面白さこそ絶対――。『週刊少年ジャンプ』編集者が漫画家の「壁」であり続けるワケ

今の時代、編集者は本当に必要なのか?

SNSはさまざまなモノの価値観を一変させた。漫画業界もそのひとつ。漫画賞に応募せずとも、出版社に持ち込まずとも、SNSを活用すれば最短ルートで漫画家になることも夢ではない。その結果、存在価値が揺らぎはじめたのが編集者という職業だ。

「編集者不要論」がささやかれる時代、真っ向から異なる価値観で対峙している漫画誌のひとつに『週刊少年ジャンプ』がある。編集者による新人育成を重視し、少年漫画さながらの熱量で、歴代の連載作家&編集者たちが培ってきた「『ジャンプ』らしさ」を徹底して叩き込む。今なおヒット作を多数生み出している、日本一売れている雑誌だ。

そこで『週刊少年ジャンプ』編集部の杉田 卓に、大ヒット作品を生み出し続けている『ジャンプ』流の編集術についてインタビュー。その内容を紐解いていくと、編集者と漫画家のあいだにある、もっと深い関係性が見えてきた。

撮影/新妻和久 取材・文/加山竜司
杉田 卓(すぎた・すぐる)
1989年生まれ、東京都出身。2012年に集英社に入社。『週刊少年ジャンプ』編集部に配属され、『トリコ』の島袋光年、『ONE PIECE』の尾田栄一郎の担当に。現在は『ONE PIECE』のメディア担当のほか、『約束のネバーランド』、『思春期ルネサンス! ダビデ君』の立ち上げ・編集を務めている。

泣いて学んだ「ファンレターは漫画家の心の支え」

杉田さんが『週刊少年ジャンプ』の編集部に入って最初に担当した作家はどなたでしたか?
島袋光年先生です。当時は『トリコ』を連載していました。島袋先生を2年ほど担当させていただいたあと、尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』の担当になりました。
『ONE PIECE』の場合、打合せに加えて映画、舞台、海外ドラマ、イベント、ゲーム、グッズ、フィギュアなどなど……。各種メディアミックスの仕事があまりに膨大なので、漫画担当とメディア担当が別々にいるんです。
僕は漫画担当を約3年やってからメディア担当に移り、現在は『約束のネバーランド』『思春期ルネサンス!ダビデ君』も立ち上げから担当させてもらっています。
▲島袋光年『トリコ』第1巻(写真左)、尾田栄一郎『ONE PIECE』第1巻(同右)
©島袋光年/集英社 ©尾田栄一郎/集英社
入社してすぐに人気作家の担当になったんですね。
はい。幸運なことに担当させていただきました。「新人編集者にベテラン作家さんを担当させることで編集者を育成しよう」というのが当時の編集長・瓶子さんの方針だったおかげだと思います。本当に感謝しています。
また、まさに小学生の頃に『ジャンプ』を読み始めたきっかけが、当時大人気だった島袋先生の『世紀末リーダー伝たけし!』と尾田先生の『ONE PIECE』でしたので、担当をさせていただけたことが心底嬉しく、ビックリしました。
ただ、プレッシャーはえげつなかったですね(笑)。『ジャンプ』で連載までたどり着く作家の皆さんは、例外なく圧倒的天才だと断言できます。そんな天才たちの担当を凡人がしなきゃいけないというだけで緊張の極みなのに、それが島袋先生や尾田先生となると……。
変なたとえですが、急に時価数十、数百億の宝石を預けられたようなすごいプレッシャーでした(笑)。
新人ですから、なおのこと緊張しそうですね。
そうですね。とくに島袋先生を最初に担当したときなどは、緊張しすぎてもはやおかしな奴になってたと思います(笑)。慣れない仕事・その量に完全にキャパオーバーだったこともあり……。
なので新人時代は、ひたすら島袋先生にお世話になりました。本当にいろいろなことを教えていただきましたし、いっぱいご迷惑もおかけしたと思います。
たとえば?
今、思い出しても恥ずかしくて大反省することだらけですが、たぶん一生忘れないのは、優しく温厚な島袋先生に初めて怒られたときのことですね。
毎週、編集部にはたくさんのファンレターが届くんです。とくに島袋先生や尾田先生はたくさん届きます。これを担当は確認して作家さんにお渡しするのが大事な仕事なのですが、前任の担当者との行き違いが原因で、新人だった僕がしばらく溜めてしまったことがありました。
そのときは普段絶対に怒ったりしない優しい島袋先生に初めて強くお叱りを受けました。「応援してくれている読者をもっと大切に考えなさい。馬鹿にするようなこと絶対にしちゃいけない」と。
けっこう強めに怒られた?
……そうですね。優しさの塊みたいな島袋先生のあんな姿は最初で最後です。自分の至らなさで読者の皆さんに大変な失礼を働き、大好きな作家さんを悲しませてしまった。あまりの自己嫌悪と悔しさで帰りの車の中で泣きました。号泣でしたね(苦笑)。
この事件で言えば、作家さんにとってファンレターがどれだけ大切なのかも知りました。他の先生もたぶん例外なく、ファンレターはハードな創作活動の中で、辛いとき、苦しいときの重要な心の支えなんだと思います。

