いぶし銀メニュー」から見る連載。今回は長崎ちゃんぽん専門店・リンガーハットの「半チャーハン」を取り上げます。

飲食チェーンには「代名詞」「定番」というべきメニュー以外にも、知られざる企業努力・工夫を凝らされたものが数多く存在します。本連載では、そうした各チェーンで定番に隠れがちながら、根強い人気のある“いぶし銀”のようなメニューを紹介していきます。

麺類でも珍しい「ちゃんぽん」の専門チェーン

今回のテーマは「ちゃんぽん」の専門店であるリンガーハットの半チャーハンです。うどんやそば、ラーメンなど、日本に麺類を扱う飲食店は数あれど、ちゃんぽんをメインにするチェーンはほとんどなく、異彩を放つチェーンです。

メニューの中心は、やはりちゃんぽん。国産野菜をたっぷり味わえるとともに太麺がボリューミーな商品で、長崎ちゃんぽんを中心にピリカラちゃんぽんや鶏白湯ちゃんぽん、みそちゃんぽんなどバラエティー豊かなラインナップをそろえています。

【画像11枚】「市販の炊飯器60個で炊く」「年間で500万食も販売」…。リンガーハットの隠れ人気メニュー「半チャーハン」のこだわりとは?

その他、ちゃんぽんと同じく長崎の名物として知られる「長崎皿うどん」や「ぎょうざ定食」などがある中、チャーハンはレギュラーサイズがなく「半チャーハン」のみ。しかしながら根強い人気を誇っており、SNSではファンから「フルサイズにしてほしい」「世界一うまいチャーハン」「最強」といった声があがっています。


今回はちゃんぽんチェーン・リンガーハットの「半チャーハン」がテーマ(筆者撮影)

確かに長崎には中華街がありますし、長崎発祥のリンガーハットがどんなチャーハンを提供しているのか、気になるところ。店舗に足を運んで食べてみましょう。

11種類の具材がたっぷり 通常サイズでもボリューム大の「ちゃんぽん」

ショッピングモールのフードコートで見かけることも多いリンガーハットですが、せっかくならばと今回訪問したのはロードサイドの店舗です。やはりリンガーハットといえば、この赤いトンガリ屋根が目立つ洋館風の店舗が代名詞ですよね。


リンガーハットといえば、この見た目(筆者撮影)


ドライブスルーもやっていました(筆者撮影)

熱々なイメージがあるちゃんぽんですが、激しい日差しが照り付けるこの日でもお昼時の店内は賑わっています。ざっと見回すと、男性のソロや、夏休みということもあって家族連れが多いような客層です。

注文はタブレットから行います。さまざまなスープのちゃんぽんや、具だくさんのメニューなどいろいろと目移りしますが、ここは王道をチョイス。通常サイズの長崎ちゃんぽんと、半チャーハンを注文しました。

待っている間に店内を見回すと、ゆかりの地である長崎の港にそびえたつ「ジャイアント・カンチレバークレーン」や、出島のイラストなどが飾ってあります。大量の野菜を炒めたり、太い麺をゆでたりするのにそこそこ時間がかかるだろう、と思ってイラストを眺めながらのんびりしようと思いましたが、ものの3分ほどで長崎ちゃんぽんが到着。実はリンガーハットは、野菜用の「ロータリー炒め機」や「自動鍋送り機」を厨房に導入しており、調理業務の効率化を進めているチェーンでもあるのです。

まず目を引くのは、やはりたっぷりとのった具材でしょう。キャベツににんじん、コーンやもやしといった野菜だけでなく、豚肉やエビ、揚げかまぼこなどがのっています。これで通常サイズというのがうれしいところです。


通常サイズでもボリュームたっぷりの長崎ちゃんぽん(筆者撮影)

具材とにらめっこしている間に、半チャーハンも到着しました。こちらはしっかり炒められたこと請け合いの油が馴染んだ米と、卵やネギの色味が食欲を誘います。


シンプル系のチャーハン(筆者撮影)

具だくさんのちゃんぽんにマッチする、あっさり系チャーハン

まずはちゃんぽんからいただきます。箸とレンゲで白濁のスープを探ると、先ほど目視できた具材以外にもきくらげ、いんげんといったメンツが潜んでいました。それにしても熱々でなかなか冷めません。

意を決して一口。たくさんの具材は異なる食感を楽しめ、麺は太麺でもちもちしており、非常に食べ応えがあります。スープはとんこつベースでありながら、臭みを感じることはなく、野菜のうま味をしっかり引き立て、包み込んでくれる優しい味わいです。


箸ひとつかみでこんなにたっぷり(筆者撮影)

同じ炭水化物なのに、麺を食べるとご飯も欲しくなるのは私だけでしょうか。長崎ちゃんぽんの横で出番を待っていたチャーハンも食べ進めましょう。

具材がたっぷりの長崎ちゃんぽんに対して、半チャーハンはシンプルです。ぱっと見の具材は、ネギと卵とベーコンの3種類。サイズ的にも「半」といえどそこまで多くなく、ちゃんぽんと合わせて食べるにはちょうど良いボリュームに感じました。


食べ進めやすいあっさりした味(筆者撮影)

味付けも比較的あっさりなので、チャーハン単体でも、長崎ちゃんぽんのスープと合わせてもおいしくいただけます。どこかに食べ残しがないかと、長崎ちゃんぽんの濁ったスープをレンゲで念入りに混ぜながら、食べ終えました。

