[画像] 年金月25万円、退職金2,000万円で静かな老後を送るはずが、夜逃げの大惨事に…原因は、2階の部屋でチラつく「無職ででっかい双子の影」【FPの助言】

多くの人が老後に不安を抱えています。老後の不安には、大小差はあれど、気にしすぎているだけのものと、後々より深刻な事態を引き起こすものの、2パターンがあって……。本記事では、宝田さん(仮名)の事例とともに、子が親の老後に与える影響についてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

定年退職後の理想と現実

65歳を迎えた宝田さん(仮名)は、長年勤め上げた職場を退職し、いよいよ老後の生活に入ることとなりました。退職金2,000万円を受け取り、年金も夫婦で月額25万円と、資産は3,000万円を持ち、夫婦2人であれば余裕のある生活が送れるはずでした。宝田さんも妻も、心の中で静かに老後の時間を楽しむ計画を立てていました。国内旅行に行ったり、趣味を再開したりと、これまでの忙しい仕事生活を振り返りつつ、ゆったりとした老後生活を満喫したいと願っていました。

しかし、宝田さんの生活には一抹の不安が影を落としていました。それは、2階の部屋に住む双子の息子たちの存在です。彼らは40歳近くになっているものの、いまだに定職に就かず、自宅で無職のまま暮らしています。

学生時代に不登校になり、通信制の高校を卒業できたものの、その後に就職してもすぐに辞めてしまいました。これまで、宝田さんの支援のもと、職業訓練を受けるなどしてきましたが、長続きせず無職に。驚いたことに、双子の兄弟が揃って同じような時期に同じパターンで無職になり、いまに至ってしまったのです。

双子は、自宅にいながら食べたいものを自由に配達サービスを利用して注文。もしくは、代わりばんこで家から徒歩2分のコンビニへ繰り出します。運動もせずに食べているため、体重は100キロを超えました。計200キロ超の巨体を支える2階の床からは、時折ミシミシと軋む音が聞こえてきます。近ごろの2人のお気に入りは、メロンパンラスクとシュヌレ(カヌレの型で焼かれたシュークリーム)だそうです。食費だけでも一家で月15万円を超え、経済的に彼らを支える宝田さんの負担は増大する一方……。

そんな双子の生活費を支えながら、自分たちは節約生活を送っていても、資産は減り続けていきます。

家を手放す決意

夫婦2人の生活費を賄うだけならなんの問題もなかったはずの老後資金は、双子の存在によって、あっという間に減っていきました。

宝田さんが最も恐れていたのは、今後さらに生活費が増大し、退職金や貯金が底をつくこと。息子たちを抱えながらこのまま過ごしていたのでは、早いうちに老後資金を使い果たしてしまうのではないかと、不安がいつもつきまといます。働くように伝えても一向に働く気がないままなのです。

「このままでは自分たちの老後が危うい……。それに、このまま働かずに息子たちが老後を迎えたらあの子たちはどうなるのか……」このように考えた宝田さんは、とうとう心に決めます。なにも告げず、双子を残して夫婦で夜逃げ同然に家を出ることにしたのでした。

息子たちに掛かるお金よりも、夫婦2人で地方のアパートで家賃を払って暮らしたほうが支出が少なくすみ、自分たちの身の安全を守ることと同時に、あえて突き放すことで自立した生活を送ってもらいたいという想いからでした。

何度話をしても働く気配が一向にないため、自宅の名義変更などについても弁護士に依頼し、一切の連絡を遮断。こうして、なんとか自分たちの生活を守ることは達成した宝田さんでしたが、息子たちの今後を不安に想いながら生活していくことになったのでした。

引きこもりの存在は少なくない

労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果によると、15歳〜64歳のうち働く意思のない人の割合は2%にもなるといわれており、引きこもりの子供の悩みを抱える高齢者も多いものです。

今回の宝田さんのように、働かない引きこもりの子供を抱え、子供たちの将来はもちろん、自分たちの老後の資金の悩みを抱える家庭も少なくはありません。そして、いつまでも改善しない状況で、親も子も共倒れになってしまうのを回避するために、宝田さんのように、あえて突き放すという判断も時には必要かもしれません。

今回、宝田さんはもう20年近くものあいだ息子たちと向き合い、自立のために手を尽くしてきて、非常に追い詰められた状況だったため、仕方がないともいえます。しかし、守ってくれる親が去ったいま、双子が他人に迷惑をかけないかという不安もあります。こうなる前に最低限の生活費を入れさせたり、少額でも働いてお金を稼がせ、負荷が少ない仕事から徐々に自立を支援したりするという方法を検討すべきだったでしょう。

また、現在は在宅でできる仕事も多く、働きに出るということだけが選択肢ではありません。スキルを仕事に変えることで在宅で仕事をすることができますので、そういった選択肢を与えつつ、自立した生活ができるように情報を集めてやらせてみる、引きこもりの社会適応を支援する団体もありますので活用してみるといった方法もあります。

そういった判断をするためにも、毎月の収支を見える化し、このままだと将来家計がどうなるのかを試算してみることで、どう折り合いをつけていけばいいかを考えることもできるでしょう。

親子関係に正解はないが…

今回は引きこもりの双子を抱え、家を捨てる決断をした宝田さんの事例をお伝えしました。

こういった悩みを抱える高齢の親御さんも多いことでしょうが、「親がいるから生活に困らない」と考えてしまうと、それに甘えてしまい、なかなか自立できない理由にもなり得ます。あえて突き放し、甘えを断ち切るという判断は、自分たちの生活を守るためにも選択肢としてあります。

どうすべきなのか、正解はないでしょう。しかし、自分たちの生活を守ることも大事ですので、今後の自分たちの家計をシミュレーションしながら、どう子供たちと向き合っていくことができるか、どこまで親が向き合うことができるのか、最大限できることをやってみて、外部の支援に頼ることも必要となるかもしれません。
 

小川 洋平

FP相談ねっと

CFP