「秘伝のたれ」のように受け継がれる『ジャンプ』漫画論

ファンレターの件、周りに教えてくれる人はいなかったんですか?
そうですね。ただ、それに関しては行き違いがあったにせよ、僕がもう少し気を回して気付けよっていう話ですね(苦笑)。

でも、そもそも『ジャンプ』編集部って、基本的に何も教えてくれないんですよ。とくに僕の新人時代は漫画の作り方も一切、です。もちろん編集部にはヒット漫画を生み出すうえで、「虎の巻」のようなある種の方法論、蓄積された経験や編集論は漠然と存在しています。ただ、それを誰かが教えることはありません。

先輩に自発的に話を聞きに行ったり、作家さんとの打ち合わせの中で悩んだり、担当作への編集部からのフィードバックの中にヒントを見つけたり、編集者が自力でたどり着くしかありません。

自分でたどり着かないと意味がないことも多いですし、ひとつのやり方を強要しないことで新しい方法論や漫画の可能性・多様性を活かそうとしてるんだと思います。そのほうが自主性と責任感は嫌でも付きますし。
理屈としては理解できますが、最初は相当大変では?
そうですね、入ったばかりの頃は本当に右も左もわからないし、正直、戸惑います。

でも、そこでいろいろと教えてくれる心強い存在が、僕にとってはまさに島袋先生や尾田先生でした。今でもおふたりは僕にとって一番の指針です。そういう意味で編集者は若手の頃に担当させていただいた先生に多大な影響を受けると思います。
先入観があるかもしれませんが、『週刊少年ジャンプ』は担当する編集者と作家の距離がすごく近いように感じます。たとえるなら「部活の先輩と後輩」みたいな間柄、というか。
他を知りませんが、『ジャンプ』は生え抜きの編集者と作家が一対一の二人三脚でヒットを目指すということもあって、よりそんな雰囲気があるのかもしれません。いろいろと学び、学ばれていくうちに、「兄と弟」とか「先輩と後輩」みたいな雰囲気になっているのかも。

僕は勝手ながら島袋先生や尾田先生を師匠だと思っていますし、「ひと回り上の頼れる先輩・兄貴」というようなイメージがあります。

編集者がそうして学んだことを今度は新人作家に伝える立場に回ると、長い育成期間のあいだに作家さんから兄や先輩のように思ってもらってることがあるかもしれません。
ベテラン作家が新人編集者を育て、そこで育った編集者が新人作家に伝えていく……というリレーが続くんですね。
そうですね。作家と担当が切磋琢磨で一緒に成長していくのはもちろん、ベテラン作家が新人編集者を育て、その編集者が新人作家を育て、その作家が今度はまた新しい編集者を育てる。そんな循環がたしかにあります。

注ぎ足しながら継いでいくという意味では、老舗うなぎ屋の「秘伝のたれ」みたいですね(笑)。そうやって受け継がれてきた「秘伝のたれ」の中に、「『ジャンプ』らしさ」があるのかもしれません。