実は「とんかつ」がルーツ ここ15年で女性客の取り込みに成功

さて、改めてリンガーハットの紹介です。

もともとルーツは、とんかつ店の「浜勝」。現在の名誉会長である米茺和英さんの兄を中心に創業しました。リンガーハットの三宅久美子さん(管理部 経営管理チーム 部長)によると、1970年の大阪万博をきっかけに海外の外食チェーンを日本で目にすることが増え、広く店舗を展開できるものとして目を付けたのがちゃんぽんだったといいます。

その後1974年に、リンガーハットの前身である「長崎ちゃんめん」という店を長崎市内に開業し、1977年に「リンガーハット」1号店を福岡県内にオープンしました。店名の由来は、長崎で貿易商を営んでいたフレデリック・リンガー氏。長崎の郷土料理であるちゃんぽんを手掛けるに当たり、ゆかりのある商人の名を選んだそうです。


とんかつ業態がルーツにあるリンガーハット(筆者撮影)

そんなリンガーハット、やはり代表メニューである長崎ちゃんぽんを中心としたちゃんぽんメニューの注文が多いといいます。全体のうち6〜7割を占め、そこに皿うどん、さらに定食などが続きます。

リンガーハットといえば国産食材を使っているイメージが強いですが、意外にも転換期となったのは2009年と、15年前。日本フードサービス協会の会長を務めることになった米茺さんが全国の農家をまわる中で国産野菜の魅力に改めて気付き、自社メニューへ生かすことをトップダウンで決断したそうです。

時を同じくして、そのころから増やし始めたショッピングモール内の店舗を中心に女性やファミリー層の利用者が増え、安心かつ栄養をとれる国産野菜を軸にしたメニュー構成とマッチ。今では男女の差はほとんど見られないというほど、幅広い客層に支持されるチェーンとなりました。

「トヨタ仕込み」の徹底した効率化 工場には60個の炊飯器がずらりと並ぶ

リンガーハットがチャーハンを提供し始めたタイミングについて、詳細な時期は不明とした上で、三宅さんは「それなりに歴史の長いメニュー」と話します。

もともとはちゃんぽんとぎょうざを軸にしており、そこに皿うどんが加わったのち、チャーハンも提供を始めたとか。もともとハーフサイズであったものの、分かりやすさを高めるために2019年のメニュー改定で「半チャーハン」に名前を改めました。ちなみに、今は提供していませんが、かつてはご飯ものとしておにぎりを販売していたこともあるそうです。

チャーハンで意識している点について、愛川真由さん(管理部 経営管理チーム 広報担当)からは「ちゃんぽんと一緒に、両方をおいしく感じてもらえるようにしています」との答えが返ってきました。味付けのベースは醤油で、オニオンオイルを使いながら、和風のテイストを出しつつ、優しい口当たりにしているそうです。

何より特徴的なのは、製法でしょう。リンガーハットの半チャーハンは、20年ほど前に外部仕入れから自社製造に切り替え、国内の工場で独特な作り方をしています。

まず、炊飯では大きな機械を使うのではなく、市販の炊飯器60個を使い、1時間で1分ごとに60回炊き上げるような運用をとっています。炊飯器1個につき、炊く米の量は1.4キロ。米とベーコンを一緒に炊き込むことで、うま味を吸ったご飯になるようにしているそうです。


ずらりと並ぶ炊飯器で、どんどんと炊いていきます(写真:リンガーハット)

炊きあがったご飯は専用の釜に入れて、一気に炒めます。回転しながら炒めることで適度に水分を飛ばし、チャーハンらしいパラパラとした食感を出せるようにしているといいます。それと並行して溶き卵も炒め、最後に調味料と一緒にご飯と混ぜることで完成。パラパラ感を損なわず、ダマにならないよう1食ずつ平らに急速冷凍して、店舗へ配送します。


炊きあがったご飯を炒めている様子(写真:リンガーハット)

特に炊飯工程がかなり特殊ですが、冷凍〜パッキング前の調理工程は1人で全てこなせるように徹底した効率化がなされているというので驚きます。しかも、工場での製造を導入したころから工程は大きく変わっていないとか。工程の検討に当たっては、トヨタの生産方式を参考にしているそうです。

今後「半」ではないチャーハンは出るのか

店舗に届いたチャーハンは、注文が入るごとに専用の機械で炒め、最後にネギを加えて提供。年間で500万食ほどの注文があるといい、もともとボリュームたっぷりのちゃんぽんと合わせる想定であることから、主にガッツリと食べたい男性客から注文が入ることが多いそうです。

今後気になるのが、「半」ではないレギュラーサイズのチャーハンを提供する予定です。ぎょうざ定食には、細かく個数を区切っていくつもラインナップがあることを考えれば、チャーハンにも大きなサイズがあって良いのでは、と思って質問しました。

「もちろんハーフサイズだけでなく、一人前を食べたいとおっしゃるお客様もいらっしゃり、メニュー作りで参考にしています。ただ、現行の半チャーハンは、ちゃんぽんと合わせる前提の味付けです。そのため、今後レギュラーサイズのチャーハンを販売する場合には、現在の半チャーハンをそのまま多くするのではなく、また別の味付けにする必要があると考えています」(愛川さん)

リンガーハットでは冷凍食品の販売も行っており、そこで購入できるチャーハンは何と400グラム。これならお腹いっぱい、満足に食べられそうですが、やはり実際の店舗で食べる醍醐味も捨てがたいものです。果たして今後、レギュラーサイズのチャーハンが出ることはあるのか、そしてそれはどんな味なのか。ご飯もの好きとしては目が離せません。


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(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)