多くの新人作家がデビューを夢見る『ジャンプ』の狭き門

『ジャンプ』は新人作家を発掘していくのが伝統的なスタイルです。新人発掘にはどのような方法がありますか?
「持ち込み」が多いです。編集部に電話をかけてもらって、電話を取った編集者とやり取りしていくスタイルですね。

あとは『ジャンプ』の漫画賞(手塚賞、赤塚賞など)に送ってくれた方に、編集部から連絡をする場合もあります。最近では「ジャンプスカウトキャラバン」といった出張編集部が出会いになるパターン、ネット上で声をかけることなどもありますね。

そうやって新人作家に担当編集が付いてからは、まずは新人賞、次は増刊デビュー、そして本誌デビューを狙って……と、一歩ずつ連載に向けての準備を一緒に進めていくようになります。
▲『週刊少年ジャンプ』公式ホームページより。『ジャンプ』では月例賞をはじめ、定期的に漫画賞を開催している。
持ち込みに来る方は、どれくらいの年齢層ですか?
10代から30歳前後までいますが、一番のボリュームゾーンは20〜23歳くらいですね。ただ例外もあって、僕が新人だった頃には14歳の子もいました。
中学生!
ある日、電話がかかってきて僕が対応したのですが、すごく感慨深いものがありました。中学生の少年が1本の漫画作品を描き上げるだけでも大変な苦労なのに、いろいろと調べて、企業に電話して、ひとりで電車を乗り継いで、集英社にまで持ち込みに来てくれたわけです。自分が中学生だった頃を思い返したとき、そんなことできる?って。

正直に言うと、見せてくれた漫画はあまり面白くなかったんです。でも、そこは“中学生”ではなく“ひとりの作家”なので遠慮してはいけない。シビアに「全然面白くないから次回作がんばろう」と伝えました。そしたら「がんばります!」って……。

でも、たったひとりで持ち込みに来てくれたその勇気だけで純粋に嬉しくて、「君のその行動力は本当に自信を持ったほうがいいよ」と伝えました。
現在、杉田さんが見ている新人作家は、どれくらいいますか?
デビュー前の作家さんで、定期的に連絡を取っているのは60人くらいです。
そんなに!?
これでも減ったほうですね。今は自分の業務が増えて手が回らないのが現実です。若手編集に譲る年次にもなりました。ただ、ひとりでも多く担当するには時間を無駄にできないので、ご飯はなるべく作家さんと一緒に食べるようにしています。

当たり前ですが、面白いものはそう簡単にできないんです。才能豊かな作家さんががんばって作品を描いてきてくれても、「面白くない」とか「やり直し」とか、キツいことを言わなくちゃいけない機会のほうが多い。それが編集者の仕事です。

でも、そこでショボーンとしたまま帰したら、作家さんは次のモチベーションを保ち続けるの大変だろうなと。
自分だったら泣いちゃいますよ。
僕も挫けますね(笑)。だから、うまくいってないときや作家さんがへこんでいるときほど、一緒にご飯を食べようと思っていてご飯時に打ち合わせを入れます。どんなに言葉で伝えても「自分は編集者にちゃんと期待されているだろうか?」と不安になる方も多いので、「信じている」という姿勢を見せる意味もあります。

それに仕事モードじゃないときの会話から面白いアイデアが出てくることも多いですね。「そんな趣味があったの?」とか「そういうのが好きなの?」とか、お互い緊張していると出てこないような話もありますから。

「編集者不要論」の中で『ジャンプ』が持ち続ける矜恃

漫画賞への投稿作品や持ち込み作品が、そのまま『ジャンプ』本誌で掲載や連載につながるケースってあるんですか?
もちろん長い歴史の中であったかもしれませんが、「そのまま」というのは現在だとまずないですね。
であれば、編集者は持ち込みの原稿を読むとき、どの部分をチェックしているんですか?
漫画って、言ってみれば「ひとりで映画を撮っているようなもの」なので、才能を評価できるポイントはたくさんあると思います。画力、セリフ回し、読みやすさ、キャラクター、構図、デザイン、企画・アイデア力、ギャグセンス……などなど。

なので、僕の場合はどこかひとつでも光っている部分を見つけようとします。そのとき描いてきた作品それ自体の面白さには作家の才能とは別に当たり外れがありますから、そこだけで判断するのではなく、何かひとつでも光るものがあれば必ずお声がけしています。
▲杉田さんの編集部デスク。『約束のネバーランド』はフランスで反響が大きく、机にも現地メディアから取材されたときにもらったエッフェル塔の模型が飾られている。現地ファンから自作のキーホルダーをもらったこともあったとか。また、棚には子ども向けの図鑑や『トラウマ類語辞典』などの本があった。
実績のあるベテラン作家だからといって、必ず面白い漫画が描けるわけじゃない、と。
そうですね。もちろん、超一流の先生には何を描いても外さない方もいらっしゃいますが。作家の才能の多寡と、その作品の企画が面白いか作家に合っているかはまったくの別問題だと思います。

ましてや新人ですから、完成度を求めたり、粗探しをしたりといった気持ちは捨てないといけない。ひとりの読者としてフラットな気持ちで、「このセリフ、カッコいいな」とか「この絵いいな」とか、引っかかるところがあるかどうかを意識しながら、できるかぎり学生だった頃の「『ジャンプ』の一読者」という感覚で読むようにしています。
今の時代、漫画家としてデビューする方法は多様化して、WEB漫画も増えました。そんな中でSNS上では、たびたび「編集者不要論」を目にすることもあります。そうした声は編集部にも届いているのでは?
今はやろうと思えば、どこでもいつでも手軽に全世界に発表できる。『ジャンプ』はもちろん、出版社に持っていく動機や必然性は確実に薄くなっていますよね。

作家からすれば、厳しい編集者からいちいちうるさく言われたくないし、干渉されずに自分の思いどおりに描きたいはずです。そのために自由にやらせてもらえる媒体を探したり、自分で発信する。実際にそういうケースは増えていますし、そこから話題作が生まれるのは必然でしょう。

ただ、編集者や出版社なしで成功するロールモデルが新たにできたのはわかるのですが、それで編集者や出版社が不必要かというと、違うかな、と。編集者と出版社はいまだに作家が活用できる最大のツールだと思います。
なるほど。
とくに値千金の大ヒット、長期的に通用する実力を新人作家が手にするには「蓄積された編集部のノウハウ」や「出版社の宣伝機能やメディア・海外展開サポート」を活用するのが圧倒的な近道なのは間違いないと思います。
編集者不要論というより、編集者活用論のほうが大事というか。作家さんには種々ある出版社と編集者をぜひ上手に利用して、ヒットを目指す方法を考えてみてほしいです。というのも、一流の先生には編集者の活用の仕方が上手な方が多いように思うからです。

でも、こうした「易きに流れ放題な時代」にあえて『ジャンプ』に挑戦を志す作家さんには本当に尊敬のひと言です。だって、うるさいことを言われるのも、厳しい訓練をさせられることも絶対にわかっているじゃないですか? それでも茨の道を選んで来てくれるなんて。

編集者が面白くないものを「面白い」と言ったら終わり

うるさいことを言うのは、たしかなんですね(笑)。
そうですね(笑)。でも、僕はそんなうるさい奴こそ、じつは良いモノを作るために必要だと思います。

『ジャンプ』は他の何倍も暑苦しくてうるさい奴が多いので、「面白い作品を作って大ヒットしてやる!」という野心や夢にあふれた作家にとって、最高の環境だと思います。そのためには、僕たち『ジャンプ』編集部は「壁」であり続けるべきだと思っています。
「壁」、ですか?
新人作家に限らず、たとえ大御所の先生の作品であっても、面白くない作品を出されたら「ボツ」や「ダメ」を出せる「壁」でなければならない。
編集者が「面白くない」と思ってるものを「面白い」と言ったら、終わりです。その時点で作品や作家の成長は止まりますし、作家と編集者の信頼関係も、読者との信頼関係も、大ヒットの可能性もなくなってしまいます。

ダメ出しされたからこそ、もっと面白いアイデアが捻り出される。高い「壁」があったからこそ、乗り越える過程で大化けした名作が『ジャンプ』にはたくさんあるように思います。

だからこそ本当に自分の限界まで命を燃やして「もっと面白くしたい!」と『ジャンプ』に挑戦してくれる作家さんがいる以上、ジャンプ編集部は「壁」であり続けないといけないと思うんです。
ものすごく『ジャンプ』っぽい表現ですね。
でも、自由に伸び伸び描ける世界が出てきて、それも素晴らしいと思う一方で、外圧というか、負荷をかけないと到達できない境地というのはきっとあるなと思います。

そんな厳しい環境を意図的に作っているし、それでもなお挑戦したいと思っていただけるだけの歴史と実績があることが『ジャンプ』の一番の財産だなと感じます。
壁であり続けることも大変ですよね?
大変ですね。妥協してOKを出したり、いいところを褒めたりしているだけのほうがずっと楽です。当たり前ですが、本当はがんばっている作家さんに口うるさく言いたくなんてないんです。気分もよくないし、疲れます。それでも作品、作家が乗り越えるべき壁は必要だと思っています。

『約束のネバーランド』連載化までの3年間の軌跡

現在、杉田さんが担当している『約束のネバーランド』は、白井カイウ先生による持ち込み作品だったそうですね。持って来られたネームの量が300ページもあったとか。
最初に白井先生と出会ったのは、まだ『トリコ』の島袋先生の担当をしていた2013年の冬でした。「漫画の原稿として完成していないネームなんですけど、見てもらえますか?」という電話をいただいて、岐阜から集英社まで来てもらったんですけど、何とそれが15話分300ページもあったという。

「30分しか予定を空けてないけど、どうしよう?」と焦った記憶があります(笑)。
▲写真上は白井先生が2013年に持ち込んだという300ページのネーム。タイトルは『この世界でわたしたちが生きる方法』だったが、残念ながらボツに。しかし第2巻のある重要なシーン(写真下)のセリフとして採用された。
その15話分というのは、現在の話数で?
いえ。今連載している漫画に当てはめると、だいたい第5巻のGFハウスから脱出するまでです。
『約束のネバーランド』は白井先生が「原作」という肩書になっています。白井先生は当時から原作志望だったんですか?
ネームを読んだ限り、絵も問題なく描けると感じましたが、このクオリティの物語を週刊ペースで連載するとなると、かなり厳しいと思いました。仮に作画に4日かかるとしたら、物語を考える時間は残りの3日しかありません。そのスケジュールだと、連載してもたちまちジリ貧になっちゃうだろうな、と。

だから白井先生と最初に打ち合わせをしたとき、「絵に自信はありますか?」と聞いたんです。そしたら「そんなに自信ないんですよね」とのことだったので、「じゃあ絵はうまい人を見つけるとして、原作に専念しましょうか」という方針を固めました。

ネームはそこから1年くらいかけて修正して、ほぼ現在の形になりました。連載会議に回すために3話分のネームとキャラシート(キャラクター設定)を用意したんですけど、そこから約1年間という、作画担当を探す長い旅がはじまりまして……。
適任者がなかなか見つからなかった、と。
僕も白井先生も「中途半端な画力で描ける作品ではない」と思っていたので、誰でも歓迎というわけではありませんでした。ですが、候補の作家さんに白井先生のネームを読んでいただいても、「『ジャンプ』っぽくない」「暗い」「作画が難しい」といった理由で敬遠されてしまいました。

また、もうひとつ問題点があって。白井先生は何の受賞歴もない新人だったので、いくら内容が面白くても「連載会議で落とされたときのリスクを考えたら手を出せない」と。

作画の候補として読んでいただいた方には有名作家や他誌で活躍されている方もいましたが、最終的に8〜9人に断られて難航しました。
たしかにリスクを考えると躊躇するのはうなずけるような。
そうですね。なので、僕らも作戦を変更して「まずは白井先生の実績を作ろう」と、読切を何本か作ることにしました。

その中の『アシュリー=ゲートの行方』という短編は、ちょっと『約束のネバーランド』と構造が似ているんですよ。『約束のネバーランド』の読切版というか、プロトタイプを試してみた、という感覚です。
▲読切作品『アシュリー=ゲートの行方』。2015年6月に『ジャンプ+』で発表。原作を白井カイウ、作画をRickeyが務めており、『約束のネバーランド』にも通じる脱出サバイバルストーリーとなっている。
モデルケースがあれば、どういうことをやりたい作家なのか伝えやすいですね。
『アシュリー=ゲートの行方』のあと、白井先生に「好きな作画家を教えて」と候補を先生ご本人に出してもらいました。というのも、いくら僕が良いと思っても、原作者本人が好きで納得した人に描いてもらわないことにはどうしようもないので。

その中に、出水ぽすか先生の名前があったんです。僕も大好きな先生だったので、さっそくメールを送ってみたら、出水先生もちょうど仕事にひと区切りついていて、タイミングが合ったんですね。

とはいえ『ジャンプ』としては、白井先生の原作と出水先生の作画の相性も見ないといけない。そこで『ポピィの願い』という読切を試してみたところ、評判がすごく良かった。そこからはトントン拍子に話が進んで、『約束のネバーランド』ができあがっていきましたね。
▲読切作品『ポピィの願い』。2016年2月に『ジャンプ+』で発表。『約束のネバーランド』の白井カイウ×出水ぽすかが初めてタッグを組んだ。ストーリーは『約束のネバーランド』とは一線を画して、ハートフルなSF路線となっている。
連載化に向けて、かなり戦略を練ったわけですね。
最初の持ち込みから考えると、ネームを1年直して、作画家を1年探して、半年かけて出水先生とのコンビを組んでいった……という感じです。実際に『約束のネバーランド』の第1話が『ジャンプ』に掲載されたのは2016年の8月(35号)なので、最初の持ち込みから数えると3年近くかかってます。
3年……ってサラリと言いましたけど、3年ってけっこう長くないですか? 白井さんの経済面などを考えると、相当なハイリスクでは。
たしかにそのあいだは苦労された期間だと思います。ただ、白井先生も僕も「妥協できないよね」という意見は一致していました。せっかくネームが面白いのに絵で台無しになる可能性もありましたから。そう考えると時間はかかりましたが、出水先生との運命の出会いを待つことができて良かったです。
実際問題として、その3年のあいだに白井先生か杉田さんから「もうやめませんか?」という話は出なかったんですか?
一度もなかったです。後になって白井先生から言われて思い出したのですが、僕は最初の打ち合わせのときから「短く面白くパッとやろう」「20巻以内に終わる漫画にしよう」「4年(20巻)以上続いたら許しません」と言っていたそうで……。白井先生は「まだ持ち込みをしたばかりなのに、この人は何を言ってるんだろう?」と思っていたみたいです(苦笑)。

今にして思えば何の確証もないんですけど、「これは絶対に(連載会議を)通る」と疑わなかったので、お互いにそのビジョンを共有して3年間迷いなくやって来れたんだと思います。
▲白井先生のネームをもとに、出水先生が2016年に描き直した下書き(リネーム)。当時のタイトルは『NEVERLAND-ネバーランド-』だった。

新しい面白さを提供するのが「『ジャンプ』らしさ」

1年かけてネームを直したそうですが、どのように変えたのでしょうか?
最初の持ち込みでは、もう少し悲惨な話でした。エグみが強いというか、もっとソリッドなネームだったんです。その段階では、たしかに「『ジャンプ』っぽくない」と感じる内容だったと思います。
“エグみ”というのは、ショッキングなシーンということですか?
はい。めちゃくちゃ死んでたり(笑)。そういったエロ・グロ・ナンセンス的な“エグみ”はインパクトがあるので安易に使いがちですが、そこを前面に押し出すと「それがウリの漫画」になってしまう。さすがにそれは『ジャンプ』でできないし、それこそよくあるつまらない漫画になってしまうな、と。

たしかにこの作品の場合、“エグみ”のあるシーンは第1話目で必要なんです。鬼という存在を目のあたりにして、エマたちが恐怖することにリアリティを持たせないといけないから。そこにショッキングな光景がないと、読者が「本当に鬼なんているのかな?」とか「どうせエマたちは死なないんだろ?」と疑うことになる。
▲『約束のネバーランド』第1巻より
ただ、そこ以外は絶対に“エグみ”に頼ってはいけないと考えていました。この題材をあえて『ジャンプ』でやる。「友情、努力、勝利の物語」、「逆境モノ」として少年漫画に転換して連載したほうが新しい面白さが作れるんじゃないか、と。

そしたら白井先生も「じつは私もそう思ってました」と。白井先生とは面白さに対する感覚が近くて、当時から同じビジョンを共有できていたのでスムーズに進みました。あとは、難しい題材でしたので、より企画を明確にするための演出を要所に入れるなど、より広くいろんな人に楽しんでもらえるように明瞭な話作りを心がけて修正を進めました。
『ジャンプ』は少年漫画誌ですが、『約束のネバーランド』の主人公はエマという女の子。いわば『ジャンプ』らしくないポイントとも言えますが、その設定はネームから直さずに作品に反映されていますよね?
たしかに主人公が男の子のほうが、『ジャンプ』読者は共感を含めて受け入れやすいと思います。『ジャンプ』のセオリーに寄せて直していく選択肢ももちろんありました。
▲『約束のネバーランド』第1巻より
ただ、この作品の場合は主人公が女の子であることに必然性があって、なによりもネーム段階ですでに面白かったんですよね。

じつは一度、男の子にできないか直しのトライもしてもらったのですが、白井先生も主人公が女の子のほうがしっくりきている感じでしたので、そこは作家の感覚を信じるべきだと思いました。エマは連載当初まだ11歳、そういう意味では男女に分化する前の「子供」だから違和感なく進めた部分もあるかと思います。
アニメは始まったばかりですが、漫画はいよいよ最終章に突入しました。このまま当初の予定通りに「4年以内、20巻以内」で完結するのでしょうか?
週刊連載というライブ感あふれる形式でお届けしていますので、具体的にあとどのくらいで終わるということはまだわかりません。

ですが今まで通り、最後まで全速力で駆け抜けていく物語になると思います。残酷な現実を知ってなお、希望へと歩みを止めないエマたちの運命の行く末を、ぜひ最後まで一緒に見届けていただければ嬉しいです。
最後の質問ですが、「『ジャンプ』らしさ」って一体何だと思いますか?
うーん……。それは『ジャンプ』の編集部員もそれぞれ全然違う考えを持っていて、意見が分かれるところです。「友情、努力、勝利」のストーリーラインで定義するような者もいれば、少年主人公のバトル漫画こそが王道だと企画の外枠で考える者もいます。

僕にとって『ジャンプ』は、「常に新しい面白さを教えてくれる漫画雑誌」です。ざっくりですが(笑)。それは僕が小学生の頃に初めて『ジャンプ』を手に取ったときから、変わらない感覚です。

小学生のときに『世紀末リーダー伝たけし!』や『ONE PIECE』を初めて読んだときの「漫画ってこんなに面白いんだ!!」という感動。『ボボボーボ・ボーボボ』や『DEATH NOTE』の圧倒的衝撃はいまだに鮮明に覚えています。それ以外にも僕の青春には枚挙に暇がないくらい『ジャンプ』の名作との出会いがあり、そのたびに新しい世界を見せてもらいました。

つまり読者を飽きさせない、常に驚きのある雑誌が『ジャンプ』なんだと思います。『バクマン。』的に言えば「面白ければ何でもアリ」な世界。「面白ければ何でもアリ」って、この世界では絶対的に正しいことなんですけど、今の世の中でそれを押し通すことはじつはとても難しい。けれど、『ジャンプ』は「面白ければ何でもアリ」を貫ける。それが『ジャンプ』らしさじゃないでしょうか。

作品情報

漫画『約束のネバーランド』
原作/白井カイウ 作画/出水ぽすか。今なら電子コミックサービス「LINEマンガ」の無料連載にて12話まで公開中。(4月3日まで)
「LINEマンガ」で読む
公式サイト
公式Twitter
©白井カイウ・出水ぽすか/集英社 ©白井カイウ・Ricky/集英社
未来予想コミュニティ「4CAST」×TVアニメ『約束のネバーランド』特別企画
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TVアニメ『約束のネバーランド』の放送を記念して、4CAST×TVアニメ『約束のネバーランド』特別企画の実施が決定。

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